42 【0時0分】
その声はこの街、王都レマルクの隅々まであまねく響きわたった。そして見た。誰もが塔の上を見た。
その声は眠りかけていた獣たちをも揺さぶり起こした。音に驚いた鳥たちが各所で鳴き声をあげた。
その声は喧噪に包まれていた王都を一気に静まりかえらせた。
塔の上層全体が青白く輝いていた。
セントラル大教会の鐘。
上層の大鐘楼の鐘。
王都の人々にとっての誇りであった鐘。
火事で焼け落ちたはずの、もう聞けないはずだった鐘。
鳴らない鐘が響いていた。
その声は王都も越えて、山も越えて、海も越えて、どこまでも、国中に至り届かんばかりだった。
輝く塔と鐘の声。後にある人はこう記録することとなる。
「それはあたかも、天の月が塔の上に舞い降りたかのようだった。あの瞬間、あの輝きのなかでレマルクの鐘は蘇ったのだ」
王都の空気は鐘の声に満たされていく。