第百四十一話「王の力」
リョウはレジスチルを出したまま、翻弄される状況に振り回されていた。
初代が手術室から出たと思えば、今度はサキとオサム達を巻き込んでの大立ち回りだ。この状況についていけないのは自分達兄弟全員のようだった。連れて来られたコウヤは一階層で巻き起こっている戦闘を見下ろしたまま放心しており、レイカも立ち上がる気配さえもなかった。
「姉貴、それに兄貴……。オレ達、間違っていたのかな。初代再生なんて、本当はやっちゃいけなかったんじゃないのかな」
今さらの弱音はいつもならば叱責の対象だったが、全員言葉少なだった。今しがた敗北したレイカと引きずり回されてきたコウヤには最早プライドの欠片もなかった。
「私が……私だけが、初代との血の結びつきになれる……。そう信じていたのに」
「おれが支配者なんだ……。おれが、全ての上に立つ……」
この二人は傲慢の象徴だ。どこまでも利己主義で分かり合えない。リョウは自分もその中の一人、と感じていた。
ダイゴを利用し、幼馴染でさえもあんなに遠くに行ってしまった。もう自分には何も残っていない。
「兄貴、それに姉貴も、オレ程度、過ぎた言葉かもしれないけれど」
リョウは二人へと視線を振り向け言い放つ。
「間違っていたんだ、きっと。だけれど、間違いを正す戦いは、オレ達にだって出来るはずなんだ」
レジスチルはまだ戦える。リョウがやろうとした事を見抜いたのかコウヤは自嘲気味に口にする。
「やめておけ、リョウ。ただでさえ間抜けなお前が、余計に間抜けに映るだけだ」
「リョウ、だから三流なのよ。悪人にも成り切れないなんて」
自分は悪に染まったつもりだった。デボンという巨大企業の歯車を動かす、その要の三人に。だが実際のところ、自分の意思で動いた事など一度もないでくの坊だ。
「オレは……二人とも、オレは行くよ」
一階層で激戦を繰り広げる三人と初代へとリョウは目線を向ける。レジスチルならば降りられる。
「リョウ。これ以上、生き恥を晒す気か? ツワブキ家はもうお終いなんだよ」
コウヤの声にリョウは振り向かずに応じる。
「オレは、悪に成り切れない半端者。だけれど、悪を止める、正義の味方になれなくっても、いい奴、くらいにはなりたい。あいつらにとっての、いい奴に、オレは成りたい」
初代は圧倒的だ。あまりにも強大なその力。だが三人は臆する事もない。幼馴染は半年前には考えられなかったほど成長を遂げて立ち向かっている。あとの二人も同様だ。負けるなどさらさら思っていない。勝つ事しか考えていないその真っ直ぐさが眩しく映る。
「やめときなさいよ。あんたなんて、何にもなれやしないんだから」
レイカの諦観の声。レイカはもう半ば諦めているのだろう。初代が殺されるか、殺されないにせよ、もう自分は選ばれないのだと知っている。
「オレは、今まで兄貴と姉貴は正しいんだと思ってきた。でも、分からなくなってしまった。コノハさんはどうして、オレ達の寝首を掻く事はいつでも出来たはずなのにしなかったのだろう? あの人はオレ達を恨んでいたはずだ。殺してもいい資格を持っていた。なのに、どうして何もしなかったのか。二人は考えたか?」
「あの女の気紛れよ。それに、表立った行動を起こすのは現実的じゃない」
「レイカの言う通りだ。おれ達を殺したところで行く場所がない」
そうだったのかもしれない。だが、それだけではない気がしていた。
コノハでさえもいつの間にか、家族の情に触れていたのだとすれば。
「オレ達はツワブキ家という大きな呪縛に囚われた最悪の家族だった。王の血脈、王の子孫。でもそんなんじゃない。そんな崇高なものじゃ、決してなかったんだ!」
リョウの言葉にコウヤが嘲る。
「もう戻れまい」
「戻るんじゃない。言っているだろう? オレは、進むだけだ!」
リョウは吹き抜け構造のデボンのエントランスへと飛び降りる。レジスチルを呼びつけて壁を破砕しながら制動をかけた。
思わぬ珍客だったのだろう。リョウが命令し、レジスチルが割って入った事に全員が驚いていた。
「リョウ……、お前、何で……」
「オレは、まだ、心を失いたくなかっただけさ」
その言葉で意思の疎通が出来たのだろう。サキは口元に笑みを浮かべる。
「言っておくが馬鹿の所業だ」
「知っている」
レジスチルの破壊光線のパワーを溜めた掌底が初代の繰り出す鋼タイプと拮抗する。初代が出していたのはドータクンという名の鋼・エスパーポケモンだった。釣鐘を思わせる形状で下部に小さな目がついている。その目が瞑られていた。あれは「めいそう」という技だ。
「瞑想中は、特殊防御、及び防御力が上がる。普通の攻撃じゃ、びくともしないはずだ」
その言葉通り、アブソルによる連続攻撃も、ボスゴドラによる粉塵を巻き上げる膂力戦闘も、エンペルトの細やかな攻撃もことごとく防がれている。
「手があるって言うのか?」
下がって尋ねてきたカゲツに、「なに、半年間」とリョウは笑みを浮かべる。
「煮え湯を飲まされ続けたのは伊達じゃないって事だ! コープスコーズ!」
リョウの呼び声に待機していたコープスコーズがめいめいに顔を出して攻撃姿勢に移った。その数にサキが息を呑む。
「Dシリーズの量産型……。こんなにいたのか……」
その数、三十五体。全員が所持しているのはゲノセクトだが、リョウはゲノセクトのカセットを二つの種類に分けておいた。
「赤いカセットのゲノセクトで前衛攻撃! テクノバスター!」
半数のゲノセクトの砲門がドータクンへと向けられる。直撃したドータクンは僅かに表皮を削られていた。その反応にオサムが声を出す。
「効いている?」
「赤いカセットのテクノバスターは、炎タイプだ。初代、あんたにとってしてみれば、半数は炎使いのゲノセクトに、もう半数は水使いのゲノセクト。この状況下でかなりの脅威には映るはずだが?」
初代は周囲を見渡し、「なるほど」と呟く。
「ぼくの使えるのは鋼以外では岩、地面だと知り尽くしたツワブキ家だからこそ出来る芸当だ。ゲノセクト……増やしたのが仇となったか」
「その通りだ! テクノバスターで焼き尽くす!」
赤いカセットのゲノセクトが再度「テクノバスター」を撃とうとする瞬間だった。
「――だが、こうは考えなかったのかな、リョウ。自分より高次の命令権のある人間がいる、という事は」
初代が指を鳴らした。その途端、ゲノセクト全機が動きを止める。思わぬ行動にリョウは面食らう。
「どういう事だ? コープスコーズ!」
しかし誰一人として反応しない。初代は拍手を送った。
「この状況下で、確かにゲノセクトは脅威だ。半数、つまり十七体前後のゲノセクトによる一斉のテクノバスター。それはぼくがいかな鋼タイプを使おうとも勝てる自信に繋がるだろう。だが、コープスコーズの発案者はぼくだ。間違ってもらいたくないな」
瞬間、ゲノセクト全機がこちらへと振り返った。砲門にエネルギーが充填される。リョウは目を見開いた。
「まさか……」
「全て、ぼくの指揮下だ。食らえ、テクノバスター」
攻撃が発せられるかに思われた瞬間、声が弾ける。
「させねぇ! アブソル、行くぞ!」
カゲツの声にリョウが視線を向けた瞬間、空気が逆巻き、エネルギーの核がアブソルを中心に渦巻いた。アブソルがそれを咆哮と共に弾き飛ばす。
「――メガアブソル。三十五体居るんだろ? 全ゲノセクトに一斉攻撃だ!」
メガアブソルの角へと紫色の思念が纏いつく。しかしそれは今までの比ではない。「つじぎり」を放っていた時には不可視であったエネルギーが可視化され、鞭のようにしなった。瞬く間に視界に入るゲノセクトへと絡みつく。それぞれへと囲い込まれた思念の刃が突き刺さり、内側から爆発の光を弾けさせた。
「サイコカッター! この攻撃はゲノセクト全機を落とすには充分だったな」
瞬く間に撃墜されたゲノセクトを前にコープスコーズへとリョウが命令を下す。
「眠れ。催眠電波を送った! コープスコーズを利用する事は、もう初代には出来ない!」
一人、また一人とコープスコーズが倒れていく。初代は、といえば取り乱す様子もない。少しばかり手間が増えたと言わんばかりに襟元を整える。
「やれやれ。全く、ぼくの実力を分かっていない連中が多くって困る。コープスコーズを利用する? そりゃ、出来るならばそうするさ。ぼくだって労力を費やしたくない。それに……メガシンカが出来ないのは不便だ」
メガアブソルを睨み据える初代の眼には敵意だけではない、何らかの感情が読み取れた。
「プテラがメガシンカ出来れば言う事はないのだが、ぼくはどうやら二十三年前にメガシンカに必要な何かを落としてしまったらしい」
「つまり初代は……」
「メガシンカが使えない」
好機であった。メガシンカが使えるのならば初代を倒す術はないに等しかったが相手はただ単に強力なだけ。それならば、とカゲツと視線を交わし合う。
「皮肉なもんだ。半年間いがみ合っていた相手と」
「こういう時、一番役に立つと思えるなんてね。……レジスチル、行けるか?」
両腕に破壊光線のエネルギーを吸着させたレジスチルが地面を踏み締めながら駆け出す。一撃でも与えられれば、という希望で放たれた攻撃は初代が新たなポケモンを右手から放った事で途絶えさせられた。
「行け、ヒードラン」
出現したのは四足を持つポケモンだった。発達した顎から噴出したのは炎である。紅色の眼球がてらてらと輝き、鋼鉄の頭部を持っていた。
「まさか……」
「そのまさかだ。鋼・炎タイプ。さて、レジスチルはどこまで持つかな?」
触れた途端、レジスチルの表皮が融解したのが分かった。だがここで退くわけにはいかない。レジスチルへとリョウは命じる。
「掌底で突き上げろ! 一秒でも時間を稼ぐんだ!」
「そうしている間に、ぼくへと直接攻撃、という寸法かい?」
跳躍したメガアブソルは翼のような体毛の恩恵を受け、滑空している。その角を振るい上げた途端、思念の刃が初代の生身を囲った。
「勝った! 初代、これでてめぇはお終いだ!」
カゲツの勝利宣言に初代は冷ややかな眼差しを向ける。
「そうだね。普通ならば勝利かな。だが、もう一つ、忘れているんじゃあるまいな?」
初代が左足を前に出す。膝の部分から転送の光が放出されており、既にボールが繰り出された事を示していた。
「何だと!」
その瞬間、空中を舞うメガアブソルへと攻撃が仕掛けられた。咄嗟に防御の姿勢を取ろうとするも、攻撃を完全に防ぐ事は出来なかった。
空中に現れていたのは騎士の威容を持つポケモンだ。両腕が槍であり、巻貝のような身体であった。槍の両腕が交差しメガアブソルへと切りかかったのだ。メガアブソルは着地時に隙のないように駆け抜けたがその身体にはありありとダメージの痕があった。
「シュバルゴ。鋼・虫タイプ。決して素早いポケモンとは言えないが、その珍しい複合タイプと不意打ち程度ならば可能だよ。今、どんな攻撃を受けたのか、メガアブソルの主人である君ならば憶測が可能だろう?」
カゲツは歯噛みする。メガアブソルには効果抜群の攻撃の痕があった。
「シザークロス……」
「ご明察」と初代が指を鳴らす。シュバルゴが駆け抜けてメガアブソルへと槍の攻撃を仕掛けようとする。メガアブソルは逃げに徹するしかない。虫タイプの攻撃は効果抜群。ここに来て弱点タイプと戦うなど考慮に入れていなかったカゲツは明らかに苦戦していた。
「レジスチル! カゲツの応援に……」
「させると思っているのか?」
噴き上がった炎の螺旋がレジスチルを取り囲む。一歩も動けない状況にリョウは汗が顎を伝い落ちるのを感じた。
「マグマストーム。攻撃性能はかなりのものだ。ちょっとでも触れればレジスチルとはいえ、勝てない」
ここで勝利の可能性を捨ててでもカゲツを助けるか。それともこのまま黙ってやられるのを待っているか。リョウは悔しさが滲み出るのを感じた。
「エンペルト!」
踏み出したエンペルトがヒードランへと突っ込む。水タイプのエンペルトならば、と感じたが初代の判断のほうが速い。
「撃ち込め。熱風」
ヒードランが口腔から放った熱風がエンペルトを押し包みそのまま弾ける。
「エンペルトのタイプ構成は水・鋼だったね。炎は等倍、か。だったら、もっと有効な手段を取ってあげようか?」
初代がドータクンを戻し、繰り出したのは最悪の展開であった。
「……エン、ペルト」
出現したのは色違いのエンペルトだ。黒い部分が薄い青になっており、睥睨した瞳が同種を見据える。咄嗟の判断が遅れたのだろう。サキのエンペルトへと、色違いエンペルトが水を噴出しながら特攻する。
その一撃でよろめいたエンペルトへと、色違いエンペルトが追撃を行った。翼での切り払いにはより強固な翼で対応し、嘴での特攻には鎧のような肉体で弾いた。エンペルトが諦めようとしても色違いのエンペルトはその翼で攻撃する。
腹部から切り裂かれたエンペルトが仰向けに倒れる前に、色違いエンペルトが背後に回って倒れる事さえも許さなかった。
「やめろ……、やめるんだ!」
レジスチルを「マグマストーム」の領域から出そうとする。この際、レジスチルに多少の傷がつくのは仕方がないと思っていた。しかし、逃げる事が出来ない。「マグマストーム」の螺旋は先ほどまでよりも間違いなくレジスチルを圧迫していた。
「言い忘れていたが、マグマストームを放たれている間は逃げられない」
その事実に震撼していると声が弾ける。
「ぼさっとしてんじゃ、ねぇ!」
直後、思念の刃が放たれマグマの螺旋を打ち砕いた。その刃は色違いエンペルトを弾き飛ばし、瞬時にしてサキのエンペルトを護衛する側に回る。
カゲツは肩を荒立たせて手を払う。
「てめぇら、勝つんだろう? だったら、立ち止まってんじゃねぇよ」
「その通りだ」
オサムのボスゴドラが吼えてヒードランへと突っ込む。ヒードランの肉体は高熱に包まれている。しかし、ボスゴドラは臆する事もなく腕を突き入れた。
「内部から、破壊させてもらう!」
ボスゴドラの二の腕が膨れ上がり、ヒードランを持ち上げる。今もボスゴドラの表皮を焼いているに違いない何千度の炎を物ともせず、ボスゴドラはヒードランを直上に持ち上げて吼えた。その瞬間、ヒードランが内側から破裂する。
恐らくは「ばかぢから」を使ったのであろうがなんという膂力か。ポケモンを内側から破壊するほどのパワーなど聞いた事がない。
「ツワブキ・リョウ! 今だ!」
その声にリョウは至近の距離まで接近していた事を思い出し、レジスチルに命じる。
「その手で目を覚まさせろ! レジスチル!」
破壊光線の光を帯びた鉄拳が初代に突き刺さるかに思われたが、それは瞬時に移動してきたエンペルトに阻まれた。
「ぼくも少しばかり、本気を出す必要に駆られているな」
エンペルトの肉体を破壊光線の力のパワーで粉砕する。目の前で散っていったポケモンに対して初代は何の感慨も浮かべずに口にする。
「シュバルゴ。隙を見つけてメガアブソルを殺すには少しばかり状況を整理する必要がある。一度こちらへ」
シュバルゴがメガアブソルからレジスチルへと標的を変える。
「そんな、直進的な虫ポケモンなんて!」
レジスチルの敵ではない、と言おうとした矢先だった。シュバルゴの槍が高速回転し、レジスチルの腹部へと突き刺さった。
「……なに?」
「度し難い、とはこの事か。単一タイプだけの技のはずがないだろう。シュバルゴ、ドリルライナー」
「ドリルライナー」は、地面タイプの技である。鋼のレジスチルには効果抜群であった。
「レジスチル……」
ほとんど攻撃意思の失せた目が点滅する。シュバルゴが槍を払った。レジスチルが倒れる。
「レジスチル!」
「馬鹿だな。直進的に向かわなければ、手持ちを失わずに済んだものを」
自分の過信でレジスチルを失うのは嫌だった。リョウは頭を振る。
「い、嫌だ……。オレの、昔からの相棒なのに」
「だったら、もっと大切に扱うんだな。まぁ、もう関係がないか」
初代の声にリョウは言い返す事も出来ない。その時、差し込んでくる殺気があった。思念の刃が瞬時に形成され、シュバルゴへと襲いかかる。シュバルゴが後退するが、その足場を崩すように地面が捲れ上がった。
ボスゴドラの放った鉄拳が地面を伝って衝撃波をシュバルゴに伝える。シュバルゴの装甲に一瞬で亀裂が走る。その亀裂の合間を縫うように思念の刃が内側に突き刺さった。シュバルゴが弱々しく鳴いて倒れ伏す。
「……もっと大切に使え、だ? てめぇに言われる筋合いはねぇよ」
怒りを滾らせたカゲツが初代を睨み据えていた。初代は、というとスタンスを崩すでもない。
「何だい? 怒ったのか? 随分と単細胞だね」
「怒るぜ。なにせ、さっきのエンペルトの扱いは何だ? ただ単にヒグチ・サキを惑わせるためだけにポケモンを使いやがって。そんなの、トレーナーの、ましてや王の使い方じゃねぇ」
今にも噛み付きかねないカゲツの声音に初代は鼻を鳴らす。
「いいや、あれこそ王の使い方だよ。王に関して言えば、全てのポケモンは武器であり、使い捨てだ。今さら何を――」
メガアブソルが地面を蹴りつけて肉迫する。カゲツの怒りを引き移したかのように赤い瞳には慈悲の欠片もなかった。今まさに角に纏いついた闇の刃で初代の首を刈ろうとする。
「迂闊だ。踏み込み過ぎだよ。ドータクン」
再出現したドータクンが壁となり、初代とメガアブソルを隔てる。しかしメガアブソルにとってしてみればそれは関係がなかった。何度も何度も、闇の刃を鋼の身体へと打ちつける。その攻撃に比すれば、守りに徹している初代の脆さは明らかだ。ドータクンの身体に亀裂が走った。
「……もう限界か」
右手から新たなモンスターボールを出現させ、初代が放り投げる。
「イワパレス。この分からず屋を少しでも黙らせるんだ。お前の堅牢さならば出来るだろう?」
現れたのは長方形の岩をそのまま背負ったポケモンだった。黄色い眼窩が飛び出しており、小さいながら爪がある。イワパレスと呼ばれたポケモンはドータクンと共に初代を守った。カゲツが舌打ちを漏らす。
「硬いだけのポケモン並べやがって……! 愛情ってもんがねぇのか!」
「愛情? 最も不要な感情だ。ぼくの盾となり矛となるのが、彼らにとっては最も幸福なんだよ」
「ざけんな!」
叫んだ声に相乗して放たれた思念の刃が闇の刃と重なり合い、ドータクンを叩き割った。
まさかドータクンが砕かれるとは思っていなかったのだろう。初代も初めて驚愕を露にする。
「ドータクンを、力技で……」
「オレは四天王のカゲツ。言っておくが、てめぇみたいな外道には温情の欠片さえも感じねぇ。このまま首筋掻っ切ってやる!」
奔った闇と思念の刃をイワパレスが辛うじて受け止めるが今にもその岩の殻が砕かれそうだった。初代は忌々しげに口走る。
「サイコカッターと、辻切りを同時使用……。確かに通常トレーナーの域を超えてはいる。だが、それは王に届くかと言えば、否だ」
「カゲツさん」
オサムがボスゴドラで割って入ろうとする。それを一喝したのはカゲツだ。
「来るんじゃねぇ! この野郎は、オレが殺す!」
メガアブソルには主人の怒りが注ぎ込まれているのだろう。ほとんど前しか見えていないようだった。眼前の壁をどう砕くかしか考えていない。先ほどシュバルゴに加えられたダメージがよく見れば悪化している。それはカゲツも同じで、メガアブソルと同じ箇所を押さえていた。
「メガシンカ、それによるダメージフィードバック。普通、ここまで入れ込むなんて怖くて出来ないが」
「怖いだとか、んなもんはいいんだよ。てめぇを殺せるなら、どんな痛みだって甘んじて受けるぜ!」
弾けた声にイワパレスの堅牢な防御が遂に突き崩された。初代に残っている壁はもうない。
「勝った! オレの勝ちだ! 初代ツワブキ・ダイゴ!」
激しい声音に初代はしかし、口角を吊り上げた。
「そうだね。勝利は訪れた。ぼくの、だ」