INSANIA











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原罪の灯
第百三十七話「鋼鉄の意志」

 初代を守る盾になる。

 それは自分に課せられたたった一つの意味でもあった。

 右腕を得た初代はまた一つ完成に近づく。今入った情報によれば左足も来たという。これは運命だろうか。初代は今宵完成を見る。

「左足の奴はすぐに殺せる。Dシリーズの弱点は知り尽くしているもの。問題なのは恐らくD036を指揮している連中」

 ネオロケット団。Dシリーズ一人で乗り込ませるほど信用してはいまい。何か手を打っているはず。そう考えてこの配置を提案した。リョウは疑似餌だ。そちらに時間を取られれば儲けものレベルに考えている。問題なのはここまで上がられる事だ。

 デボンの医療チームが総力を挙げて右腕の再生治療を行っているが半年以上適した環境になかった右腕は再生に時間のかかる部位だ。当然手術時間は延びていた。

「このままではネオロケット団に寝首を掻かれてもおかしくはないわね」

 そうしないための自分だったが、半年前に邪魔をされてダイゴを通してしまった過去がある。ネオロケット団が総力戦を仕掛けてくるのならば自分一人では止められないかもしれない。

 こんな時、父親であるイッシンを頼れないのは痛い。イッシンは今どこにいるのかも分からなかった。コウヤを遠くに置いたのも完全体になった時に邪魔が入らないためだ。

 コウヤは、言葉にしないが初代を邪険にしている節がある。それは早期に見抜いていた。だからこそ、初代の近くの護衛には置けなかった。

「私だけが、初代を理解出来る。初代の思想と血筋を受け継いだ、新たな支配者を作れる」

 この身体をそのために捧げるのならば惜しくない。そう考えていた矢先であった。手にしていた情報端末にノイズが走る。

「ジャミング? まさかネオロケット団――」

「残念だったな。この距離まで気付かないとは、感覚が鈍ったか? ツワブキ・レイカ」

 その言葉にレイカは振り返る。階段を上がってくる足音が徐々に近づいてきていた。

「階段から、真正面に……?」

 あり得ない。そのような間抜けな輩がネオロケット団にいるなど。だが雑魚を狩るのにも容赦をするつもりはない。レイカは指揮棒を振るうように手を払っていた。

「瞬間冷却、レベル3」

 放たれた凍結の手が階段を上がってくる影を捉える。そのまま引きずり出した。だがそれは、人影ではない。

 ホロキャスターを使った立体映像である。ホロキャスターが凍結で破壊され、立体映像が潰えた瞬間、すぐ傍の壁に亀裂が走った。

 レイカは咄嗟の判断でレジアイスを繰り出して壁にする。レジアイスが壁を突き破って現れた質量を受け止めた。

 火花が散り、レジアイスが吼える。

 延びた凍結攻撃を回避したのは王冠のような嘴と意匠を携えたポケモンであった。黒と青の身体が高貴さを醸し出しており、両翼はただの表皮ではない、鋼鉄のように輝いていた。鳥ポケモンか、とレイカは一瞬判じたがそれだけではないのが明らかである。レジアイスが弾いた攻撃は確かに「ドリルくちばし」であったが飛行タイプだとするのは早計だった。

「何者……。黒い鳥ポケモン使いなんて……」

「ここまでの接近を許すとは。やはり衰えたか?」

 差し込まれた声にレイカはハッとする。砕けた壁から現れた人影に半年前の屈辱と恐れが蘇った。覚えず震え出す指先に忌々しげな声を放つ。

「お前は……ヒグチ・サキ……」

 サキは肩口にかかった粉塵を払い除け、「久しぶりだな」と告げる。相手の余裕がレイカには面白くなかった。こっちのほうがトレーナーとしての格は上のはずだ。

「……そうか、半年前の弱いポッタイシの進化系。それがその鳥ポケモンか」

「エンペルトだ。これは、お前に対する毒になると思ってな。しっかり育てておいた」

 サキは落ち着き払ってエンペルトを見やる。隙だらけの横顔にレイカは攻撃を放った。

「どこを見ている! 瞬間冷却、レベル1!」

 レジアイスから延びた瞬間冷却の網に対してサキは何か行動を起こす気配はない。ただ、口を開いた。

「エンペルト。メタルクロー」

 跳ね上がったエンペルトが両翼をプロペラのように回転させながら瞬間冷却の網へと突入する。凍りつくかに思われたがその翼が冷却網を破った。手応えにまさか、とレイカは歯噛みする。

「鋼タイプ……」

「そう。言っただろう。お前に対する毒だと。エンペルトは鋼・水タイプ。氷タイプのレジアイスには辛い相手だ」

 それを分かっていての余裕か。レイカは苦渋を滲ませる。鋼タイプを単純な攻撃力で上回るのは難しい。

「……だが、晒したな、タイプ構成を。ならば、つけ入る隙くらい!」

 レジアイスの氷の触媒が地面を這ってサキへと至ろうとする。エンペルトが踏み砕いて無効化するが今度はエンペルトの足に巻きついた。そのまま触手となり、エンペルトの身体を壁に叩きつけた。

「エンペルト!」

「私が、ただ単純に氷が使えるからってレジアイスを使っていると思ったのかしら? レジアイスの戦闘パターンはただの純正氷タイプのそれではない。それこそ、戦況によっては鋼をも凌駕する攻撃力を放つ事も可能」

 エンペルトが螺旋を描いて氷の触手を弾き飛ばす。鋼は確かに厄介ではある。だが、それは多数戦での話。一対一ならばトレーナーとしての技量で負けるつもりはない。

「……確かに、私は所詮、トレーナー初心者。幼少期からポケモンと共にあるお前らツワブキ家には勝てないかもしれないな」

「それが分かっていて立ち向かっているのは度し難いわね」

「分かってはいるさ。だからこういう戦い方をする」

 サキが取り出したのはホロキャスターである。先ほどのように疑似餌でも呼び出すのか、と思っているとただ一言、声を発しただけだった。

「ルイ。デボンのボール認証システムには」

『はい、ご主人様。たった今、ツワブキ・レイカのシステム情報を手に入れました』

 少女の声が放たれた瞬間、レイカはボールがカチリとロックされたのを感じた。見やるとボールの中が濁っている。何が、と感じているとサキが声を放った。

「ボールに戻せないようにした。もうお前は、ここで私と戦うか、それとも逃げるかの選択肢しかない」

 どういう事なのだ。レイカはボールのシステム情報を読み取った。その時、ボールの状態がアクティブになっており、外部からのハッキングでボールの情報を掻き乱された事を知る。

「私のボールを、外部から破壊した?」

「正確には破壊ではなく、ボールに何も出来ないようにした。お前らの持っている拘束用ボールも、私の支配下だ」

 読まれている、とレイカは背筋が凍った。最後の手段にと残している拘束用のボールでさえも、サキにはお見通し。だが、どうやって個人の持つボールの識別まで出来るようになった? 半年前のヒグチ・サキには少なくとも不可能であったはずだ。

「……どうだ? 自分の分からないうちに、システムを掌握される気分は」

 恐れが這い登ってくる。半年前に切り捨てたはずの恐怖が蘇り、レイカは声を振り絞った。

「な、何が! ここで私が勝てば同じ! 意味のない事よ!」

「そうだな。ここで私が負ければ意味がない。だが、お前は一つ、勘違いをしているよ、ツワブキ・レイカ」

 その言葉に神経が逆撫でされたのを感じ取る。一体何を、自分が勘違いしているというのか。

「勘違い? その言葉、そっくりのそのままお返しするわ。トレーナーの格でも! 実力でも! 私のほうが上なのは疑いのようのない事実!」

 しかしサキは動じない。それどころか冷静さを保ったまま告げる。

「そう、私ではお前に勝てない。それは分かっている。だから、様々な事象を利用させてもう事にしたよ。まずは、そう」

 サキが指を鳴らす。その瞬間、ホールを突き抜けたのはオレンジ色の光条であった。遠くから放たれた破壊光線の光がサキの真横を突き抜けレイカとレジアイスへと直進する。

「れ、レジアイス! 氷壁、レベル5!」

 瞬時に氷壁が構築されてレジアイスとレイカを守ったが消耗は果てしなかった。一体誰が破壊光線を、と見やったレイカは震撼する。

 エレベーターホールから放たれた破壊光線の主はあろう事か弟であるリョウのレジスチルのものであった。

「何で、リョウが……」

「姉貴……。何で、姉貴が……」

 向こうも不思議そうだ。目を凝らせばリョウは後ろについているDシリーズに脅されているのだと分かる。

「手を組んだ覚えはないが、全ての事象を私は利用してツワブキ・レイカ。お前に勝つ。ほうれ、上だぞ、今度は」

 サキの声にレイカは咄嗟に頭上を見やる。その瞬間、天井が崩れ、破砕した影にエルレイドと白い体毛を持つポケモンが襲い掛かってくるのを目にする。

「レジアイス!」

 レジアイスの氷の防御が放たれるがエルレイドの攻撃と闇の刃を滾らせたもう一体のポケモンの攻撃にたじろぐ。

「コノハさんと……何者?」

 振り仰いだ天井の向こう側には拘束したはずのコノハとスキンヘッドの男が佇んでいる。

「とんだ偶然だな。示し合わせたわけでもないのに」

 男の声にサキは、「いいや、私のプラン通り」と答える。

「ルイでお前らの時間をピッタリ合わせてやった。それくらい造作もないのが私の自慢のルイの性能だ」

 リョウもレイカも、この場にいる誰もがサキの言葉を理解出来ていなかったが上を行かれた事だけは確かであった。

「分からんが、あんた、ヒグチ・サキだな?」

 降りてきた男が尋ねる。サキは、「そうだが」と応じた。

「いつも妹さんにお世話になっているよ。ここまでの誘導も、妹さんのバックアップのお陰だ」

 サキは一瞬だけ呆気に取られた顔をするがすぐに理解したらしい。

「……ああそうか。私が操作していたネオロケット団のシステムがやたら見知った感じがしたと思ったら。……馬鹿マコめ」

 サキはこの戦場の土壇場においても落ち着き払い、懐から煙草を取り出す。レイカは手を払って冷気を放った。レジアイスの氷結範囲はしかし、男の白いポケモンに遮られる。

「あんた、妹さんと同じくらい豪胆だな。この場で喫煙とは」

「これが一番落ち着くんでね。馬鹿マコの構築した作戦なら、私程度に利用されるのも当然だな」

「辛辣だな」

 男が肩を竦める。サキは尋ねた。

「私だけ情報を握られているのは腹が立つ。お前はネオロケット団の幹部だな」

「正解。カゲツだ、よろしく」

 握手を求めたその手を取らずにサキは口にする。

「攻撃が来るぞ」

「知ってる」

 白い体毛のポケモンが先ほどからレイカの放つ氷結攻撃をことごとく防いでいた。お陰で二人は談笑する始末だ。

「どうして、どうしてどうしてどうして! 私のプランが通用しない? あなた達、何だって言うのよ! 殺し損ねたヒグチ・サキに、出来損ないの弟に、Dシリーズに!」

 レイカの声音に対してカゲツと名乗った男は闇の刃で応戦する自分の手持ちに命ずる。

「アブソル。対応攻撃は終わりだ。こっちから攻めよう」

 アブソル、と呼ばれたポケモンは闇の刃を拡張させて跳躍した。一気にこちらとの距離が縮まる。慌ててレイカは手を払う。

「瞬間冷却――」

「遅ぇ。辻切り」

 放たれた闇の刃の一撃にレジアイスがよろめく。予想外の威力であった。レイカは相手が相当な実力者である事を感じ取った。

「何者なの……。レジアイスをよろけさせるなんて」

「名乗るほどのもんでもないさ。じゃあな」

 立て続けに浴びせかけられる攻撃。防御の隙さえも与えない。

「なんて、速さ……。レジアイス! 瞬間冷却と氷壁を同時展開! 押されるな!」

「いいや、押すね」

 挟み込まれた声と共に一気に肉迫したのは手裏剣型の腕を持つポケモンだ。新緑の刃の幕を張り、防御と攻撃を一体化させてレジアイスの氷壁を覆い尽くす。

「半年前の、ダーテング……!」

 Dシリーズが操っているのか。髪の毛を刈り上げたDシリーズは手を払って命じる。

「ダーテング、暴風!」

 ダーテングを中心軸にして竜巻が発生する。すぐさま粉塵を巻き上げて強力な風の攻撃が発生した。飛行タイプの広域技「ぼうふう」の威力は推し量るべきだ。レジアイスの補助を受けてようやくその場に踏み止まったレイカへと差し挟まれた声があった。

「隙あり、って言ったほうがいいのか?」

 サキの声と共に突っ込んできたのはエンペルトである。鋼の嘴がレジアイスへと突き刺さり、その身体が押された。

「一対一では負けない自信があったのだろうが、多数対、となるとそうでもないらしいな。どちらにせよ、私とてお前と真っ向勝負、というのが現実的でない事くらい理解しているよ」

 レイカは歯噛みする。このままではこの連中を初代の下へと通してしまいかねない。

「……ふざけるな」

 押し殺した声と共にレイカは氷結攻撃を拡張させた。レジアイスの氷結範囲が延長して全員へと襲いかかる。ダーテングが真っ先に飛び退き、続いてアブソルとエンペルトが攻撃から逃れた。だがレジアイスとレイカの怒りを相乗させた攻撃は根を張り、完全に初代の下へと続く通路を氷で塞いだ。

「野郎……イカれてやがるぜ。通路を丸ごと塞ぎやがった」

 カゲツの声にレイカは哄笑を上げる。

「お前らがいくら策を弄そうと、これで私達の勝ちよ! 初代さえ復活すれば、私としては大成功なのだから!」

 レジアイスがやられてもそう簡単に氷の壁は崩れまい。レイカはここを死地と定めた。ここで守れないのならば、自分の価値など捨てていい。

「ツワブキ・レイカ。最終目的は初代との血縁を残す事だと聞いていたが」

 サキの声にレイカは鼻を鳴らす。

「残すわよ! あんた達を葬ってからね、レジアイス!」

 氷の暴風域が発生し、エンペルトとアブソルが距離を取る。危険だと分かっているのだろう。この領域にはたとえ鋼タイプでも容易に立ち入れないはずだ。

「氷のフィールドを張った! これでもう! 誰一人としてここには来れない!」

 無論、自分とて無事では済まない。体温が急激に奪われ、死の足音が近づいているのが分かった。

「姉貴! それでいいのかよ!」

 リョウが叫ぶ。何を言っているのだ。ネオロケット団にほだされた裏切り者め。

「初代なんかのために、死んだって……」

「初代、なんか、ですって? リョウ! 初代なくしてツワブキ家はないのよ。それも分からないあんたは、やっぱり三流ね」

 リョウは言葉をなくす。姉である自分と弟の差は初代のために命を捧げられるか否かだ。弟は捧げられなかった。ツワブキ家失格だ。

「あんたは結局、何者にもなれないのよ。私はなる。初代の血を残す偉大な母へと!」

 レイカが天井を振り仰いで笑い声を響かせる。カゲツは歯噛みして呟いた。

「オレの今の戦力じゃ、氷の領域には分け入れないな」

「ネオロケット団程度が、ここから先に行けるわけがないのよ。潰えなさい!」

 手を払うと最大まで引き上げられた氷結攻撃がカゲツへと襲いかかる。アブソルが弾いたがその角も凍てついている。

「悪タイプ使いのオレじゃ厳しそうだ」

 誰が来ようと関係がない。全員を押し潰せる自信があった。

「ここで行けるのは、お前だけだな」

 しかしこの場において唯一突き進もうとする人影があった。それはD036の刻印がされたDシリーズである。

「ええ。僕だけですね」

 そのDシリーズがボールを手にする。レイカは嘲った。

「それが何? どんなタイプが来ようとこの氷結のフィールドに――」

「嘗めるなよ、ツワブキ・レイカ。こいつのこのポケモンは、四天王を制した実力だ」

 四天王。その言葉に呆気に取られているとDシリーズがボールを投擲する。

「――行け、ボスゴドラ」

 放たれたポケモンは鋼の体表を持つ巨躯だった。黒と銀で彩られた丸太のような手足に、一対の銀色の角が攻撃的な意匠を見せている。鋼・岩タイプのポケモンであり半年前、初代の前に屈したポケモン――。

「今度は、僕が勝つ」

 ボスゴドラが咆哮し、こちらを圧倒するように立ちはだかる。しかしレイカは屈しなかった。鋼・岩タイプといえど所詮は通常ポケモンだ。

「レジ系に、敵うわけがない!」

 放たれた瞬間冷却の波に対してDシリーズは冷静に告げる。

「そうかな? あんたが一番に分かっているはずだ。Dシリーズのスペックを」

 ボスゴドラが腕を払う。それだけで冷気の網が消え失せた。まさか、ともう一度放つ。しかしボスゴドラが吼えるだけで掻き消えてしまう。

「僕は、自分の思っている以上にボスゴドラとの適性があったらしい。それが四天王との戦いで偏在化した。僕の中に眠っていたトレーナーとしての強さが、ボスゴドラをここまで成長させた。今の僕とボスゴドラならば、誰にも負ける気はしない」

「ふざけるな! お前のような出来損ないが!」

「ボスゴドラ! 真正面から立ち向かえ!」

 ボスゴドラが腕を交差させて冷却の中を突き進む。射程に達した途端、その腕が振るい上げられた。

「ストーンエッジ!」

 ボスゴドラの発生させた超振動が刃のような波長を伴ってレジアイスの身体を突き抜ける。レジアイスが初めて押された。

「何だ、その使い方は……」

 岩タイプの攻撃「ストーンエッジ」は岩石の刃で攻撃する技のはず。しかし今のボスゴドラの使用方法は超振動ナイフのように内側から破砕する攻撃方法だ。

「岩の刃ってのは何も分かりやすく外側からだけじゃない。内側から砕く。それもまた一つの王道。さらに!」

 突き上げられたレジアイスへと追撃が突き刺さる。

「馬鹿力!」

 格闘タイプの技を打ち込まれてレジアイスの表皮に亀裂が走る。このままではまずい、とレイカが判断を下そうとする前にボスゴドラはレジアイスを吹き飛ばし、その身へと跳躍しての攻撃を放った。

「ヘビー、ボンバー!」

 重さの分だけ攻撃力の増す技「ヘビーボンバー」。鋼タイプのそれがレジアイスの身体を打ち砕こうとする。その瞬間、構築されていた氷の壁が崩れた。

「そんな! 今だって言うのか!」

 今こそ、初代復活の時だというのに。それを左足を宿したDシリーズに邪魔されるなど。

 レイカは頬を引きつらせて、「痴れ者め!」と叫ぶ。

「出来損ないは出来損ないらしく!」

「僕は! Dシリーズの出来損ないじゃない! オサムという一個人だ!」

 相乗した声が弾けレジアイスを押さえつける。その隙を狙ってエンペルトと共にサキが駆け抜けた。懐から拳銃を取り出したのが窺い知れる。カゲツもそれに続いた。このままでは初代はやられる。レイカは手を振り乱す。

「させるか! 瞬間冷却!」

「瞬間冷却は、もう撃たせない!」

 レジアイスはボスゴドラに拘束され、瞬間冷却の冷気さえも撃てないようだった。レイカは振り返り、サキとカゲツの背に言葉を投げる。

「ふざけるな! 私が……私の初代を!」


オンドゥル大使 ( 2016/03/15(火) 21:25 )