第百二十七話「地獄の兄弟達」
「もうちょっと、早くカナズミシティを出られませんか?」
タクシーの運転手にコノハは尋ねていた。運転手は、「そう言われましても……」と濁す。
「どうしてだか混雑しているみたいで……。ナビでも二キロは渋滞だと」
コノハは抱えている荷物をどうするべきか決めあぐねていた。
そろそろツワブキ家の人間達は気付き出す頃合だとイズミに告げられてようやく、逃走経路を決定出来た。毎週のように業火に晒されるカナズミでは街から逃げるのを選択するほうが難しい。検問にかけられ、その場で身元が明らかにならないとなれば逆に怪しまれる。
イズミの作った「逃げ道」は今日だけ有効だった。イズミも上へ下へとデボンの情報をさばくので一苦労らしい。この逃走経路を見出すまで一睡もしていないと言っていた。
労ってやろうとコノハは思う。数少ない友人の一人だった。コノハが高校時代に得た友人で、こちらは忘れていたが向こうが覚えてくれていた。フランを失った自分を支えてくれた彼女の力添えを無駄に出来ない。本当ならばデボンがフランを殺したと分かった時に自殺するか、デボンに飛び込んで死んでやろうと思っていた。それを押し止め、自分に生きる意味を見出させてくれたのは彼女だ。
イズミは、「いつか生きている意味を実感できる日が来る」と言っていた。ネオロケット団に関わるのを出来るだけ避けるように忠告し、それでもデボンの情報を逐一こちらに入れてくれたのは友人であったという情もあったはずだ。
コノハはダイゴの事も思い返していた。半年前に急に舞い込んできた人物。フランの肉体だと分かった時、自分の胸中は揺れていた。彼にすがりたい。そう感じている弱い自分を切り捨て、あくまで冷徹に、事実だけを俯瞰して生きてきた。
ダイゴから、自分の素性が割れては意味がない。最悪殺す事さえも考えていたが、彼が初代に挑み、ネオロケット団に誘拐されたと聞いた時、自分は涙した。彼との最後の夜に交わした口づけをなぞるように唇に手をやる。あの時、ただの女に戻れたのだ。だがそれでもなお戦いの日々を選んだのは彼が「フラン・プラターヌ」ではなくもう「ツワブキ・ダイゴ」であると認め始めていたからだろう。ダイゴは行くべき道を決めようとしている。その邪魔だけはしてはいけないのだと言い聞かせた。
彼がフランであってもダイゴであっても関係がない。自分は寄り添い、見つめるだけだ。彼の邪魔者になってはいけない。道を塞いではいけない。女として喚いても駄目だった。
もう、そうと決めた男の背中に呼びかけを続けるような惨めな女の役目を演じてはいけない。男には進むべき時がある。きっと、ダイゴはそれを満たした。だから自分の前から消えたのだと。
淡い恋の感情を引きずっていれば、自分はいつまで経っても、フランの影を追っている。どこかで切り離さなければ、もう迷っている時間もない。
「お客さん、やはり今日カナズミを出るのは……」
運転手の言葉を皆まで聞かずコノハは運賃を払っていた。
「ここまでで。歩いていきます」
降りようとしたコノハを運転手は制する。
「ちょ、ちょっと、お客さん? 今のカナズミから歩いて出ようなんて無茶ですよ」
無茶なのは百も承知だ。しかしカナズミから出ればまだ勝機はある。検問もエルレイドで突破すればいい。一瞬でも突破出来て逃げ切れば、こちらの勝ちだ。
右腕をデボンの監視下に晒すよりかは、このまま永久に行方知れずのほうがいい。
「私は、そのために……」
フランのため、という逃げ口上はもう使うまい。自分のために、初代の右腕を破壊する。
検問のデボンの社員が顔を振り向ける。覗き込んで、「ちょっと失礼」と声をかけてきた。「夜分にどこへ?」
「今日中に何とかカナズミを出たいんですが……」
コノハの声に検問所の職員は頭を振る。
「それは難しいですね。もう夜分です。カナズミから他の街への移動は日中にとデボンからお触れが出ているのは知っているでしょう?」
「でも、今日中に外の街に行かないと、この子が……」
モンスターボールへと視線を移す。職員が尋ねた。
「ご病気で?」
コノハはこくりと頷き、「外の街でしか治せないんです」と答えた。
「かかりつけ医が外の街の出身で……」
「ちょっと待ってください。デボンから呼びかければ、多分応じてくれるはずです」
検問所へと職員が戻っていく。コノハは検問のゲートを見やる。薄い走行板の仕切りの向こう側はカナズミの外だ。
「ちょっとでも、カナズミの外の空気を吸わせてはもらえないでしょうか? この子も落ち着きますから」
コノハのしおらしい声に職員は了承した。
「いいでしょう。ただし、あまり出歩かないでくださいね。今、局番に問い合わせて呼び出しますので。番号は」
コノハはデタラメな番号を述べる。イズミから預かったかく乱のための番号でもあった。これにかければ何重にもたらい回しにされる仕組みだ。その間に逃げおおせる。
決意した眼差しをゲートの向こうに据えたコノハは次の瞬間、ゲートへと殺到してくる装甲車を目にした。
デボンの装甲車である。コノハは恥も外聞も捨ててモンスターボールの緊急射出ボタンを押そうとする。
「いけ――」
その言葉が放たれる前に直上から光線が発射された。コノハの眼前の空間を焼き、思わず後ずさったコノハへと装甲車が後ろを取る。車から出てきたのはゴーグルをつけた子供達であった。全員銀髪で同じ顔であるのが窺える。
「コープスコーズ……」
職員も思わず、と言った様子で呟いていた。有事の際以外は出撃しないデボンの直属部隊がどうして、という声音に装甲車から降りてきた人影が応じる。
「そこまでだ。……何でこんな事をするんです? コノハさん」
ツワブキ・リョウがどこか納得行かない声音を向けていた。コノハはじりと後ずさろうとする。しかし上空に展開しているゲノセクトから逃げ出す手段が思い浮かばない。
エルレイドを出そうと考えたが放たれた冷気が瞬時に指先を凍てつかせた。覚えず手を離す。指先からこぼれ落ちたボールを装甲車から降りてきたツワブキ・レイカが足で踏みつけた。
「ツワブキ・レイカ……」
忌々しげに口にするとレイカは眉を上げる。
「いつから、主人に牙を剥くようになったのかしら?」
最初からお前らなど主人ではない。そう言いたかったがこの場合、最も危惧するべき事はこちらの目的を勘付かれる事だ。コノハは演技を続ける事にした。
「手持ちが病気で……。どうしても、かかりつけ医の診断が要るんです」
「この期に及んでまだ、騙し続けるわけか。あなたは」
装甲車から降りてきたもう一人にコノハは目を見開く。ツワブキ・コウヤ。デボンの現社長が口角を吊り上げて佇んでいる。本来、ここにいるはずのない人間の存在に慄いていると、「社長……」と職員が口にする。
「ここは検問です。社長や、そのご家族が、何の用で……」
「検問にかけるべき人間を逃がそうとした。この女は言うなれば刺客だよ」
「刺客って」と職員が言葉をなくす。レイカは人差し指を向けて警告した。
「動かない事ね。右腕を渡してもらうわ」
やはり相手の目的は初代の右腕か。コノハは歯噛みする。いつから、連中は自分の事を怪しいと感じていた? いつからなど今さら関係がないとはいえ、どこまで疑念が深まっているのかを知る必要がある。右腕を、この場で知らぬ存ぜぬを通せるか。コノハは試してみる事にした。
「何の事だが。私は、本当に、手持ちが病気で、どうしようもなくって……」
「手持ちが病気、ねぇ……。コノハさん。その手持ち、本当に自分がおやなのかい?」
コウヤの声にコノハは心臓が跳ね上がったのを感じた。
おやがフランだとばれれば、すぐにでも自分の企みが露見する。
「もし……、これはほんの仮定の話に過ぎないのだが、おやがデボンに、ツワブキ家に反抗する人物だった場合、あなたが何も知らずにそのポケモンを使っていたとは、やはり考えられないんですよ。そうだとすれば愚鈍過ぎるし、逆に言えば、あなたはとても仮面を被るのがお上手だ。それが分かっていて暮らしていたのだとすれば、怨敵を前にしてよく、平静を装っていられた」
もうばれている。コノハはそう確信した。
自分が右腕を所有している事も、フランの遺志を継いだ事も。コノハは顔を上げて、「何のつもりです」と声にしていた。
「そこまで確信があるのならば、この場で私を殺せばいいでしょう?」
「残念ながら、そういうわけにはいかない。あなたの命と右腕の所在が引き換えなのは見るも明らかだからだ」
職員達は自分とツワブキ家の会話の意図が分かっていないのだろう。この状況に困惑している。
「単刀直入に聞く。右腕はどこだ?」
コノハは、先ほどまで抱えていた包みへと視線をやる。コウヤがゆっくりと、そちらへと歩み寄っていく。あと一歩で触れる、というところでふと思いついたように顔を上げた。
「そこの職員。ちょっとこの包みを持ってみてくれないか?」
呼びかけられて職員は戸惑う。
「自分が、ですか?」
「そうだ。この包みを持ち上げてくれ。ただ、それだけでいい」
職員がおっかなびっくりに包みへと歩み寄ってそっと手を触れる。
緊張の一瞬、職員は難なく包みを持ち上げた。
「何でしょうか、これ……」
それを見届けたコウヤが横合いから引っ手繰る。
「何でもない。重要物件だ。もう戻れ」
コウヤが手にしたのを、コノハはその目でしっかりと確認した。
その瞬間、コノハは手の中に隠し持っていたボタンを押し込む。直後、包みの中から無数の散弾が発射された。コウヤはまともにその攻撃を受ける。散弾が剥き出しの身体に何発かめり込んだが、それも数えるほどでしかなかった。
本来ならばミンチになっていてもおかしくない散弾の嵐を、コウヤは先んじて出していた岩によって防いでいた。岩が蛇のようにコウヤの身体にのたうち、全身に襲いかかろうとしていた攻撃の牙を受け止めている。
「レジロック。出しておいて助かった、が……」
コウヤが膝を折る。レジロックでも防ぎ切れなかった弾丸が左足を傷つけていた。出血したコウヤにリョウが声をかける。
「兄貴! 大丈夫かよ」
「大丈夫、だ。それよりもリョウ。……逃がすな!」
コウヤの言葉が響いた時には、コノハは駆け出していた。リョウの顔面へと掌底を打ち込み仰け反らせる。コノハは素早く装甲車へと乗り込もうとした。今ならば一番の手薄だ。
扉に手をかけたところで空気が凝結しコノハの指の動きを阻害する。
レイカが手を広げてコノハを睨んでいた。
「やってくれるわね。ここまで手が込んでいるとは思わなかったわ」
視線の先には右腕に見えるようにカモフラージュしたスイッチ式の武装があった。新聞紙に包んでそれが右腕だと錯覚させた。
「本来の右腕の所在は?」
「教えるわけないでしょう」
コノハが睨み返すとレイカは、「そうよね」と顎をしゃくる。コープスコーズの子供達がそれぞれゲノセクトを操って包囲した。
「随分と趣味が悪い。少年兵だなんて」
「でも、効率はいいのよ。Dシリーズのような育成期間を経なくっても使える。それに替えも利くのは兵器としては充分な性能だわ」
レイカの声にコノハは硬直するしかない。どこから撃っているのか分からないが凍結攻撃に晒されている。射程から逃げようにも隙がなかった。レイカの攻撃網とコープスコーズの射程。それに起き上がったリョウが怒りの声を滲ませる。
「……コノハさん。本当に、チクショウ、……本当に、裏切っていたなんて……」
「だから言ったでしょう? リョウ、もう手加減は無用よ」
「当たり前だぜ。チクショウ、鼻血が出てる。クソっ」
鼻を押さえながらリョウがボールから手持ちを繰り出す。鋼の風船のようなポケモンであった。
「レジスチルの広域射程ならば私が取り逃しても最悪、破壊光線で消し炭に出来る」
レイカの声にコノハは口角を吊り上げる。
「怖い話ね」
「それをさほど脅威だと思っていない辺り、死ぬのは怖くないのね」
コノハはこの場で死んだほうが秘密は永遠に守られるのだと感じていた。むしろ生きたまま情報を搾取される危険のほうを考慮すべきだ。
「右腕は? 答え方で処刑の方法が決まる」
「処刑は取り止めにならないのね」
「だって、あなたは今日の今日まで私達を騙して生きてきた。よくもまぁ、のこのこと言えるものよ。あの家で、どれだけ調べ上げてきたのかしら?」
コノハはレイカを見据えながら次の行動を探る。レイカはこの中で一番冷静だ。まずいのは右腕の所在を話してしまう事だが、それよりもまずいのは……。
「兄さん、立てる?」
「ああ、ちょっと無理かもな。左足に結構深く食い込んじまっている」
「野郎……、兄貴を」
ここでまずいのは三兄弟の怒りを買って何もしないまま殺される事。それよりかはせめて一矢報いるべきだ。
コノハはレイカの足元にあるボールへと一瞥を投げる。
チャンスは一度きりだ。コノハは呼吸を止め、思念で命じる。
――エルレイド。
その声に紫色の思念の残像が瞬時にレイカの背後に現れた。
あまりの素早さにレイカとて対応が追いついていない。出現した事も気配で察知してやっとだろう。その時にはエルレイドは肘を突き出し攻撃に転じていた。
「サイコカッター!」
ブゥン、と思念の刃が振るわれる。レイカは肩口へと指差す。
「瞬間冷却、レベル3!」
命じられると凍結が瞬く間に壁を構築し、思念の攻撃を止めた。コノハが舌打ちする。エルレイドは蹴り上げた。レイカが転がり、一瞬気が逸れる。
「こ、コノハさん!」
リョウの声にコノハは迷わずエルレイドに命じていた。
「来ないでください! 来ると、お姉さんが死にますよ」
エルレイドの「サイコカッター」はいつでもレイカの首を落とせる位置にある。リョウは慎重に、声にする。
「お、落ち着いてください……コノハさん。オレは、反対したんだ。だって言うのに、兄貴と姉貴が、焦るから……」
「来ないで、と言っている!」
張り上げた声にリョウがびくりと肩を震わせる。呼吸が荒い。このままレイカを人質に、何とかしてこの場を逃れる方法はないか、と首を巡らせる。
「逃げられないわよ……。どう足掻いても」
レイカの声にコノハは、「そうかしら?」と言ってのけた。
「お優しい弟さんは、そうはいかないんじゃないの?」
リョウがレイカの命を取るか、自分の捕獲を優先するかにかかっている。レイカはリョウを見やり舌打ちする。
「弟は私の命を見捨てるほど、賢くはなかったわね」
それが分かっているのならばなおさらだ。コノハは命令する。
「ツワブキ家、あなた達は何をしようとしているの? 何のために、初代の肉体を集めているの?」
「その言葉に、答える義務、あるのかしら。だってこの逼迫した状況、どうあっても捕獲か死しかない。コノハさん、あなた手持ち、エルレイドなのね。ようやく結びついたわ。何であなたが反逆しようとしているのか。よぉく覚えているもの。私が血を入れ換えてやった、あの男のポケモンじゃない。血と記憶を初代のものに相応しく改良してやった、フラン・プラターヌの――」
「そこから先は! 言葉にするんじゃない!」
フランを侮辱する事は許せなかった。エルレイドがコノハの怒りを受けてレイカの首を落とそうとする。しかしレイカは落ち着き払っていた。
「首が落ちるのはどっちかしら?」
その言葉でコノハは肩口からパキリと音が聞こえる事に気付く。目線を向ける前に、空気が凍結し出現した氷柱が首筋に突き刺さった。
激痛と出血にコノハの目が眩む。その一瞬で勝負は決まった。
レイカがコノハを押し倒し、エルレイドが行動する前に凍結されてしまう。
「よくもやってくれたわね」
蹴りつけられコノハは咳き込んだ。そのまま頭を踏みつけられる。
「私達三人とも、出していなかったらやられていたわ」
装甲車の上に乗っているのは氷で構築されたポケモンであった。恐らくはレイカの手持ちだろう。既に出していたのか、と歯噛みする。
「レイカ、ちょっと歩けそうにない。傷口を塞いでくれ」
「手間のかかる事ね」
レイカが手を弾くとコウヤの足の傷口に氷のかさぶたがつけられた。レイカは氷のポケモンを触媒に周囲の空気を凍結させるのだ。
「何て、恐ろしいポケモン」
「恐ろしい? それはこっちの台詞よ。命令なしで、モンスターボールから直接エルレイドを転送したわね? テレポートか、他の方法か。分からないけれど、一度きりみたいね、あのやり方は」
やはり迷わず殺すべきだった。コノハの眼差しに殺意が宿ったのを感じたのかレイカが哄笑を上げる。
「本当なら殺すのはそっちだったかもしれない。でも勝ったのは私。装甲車に詰めて、尋問するとしようかしら。右腕の所在はどこなのか」
教えてなるものか、とコノハは目を背ける。レイカは拳をぎゅっと握る。それに呼応して氷柱が首筋に食い込んだ。しかし傷口に瞬時に凍結が至るため致命的な出血にはならない。
「これが一番に効く、生き地獄だって知っているわ。氷柱が首筋に食い込む恐怖。でも死ねないって何よりも分かっている。この方法で尋問してもいいけれど。兄さん、立てる?」
「ああ、問題はなさそうだ」
もうかさぶたが定着したのか。コウヤは自分の身体に沿って動く岩ポケモンを操っている。
「レジロックでの拷問は?」
「殺しちゃうんじゃない? レジアイスでやるわ」
「なぁ、兄貴も姉貴も、本当にコノハさんを尋問するのか?」
リョウの声には恐れが宿っている。レイカが腰に手を当てて言い返した。
「何よ。文句があるの?」
「コノハさんはオレ達の……家族だぜ」
「残念ながらリョウ。裏切った人間を家族とは呼ばないんだ」
それが致命的な欠点だと、コウヤは言いたげだった。リョウは兄からの声に言葉をなくす。
「装甲車の中でゆっくり聞きましょう。時間はあるわ。殺さず話を聞く手段は心得ているし」
その時、包みが中空から引き出された。思わぬ光景に全員が瞠目する。
コノハも、であった。それは不可視にした右腕を包んでいるものだったからだ。
「まさか! エルレイド!」
エルレイドは抵抗する素振りもない。ただ自分が不可視にした右腕を空間から引き出している。地面に落ちた包みをリョウとコウヤは怪訝そうに眺めた。
「本物か?」
「本物かどうか確かめるのに、一度は拾わなくっては」
レイカがリョウを顎でしゃくる。当然、リョウは当惑した。
「オレ? でも、オレは……」
「やりなさい。あなたが、一番にコノハさんを信じているんでしょう?」
その文句には逆らえないのだろう。リョウはゆっくりと歩み寄り、包みを拾った。
何も起こらない。「開けろ」とコウヤに促されリョウは包みを開いた。
その目が見開かれる。手にあったのはしなびた右腕だった。
「これが、初代の……」
思わず取り落としたリョウにコウヤが舌打ちする。コウヤの身体を流れていた岩ポケモンがそれを拾い上げて近付ける。
「なるほど、確かに初代のパーツだ」
「しかしどうして……」
「エルレイド、なかなかに男前なポケモンじゃない。主人の近親者であったあなたが拷問されるのを、見たくないみたいよ」
「そんな……。エルレイド」
フランのポケモンならばそう行動するだろう。しかしこの状況で三人に初代の右腕が渡るのは致命的だった。
「これを餌に、初代を釣る」
コウヤの声にコノハは目を見開く。
「あなた達、初代の手のものじゃ」
「初代は、間違って再生されてしまった。だから間違いを正さなければ」
レイカは自分を装甲車へと押し込む。エルレイドへと拘束用のモンスターボールを投げた。エルレイドが封じられ、デボンを牛耳る三兄弟が装甲車に乗り込む。
「さて。死体の王は、再び死者に戻ってもらわなければ」