第百一話「その心は迷いなき……」
何故、今、という感覚があった。
しかしダイゴからしてみれば、それは関係がないとでも言うようにディズィーは告げる。
「君はDシリーズの中でも最初期のテストベッドだ」
肩口の「D015」の刻印を指差され、ダイゴはうろたえた。この女性は何者だ。どうして自分の事をこれほどまでに知っている? ダイゴの疑問に応じるのはクオンだった。
「ごめんなさい、ダイゴ。ある程度は、あたしも聞いたわ……」
「クオンちゃんも? でもだとして、ネオロケット団というのは」
どこまで関与しているのか。そもそも自分を抹殺しようとした派閥が、今は彼女達の味方をしているというのは奇妙だった。
「俺を殺すために、手ぐすね引いているわけじゃ」
「ない、とは言い切れないね。この動きも、まぁ手順通りだって言うのなら」
ディズィーが頤を突き出す。その先にはデボン本社があった。昨日イズミの指定した通りの時間にもう一人、先客があったと聞いたが、それはギリーではなかったのか。
ディズィーは、「オイラ達も噛ませてもらった」と笑みを浮かべる。
「ネオロケット団のコネでね」
抹殺派は今のところ、自分の知り得る限りではニシノと、プラターヌ邸でコノハに殺されたDシリーズのみ。抹殺派の動きは分からないがディズィーは、「信用出来る」と判じた。
「それを先ほどから知りたい。何故なのか、と」
何故、今ネオロケット団はこちら側を支援している。その疑問が氷解しない限りは、彼女達についていく事さえも罠だと思える。ディズィーは碧眼を向けて、「もしかして、罠、だとか思っている?」と見透かした声を出した。
「罠だったら、もっと上手くやるよ。少なくとも、オイラ、一応は有名人なもんで」
その辺りには明るくなかったがクオンが口を挟まないという事は事実からそう離れているとも思えない。
「有名人が何で、デボン襲撃なんかに付き合うんだ?」
「まぁ、ちょっと君の事が気になっているってのはある。初代と同じ姿をした、Dシリーズの初期ロット。おかしいなぁ、廃棄されたはずなのに」
廃棄、という言葉に肌が粟立つ。ディズィー自身が何者なのか、全く語る様子はないがデボンに因縁があるのは確かなようだ。
「……犯罪者と著名人は紙一重か」
「そーいう事にしておいて。押し入るよ」
デボンの社内のコンピュータやセキュリティは沈黙している。入ってすぐに受付もいない。イズミの指定した通りの時間帯には人っ子一人いなかった。
「気味の悪いくらいの、静けさだね」
ディズィーがクオンに目線をやる。クオンもうろたえているようだ。
「あたしは、本社にはあまり来ないから」
所在なさげなのはそのためか。ダイゴは乗り込むと決めたからには毅然とする事を掲げる。
「俺は、俺が誰であるかを知りたい。そのためならば、ここで悪人になる事も辞さない」
デボン本社で、何らかの変化があるはずなのだ。そうでなければコウヤから奪った情報の意味もない。
「そういえば、クオンちゃん。コウヤさんからの情報は?」
それを頼りにデボンに乗り込んだのだと思っていたがクオンは首を横に振る。
「まだ、解析出来ていないみたい」
みたい、とはまるで他人任せのようなニュアンスだな、と思っているとディズィーが言葉を挟む。
「ネオロケット団に解析は頼んである。果報は寝て待てって事」
自分の抹殺を命じている団体にそのような重要情報の解析を頼んで大丈夫なのか。そもそもコウヤの情報がどのようなものかも分からずに自分達は反逆しようとしているのがおかしかった。
「ディズィーさんって言いましたね?」
「敬語はいいよ」
「……では、ディズィーさん。どうしてクオンちゃんを巻き込んだ?」
返答如何によってはここで対立する事も、と構えたダイゴにディズィーは返す。
「そりゃあ、筋違いだ。君のほうが先に彼女を抱き込んだ」
言い返せない。その件に関しては完全に自分の落ち度であった。コウヤの反撃も、ましてや追跡など考えられもしなかった。
「クオっちは追跡の危険性は承知していた。考えの足りないのは、そっちのほうじゃないかな」
ぐうの音も出ない。ディズィーは、「でもいいと思うよ」と呟く。ダイゴは面を上げてその言葉を受け止めた。
「いいって、俺は、俺のせいで」
「そう湿っぽくなるもんじゃないさ。なに、男だろ? どしっと構えなよ」
女性であるディズィーにそう言われてしまえば男としての面子も立っていないようなものだが、ダイゴは受け容れようと思った。それも含めて、自分の罪なのだ。
三人が固まってフロントを駆け抜ける。イズミの作った「空き時間」はほんの三十分ほど。それを超えれば鉄の警備が自分達の道を塞ぐ。
「しっかし、分からないなぁ。ダイゴ、君もどこまで知っていながら黙っていたんだい?」
ディズィーの声にダイゴは正直に答える。隠しても意味がないような気がしたからだ。
「初代の事は、結構知っていたけれど。でも初代を再生させる計画に関して、そこまでの被害が出ているなんて」
フランもその被害者のうちだった。加えて頻発している天使事件≠ニ呼称される殺人事件と酷似している初代の死に様。関連して考えないほうがどうかしている。
「まぁ、推測を並べ立てるようだけれど、死んでいったのは逃げたDシリーズの末端だろう。殺人事件のようにしか見えない時限爆弾が仕込まれているのはオサムで証明済みだし、彼らも限りある者だと分かっていながら逃げようとしたんだよ」
己の宿命から。そう考えると、ダイゴは自分だけ罪を免れているようで心苦しかった。
「何人、Dシリーズがいるだとか、この本社にも配置されているだとか、そういうのは知らないけれど、今は」
「幹部総会を押さえる」
きっとその中に答えを持っている人間がいるに違いない。ダイゴが足を進めるとエレベーターが不意に開いた。直後、岩の散弾が視界いっぱいに広がる。ダイゴは瞬時に跳び退る。クオンを引っ掴んでディズィーも射程から逃げた。
「この、攻撃は……!」
ダイゴの予感を裏付けるように相手が手を掲げる。赤い帽子を被った伊達男がエレベーターから歩み出てきた。傍には重戦車のような岩石のポケモンが侍っている。
ギガイアス。岩タイプの、あの時襲ってきたものと同じポケモンであった。
「ギリー・ザ・ロック……」
ダイゴの忌々しげな声に、「そう嫌な顔するなよ」とギリーは帽子に手をやる。
「オレだってなかなかに骨が折れるんだぜ? なにせ、さっき死んだばっかりだからな」
何を言っているのだ。ダイゴにはわけが分からなかったがディズィーが端末を手に、「なるほど……」と苦い顔を作る。
「そういう事……、そういうカラクリだったわけだ。だよねぇ、そうじゃなくっちゃ、イッシュとホウエンに同時存在出来るわけがない」
ディズィーも何を納得しているのか。分からない事だらけの中、明確なのはギリーが敵である事だ。
「ギリー・ザ・ロック! お前は、穏健派の、デボンの暗殺者なのか?」
ダイゴの声にギリーは、「ま、そういう事にしておくか」と返す。ふざけているのか。
「質問に答えろ!」
緊急射出ボタンを押し込み、ダイゴは柱の陰から飛び出す。自分に追従してくる銀色の浮遊体が両腕を構えた。
「メタング……。煮え湯を飲まされたよなぁ」
先刻の戦闘の事を言っているのだろう。やはり相手はギリーなのだ。ダイゴはメタングで押し切ろうとした。
「メタング、バレットパンチ!」
弾丸の鋭さを伴った打撃がギガイアスへと突き進む。ギガイアスに命中するかに思われた一撃は空間で縫い止められたかのように中断された。ダイゴが瞠目する。ギリーは指を立てて、「ノンノン」と振った。
「そう容易く何度も突破されちゃ敵わないぜ。ギガイアス、ステルスロック」
不可視の岩石がギガイアスとギリーを囲っている。盾のようにメタングの攻撃を防いだのだ。
ダイゴは舌打ちして後退を命じる。先ほどまでメタングのいた空間を引き裂いたのは岩の刃達だった。
「鋭いねぇ。さすがは、ツワブキ・ダイゴか」
ギリーが拍手を送る。岩の刃は一つ一つが独立したものだ。「ステルスロック」に使用した岩から切り出された細かい岩が刃状に襲いかかった。
「岩の、刃」
「ストーンエッジ。まぁ、メタングの表皮をやるにはちと弱いか」
しかしいくつかは床に食い込んでいる。ギリーは続け様に命令する。
「ストーンエッジを触媒にして射程を延ばす。ステルスロック」
岩の刃が寄り集まり、今度は不可視の岩石の盾と化した。こうやって地道に自分の攻撃領域を伸ばす気なのだろう。
「消耗戦になる……」
メタングはまだ使い慣れていない。この状態で戦っても三十分のリミットを越してしまう。ダイゴの懸念につけ込むように、「攻めて来いよ」とギリーは挑発する。
「なにせ、上ではまだ殺さなきゃならない連中が待っているんだからな」
イッシンの事か。まだ殺させるわけにはいかなかった。
「メタング、攻撃を――」
それを制したのは小柄なポケモンの奇襲だった。どこから伝ってきたのか、クチートがその小さな身体を活かしてギリーの懐に潜り込む。ギリーもその接近には気付けなかったらしい。肩口にクチートが噛み付いた。
「何だ、こいつは!」
自分との勝負で気づいていなかったのか。それとも勘定に入れていなかったのか。ギリーはディズィーの放ったクチートの前に無力だった。
「ギガイアス!」
ギガイアスが前足を踏み締め「ステルスロック」の岩を密集させてクチートの攻撃を防がせる。クチートは弾かれたと見るやすぐにディズィーの下へと戻ってきた。
「女ァ……。どうやら暗殺対象が増えたようだな」
「暗殺? 暗殺ってのは気取られずにやるものだ。こうなった以上、ただの戦争だよ」
落ち着き払ったディズィーが気に食わないのかギリーは歯噛みする。
「てめぇ、さっきオレの種が割れたみたいな言い草だったが、本当に理解しているのか?」
「理解も何も、それこそが初代再生計画のプロトタイプとしての処置だったなんてね」
ディズィーの言葉の意味が分からない。しかしギリーはそれを脅威だと感じている様子だ。
「いいのかよ? ダイゴにそれを伝えなくって」
「いいよ。そういうものがあるとしても、不思議じゃないし、それこそがDシリーズの本懐だなんて、ここで言っても仕方がない」
ディズィーは議論する気はないらしい。殺意の波が押し寄せた。
「ここはオイラが押し通る」
ペンライトを翳し、ディズィーは宣言する。
「メガシンカ!」
その声に応え、クチートの周囲へと紫色の甲殻が寄り集まってくる。クチートがそれを砕いた瞬間、その身体が変化していた。
「メガシンカ……。ただの使い手じゃねぇな」
「答える義務はないね。メガクチート、攻撃」
メガクチートが跳ね上がり、ギガイアスと鍔迫り合いを繰り広げる。ギガイアスの岩の刃をメガクチートは背面の角を翳して受け止めた。攻撃力では互角以上を行っている。
「厄介な」
ギリーの噛み締めた声にダイゴは好機だと感じた。一気にエレベーターから上昇し、本丸へと向かう。ダイゴの目論見は、しかし、直前に発せられた声で阻まれた。
「レジスチル。破壊光線」
プレッシャーの波が肌を粟立たせ、ダイゴは思わず飛び退る。エレベーターに直撃したのはオレンジ色の光条であった。エレベーターが落とされ、デボン本社へと向かうための道が閉ざされる。
「そんな……、何で……」
しかしダイゴが驚いたのはそれそのものではない。発せられた声の主に、だ。吹き抜けの階層から顔を出したのは見知った影だった。
「何であなたが! リョウさん!」
その声にツワブキ・リョウは普段の面持ちはそのままに、「なに、護衛対象だっただけだ」と軽く応じる。
「今日はデボン本社が危ういってな」
リョウの傍にいるのは胴体が風船のように膨らんだポケモンだった。風船と違うのはその身体が堅牢な鎧を思わせる点だ。未発達気味な腕が生えており、中央に細かい目のようなものがあった。
「そのポケモンは……」
「レジスチル。言ってなかったか? オレの相棒だよ」
リョウもポケモントレーナーである事は予測していたまさかいきなり自分を狙ってくるとは思わなかった。ダイゴは想定外の事にただ言葉をなくす。
「誤解しないで欲しい。お前を、殺す気はないんだ」
リョウは気さくな笑みを浮かべて片手を上げる。いつものように、ダイゴのためを思って行動する気軽さがありながら、その傍らには武装を思わせるポケモンの姿。
「ただ、な。お前が全ての真実を知るってのは都合が悪いんだよ」
都合。そのために消された人間がいる。ダイゴは自分がフラン・プラターヌだと信じたわけではなかったが、コノハの想いは本物だと感じていた。
「……都合、ですか。リョウさん、俺、そういう都合のために、人の意思が消されていいものじゃないと思います」
歩み出たダイゴにリョウは耳を傾ける。
「何だって? おい、ダイゴ。言ったよな。ツワブキ家の命令は絶対だって」
「ええ。でも俺はもう、ぬるま湯の関係なんて嫌なんだ」
自分から捨てた。仮面の関係性を続けるくらいならば、もう、自分には退路なんてなくってもいい。リョウが眉をひそめる。
「それがお前、って事か」
「ええ。それが俺なんです」
リョウは何度か頷いた後、鋭い一瞥を投げた。
「なら、死んでもらうか、あるいは戦闘不能に陥ってもらうのが筋だな」
「俺は負けない」
「そうかな」
レジスチルと呼ばれたポケモンが片手を突き出す。そこから発射されたオレンジ色の光線がダイゴへと向かっていく。
「この射程だ。避け切れまい」
リョウの言葉にダイゴは頭を振る。
「避ける? とんでもない」
メタングが前に出たかと思うと両腕を交差させた。
「――全て、受け切る」
メタングへと光線が直撃する。しかし煙を少しの間棚引かせただけで、メタング本体にほとんどダメージは見られなかった。
「初代が使っていたのと同じ、鋼・エスパーのポケモン、メタング」
「俺は、その初代とやらは知ったこっちゃありません」
ダイゴはリョウを見据え言い放つ。
「俺は、ツワブキ・ダイゴです。でも、初代と同じつもりはない」
もう迷うまい。この偽りの名前と共に、自分はツワブキ家の野望を砕く。ダイゴの気迫にリョウは鼻を鳴らす。
「なかなかに言うな。だが、忘れたのか? その名前を与えたのがオレだという事を」
レジスチルが再度動き出す前にダイゴはメタングに命ずる。
「バレットパンチ!」
弾丸の速さを誇る連打がレジスチルとリョウの足場を打ち据える。リョウとレジスチルは直前に飛び移ったがその動きが鈍い事は察知していた。
「破壊光線。そう何度も撃てる技じゃないでしょうし、それに反動もある」
レジスチルが反撃してこない事がその証だ。リョウは飛び移った足場で笑みを浮かべる。
「トレーナーとしての才覚も。惜しいくらいだよ、ダイゴ。初代の魂の入れ物にしておくにはな」
「その悪魔の計画を、俺が止める!」
ダイゴの意思を感じ取ったようにメタングが素早く動きレジスチルへと打撃を見舞う。レジスチルは硬直が解けたのか、その打撃と同じくらいの突きを放った。鋼のポケモン同士が鋼鉄の肉体をぶつかり合わせる。火花が散り、それぞれのトレーナーの意思の輝きを帯びた。
「生半可な覚悟で、裏切ったわけじゃないらしい」
「まだだ! 俺とメタングは、さらに上を行く!」
メタングが両腕を振りかぶりレジスチルの胴体へと爪を立てた。だがレジスチルの鋼鉄の肉体には傷一つつかない。
「一説には、レジスチルはそのあまりの堅さゆえに、地球上の物質ではないと言われている。見たところ速さは互角。ならば、堅さ比べとなるが、果たしてその軟い身体で何発持つかな?」
レジスチルの放った拳がメタングの身体に残響する。今度はメタングの拳が叩き込まれるがメタングの拳が命中した箇所がコォーンと空洞の音を立てた。ほとんどダメージになっていないばかりか、攻撃の反動を霧散されているのだ。
「なんて、堅さ……」
「それだけじゃないぜ。十万ボルト!」
レジスチルの腕から青い電流が立ち上ったかと思うとメタングの身体へと電撃が見舞われた。もちろん、メタングは弱点タイプに電気はない。だがその攻撃力は相当なものだ。
「このように、器用な奴でもある。どんな立ち回りだって出来るぜ」
思っていたよりもレジスチルは厄介な相手らしい。ダイゴは時間が、と一瞬だけ注意を逸らす。その一瞬でレジスチルがメタングの懐に入っていた。
「アーム、ハンマー!」
レジスチルの鋼鉄の膂力がメタングを打ち据える。その攻撃力の前にメタングが宙に浮いたまま目を回した。
「メタング!」
「戦いの最中に、余所見か? 言っておこう、ダイゴ。オレのレジスチルは公安でも切り込み隊長役だ。こいつがまず分け入って相手の攻撃をいなし、他の連中が後に続く」
ダイゴは公安という言葉にニシノの事を思い返した。
「……リョウさん。ニシノを、知っていましたね?」
確信を持って放った言葉に、「半年前に辞めた奴にそんなのがいたな」と口にする。顔見知りレベルだったのか。しかし話が出来過ぎている。
「ニシノを使って、俺を殺す気だった。でも出来なかったから、ツワブキ家で引き取った」
「待てよ。おかしいだろ。オレはお前に死んで欲しくないんだ。なのになんで殺そうと? 話が見えないが」
リョウが僅かに視線を戦っているギリーとディズィーに向ける。そうやってから、なるほどと呟いた。
「一枚岩ではないようだ。何か刷り込まれたな?」
「俺は、俺の意志で立っているんです」
「そう思っているだけだろう。ダイゴ、言っておくが、お前の意思なんて関係ないんだ。D015はロストナンバーだったが、その一点のみでは役に立つと判断された。Dシリーズ二百体近くの内、唯一の成功例なんだ。無駄にするなよ」
「その二百人近くの命を、あなたは弄んだ!」
糾弾の声にリョウは舌打ちする。
「……言うだけ無駄か。思い込んじまっている。どれだけ自分の存在が奇跡なのか、知りもせずに」
「俺の意志は、俺の物だ!」
突き上げた声と共にメタングの拳がレジスチルへと向かう。リョウは、「無駄だ」と発する。
「レジスチルの堅牢な表皮を、一枚でも破る事なんて――」
その言葉尻を引き裂いたのはダイヤモンドの嵐だった。突然に巻き起こったダイヤモンドの突風がレジスチルの視野を遮る。リョウが狼狽して周囲を見渡した。
「何だ? この技」
「叩け!」
メタングの拳がレジスチルを打ち据え、一瞬だけその注意が削がれる。ダイゴはこの攻撃の主を知っていた。だからこそ、即座に行動に移れた。リョウとレジスチルの攻撃射程から逃れ、ダイゴは非常階段へと駆け抜ける。
「逃がすか!」
リョウが手を振りかざしレジスチルに攻撃を命じようとするがその動作は鈍い。既に射程外に逃げたメタングを追う事は出来ないようだった。ダイゴは視線をやる。
「クオンちゃん……。ありがとう」
クオンが柱の陰から身を乗り出してディアンシーを出していた。ディアンシーは両手からダイヤモンドを発生させ、それを突風にしてリョウとレジスチルを阻んだのだ。
「クオン……。何で、奴の味方を……」
「兄様。あたしは確かにツワブキ家。でもそれ以上に、ダイゴの理解者であるつもりよ」
その言葉を背中に受けながらダイゴは非常階段を駆け上がった。