INSANIA











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新たなる戦い
第六十五話「理解者」

 工業用水が流れ込んでいない。

 サキはそれだけでこの場所が浄化された場所なのだと思い知る。プラターヌが先に口火を切った。

「汚れていないって事は、ここにはポッチャマ達の天敵はいないって事だな」

 一応はポケモンの遺伝子工学の権威。発する言葉にサキは尋ねる。

「天敵、というと?」

「ベトベターやマタドガスなんかが居つくんだ、こういう場所には。まぁ人間の汚水や工業排水を好むポケモンだからやっぱり嫌われてはいるんだが、わたしからしてみればあながち嫌悪の対象というわけでもなくってね。彼らの生態も一つずつポケモンという存在を穴埋め出来る要因になるんだ。なにせ、ポケモンが先に存在するならば彼らはどうやって生態系を維持し続けたのか、って話になるから」

 遠く、シンオウではポケモンが神話の対象になっている。それこそ宇宙創造神話に繋がっているのだ。だからこそベトベターやマタドガスなどの存在が解せない部分もあるのだろう。サキは自分の持てる範囲だけの知識で返す。

「博士は、やっぱりそういう事を?」

「研究していたのか、って?」

 懐を探って煙草を取り出したがポッチャマ達の視線が飛ぶ。不服そうな顔をしてプラターヌは煙草を仕舞った。

「そりゃあ、わたしとて研究者だ。遺伝子研究だけじゃない。ポケモンについて日夜知りたい事はたくさんあった。でもまさか自分自身が都市伝説めいた存在になるとは、思っていなかったね」

 歳を取らない研究者。抹消された矛盾する論文。メガシンカ――。プラターヌ一人の人格を切り取ってもこれだけ秘密がある。そう考えれば誰しも秘密の一つや二つは持っていても不思議はないのだ。それがたとえ幼馴染であっても。

「ツワブキ・レイカ……」

 その名前を呟く。プラターヌは、「やはり、知り合いかね?」と聞いていた。

「はい。正確には幼馴染の姉なんですが……、よく入り浸っていたのでほとんど友人同然で」

「それがあの裏切りじゃ、解せない部分も多かろうね」

 プラターヌはいちいち言葉を選ぶ気はないようだ。サキとて刑事。人を裁く権利のある職務上、疑ってかかる事、裏切られる事に慣れていなければならない。だがレイカは本当に予想外であった。ツワブキ家にはきな臭いものがあるのは感じられていたが家族ぐるみの付き合いをしていた人間に関しては裏がないと思い込んでいたのだ。ある意味では一番おめでたい。

「……私、やっぱり駄目でしたね。一番非情になるべきところで非情になり切れていない」

 冷徹に成り切れれば、どれほどいいだろう。ダイゴも、リョウもレイカも、あるいはあの家族全員を疑ってかかれれば。しかし自分にはそこまで冷酷に物事を判断出来るほどの裁量はないのだ。拳をぎゅっと握り締めるとプラターヌが呟いた。

「心は、なくさないほうがいい」

 はたと立ち止まりプラターヌの横顔を見やる。彼はポッチャマ達の背中を見つめつつ口にしていた。

「心だけはなくしちゃ駄目だ。どれだけ酷な現実が待っていようとも、あるいはどれだけ世界が残酷さに満ちていようとも、心だけは捨ててはならない。自分を構築するのに、肉体は最悪不必要でも、心さえ失わなければ」

 研究者らしからぬ言葉だった。サキは、「意外ですね」と感想を漏らす。

「博士には、そういう感情論みたいなの似合わないと思っていましたが」

「わたしだって似合わない事くらい自負しているさ。だが、これは心をなくしかけた人間からのささやかなアドバイスだと思ってくれればいい」

「アドバイス、ですか……?」

「裏切りがあろう、人と人とも思わない人間がいるだろう、それでも自分が自分を曲げず心だけを手離さないのならばきっと最良の結果が得られるはずだ。望もうと望まなかろうと」

 サキは顔を伏せていた。どれだけ世界が残酷でも心だけは手離すな。プラターヌには似合わない諭し文句だ。

「昔ね、わたしにもそう言ってくれた人がいたんだ」

 そう言ってくれた人が、と紡いだプラターヌの顔はどこか寂しげだった。

「どのような方で?」

「一生を誓い合った、本当の理解者であった」

 プラターヌが結婚していた、というのはデータ上でしか知らない。それにこの男は年も取らないのだ。だから自然と独身だという思い込みがあった。だが彼の息子、フラン・プラターヌは行方不明となり、一家は離散した。彼だけがその全貌を知っている唯一の人間だろう。

「奥さん、ですよね」

 プラターヌは答えず、「本当に、理解者だったんだ」と継ぐ。

「わたしの研究がいくら叩かれようとも、わたし自身がおかしな領域に踏み込もうとしても、絶対にわたしだけを信じてくれた。だから彼女への贖罪のために、君と共にいるのもある」

 意想外の言葉にサキは目を見開く。

「贖罪のために?」

 振り返ったプラターヌは伊達男めいた微笑みを浮かべる。

「だってそうだろう? わたしは研究する側からされる側へと回っていた。あのまま朽ちてもおかしくなかったが、闇から助け出してくれたのは、君の手だ。だから恩義には報いる。それだけさ」

 本当に、それだけなのだろうか。プラターヌには未だサキにも明かしていない真の目的があるように思えた。離散した家族の行方。もしかしたら彼は知っているのではないだろうか。そのような考えが鎌首をもたげサキは慌てて振るい落とす。何を考えているのだ。他人の家庭の事まで踏み込むべきじゃない。

 ぴちゃり、と靴先が水を踏んだ。先ほどまでよりも浸水域が上がっている。

「まさか入水させる気じゃないだろうな? ポッチャマ達は」

 プラターヌの懸念にポッチャマ達は次々と踏み込んでいく。もしかしたら裏切る気かもしれない。だが分かっていても進まねばならない時もある。

「行きましょう。信じる気に、私はなれたんですから」

 サキの声にプラターヌは、「とことん、だな」と呟く。

「君はとことんだ。踏み込んだらブレーキを知らない。いずれ自滅する人間の動きだぞ、それは」

「でも、自滅するのにも何もしないで自滅するのと何か行動を起こして自滅する二種類があります。私は、何もせずに諦観の内に死ぬのは御免です」

 サキの強い語調にプラターヌは後頭部を掻く。

「……参ったな。地獄への道連れがここまで強情だと」

「博士こそ、まだ終わる気はないんでしょう?」

「当然」

 二人して下水道を進む。ポッチャマ達は導かれるように次から次へと排水管を渡っていった。サキら人間からしてみれば少し厳しいくらいの道筋である。しかしこの先に何かが待っている事だけは確定だろう。ポッチャマは自分を救った。何かをさせようという意図なのかもしれない。

「あのポッチャマ達、傷がありますね」 

 その時になってサキはいずれのポッチャマ達にも見られる小さな傷跡に気付く。プラターヌは、「縄張り争いだろう」と答えた。

「元来、ポッチャマは孤高を好む。プライドも高く、決して群れない。だが、今こうして群れを見られるという事は、だ。統率している何者かがいる」

「……敵でしょうか?」

「かもしれないね。いずれにせよ、何らかの意思があってわたし達を助けた。その意思を知るべきだ」

 プラターヌは構わず進んでいくがサキには鋭い傷跡が縄張り争いのような生易しいものであろうかと考えた。もっと別の、それこそ孤独を好むこのポケモンらしい経緯があるのではないだろうか。

「トレーナーでしょうか?」

「かもしれないし、そうではない可能性がある。汚水が綺麗になっているからポッチャマ達の行いには間違いないのだろうが、それが人間のためなのか、ポケモンのためなのかは彼らしか知らない」

 ポッチャマ達が隔壁に閉ざされた下水道の道に至る。行き止まりにしか見えないが先頭のポッチャマが鋭く鳴いた。するとそれに相乗するようにポッチャマが次々と規則正しく鳴き声を響かせる。隔壁の横のパネルが赤い電光表示から緑色のランプに変わった。まさか、とサキは息を飲む。

「今の、音声で電子ロックを解除した、って事なんですかね」

「だろうね。なに、不可能じゃない。音声を規則正しく、きっちりタイミングよく鳴らせられたら音声認証の擬似ロックならば解除出来る。なるほどな、ここが彼らの棲み処か」

 隔壁が開き視界に入った空間は天井の高い区域だった。恐らくは管理ブロックだろう。人が使っていたであろう工業用具が残っている。

「博士、やはり人が……」

「早計だ。見たまえ」

 プラターヌが指差したのは管理ブロックの奥に鎮座する影だった。人か、とサキは構えるが相手の背丈を確認してそれが杞憂であったと知る。

「ポケモン……」

 水色の両翼を有し、嘴を持っているのはポッチャマそっくりだがポッチャマに比べて目つきが鋭い。ポッチャマよりも攻撃に適した翼は長く、身構えたのは向こうも同じのようだ。ポッチャマのうち一体が歩み寄る。頭を垂れてそのポケモンに何やら報告しているようだが刹那、そのポケモンが鋭利な翼でポッチャマを引っ叩いた。その一撃だけでポッチャマの頬が切れて血が滴る。

 思わずサキは身を乗り出していた。

「何を!」

「落ち着け。これも群れでの通過儀礼だろう」

「通過儀礼?」

 サキが聞き返すと引っ叩かれたポッチャマは憤るでもなく静かに報告を続ける。怜悧なポケモンの瞳が細められサキ達を値踏みした。

「何を言ったのでしょう?」

「恐らくはどうして人間を連れて来たのか、だろうね。あのポケモンはポッタイシ。ポッチャマからの進化系だ」

 進化系。その言葉を聞いてポッチャマの延長線にあるその身体つきにも合点が行く。しかしならば何故、ポッチャマ達を従えているのか。

「ポッタイシは何よりもプライドが高く自分を一番偉いと感じているという調査報告がある。恐らくは群れの内ずば抜けて強い一体が進化し、こうして群れを統率するようになった」

「じゃあ、トレーナーがいるんじゃなく……」

「ああ。あのポッタイシが全てを導いていた」

 ポッタイシはポッチャマからの報告を聞き終えると今度は蹴りを見舞った。ポッチャマが転がりポッタイシを懇願の眼差しで見つめる。それを無為だというようにポッタイシは翼を掲げた。サキのような素人でも分かる。あの翼は鋭利な凶器だと。

「ポッタイシの翼は殺人級に鋭い。大木でも耐え切れぬほどの一撃を約束する」

 淡々としたプラターヌの口調にサキは我慢出来なくなって駆け出した。ポッタイシの横暴を止めなければ。それだけを考えての猪突をポッタイシは読んでいたのだろう。急に流れている水の勢いが変異し水そのものが散弾のように飛び散った。サキは瞠目する。避けようがない。

 その時になって悟った。ポッタイシの目的はあくまで人間である自分達の排除。この時を待っていたように水の散弾が降り注ぐ。しかし、それを阻んだのは無数のポッチャマによる「あわ」の攻撃であった。泡が皮膜のようにサキを保護し水の散弾の勢いを弱める。その行動の意味を解せないとでもいうようにポッタイシはポッチャマ達を睨んだ。

「きっと、ポッタイシからしてみればどういうつもりだ、だろうね。人間を招きいれただけでも許せないのに、さらに言えば人間を守るなんて」

 ポッタイシの言葉を代弁するプラターヌにサキは振り返ろうとして腰を砕けさせた。ポケモンの何のてらいもない真実の殺気にたじろいだのもある。今まで遭遇してきたのはあくまでトレーナーの使役するポケモン。野生のポケモンがこれほどまでに苛烈だとは思わなかった。

「ポッタイシは自分より弱い存在には決して心を許さない。さて、どう出る?」

 プラターヌは楽しんでいるようだったがサキからしてみれば堪ったものではない。振り返って叫ぶ。

「どうするんですか!」

「どうするもこうするも、こうなればボスと交渉するほかないだろう。ポッチャマ集団は何のつもりで、わたし達を招いたのか」

 ポッチャマの内一体が声を発する。まるでプラターヌの言葉を翻訳するように。ポッタイシがそれを聞き止めるなり鋭い眼差しで睨んだ。激しい声音が管理ブロックの高い天井に木霊する。

「……いきり立っているねぇ。だが、わたし達は敵じゃない。敵に追われてここに来たんだから」

 ポッチャマは自動的に通訳しているらしい。ポッタイシはしかし譲るつもりはないようだ。翼を振り上げるとその先端が銀色に輝いた。プラターヌは落ち着いて声にする。

「メタルクロー。そうだろうね、そう来るのが筋だ」

 瞬間、ポッタイシの姿が掻き消えたかと思うとプラターヌの首筋へと翼を突きつけていた。あまりの素早さにサキは目を見開く。ポッチャマ達が慌てたように声を相乗させるがポッタイシは一声で制した。

「わたしの首を切って見世物にするか? なるほど、それも一つの手段だろう。だが立場は違えど敵は同じなはずだ。わたしが知りたいのは、だよ。どうして北国での生活を望むポッチャマや君が、このような南国の、しかも下水道にいるのか、という話さ」

 サキはハッとする。孤高で群れを好まない性質のポッチャマ達が居ついた理由。それは人間に捨てられたからなのだとプラターヌは仮説を立てていた。ならば人間を恨むのが当たり前である。

 ポッタイシの突き出す鋼の爪がより鋭く輝く。殺意の現れにプラターヌは両手を振った。

「やめないか? わたし達は恐らく仇なした奴に報復したい、という点では同じなはずだよ。ポッチャマ達も突破口を見出そうとして、わたし達を連れて来た。あのダストシュートから捨てられてくるのは何も生きている人間だけじゃあるまい?」

 ズーが最期の瞬間、使用したダストシュートには何が普段捨てられてくるのか。想像に難くない事実にサキは震撼する。

「まさか……あそこからは死んだ人間が……」

「それもDシリーズの出来損ないが。恐らくは捨てられてくるはずだ。君達は泥水をすすっただけではない。忌むべき人間の生き血まですすって生き永らえてきたはずだ」

 ポッタイシが身体を宙に浮かせて回転し様に翼を薙ぎ払う。プラターヌの身体を吹き飛ばすかに思われた一撃を防いだのはポッチャマだった。ポッタイシが鋭く鳴きポッチャマを威嚇する。それだけでポッチャマの展開した水の盾は霧散した。どれほど強力なのか、ポッタイシはまるで絶対的な法のようである。

「人間を恨むのも憎むのもよく分かる。だが手を取り合って復讐するにも君達だけじゃいつまでも叶わない。それこそ忌むべき人間の協力がなければ」

 何をするつもりなのか。サキは問い詰めていた。

「博士! 何を……」

「我々が生き残り、君達も生き残りたくば手段は選んでいられないはずだ」

 ポッチャマが沈痛な面持ちで翻訳する。ポッタイシは鼻を鳴らして鋭利な翼の先端をプラターヌの鼻先に向けた。

「いつでもわたしを殺せる、と? だが残念ながら君の主人になるべきはわたしじゃない」

 まさか、とでも言うようにポッタイシが振り返る。腰が抜けた状態のサキをプラターヌとポッタイシが眺めた。

「わ、私にやれって?」

 無理である、と否定しようとしたが、「頼むよ」とプラターヌが手を掲げる。

「ここで飲まなきゃわたし達の生存どころか全滅な上に一生お天道様は拝めないだろう。殺されるよりかはマシな提案だ」

「でも私……、ポケモンを使った事なんて」

「ない? ならこれから覚えるといい。幸いにして君にはポケモンの権威がついている」

 呆気に取られたようにサキが口を開けているとポッタイシがポッチャマに向けて鳴き声を放った。ポッチャマはそれに従って鉄材で編まれた巣から一つの球体を取り出す。赤と白のカラーリングに彩られたモンスターボールを。

「……本気、なんですか?」

「本気も何も、ここで飲まない限り我々に明日はない」

 それはポッタイシにも言っているようだった。ポッタイシはポッチャマに命じてモンスターボールをサキの下へと転がしてくる。サキは手に取ってポッタイシを改めて見やった。全身傷だらけで、戦いのためだけにその生を投じてきたのが分かる。まるで自分のようだ、と思ったのはあながち間違いでもないのかもしれない。

「ぽ、ポッタイシ……」

 及び腰でサキが口にするとポッタイシが鋭い一瞥を投げる。それだけで身が竦み上がりそうだ。野性とはこれほどまでに気高く、また強靭なのか。

「心配いらない。わたしがついている。まずはモンスターボールのシステムから説明したいところではあるが、ここは簡易的に行こう。ボールを投げつけるんだ。ポッタイシに向けて」

 殺意の塊のようなポッタイシにモンスターボールなど意味を成すのだろうか。サキはおっかなびっくりにボールを振り上げた。するとポッタイシがプラターヌの首筋から翼を離し、一気にサキへと肉迫してきた。その速度に呑まれそうになる。プラターヌが声を張り上げた。

「投げるんだ! ヒグチ・サキ!」

 サキはほとんど目を瞑ったような状態でモンスターボールを投擲する。ポッタイシの額に当たったかと思うと赤い粒子となってポッタイシはボールに封じられた。何度かボールが揺れてからカチリと音がする。プラターヌが息をついた。

「危なかったね」

「あ、危ないも何も……」 

 自分がけしかけたくせに、と恨み言を言う前にポッタイシ達が次々と頭を垂れてきた。異様な光景にサキは戸惑う。

「次の主人を見つけたんだ。ポッタイシがリーダーであった。それを封じたヒグチ・サキ警部。君こそがリーダーだ」

 プラターヌの声にサキは困惑する。

「でも私には、そのこんなたくさんのポッチャマ達を」

「捕まえなくっていいさ。ただ、主君と共に彼らも出たいのだろう。この穴倉から」

 管理ブロックはそのまま上層への階段に繋がっておりサキは唾を飲み下した。

「何で? だって階段を上ればすぐなのに」

 どうして彼らは脱出しようとしなかった。その疑問にプラターヌが応じる。

「ただ脱出したところでよくてポケモントレーナーの手持ち、悪くて殺処分だ。これだけの群れ、もしかしたらニュースで大々的に報じられてそれこそ彼らの求めていないトレーナー達の争奪戦に巻き込まれるかもしれない」

 群れで動くとなると彼らは慎重にならざるを得なかった。だからこそついた傷跡なのだろう。

「ヒグチ・サキ警部。今は何時だ?」

 プラターヌの問いかけにサキは時計を見やる。

「午前か午後なのか分からないですが、八時ですね」

「結構。朝ならばまだ人々が動き出す前、夜ならばそれはそれで都合がいい。彼らと共に地上に戻る」

 思い切った声音にサキは、「でも」と濁す。

「戻ったところで私達の居場所は……」

 形式上、死んだ事にされているかもしれないのだ。それでもプラターヌは弱音を吐かなかった。

「君がわたしを誘拐した時点で、もう転がり出した石だ。なに、お互いにお天道様に顔向け出来るような行いにはもう戻れない、という事さ」

 サキは固唾を呑む。地上にはもう自分達の居場所などないかもしれない。

「それでも、やるんですよね……」

「それでもやるのが、君だろう?」 

 プラターヌの問いかけは最後の戸惑いをサキの中で解き放つ。立ち上がったサキは鋭い双眸を天井に向けた。

「行きましょう。ここを出て、外の世界に」

 たとえ戦いしかなくとも。サキはポッタイシの入ったモンスターボールを固く握り締めた。


オンドゥル大使 ( 2016/01/09(土) 22:45 )