第三十九話「偉人説」
小道の脇に、銅像が立っていた。
近くの木々から木の葉が舞い散り、銅像の頭にかかっている。ダイゴは小道を抜けた先にあった銅像の前で足を止めた。下の台座には文字が刻印されている。
「デボンコーポレーション社長、ツワブキ・ダイゴの立像……」
呟いていると、「気になるのかね」と声がかけられる。振り向くと先ほどの老人が佇んでいた。思わず緊張を走らせる。だが老人に敵意はない。手を振って、「害そうって言うんじゃない」と歩み寄った。
「もう手付金はもらったからね」
懐をポンポンと叩く。先ほどの落し物の小道でダイゴは現金とリョウの警察手帳を手に入れていた。どうすればいいのか決めあぐねていたが、これ以上老人の介入を防ぐために口止め料を払ったのだ。老人のためにも、それが一番いいだろう。
「ツワブキ・ダイゴ……。カナズミの名士ですよね」
ダイゴの声に、「おっ」と老人は声を上げる。
「君ぃ、落し物の小道ではすっかり術中にはまったのに、ツワブキ・ダイゴは知っているんだな」
自分がそのダイゴと同じ名前だとは言えない。もちろん、初代の再生計画も。
「小耳に、挟みましたから」
「じゃあ、ツワブキ・ダイゴが何で二十三年前に死んだのか、その逸話も知っているんじゃないのかね?」
「逸話?」
思わず聞き返す。初代ツワブキ・ダイゴは天寿を全うしたのではないのか。
「あ、知らないか? カナズミじゃ、割と有名な話なんじゃが」
「聞かせてください。初代は、何で死んだんですか?」
明確な部分は何も分かっていない。どうして一部の人間が初代を再生しようとしているのか。その理由もそこにあるはずなのだ。老人は遠くを見る眼差しになって呟く。
「二十三年前。まだ玉座を離れてからそう間もない事じゃった」
老人は語り出す。二十三年前の、ホウエンでの出来事を。