第二十九話「死の先の真実」
接触に夜の公園を選んできた辺り、相手はこのカナズミシティが巨大な学園都市であるのと同時に実験都市である事を熟知しているのかもしれない。
サキは携行用の拳銃を持ち合わせていたが、相手が強力なポケモンを有していた場合、完全に無力だ。その場合は殺されるか、こっちの情報を吐くまで拷問されるかだろう。それでもサキはこの場所に訪れなければならなかった。周囲に視線を配る。
「背後のビル、好位置ね。あと北方のスクールの屋上も」
そう呟いてサキが確認したのは狙撃手がいると仮定しての位置関係だ。公園にも監視カメラが数台存在する。相手が姿を見せるとは思えない。サキは相手が行動するとして自分の無力化とその後の制圧だと感じていた。その場合、直接手を下して痕跡を残すよりも狙撃手に足でも撃たせて動けなくしてから代理人にでも運ばせればいい。腐っても捜査一課だ。闇に紛れる相手の手口は分かっているつもりである。
その時、ポケナビにコール音が響いた。サキは通話に出る。
「はい」
『公園にいるな』
通話越しの声はまたしても男性か女性かさえも分からない。雑音が入っていない事からして室内か、と感じていると羽ばたきの音が耳朶を打った。目線を向けると鳥ポケモンでも止まったのか木が微かに揺れている。
「そっちで私の位置を捕捉しているのか?」
『いや、目の届く範囲から見ている』
サキはそれこそ狙撃手の存在を疑ったが、予め当たりをつけておいた場所には反射光も何もない。狙撃手はいないのか、と考えたがポケモンを狙撃手に置いている場合もある。その場合、反射などしないだろう。
「つくづく信じ難いが、お前らは彼……ツワブキ・ダイゴについて何かを知っているのだな」
『あんたも底が読めない。知っていると確信したからこそ、我々に接触したのでは』
サキは鼻を鳴らす。ここで自分の手持ちの情報が読まれれば終わりだ。出来るだけカードは明かさずに相手から情報だけを引き出したい。だが、そう都合よくもいかないであろうというのは重々承知している。
「単刀直入に聞く。彼は何者だ?」
その問いに笑い声が返ってきた。潜めたような嫌な笑いだ。
『いきなりだね。しかしあんたの置かれている状況は充分に察知出来る。手がかりがない。いや、さらに深い闇に落とされたか。だから狼狽しているのだろう?』
ポケモンと人間の血が入れ換えられたという新事実。それは彼の存在そのものを揺るがしかねない。さらに言えば天使事件≠ニも無関係ではない。だが事件名を無関係な人間に教えるわけにはいかない。
「言っておくが、お前らが規定しているほど私は無能ではない。闇に落とされた、と言ったな? それどころか私には光明が差している」
サキの言葉が意外だったのか、相手が初めて言葉をなくす。
『……気になるね。どこに光明があるというのか』
「この公園、監視カメラの位置、それらを全て熟知しているとは思えない」
警察関係者ですら、それらの位置関係を常に知る事は出来ない。何故ならば位置関係は一月ごとに更新され、さらに言えば管理会社のIDを持っていなければその位置を視認する事すら不可能なはずだ。
『なるほど。網に捉えた、というわけか』
相手の理解は早い。サキは続け様に声を発する。
「今から逃げようなんて思うなよ。それよりも早く、お前を見つけ出す」
『見つけ出して、どうするね? 私は何もしていない』
「彼を抹殺しようとする派閥か、保護しようとする派閥かを聞き出すくらいは出来るさ。お前はどっちだ?」
『最初から言っているだろう』と相手は告げた。
『我々は彼の保護を最優先にしているし、何よりも、一度目に言ったはずだな? 振り返れば死ぬと』
サキは息を詰めた。近づいてくる人の気配はない。あるとすれば狙撃手。だがもう一つの可能性にサキは至っていた。
「振り返れば、か。だが、こうも言えるな。振り返れば、死の先の真実が見える、とも」
サキは振り返り様に拳銃を引き抜いた。標的は一つ。公園の中央にある止まり木だ。そこへと銃撃を見舞う。すると一つの黒い影が飛び出した。銃弾は命中しなかったようだが威嚇には成功したらしい。相手は、「よもや……」と口を開いた。いや、正確には嘴を開いて声を発した。
「見破るとは……」
「何だ……?」
撃ち落としたサキですら戸惑う。落ちてきた相手は、人ではない。音符の形状の頭部をした鳥ポケモンであった。極彩色の羽を持っており、まだ飛べるようだがベンチの角に羽を休める。
「あんたがそこまで有能だとは思っていなかった。まさか、接近を察知されるなんて」
「お前らが何度も遠隔で私を見守っているはずもないからな。今回か、あるいは次かは分からなかったが、物理接触があるとは感じていたよ。……だが、ポケモン越しとは思わなかったな」
「ポケモン越し? 何を言っている?」
逆に問いかけられた形にサキは眉根を寄せる。どう考えてもポケモンを通して会話をしているようにしか見えない。
「私は私だ。このポケモンだ」
その言葉に、「ふざけるのも大概にしろ」とサキは厳しい声を浴びせる。
「ポケモンが喋るものか」
決めつけてかかった声に相手のポケモンは鳥ポケモンのその他大勢がそうするように嘴を振るって喉の奥から声を出した。
「不勉強だぞ、ヒグチ・サキ警部。喋るポケモンは例外的に存在する。私がそうなのだ」
サキは相手が惑わすつもりで声を発しているのだと感じた。銃口を向けたまま、「喋るポケモンは撃てないと?」と挑発する。
「まぁ待て。そう慌てて答えを出すな。あんたの事だ。予め会話を録音しておいてそれに応じて言葉を喋らせている、とでも当たりをつけているのだろう」
「違うのか?」
鳥ポケモンは頭を振って、「本来はそういうポケモンだがね」と答えた。
「私は例外なのだよ。組織の中でも、特殊な地位にいる」
「組織? お前らはポケモンの組織だとでも」
サキは吐き捨てる口調で、「馬鹿な」と続ける。
「ポケモンが組織立って行動などするものか」
「だからポケモンだけではないのだという……。思っていた以上に慌てているのだな。ヒグチ・サキ警部殿」
慌てるのも当然だろう。どうしてポケモンが喋るのか。しかも、答えは予想以上に早く正確だ。録音ではないのか、とサキが疑い始めていると、「紹介が遅れたね」と鳥ポケモンは自らを翼で示し、会釈する。
「この身体はペラップというポケモンのものだが、私の名前は種族名ではない。そうだね、Fとでも名乗ろうか」
Fと名乗ったペラップというポケモンの声にサキは怪訝そうな眼差しを注いだ。
「そのような妄言を私が信じるとでも?」
「信じざるを得ないさ。だってあんたがすがるべきは我が組織なのだから」
Fの言葉にサキは息を詰める。本当に、ポケモンが喋っているというのか。
「何の技術だ?」
「……疑い深いな。まぁ技術でも何でもなく、このペラップというポケモンに宿った人格だと思ってくれれば」
「人格? それこそ失笑の類だな。ポケモンに人の魂が宿るなど、都市伝説か」
サキの切り捨てる言葉にFは、「どうやら存外にご両親の教育がよかったご様子」と皮肉を込める。
「簡単に他人を信じるな。格言じみたものだが、あんたにはぴったりだな」
「他人というよりも他種族だな、これでは」
サキはそれでも銃口を外さない。それを見かねたのかFが呆れ声を出す。
「銃を取り下げてくれないか? 緊張して仕方がない」
「緊張? 緊張すると何だ? 嘴の裏にでも仕込んだテープレコーダーが丸見えになるのか?」
その言葉にFはため息を漏らした。
「……私が知能を持ったポケモン、だという事は認めてもらえそうにないな」
そのような世迷言を信じるわけがない。未だにサキはここを俯瞰している第三者に注意を払っていた。しかしFは言葉を続ける。
「ここを見張っている第三者を警戒するのならば、無駄な事に注意を割くなと言いたい。何故なら、そのような事にいくら気を張り詰めても、無駄だしどうしようもないって事だからだ」
「狙撃に適任のビルが二ヶ所ある」
サキの言葉に、「本当に強情だな」とFは翼を広げる。
「本当に、何もないよ。あんたに接触しているのはこの小さな鳥ポケモン一体だ」
サキは左右に視線を投げてから銃口をようやく下ろした。Fが、「そうそう。それでいい」と口にする。
「私は交渉をしに来たんだ。命のやり取りじゃない」
「振り向けば死ぬと言ったのは誰だ?」
「交渉のカードさ。振り向くまで、私がポケモンだとは思わなかっただろう?」
施設での第一回の接触を思い返す。あの時、ベンチに立たれた気がしたが、足跡も何も痕跡がなかったのは鳥ポケモンだったからか。
「今でも信じていない。喋るポケモンを矢面に立たせるなど」
「まぁ、私とて末端だ。その言い分は全面的に正しくないとは言い難い」
サキは前髪をかき上げ、「本当に」と口にする。
「録音でも何でもないんだな?」
「しつこいな。Fという私は実在する。ただ、今はポケモンでの対話形式を取っているに過ぎない」
その口ぶりではFとペラップは別個体のようだったが今は言及しなかった。何よりも話が立て込んでいるのは目に見えている。
「どういう訓練を受けた? 何故、ポケモンが人間紛いの事をする?」
「人間より知能があるとは認めない辺りが、あんたらしいと言えばらしいが、置いておこう。そうだな、確かに交渉にポケモンを立たせる、というのは失礼に値するだろうが、失礼は承知の上だ。ヒグチ・サキ警部。彼について話をしようか」
サキは周囲を警戒する。Fは、「ならばこうしよう」と提案した。
「歩きながら、だ。それならば公園に誰か来るという心配もあるまい」
Fは飛び上がった。サキは歩いて公園を抜ける。一人暮らしの部屋からはそう遠くない位置だ。歩いてこいとの要望だったので歩いてきたのだがまさか深夜にポケモンと肩を並べて歩く事になろうとは。サキは改めて傍を飛ぶペラップというポケモンを観察する。足にはポケナビが巻かれており、非合法のものなのはつけられた機器から明らかだった。先ほどまでペラップはそれで声を変えていたのだろう。
「ポケナビはあくまで通信用だよ。声自体は、こうして変える」
そう言ったFの言葉の後半から急に女性のトーンになった。どうやらペラップというポケモンの能力らしい。
「人の心の中を読むのも能力か?」
参ったな、とFは翼をはためかせる。
「こうも疑われては」
「喋るポケモン自体が前代未聞だ。それにポケモンにはエスパーとか言うタイプもあると聞く。そういうのは他人の心を読むのだろう」
「意外だな、ヒグチ・サキ警部。ポケモンの知識には疎いようだ。エスパータイプには、確かに大多数の思い込み通り、他人の心を読む者もいるが、それは極めて少数だよ。例えば、だ。戦いの只中で相手の心を悠長に読めると思うか? 相手だって常に動いている。その場合、読むのは心ではなく――」
「相手の予備動作。次の行動に移るまでの癖や肉体の反射による逃れようのない動き」
サキの言葉に、「正解」とFは満足そうに返す。鼻を鳴らして、「ポケモン如きに褒められるのは癪だな」と言った。
「如きとは失礼だが、あんたの認識では随分とポケモンは下位のようだ。それでもポケモン群生学の権威、ヒグチ博士の娘かね?」
「父と私は関係がない。勝手に関連付けるな」
取り付く島もないサキの言葉にFは、「そこまで強情だと逆に尊敬さえするよ」と口にした。
「ポケモンに畏敬の念は抱かないのか?」
「ないな。私は元々、そういうのには疎い。手持ちも持たないのはそのせいだ」
遠く、シンオウではポケモンが世界を創ったとさえされているがそれも定かではないと感じている。天地創造をポケモンに任せていたのでは、人間の神は随分と暇だろう。
「事前の調査である程度の人格は分かっていたが、ここまで頑なだとは。組織の構成表を練り直す必要があるな」
「その組織とやら」
サキは立ち止まる。Fがはばたいて滞空している。
「聞かせてもらう。どこまで彼の事を知っているのか?」
鋭い質問にたじろいだようにFは声を詰まらせた。
「……これまた意外なのは、あんたは相手が喋るポケモンであろうが何であろうが、聞き出せると知っているのならばそれを聞き出す。喋ったとかいう驚きは微塵にもない」
「研究は机の上でやるものだ。しかし私は刑事。捜査は机の上だけでやるものではない」
サキの信念に、「ほとほと感服したよ」とペラップは頭を振った。
「そこまで情熱的な刑事魂を持っているとはね。だが、先にも述べた通り私とて末端だ。情報はあまり期待しないでくれ」
「彼は何だ?」
切り込んでくる質問にFは、「ツワブキ・ダイゴだ」と答える。
「それ以外の答えがお望みか?」
「当たり前だろう。その名前は、リョウが勝手につけた過ぎない。彼の本名と経歴を教えろ」
全く臆する様子のないサキの声音にFは、「そうだな」と思案の間を置いた。
「ツワブキ・ダイゴ、という答えが不服ならばこう答えようか。彼の人格はツワブキ・ダイゴをベースにしたものだが、今はそうであってそうでもない、と」
「謎かけは嫌いだが」
サキが再び銃のグリップに手をかける。Fは、「謎かけのつもりはないよ」と否定する。
「これは事実のみだ。彼、現状ツワブキ・ダイゴは、自分の正体に微塵にも気づいていないだろう。ひょっとしたら、自分がただの人間ではない事ぐらいは、分かっているかもしれないが」
「どうして彼は抹殺されねばならない?」
「今しがた言ったろう? ただの人間ではないからだよ」
「何だって言うんだ。公安のデータベースが直接判断を下す存在。それに、情報は穴だらけで追えば追うほど不可思議な闇に落ちていく。どこまでが真実で、どこからが虚飾だ?」
サキは前髪をかき上げて本音を吐露していた。自分が追っているどの事象が本物なのか、どれが嘘なのか。その判断をつけねば間違う。その予感だけはある。Fは、「歩きながら話そう」と改めて進み始める。サキはその後に追従した。
「初代ツワブキ・ダイゴが、稀代の偉人であった事は、既に知っているな?」
「リョウの爺さんだろう? 話で聞いた事ぐらいは。ホウエンの人間ならば知らない人間はいないだろう」
誰でも習う事だ。ホウエンで最も偉いのはデボンを栄えさせたツワブキ・ダイゴだと。実際、玉座に立った人間だ。ホウエンの人間はそれを誉れとしている。
「その初代が死んだのは二十三年前。ちょうどあんたが生まれたかそうでないくらいか」
サキとて初代ツワブキ・ダイゴの顔は見た事がない。公の資料には初代の顔写真は恐れ多いという理由で出回っていない。
「その時代を生きていないからな。私も、初代の事は話くらいでしか知らない」
「まぁ生きていても高齢だ。若かりし頃の面影はなかっただろう。その初代と、彼、ツワブキ・ダイゴが全くの無関係でないとしたら?」
Fの言葉にサキは眉根を寄せる。
「陰謀論か? 流行らないぞ」
「そうかもしれない。だがそうでないかもしれないのは既に感じている事だろう?」
鳥ポケモン風情が彼の抹殺か保護かに関わっている事実から鑑みても彼を取り巻く環境が異常だとしか言いようがない。一体、彼は何者なのか。
「いくつかキーワードはもらっている。メモリークローン、D015、初代ツワブキ・ダイゴ。私の推理では、初代と関係があると感じているが、それだけではなさそうだ」
まだ彼の血液がポケモンとそっくりそのまま入れ換えられたものだという事実は口にしていない。これを相手は知っているのか。サキの探りを入れる声音にFは、「ふむ」と一呼吸置いた。
「どうやらそれなりに疑ってかかっているようだ。メモリークローンというキーワードをあんたはどう分析する?」
試されているのか。サキは独自の解釈を口にする。
「名前からして、記憶に関係しているとは思っているが、何分突飛な話だ。彼が記憶喪失な事とは無関係ではないだろうが、その記憶を呼び覚ます鍵だろうな」
あえて本筋とは離れた持論を展開する。これは相手から情報を引き出すためだ。間違っているとも、正解だともどちらでもいい。相手の情報力を逆に試してやる。サキの心意気を読んだのか、「一部分では正しい」とFは返答した。否定も肯定もしない辺り、容易に情報は引き出せそうにない。
「記憶喪失の彼、ツワブキ・ダイゴが何故記憶を奪われなければならなかったのか。彼がこの事件に関わっているとしてではどういう風に? まだ分からない事のほうが多いだろう」
どうやらFはそう易々と情報提供する腹積もりではないらしい。サキがどこまで推理出来る人間か、一つずつ解き明かしている。どうやら自分のカードを少しばかりは提示する必要がありそうだ。サキは、「彼の血液を調べた」と口を開いた。
「ほう、それで?」
「人間の血液とポケモンの血液が混じっていた。本来ならばこれはあり得ないらしい。彼の保持するダンバルもそうだ。人間の血が混じっている。誰かが故意に血を入れ換えでもしない限り起こり得ない事象だ」
つまり第三者が関係している。彼の記憶喪失は仕組まれたものだ、という推論。Fは、「血液に着目したのはいい」と応じる。
「だが、まだ不充分だな。もっと深く、遺伝子にまで遡るべきだった」
「遺伝子?」
ここで初めて不確定要素が顔を出した。遺伝子組成、そういえば自分が持っていた彼の遺伝子サンプルと初代の遺伝子は九割以上の確率で一致していた。その事も話すべきか、と感じたが黙っておく。
「彼の遺伝子には重大な秘密が隠されている。それこそが抹殺要因なのだから」
「D015……、彼の肩口に刻まれているナンバリングだ。何の意味がある?」
リョウはこの文字列からダイゴの名前を導き出した。だが元からツワブキ・ダイゴの名前が与えられるべくして与えられたのだとしたら。Dとは何か。015とは何か。
「あんたが言いたいのはこうだろう? ツワブキ・ダイゴは初代とどういう関わりがあるのか? それを教えろ、と」
「知っているのならばな」
Fは、「初代を再生させる事、それに意味がある」と返す。サキが疑問符を浮かべいるとFは止まり木に鉤爪を引っ掛けて止まる。
「遺伝子サンプルはまだ手にあるのだろう?」
サキは厳重に保管している彼の遺伝子サンプルを思い出す。
「いい事を教えよう。ホウエンでの遺伝子研究での権威、プラターヌ博士、という人物がいる」
プラターヌ、という名前は初耳だった。サキの思案を他所に、「その人物に会うといい」とFは告げた。
「あんたの知りたい真実に一歩近づけるだろう」
「お前は、教えないのか?」
Fは頭を振り、「これでも自由の利かない身でね」と応ずる。
「ただ一つだけ言っておくのならば、抹殺派の動きは速い。あんたにこれを教えたと知れば向こうも必死だ。右腕を奪った時のようにあんたの目の前で、というわけではないかもしれない」
右腕の事を知っている。サキは問い詰めた。
「どこまで知っているんだ?」
「少なくともあんたよりかは、ね」
Fが飛び立つ。サキが声を張り上げる。
「逃げるのか!」
「馬鹿言うんじゃない。今教えられる事は全て教えた。今日はもう撤退させてもらうよ。本当ならばポケモンである事さえも知られるわけにはいかなかったのだが、それを知ったのはあんたの実力だ。素直に褒め称えよう」
サキが舌打ち混じりに銃を取り出す。だが既にペラップは夜の闇に紛れており正確な狙いをつけるのは困難だった。何よりもこれは対人用の拳銃、ポケモン用には出来ていない。
「遺伝子の権威、プラターヌ博士……」
また道が示された。サキはその名前を心に留めて拳銃をホルスターに仕舞った。