第十五話「ツワブキ家の人々」
迎えが寄越され、ダイゴはヒグチ家を後にする事になった。運転手はヒグチ家の家政婦なのだと言う。ハンドルを握る女性がサキではない事に、ダイゴはしこりのようなものを覚えた。
「あの、これからツワブキ家なんですよね」
後部座席で傍らに座るリョウに尋ねる。リョウは、「そうだ」と応じた。
「うまくやっていけるのか、不安か?」
「ええ、少し」
ヒグチ家のような出迎えがあるのだろうか。だがヒグチ家は特殊のような気がしていた。リョウは見透かしたように、「ヒグチ家は楽しかったろう?」と聞いてきた。
「いや、そんな」
「隠さなくたっていい。オレもヒグチ博士は好きだし、あの家に流れる独特のムードは大好きだ。だが、お前はツワブキ家の様式を知って欲しい。知った上で、慣れて欲しいんだ。ツワブキ家に」
リョウの言葉には押し付けがましいものはなかったが、それでも圧迫感はあった。どうしてツワブキ家に自分は引き取られるのだろう。
「あの、俺って何でツワブキ・ダイゴなんですか?」
「いきなり難しい質問をするな、お前は」
リョウが朗らかに笑む。ダイゴは悪い質問をしてしまったのか反省した。
「あ、俺、失礼な事を……」
「いいさ。これから家族になるんだ。気になるところではあるだろう。そうだな、言うなればお前に興味があるから、それに尽きる」
答えになっていない、と感じながらもダイゴはそれ以上の追及をよしておいた。「そろそろです」とハンドルを握る家政婦が口にする。
「ツワブキ家は昨日も見てもらった通りこの一角でね。年代は四十年前に遡り、初代ツワブキ・ダイゴが興した企業が始めとされている。デボンの名はその時から有名になった」
「俺と、同じ名前ですか?」
初代ツワブキ・ダイゴの名前に反応する。リョウは、「まぁね」と答えた。
「不思議な縁だろう?」
不思議、というよりも奇妙だ。どうして縁もゆかりもない自分にそのような大人物と同じ名前がつけられたのか。
「ツワブキ・ダイゴは四十年前にあった第一回ポケモンリーグにおいて玉座に輝いた。防衛成績は二度。まぁ、張りぼての王と揶揄される事もあるが、その縁でカントーやその他の地域にポケモン産業の独占を約束している。今や、シェアは九割を超え、全世界でデボンの商品が使われているんだ」
「そんなにすごい家に、俺みたいなのが……」
濁すと、「いいんだよ」とリョウは肩を叩いた。
「言ったろ? 興味があるって」
それだけだろうか。それだけの理由で、自分のような正体不明の人間を家族として迎え入れられるものだろうか。ダイゴの疑問を他所に車は敷地内へと入っていく。停車すると、「我がツワブキ家は社会奉仕の信念を持っている」とリョウが口火を切った。
「だからお前のような危うい綱渡りの人間を見逃せないんだ。この社会に奉仕するためにね。ツワブキ家はあるべきだと思うし、これからも存続するべきだろう」
ダイゴが降りると運転席にいた家政婦が服飾を用意していた。ツワブキ家に入るなり、それを手渡される。クリーニングの行き届いた服に、「これは?」と尋ねる。
「お前がツワブキ家の一員となる、ある意味では儀礼、というかいつまでもそんな粗末な服で出歩かせるのはオレとしてもあまりおススメ出来ない」
リョウが自分を指差す。留置所で支給された服のままだった。これでは確かに街は歩けないだろう。リョウに案内されてまずは脱衣所へと向かう。
「他の家族の方に挨拶しないでいいんですか?」
「ああ、うちの家族はそれを着たお前に会いたいんだ。だからまずは着替えだな。そっちの服は処分しておくから」
ダイゴは脱衣所に通される。バスルームがあるがまるで公衆浴場のような大きさだった。脱衣所も温泉宿のように趣がある。
「着替えたら連絡してくれ」
リョウの声にダイゴは服を脱ぎ始めた。留置所の服で慣れていたので袖を通す服は新鮮である。ネクタイまであり、やはりそれなりの上流階級の家ではこれが普通なのだろうか、と考える。赤いネクタイを締め、黒いジャケットに身を包んだ。ほとんどスーツ姿と言っても差支えがない。だがダイゴには特に窮屈には思えなかった。着込んでから、「どうぞ」と声にする。リョウが入ってきて、「似合うじゃないか」と感嘆の声を漏らした。
「やっぱりな。お前にはそういうフォーマルな服が似合うと思っていたんだよ」
リョウの声にダイゴは困惑の間を開ける。素人目に見ても高級なスーツである。リョウに連れられ、ダイゴは最初に訪れた時に目にした巨岩のあるリビングへと向かった。八人掛けのテーブルがあり、吹き抜け構造でガラスからは天然の光が透過してくる。巨岩は特別設えられた台座の上にあり、ダイゴの視線はそれに注がれていた。
「初代が石好きでね。その道楽の石が様々なところに置かれている」
リョウの説明にダイゴが視線を投じると壁に石が埋め込まれているのを発見した。ロッククライミングのように配置された石だがそれぞれの近くにはネームプレートがあり名前が彫り込まれていた。
「リョウ。帰ってきていたのか」
その声に視線を向ける。恰幅のいい中年男性が階段からちょうど降りてきたところだった。リョウは、「さっき連絡したろう、親父」と言う。どうやら父親らしい。
「ダイゴ。この人がツワブキ家現当主であり、デボンの社長であるツワブキ・イッシンだ」
リョウの紹介にダイゴは改めて自己紹介する。
「はじめまして。あの、ダイゴです」
「息子がつけたんだってね。やれやれ、孫を見せてくれる前に君のような好青年に名前をつけるとは、息子も変わっていて申し訳ない」
イッシンは人のよさそうな笑顔でダイゴに歩み寄り手を差し出す。握手を交わし、「こちらこそ、あの」とダイゴは口ごもる。
「立派な名前をもらってしまって……」
「いや、いいんだよ。わたしが受け取るのを拒否した名前だし、どうせ宙に浮くのならば君のような若い者に使ってもらったほうがいい」
イッシンが快活に笑う。リョウが、「コノハさん、ダイゴの服は?」と尋ねる。コノハ、と呼ばれた家政婦は、「処分しておきます」と答えた。紫がちの虹彩で瞳が大きく、特徴的である。服装はメイド服であった。
「しかし記憶がないとは、難儀だね」
イッシンの言葉にダイゴはリョウへと視線を向ける。リョウは、「それだけだよ」と答えた。
「前後の記憶がないだけだ。なに、すぐに思い出すだろう」
リョウがどう説明したのかは知らないが、記憶がない事をツワブキ家では公表されているらしい。ヒグチ家では隠されていただけに意外だった。
「おい、クオン。またやっているのか」
リョウが声をかけると、リビングでくつろいでいた少女が目に入る。少女はトランプをめくって神経衰弱をしているようだった。
「こいつは妹のツワブキ・クオン。ご覧の通り、一人遊びが好きでね」
リョウの紹介にクオンと呼ばれた少女が顔を上げる。小柄でウェーブのかかった紅い髪をしていた。「らら?」とダイゴを見やる。
「あなたはだぁれ?」
「ダイゴだよ。新しく家族が増えると言っただろう」
リョウの声に、「兄様。聞いてないわ」とクオンが答えた。リョウがため息をつく。
「やれやれ。この調子でね。マイペースな奴だよ」
肩を竦めるリョウに、「はぁ」とダイゴは生返事を寄越す。当のクオンはもう神経衰弱の一人遊びに興じていた。
「あれ、リョウじゃん。今日は休み? 平日でしょ」
二階から声をかけてきたのはポニーテールに髪を纏めた女性である。寝巻き姿でリョウが見咎めた。
「姉貴、まだそんな格好で……。オレは一応公務なんだよ」
「仕方ないでしょう。昨日も徹夜で動画編集していたんだから」
降りてくる気配のない女性をリョウは紹介する。
「長女のツワブキ・レイカ。ミュージッククリップとかそういう動画編集? の仕事をしている」
「クリエイターって紹介してよ」
レイカの声に、「うっせぇな」とリョウが呟く。
「で? 誰だっけ?」
「ダイゴだよ。昨日説明したろ?」
「覚えてないって。帰ってきたの遅かったし」
レイカは部屋へと取って返した。リョウもイッシンも引き止める様子はない。
「……まぁ、あれはあれで忙しい身分らしいからな」
「リョウ、せっかくだし記念写真を撮らないか?」
イッシンの提案に、「いいな」とリョウも同調する。ダイゴは戸惑っていたがリョウに腕を引っ張られた。
「来いよ。みんなで家族の記念を撮ろう」
一人遊びのクオンを引っ張り、コノハを呼びつけた。コノハは最初、躊躇していたがリョウの呼びかけに応じて輪に入る。
「姉貴も来いって!」
二階からとりあえず薄着を突っかけたレイカが降りてきた。イッシンがカメラを用意してスタンドを装着する。
「よーし、撮るぞー」
ダイゴはクオンの隣、リョウの提案で中央だった。
「あの、俺、真ん中なんですけれど……」
「いいんだよ、お前の祝いなんだから」
イッシンがタイマーをセットする。ダイゴはとりあえず笑顔を取り繕おうとしたが、その時レイカが見渡した。
「あれ、兄さんいないじゃん」
「なに?」
イッシンが手を止める。
「コウヤはいないのか?」
「先ほどお出かけになられました」
コノハの言葉にイッシンはカメラのタイマーを切った。
「じゃあ撮影は中止だな。長男がいないんじゃ」
リョウも、「仕方がないよな」と口にする。ツワブキ家の人々はそれぞれの位置に戻った。ダイゴだけが取り残されたように立ち尽くす。
「親父、ダイゴに部屋をみせてやっていいか?」
その提案に、「いいぞ」とイッシンが応じる。二階に上がる階段を上りながら、ダイゴは尋ねた。
「コウヤさん、ってのは……」
「ああ、うちの長男。オレは次男なんだ。まぁ、だから警察になれたんだけれどな」
「という事は、跡継ぎですか?」
「そうなるかな。兄貴がいないんじゃ、確かに格好つかないし」
紹介されたのは連なっている部屋のうちの一つだった。ベッドと机があり、窓からはきちんと光が差し込む。生活に最低限必要なものは全て揃っていた。
「ここが部屋、ですか」
「元々は兄貴の部屋なんだが、兄貴が新しく部屋を作っちまってね。もう誰も使っていないから気兼ねなく使うといい」
リョウの言葉にダイゴは首肯する。その肩をリョウが呼び止めた。
「なぁ、ダイゴ。一応言っておくけれどな。何でもかんでもタダってものはないんだ。どのようなものであれ、生じるものは金だ。それを誰が払うのか分かっているか?」
ダイゴは一通り思案して、「ツワブキ家の方々ですよね……」と声にする。リョウは頷き、「だからこそだ」と言葉を続けた。
「ツワブキ家、オレ達家族の言う事は絶対だ。断らないでもらいたい」
リョウの言葉は自然と強制力があった。ダイゴは、「返事は?」と促されて、「……はい」と答える。
「ではまず一つだ」とリョウは奥まった部屋を指差す。廊下の突き当たりにある他の扉とは装飾の違うものだった。
「基本的にツワブキ家は出入り自由、どこでも自由に使っていいが、あの部屋だけは入るなよ。それは厳しく禁じられているんだ」
「はぁ」と生返事を寄越す。それが気に入らなかったのかリョウは念を押した。
「入るな、と言葉で言っただけでも無駄かもしれないが、これはオレとの約束だ。家族との約束を違える奴は最悪だって事ぐらいは分かるよな?」
ダイゴはリョウの言葉の凄味に覚えず首肯する。
「分かったのならばいい」
リョウは今しがたの声音が嘘のように微笑んでダイゴの背中を叩いた。ダイゴは視界の中に禁じられた扉を見つつも出来るだけ気にしないようにした。
「それで早速なんだがな」とリョウは手招きする。二階から吹き抜けの下階を見やった。リョウが指差したのはリビングで神経衰弱を一人でするクオンだ。
「クオンは今年十七歳だが、まぁ有り体に言ってしまえば不登校、という奴でね。成績も悪くないし素行も決して悪くないんだが、どうしてだか学校に通おうとしない。いきなりで悪いんだが、ダイゴ、お前にはクオンの世話をお願いしたい」
「世話、ですか」
「難しく考えなくっていいさ。遊び相手、程度でいいよ」
だがツワブキ家の末娘の相手にこのような正体不明の人物を選んでいいのだろうか。その不安を読み取ったように、「お前なら大丈夫さ」とリョウは肩に手を置いた。
「頼りにしている」
リョウが歩み出す。その背中へと、「どこへ」と問いかける。
「一応、職場にな。届け出ぐらいはしないと。ダイゴ、お前の必要書類はオレが全部揃える。その辺りは万全だから心配するな」
リョウの言葉に返す前に、彼は出て行ってしまった。ダイゴは部屋とリビングを交互に見やってから階段を降りる事にする。クオンが神経衰弱をずっと楽しんでいる。だが笑顔がないせいで本当に楽しいのかは分からない。
「あの……」
ダイゴが口を開くとクオンは、「らら?」と顔を上げた。紅い前髪が額にかかる。
「あなたは、兄様の紹介にあった」
「ツワブキ・ダイゴ、という名前をもらったんです」
その言葉にクオンは手を合わせた。
「ああ、ダイゴの名前。そういえば兄様はそのような事を言っていらっしゃったわ。新しい家族だって」
先ほどは聞いていないと言っていたのに、クオンの胸中は読めない。マコの分かりやすさが今さらにありがたく思えてくる。
「その、俺が君の世話係をしろって、そのリョウさんが」
「世話係? 何をするの?」
そう問われればダイゴとて分からない。だが不明確なりに答える必要があるだろう。
「多分、遊び相手とか」
ダイゴがトランプを見やる。クオンはトランプを次々と捲った。すると驚くべき事に全て的中しているのである。ダイゴは素直に感嘆する。
「すごいですね。全部、当たっている」
「神経衰弱は得意なの」
「神経衰弱に得手不得手があるんですか?」
運だとばかり思っていたのだが。クオンはダイゴの質問にも丁寧に答える。
「トランプの枚数とそれが並ぶパターンを捉えればそう難しくない。必要なのは見極める心。本質を見極める事にこそ、人間の純粋な強さがある」
クオンの言葉には重みがあった。たかが神経衰弱に哲学を持ち出せるほどやり込んでいるのだろうか。ダイゴが尋ねようとすると、「兄様は」とクオンが先に口を開いた。
「多分、あたしの事が心配なのね。学校に行かない、って聞いたのでしょう」
ダイゴは一瞬だけ返事に窮したが隠し立てする事でもあるまいと答えた。
「はい。どうして行かないんですか?」
「つまらないから」
至極当然のように紡がれた言葉にダイゴは辟易する。
「つまらないって……」
「誰も、あたしのパターンから抜け出せていない。予想外の動きをする人間が誰一人いない環境ってつまらないと思わない?」
「でも、そんなのは家族だって同じじゃ……」
「ツワブキ家はそうじゃないわ。みんな、あたしの想像よりも高く跳んでみせる。それが出来る人達ばかりだから、あたしは家にいる」
ダイゴはクオンの言葉の意味が捉えられなかった。どこか掴みどころのない話に思える。
「えっと、つまり、家族よりも優れた人達がいないって事?」
「簡単に言えばそう。ツワブキ家の人々を超える人達がいない」
「でもそれって、ツワブキ家がその、上流階級だから」
ダイゴの言葉に、「関係がないわ」とクオンは首を振る。
「どのような生まれであれ。あたしが言いたいのは、人として、本質を見極められもしない人々が押し込められている学校という環境に問題があると感じている」
「本質……」
クオンがトランプを捲る。全てのトランプが開き、クオンは纏めてシャッフルした。
「物事の本質を見極められない、という事は生きていてもそれは真実を見ていない、という事。たとえ答えが示されていてもそれを理解出来ない、分からないで済ませてしまう。あたしは人生を浪費していくつもりはない。人生は、もっと豊かなものであるはずでしょう?」
クオンの言葉には一理ある。だが、そうだからと言って学校の人々を全否定するのはどうだろう。
「俺は、もう少し認めてもいいと思いますけれど。そりゃ、クオンさんがどのような境遇だったのかは分からないですし、俺に言える事なんて――」
そこで言葉が途切れた。クオンはダイゴの唇に指先を当てていた。戸惑いを他所にクオンが告げる。
「敬語は不要。それにダイゴ。あなたはあたしの遊び相手になれと言われてきた。だったのならば、遊んで欲しいの」
その時、ピンク色の光を放つ何かがクオンの背後から現れた。まるで姫君のような豪奢な姿が視界を流れていく。瞬時に消え失せたが、今のは、とダイゴが視線を巡らせようとするとクオンがトランプを取り落とした。そちらへと目を向ける。クオンが涙目でトランプを拾い集めていた。
「何を……、どうしたんですか……」
今の物体が何かをしたのだろうか。ダイゴが怪訝そうに見守っているとクオンは涙を拭いて、「あのね」と口にした。
「あたしは敬語が不要だと言ったはず。だから、あなたは今、ルールを犯した」
何の事を言っているのだろう。ダイゴが困惑していると眼前に降り立ってきた影があった。ピンク色のダイヤを頭部に据えた存在だった。姫君のように清楚な白い表皮とスカートの下には岩の身体があり、浮遊している。ダイゴがそれに目を奪われていた。
「何だ、これは……」
「らら。ダイゴ、あたしは敬語が不要だというルールを設け、あなたはそれに逆らった」
「何の事を――」
遮ったのは目の前の存在が両手を伸ばして首を引っ掴んできたからだ。徐々に絞め付けられ呼吸が苦しくなってくる。
「このような事は、もうないわよね?」
確認の声に、「だから何を」と声にしようとする。クオンは短く、「答えて」と要求した。
「あたしに従うか、それとも逆らうのか」
ダイゴにはわけが分からない。だがこの状況、逆らえば命が危ういだろう。ダイゴは首肯する。
「従、う……」
「分かったわ」
クオンの声に目の前の存在から力が抜け、舞い遊ぶように浮遊する。ダイゴは咽込みながら、「それは……」と視線を向けた。
「あたしのポケモン、ディアンシー。DI、AN、CIE。世界一美しいポケモンと言われている」
「ポケモン。君は、ポケモントレーナー?」
「そう。あなたも持っているのね、ポケモンを。でも今はどうしてだかモンスターボールがないようだけれど」
クオンの声にダイゴは問い詰めた。
「何なんだ、君は。どうして俺を殺そうとした?」
「殺す? それはとんだ認識違い」
ダイゴが戸惑う。今の行動は殺害衝動でなければ何なのか。クオンは息をついて、「今のはルールが犯されたから」と説明した。
「ルール?」
「そう。あたしが決めた本質を見極める人間かどうかを確かめるルール。あなたがもし、物事の本質を見極められないのならば生きていたところで仕方がないでしょう?」
その言葉に怖気が走る。それだけで、今、自分は殺されかけたのか。唾を飲み下すと、「ルールは単純明快」とクオンが告げた。
「本質さえ分かればいい。そうでなければここで潰える」
ディアンシーと呼ばれたポケモンが両手を突き出す。ダイゴは咄嗟に腰のホルスターに手をやろうとしてダンバルがいない事に気づいた。抵抗すら出来ない。クオンは舞い遊ぶように口にする。
「らら。ディアンシー、ダイヤストーム」
直後、ディアンシーの両手から宝玉の群れが放出され、ダイゴの視界を覆い尽した。