INSANIA











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あとがき
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 拙作『INSANIA』を読んでくださり、ありがとうございます。
 ヘキササーガ第五部となるこの作品がどうして始まり、そして終わったのか。それを紐解きつつ、こうして不時着できた事への喜びを伝えようと思います。
 そもそも前作『NEMESIS』でやった事がかなり大きかった、というのがありました。オーキド博士の若者時代の第一回ポケモンリーグと言っていたのに、実のところ蓋を開けてみれば別の次元での「オーキド・ユキナリ」の物語であり、なおかつゲームの原作世界とは少し違う話(第三部NOAHで何が起こったのかを知っている方には説明は不要ですがとりあえず説明するとして別次元の話)になってしまったのでそこから先に膨らませようがないのではないか。つまり行き詰ったのではないか、と感じていましたが別段、そんな事はありませんでした。
 別の次元の別のチャンピオンが決まった後の話なら、その後の時代を書けるのではないだろうか。その考えで「では破滅を免れた四十年後、王の血族はどうなっているのか? そもそも人類はどういう形で存続し、ポケモンと共存しているのか?」という命題を掲げた時、ホウエンの地での今回の物語が始まりを告げました。
 ホウエンは今まで取り扱ってこなかったのですがちょうどオメガルビー、アルファサファイアとRSEリメイクが出たタイミングでしたのでちょうどよく、カナズミシティがリメイクされてどうなったのかを確認しながらの執筆となりました。
 しかし意外に分かった事は少なく、ツワブキ家に関する事も公式はあまり言及してきませんでした。
 ならば好き勝手出来るじゃないか、と私はかねてよりやってみたかった「サイコサスペンス」のジャンルに着手しました。
 主人公は記憶喪失の青年、仮称ツワブキ・ダイゴ。肩口に奇妙な刻印「D015」を持っており、記憶がないにもかかわらず初代ツワブキ・ダイゴに瓜二つ……。しかもその背後には巨悪の影が蠢いていて……、と以前の第四部が戦闘パート重視だったので今回は動きのない話になりました。
 動きがない、と言っても戦闘は存在するのでそれなりに楽しめましたが今回、割と大変だったのが「動かないシーン」です。つまり推理シーン。サキがダイゴの正体を少しずつ突き詰めてゆくのは自分でもなかなか困りました。こういうのは読んだ事はあっても書いた事はなかったのです。思いのほか困ったのは途中辺りで、「ダイゴの秘密を知っているのは、こいつとこいつと、あとこいつだったっけ?」と混乱してきました。作者が混乱すれば登場人物も混乱してくるのでとりあえず今分かっている事をわざわざ登場人物の口から言わせる、という駄目っぷり……。とにかく完結したからよかったようなものの、完結しない可能性もありました。
 一番の貢献者は実のところヒグチ・マコとディズィーさんで、この人達は割と動かせたのは、中枢から遠かったからですかね。
 特にディズィーさんは何を知っていてもおかしくないのと、何を推理していても大丈夫なキャラとして成立させました。
 途中にクオンとディズィーの会話するシーンが長ったらしかったのは私が整理する必要があったので、わざと長回しの台詞と動きのないシーンにしました。
 それもこれも、その次の章で待ち受けているデボン突入戦への布石……と書くとカッコイイのですが、実はデボン突入を誰が、どうやって、どこまで、やるのかを全く考えていなかったので(私は大抵考えずに動かすのでその癖が悪く出た形になりました)、とりあえずダイゴに社長室に向かわせておいて例のあの人が出てくるのは、全くのイレギュラーでした。
 例のあの人……今回のキーパーソンであり、前作『NEMESIS』では超ヘタレに負け戦をやってしまった初代ツワブキ・ダイゴ。
 まさかの無限の手数を持つキャラクターになったのはびっくりしました。
 ギリギリに考えついた「預かりシステムに直結する義手義足」がまさかここまで膨れ上がるとは、正直思っていなかったのです。
 後半はちょっとばかし読みやすくなったのでは、と思います。
 というのも、私自身の考え方、書き方にちょっとしたパラダイムシフトが入ったのと、後半はとりあえず巨悪の象徴として初代が出たので分かりやすさに拍車がかかったのではないかと。
 その分、前半の読みにくさが際立ちましたけれどね……。まぁ、これも私の修行不足という事で。
 初代ツワブキ・ダイゴがここまで強キャラになったのはさすがにやり過ぎたか、と思いましたが結構大人数と戦わせたのでいいバランスになったのかもとも思います。
 最後にこの作品で最も被害を被ったキャラクター、ツワブキ・ダイゴ。
 彼は最初こそ記憶喪失のキャラクターとして何も考えず作りましたが、結局のところ第五部そのものが彼の苦悩の物語でした。
 彼は「自分の存在意義とは何なのか」、「そもそも自分は許されているのか」という疑問に板ばさみになるキャラクターで、悩みに悩み抜いての最後の結論だったのだと思います。
 本当の最後に、彼自身、この世界を愛していたのに、別れを告げなければならないのはちょっと書いていて辛かったです。
 生まれ落ちただけでも奇跡、というキャラクターは今までいなかったので今回は死した人々への黙祷よりも、彼が無事、サキの下へと帰れた事への祈りのほうが強いですね。
 人の魂はあるべき形に還れるのか、みたいなのが結局のところテーマだったような気がします。
 冒涜された人と、その存在そのものが奇跡の人。
 同じ名前を因縁として持つ二人の男が己の存在をかけて戦うのが、この第五部だったのだと思います。
 あとこぼれ話をすると、今回、前三部作で幸せになれなかった人達(サキとマコや、フランとコノハ)などが幸せになれるようにしたい、という願いがありました。一応は叶ったのでよしとしておきます。
 しかし、今回一番の収穫はディズィーというちょっと動かしやすいキャラクターではないか、と思っています。彼女のスピンオフ『ディズィーの素敵な冒険』も始まりますのでよろしくお願いします。
 さて、もう知っての通りかもしれませんが(某所ではフライングしたので)第六部が存在します。
 タイトルは『MEMORIA』。波導使いが主人公のお話となります。
 時代設定的にはこの第五部の決着がついてから二年後くらいなので最終的な結末は被らないかと。
 今度はダークヒーローなのでまた書き方がちょっと変わっていますがご容赦を。
 奇跡のような話は、奇跡のような結末を経て――。
「ツワブキ・ダイゴ」という稀人の物語は終わりました。


 2016年4月5日オンドゥル大使

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オンドゥル大使 ( 2016/04/05(火) 22:30 )