エピローグ
扉が開き、闇が世界を覆い尽そうとする。
オノノクスはそのためにあと一撃だけ振るえばよかった。主人であるユキナリの意思とキクコの遺伝子を得て、オノノクスがこの世界を飛び立つための準備は整っていた。
だが牙が振るわれるその直前に、赤い何かが視界を横切る。その瞬間、オノノクスを背中から貫いた鎖が全身の力を奪っていった。
「何だ?」
ヤナギは異様な光景を目にする。オノノクスはあと少しで扉を開くところだった。だが、それを制するように赤い光が稲妻のように走ったかと思うと、オノノクスを貫いてしまったのだ。オノノクスの身体から力が失せ、赤い翼が霧散する。開きかけていた扉が閉じていく。重い音を立てながら閉じゆく扉と月を背にして、何かが降り立ってきた。
灰色の外骨格に身を包んでいる。青い光を身に纏いつつ、それはゆっくりと、使者のように降下する。
「あれは、ヒトか? それともポケモンだって言うのか?」
チアキの困惑も無理はない。ヤナギの目にもそれは人が鎧に身を包んだ姿に見えたからだ。だが、それがヒトでない事は伴っている影を目にすれば一目瞭然だった。
「トレーナー、か?」
疑問符を含んだのはその人間も浮いていたからだ。外骨格を身に纏ったポケモンと共に降りてくる人間はオノノクスを眼下に置いた。
オノノクスは鎖が突き刺さった箇所から石化を始めている。ヤナギはそこでユキナリの姿が完全に消えている事に気づいた。
「どこへ、オーキド・ユキナリ! どこへ行った!」
その言葉に、「彼はオノノクスと同調し、一つとなった」と声が響く。その声の主は降りてくる外骨格のポケモンのトレーナーらしき青年だった。
「何を……」
「カンザキ・ヤナギ。君には理解出来ないのも無理からぬ事さ」
「俺の名を……」
ヤナギは声を詰まらせる。何故、という問いかけを含む前に青年は告げた。
「オーキド・ユキナリ君。今度こそボクが――幸せにしてあげるよ」
NEMESIS 続