第四話「ポケモンリーグ記者会見」
扉を叩く音に、カンザキは視線を振り向け、「何だ」と胡乱そうな声を向けた。
扉を引いて入ってきたのは今回のポケモンリーグ騒動の報道関係を任せている秘書だ。カンザキへと恭しく頭を下げる。秘書が敬愛しているのはカンザキだけではない。この部屋にある調度品も含めて、だ。イッシュから仕入れたシャンデリアや一流の調度品がセキエイ高原にある一室に合っている。しかし、カンザキはやはり自分の邸宅が一番だと吟味する。ジョウトにある邸宅を離れて三日。息子と妻を連れてきているものの、慣れない感覚は依然としてあった。
妻は異常事態に寝込む始末で、息子はといえば平時の落ち着きをそのままにカンザキの命令を待っている。よく出来た息子さんだと褒め称える声の一方で、まるで冷徹な機械だと蔑む声があるのも知っている。
「リーグ執行官、カンザキ様」
秘書の告げた言葉に今は「リーグ執行官」という面倒な肩書きがついているのだと自覚する。カントーが押し付けてきた役職だ。ジョウトで力のある財閥であるカンザキ財閥に今回のポケモンリーグを丸投げするつもりなのだろう。カントーの思惑は透けて見えたがそれを糾弾するにはジョウトという田舎育ちの自分には声が足りなかった。
「何だ」
再び、不機嫌そうな声を出す。秘書は、「ポケモンリーグ発表から、明けてまだ一日ですが……」と澱んだ声を発した。
「既に各報道機関はパンク状態です。リーグへの通用年齢がある意味、戦時下での赤紙と大差ない事や強制参加なのかどうかという問い合わせが殺到しています。それに、まだルールも明文化されていない状況。都市部と田園地帯との情報格差はさらに広がる一方でしょう。こんままでは全トレーナーによるポケモンリーグ開催というスタート地点から揺るがされる結果になりかねません」
「報道関係についてはお前に一任している」
カンザキは執務椅子から立ち上がった。窓から望める景色はセキエイ高原の中枢地帯、その中庭という一等地であるが中庭には奇妙な人々がたむろしていた。
七つの眼が刻まれた仮面を被っている少年少女達だ。彼ら、彼女らは何者なのか。定刻になると一回り年齢が高そうな女性が連れて行くのだがこのセキエイで何が起こっているのかを推し量るのは難しかった。
無邪気に遊び回るでもなく、中庭の噴水を背に彼ら彼女らはどことも知れぬ眼差しを注いでいる。その中の一人が自分を見たような気がしてカンザキは咄嗟に窓際から離れた。
「しかし、今回は異例尽くしです。カントーの王を決めるためにジョウトの財閥が手を貸すなど。その裏側にはカントーがジョウトの政府を丸め込もうとしているのが明け透けではありませんか」
「聞こえるぞ」
カンザキのいさめる声に秘書は口を噤んだ。実際のところ、秘書の言う事は当たらずとも遠からずだ。カントー政府が隣り合っている地方であるジョウトを丸め込もうとしているのは事実であり、外交的価値をちらつかせて軍備強化に一役買わせようというのが誰の目にも明らかである。
カントーに外交的価値は存在する。ジョウトはカントーの技術支援がなければ潰えていた国かもしれないのだ。未だに後進国に遅れを取っている面のあるジョウトをカントーが特別誘致しているのはカントーを牛耳っている重役連がジョウトの貴重な財源を確保したいがためだろう。ジョウトには文化財としての一面もあり、もしこの先カントーとの友好関係が発達したのならばカントーも恩恵に与れる事になる。加えてジョウトからしてみてもカントーを窓口として技術支援や情報などの遅れを取り戻す意味合いもある。お互いに相手の腹を探り、利用したいという意思が見え隠れしている。
「ジョウトの政府はほとんどその機能を失っている。王など絶えて久しい。ならばカントーの王に希望をつなぐのはいけないことではないだろう?」
王がいないからと言って国が亡んでいるわけではない。ジョウトは髪の毛一本の緊張感で成り立っている国家だ。政府中枢がまだ辛うじて存命しているために王という絶対的な支配が必要ない土地柄でもある。
しかし、そのような場所は往々にして犯罪組織の温床になる。ジョウトは治安の悪さが際立ち、警察機能も麻痺しているために取り締まりの強化も出来ない。このような国家の価値など財源以外の何者でもない。
「しかし、カントーの王に与するという事はジョウトがカントーの軍門に下るという事」
カンザキはフッと口元を緩めた。秘書の肩を叩き、「お前のほうが私よりも随分と政治に向いていそうだ」と口にする。「滅相もない」と秘書は半歩下がった。
今のジョウトを任されているという重責を鑑みれば、確かに滅相もない話だろう。
「傷ついた土地を慰撫するのはいつだって新しい息吹だ。私はそれを今回のポケモンリーグという制度に感じている」
カンザキの言葉に秘書はそれ以上言葉を重ねる事はなかった。
「時間だな」と時計を見やって口にする。
「記者会見だ。賑やかな席になるぞ」
そう言って部屋を出た。少しでも自分を鼓舞してやらねば折れてしまいそうだ。たとえそれが虚勢でも必要だと感じた。
会見場はセキエイ政府が用意したものだった。既に大勢の記者が詰め掛けている。カンザキは会見の席に座り、隣を秘書が座った。
会見を取り仕切る人間が、「質問のあるものはまず挙手をお願いします」と前置きする。すると早速、真ん前に座っていた記者が手を上げた。
「カントー新報のウエスギです。カンザキ執行官。今回のポケモンリーグ制度について、まず明確な説明をお願いします」
それはカントー全ての民の願いでもあるだろう。このポケモンリーグという巨大な競技に対してまだガイドラインも設置されていないのだ。不安を煽ってしまうのも無理はない。
「このポケモンリーグという競技は、それぞれの街に点在するポケモンジムのジムリーダーと戦い、勝利し、八つのバッジをより多く、より早く集めた者の勝負となります。参加者は十歳以上、三十歳未満ならば国籍、プロ、アマチュアは不問。所持ポケモン一体によるトキワシティから出発し、決められたチェックポイントを通ってルートを遵守していればどのような速度でも構わない」
「ポケモンジムとは、現在各地で展開されているトレーナーの実力格差の是正のために配置されているトレーナーズスクールの発展型と考えてもいいのでしょうか」
カントーではトレーナーの実力格差、つまりどの街の出身かで大きく実力、及び所持ポケモンに差が出てしまう事を憂慮し、ポケモンの権威によるトレーナーズスクールの開校を行っている。
「そう考えてもらって間違いはない。ジムリーダーとは、その地区において教鞭を執る事を許可された特別なトレーナーの事だ」
他の記者から手が上がった。仕切り屋が、「そこの君」と指差す。
「マサラの友のニイジマです。各ジムトレーナーの経歴を教えてもらっても結構でしょうか?」
「それは出来ない。予めそれぞれのポケモントレーナーの所持ポケモンが明らかになればアンフェアだろう。ジムリーダーでさえもそれは同じ。今回のポケモンリーグにおいてジムリーダーやジムトレーナーでさえも参加者と同じ資格を有しているものとする」
「タマムシ新聞社のヤグルマです」
そう言って立ち上がったのはしなびた服装の記者が多い中、ぴっしりと清潔な黒いスーツを着込んだ記者だった。タマムシ新聞社といえば一流企業だ。
「今回、ポケモンリーグに出資している企業名をお願いします」
「カントーからはシルフカンパニー、ホウエンからはデボンコーポレーションが主な出資者だ。他にも大小様々だが百社近くの企業がポケモンリーグへの出資を希望している」
「ありがとうございます。次に、チェックポイントについてお聞きしてもよろしいでしょうか」
「チェックポイントとは、各地に点在するポケモンジムの事です。これらを順番通りに通っていただければ、その街での過ごし方はどのようでも構いません」
秘書が与えられた情報を基に答える。
「それはつまり、あえてジムバッジを取らず、セキエイを目指すというのも可能だという事でしょうか」
「その通りだ」
カンザキは早速出るであろう質問に応じた。
「ジムバッジを取らず、通過する事は可能であるし、その場合、トキワシティからより早くセキエイに辿り着けるだろう。だが、八つのジムバッジ、ジムリーダーの洗礼を受けてきた者達が早足だけを目的とした人間に負けるとは思えない」
「ジムバッジは本当に八つだけなのでしょうか」
「どういう意味か」と秘書が問いかける。ヤグルマと名乗った記者は目ざとく質問した。
「もし、ジムバッジが複数存在しているのならば、裏口取引も可能になるのでは」
失礼な質問に違いなかったがそれは気になるところだろう。
「ジムバッジは八つ。それは予め決められている。複数の人間が跨って取る事は出来ないし、並大抵の強さではジムリーダーを下す事すら不可能だ」
「それはつまり、相当な熟練度が必要だという事ですよね?」
「質問、いいですか?」
ヤグルマ記者とのやり取りだけに業を煮やしたのか他の記者が挙手する。仕方がないのでヤグルマ記者との話は切り上げて他の記者の質問に移った。
「空を飛ぶ、テレポートなどの移動技があります。これによって移動する事が可能だとすれば、単純にトレーナーの熟練度によって左右される勝負になる」
「それはありえない。空を飛ぶ、テレポートは禁止されている。もし、それを感知した場合、即座に出場停止処分とする」
「しかし、どうやって判断するんですか」
「ホウエンのデボンコーポレーションが開発したポケモンの個体識別装置がある。それにまず参加者は個体識別し、そのポケモン独特の生命反応を取る事によって空を飛ぶやテレポートが使われていないかを判断する。ちなみにこの装置はまだ一般には流布されていない。極秘装置のためこの技術の悪用はまず不可能と考えてもらっていい」
「では常に個体識別をするので?」
「いや、それはプライバシーの観点からしてみても適切ではないだろう。個体識別装置が起動するのは空を飛ぶ、テレポートなどの長距離移動が行われた場合のみ。短距離移動ならば作動しないし探知される心配もない。安心して欲しい」
「しかし、通信可能な地方全てからの挑戦者を招き入れるという事は、カントーの玉座に別地方の人間が就いてもおかしくはないという事ですよね? これに関してセキエイ高原は意見を一致しているのでしょうか」
「セキエイ高原でもその意見は割れたが最終的に一致した。この戦いはいわばサバイバルだ。誰がなってもおかしくはない。同時に、誰が落ちてもおかしくはない」
完全な実力主義。その側面を強調すると記者達がごくりと唾を飲み下したのが感じられる。カンザキはその事を殊更強めたいわけではなかったが、誰がなってもおかしくはない、という部分に噛み付いた記者がいた。
「カンザキ執行官は、純血を守ってきたチャンピオンの座に、他地方の人間が混ざってもいいとお考えで?」
こういう面倒な手合いが仕事を増やす。カンザキはため息を漏らしそうになりながら、「そういう意味で言ったのではない」と告げた。
「ただ君達の新聞社がそう書きたいのなら好きにしたまえ。我々は一々、三面新聞のタイトルにまで気を配っている暇はないのでな」
言外にそのような質問は無粋だと込めたつもりだったが、質問した記者は憮然とした態度で座り込んだ。どうやら侮辱されたのだと感じたらしい。買わなくていい喧嘩を買ったな、とカンザキは少しばかり後悔する。それをおくびにも出さず、「他に質問は」と促した。
「総距離はカントー平野丸々一周、つまり百キロ前後を行く事になるのですがそうなってくると一周までにかかる日数はどうなりますか?」
「データはない。カントーを徒歩で計測し、現在の地図を書き上げた偉人ですら230日かかった。100日前後の旅が予想されるが今の技術は進歩している。二桁で踏破する人間がいても何ら不思議はない」
「参加費についてお尋ねします。十歳から参加可能とはいえ参加費がかかっていますよね。一人五万円。これは十歳の少年少女のトレーナーには厳し過ぎるのでは?」
「そうは思わない。ジムの建設やトレーナーを受け入れる環境作り。及び、全ての街におけるトレーナーの価値基準の統一化。さらに言えば旅先のホテルや生活に関する事。それらを我々が一任するのだ。五万円はむしろ安い、良心的な価格設定だと思うが」
この意見も槍玉に挙げられるのだろう。そう考えながらカンザキが口にしていると次の質問が飛んだ。
「ポケモンを扱う競技となれば当然、参加者間のポケモンバトルも予想されるわけですよね? そうなった場合、負傷者が現れる可能性も考慮に入れていますか?」
「当然だ。ポケモンバトルは彼らの専門分野とはいえかなりの危険が付き纏うだろう。しかしポケモンを所持している以上、ポケモンバトルを禁じる事は出来ない。先ほどの回答と被るが、五万円の参加費はこのためもある。負傷による退場、及び治療費を負担する。そのための前金だ。しかし、意図的にトレーナーを害する行為は禁止する。もし、それが目撃された場合、その参加者には重大なペナルティを、場合によっては失格処分もやむをえない」
「人殺しが起きる可能性を、黙認するわけですか」
「君達は料亭の調理場を気にするか? もしかしたら包丁で指を切っている人間がいるかもしれない、と」
カンザキのたとえに記者が閉口する。
「ポケモントレーナーにポケモンによって怪我を負うかもしれない、死ぬかもしれないというのは無粋な質問だ。そのような事は承知の上で、彼らは戦っているのだから」
その言葉にその質問は撤去された。代わりのように新たな質問が上がる。
「今回の参加表明をされたトレーナーの中で優勝候補と目されるトレーナーを教えてください」
秘書から事前に強力な参加者だと判断された紙を受け取り、「これはあくまで推測であって事実、彼らが強いというわけではない」と前置きする。
「実績や戦歴から捻出された人々だが」
「出来れば経歴も同時にお願いします」
遮って放たれた無遠慮な声に秘書が顔をしかめるがカンザキはほとんど表情を変えずに応じる。
「デボンコーポレーションの御曹司、ツワブキ・ダイゴ! 彼は一代でデボンを興した男だ。ホウエン地方の出身で鋼タイプの専門家としても名高い。数年前までは学会で存在を認められていなかった鋼タイプの研究に一役買ったとして研究機関からも優遇されている。ホウエンでの実力者がカントーに挑む、というわけだ」
ツワブキ・ダイゴの顔写真が背景に映し出される。銀色の髪に銀色の瞳の青年だった。おおっ、と記者達がざわめく。
「シンオウからは麗しき考古学者、シロナ・カンナギが挑戦! 学会が注目する美人トレーナーだ。その美しさが戦いにも通ずるのかは不明だが、彼女はシンオウの催す大会で何度も好成績を収めている」
黒い衣装を身に纏った少女の姿に記者達がシャッターを切った。
「ジョウトからは秘境の村、フスベタウンでドラゴンの秘術をその身に刻んだ凄腕のドラゴン使い、イブキが参戦だ! 彼女は弱冠十二歳にしてドラゴン使いの家系の長になる事を約束された存在。大会成績はないが今まで魔境と呼ばれていたフスベタウンからの参戦は皆が注目している」
水色の髪を一つに結っており、マントを翻させたポーズの少女に記者達が釘付けになる。
「イッシュからは赤い髪の好青年、アデクの参戦! 彼はイッシュ地方において実力のみで成り上がった原住民族の末裔! その色濃い血が今回のリーグでも勝利を誘うか、否か」
モンスターボールを構えた赤い髪の青年の威容に記者達は感嘆の吐息を漏らす。
「カントーからはシルフカンパニー社の後押しを受けたサカキという無名の新人の参戦! 彼はシルフカンパニーにおいて戦闘分野でのポケモン技術の開拓に協力したとして優遇されている。無名の新人トレーナーでありながら、戦闘に関して言えばプロをも超越する実力者だ」
涼しい瞳の少年の参戦に記者達が色めき立つ。
「優勝候補者と目される人々は以上。参加者はこれからも増える事が予想されます。ぎりぎりまで参加者は募るつもりです」
秘書の締めくくる声に一人の記者が手を挙げた。
「今回、カントーは威信をかけてこの一大事業を行うわけですよね? カントー政府の決心、その現れ、と考えてよろしいのでしょうか?」
「もし、今回のポケモンリーグが失敗すればカントーという土地の信用は失墜。このような制度を二度と催せなくなりますし、多数の参加者を招いた事による国際的混乱は避けられません。それに緊張関係にあるイッシュの参加者も受け入れるとなればなおさら……。もし失敗された場合、どうなさるおつもりですか?」
「消されるんじゃねぇの?」と記者の誰かが小さくこぼす。カンザキは真っ直ぐに記者団に視線を据えて、「失敗か」と口を開いた。
「どんな事にでも失敗と成功が付き纏う。それは人生の常だ。だが、この戦いにおいて失敗などと口にする事は参加者の戦意を削ぐ事に繋がると考えろ。失敗とは、戦わぬ者達が安全圏から見下ろす結果に過ぎない。その過程にこそ、輝き、そして価値があるのだ!」
カンザキは記者達に向けて声を放つ。
「この戦いに失敗はない! いるのは挑戦者と手強い者達だけだ! 彼らは誇りを賭けて戦うだろう! そのバイタリティこそが、この戦いの価値に他ならない!」
シャッターが焚かれカンザキの姿が撮影される。それらの光を受け止めながらカンザキの言葉は記者達に広がっていった。
「これで会見は終了とさせていただきます」
秘書の声でカンザキはようやく会見場から出ていく事が出来た。記者達はどう記事を作るのだろう。カンザキや秘書の言葉の揚げ足を取る者もいるかもしれない。全員に理解されようとは思っていなかった。
「ようやく、解放されたな。ああいう場は、私は嫌いだ」
カンザキの率直な物言いに、秘書が苦笑する。
「あのような場で緊張しないほうがどうかしています。私とて何度うろたえたか」
「答えを間違えれば厄介なところで揚げ足を取られる。まったく、偉くなったつもりもないのに、面倒事ばかり」
ぼやいたその時、進行方向に記者が歩み出てきた。秘書が前に出て、「君、質疑応答は終わっただろう」と声を発する。
「いえ、そういうのとは別の用件で」
顔を上げた記者の名前をカンザキは覚えていた。
「ヤグルマ、とか言ったか」
「覚えていただいて光栄です」
ヤグルマは帽子を取って会釈する。カンザキは厳しい声音で、「何の用だ」と口にする。
「質問ならば先ほどの場で充分だったはずだが」
「私は、質問を浴びせようというんじゃありません。ただ、カンザキ執行官と対等にお話がしたいだけです」
「帰りたまえ」と煙たがる秘書の肩を掴んで、「いや」とカンザキは歩み出た。
「用件を聞こう」
「執行官? しかし一記者相手に……」
「彼は他の記者とは違う。それはさっきの質問の内容から分かった」
カンザキの強い口調に秘書は気圧されたようだった。ヤグルマは口元に笑みを浮かべて、「少しだけお話を」と提案する。カンザキは、「応接用の私室がある。そこで話そう」と踵を返す。ヤグルマは秘書に会釈してカンザキの後をついていく。取り残された秘書は少しばかり納得がいっていない顔をしていた。