第百九十八話「友よ」
誰が幸福だったのだろう。
時折、そう考える事がある。ヤナギは建築されていくジムを眺めながら怒りの湖を散歩するのが日課になっていた。ジョウトにもジムリーダー制度が敷かれ、自分はその中でも最初のジムリーダーとして後進を支える義務がある。ポケギアを通話モードにして声を吹き込んだ。
「現時点でのジムの建設状況は?」
『三割程度です。何分、ジムの間取りや決め事なんかも曖昧でして』
雇っている大工が苦言を漏らす。ヤナギは、「急ぐ必要はないさ」と応じた。
「いいものを期待している」
その言葉に大工が、『恐縮です』と返して通話が終わった。この戦いで様々なものを失った。だが得たものもある。ヤナギは電話帳に登録している番号へとかけた。相手はどのように反応するだろう。それが少しだけ楽しみだった。以前までの自分ならば話し相手も、仲間も必要なかっただろう。だがこの旅は失うものだけではなかった。かけがえのないものを教えてくれた。
時に憎しみ合い、争ってでも確かめ合いたかったものが何なのか、今ならば少し分かる気がする。
「もしもし」