第七章 十五節「超越者」
キシベの言う完全な世界の扉を開くためにはいくつかの手順を踏む必要があるのだと言う。ヨハネは聞き出そうとしたがキシベは答えなかった。
「これはまだ君には早い」と。
ヨハネはギンガ団討伐を果たしたハンサムと合流し、再び職務に戻りつつあった。しかしその頭の中ではキシベの言葉を何度も反芻した。この世界とは何なのか。いくつかの文献資料を漁ってみたが答えらしきものは見つからなかった。
ただキシベの言っていたポケモンがこの世界を創ったわけではないという見地に至ってはヨハネの中ですとんと落ちていた。ポケモンとは何なのか。それを探すためにヨハネはタマムシ大学を訪れた。
かつての学び舎でヨハネはポケモンに関する文献資料と、恩師である教授と面会した。その中でキシベと交わしたいくつかのキーワードを散りばめて話した。
「教授。ポケモンが一種類発見される度に現行生物が一種類滅びているというのは本当ですか?」
そう切り出したヨハネを教授は怪訝そうな目で見つめた。
「根も葉もない噂だよ。そんなものを信じるようになったのかね」
教授は否定したがしかしそのような噂話は存在する事が確定した。
「オーキド博士は何故、ポケモンは一五〇種類と規定したのでしょう。何か理由があるのではないかと思ったのですが」
ヨハネの言葉に、「理由、ねぇ」と教授は虚空に視線を投げた。
「オーキド君は、当時とても焦っていてね。自分はトレーナーとして再起不能になっていくのに息子には全く才覚が遺伝しなくて。ほとほと困り果てていたのを覚えている。孫に希望を託すようになってしまう始末だ。その孫も、一度チャンピオンの座まで上り詰めたものの友人に明け渡したそうだがね。彼曰く、器ではなかったそうだが」
教授はオーキド博士よりも年長者だ。だからなのか、ヨハネの知らない事実まで話した。
「どうして一五〇種類だったのでしょう。僕にはそれが分からない」
「カントーで当時、確認されていた全てのポケモンだ。もっとも、後の研究で石による進化の可能性や環境による進化の可能性を拓かれたポケモンも多くいる。オーキド君が間違っていたわけではない。ただ単に、彼の予想よりもポケモンの可能性が勝っていただけの話だ」
「オーキド博士はバッシングを受けた当初、妙な事を口走っていたそうですね。何でもアメリカ大陸だとか」
その言葉に教授は笑い声を上げた。
「あれか。私にもてんで見当がつかない話だが、アメリカという国があって、そこが本来、イッシュのあるべき場所だったと言う。妄言だよ」
ヨハネはその部分に関して切り込んだ。
「そのアメリカに関する、記録は?」
そこで教授は目に見えて不快そうに顔をしかめた。
「ヨハネ君。君は確か国際警察だろう。いつから三流ジャーナリストになったのだね?」
ヨハネははやる気持ちを抑えて、「ちょっとした好奇心ですよ」と言った。
「犯罪者の中にそういう手合いが混じっているんです。上司もお手上げでして、僕にお鉢が回ってきました」
教授はその言葉を信じ込んだのか破顔一笑して、「そういう深みもあるのが人生だよ」と分かりきったような言葉を発した。
「ようやく君も社会を知るようになってきたというわけだ」
ヨハネは愛想笑いを浮かべて、「それで、どうでしょう?」と尋ねた。
「アメリカなんてない、とは思うんですが、何分、話が立て込んでいまして。ちょっと教授に知恵を借りたいと」
「アメリカねぇ。そういう記述を初期のポケモン図鑑で見た事がある」
来た、とヨハネは身構えた。「しかし」と教授はすぐに笑い話にしようとする。
「イッシュ建国神話がある以上、この話は意味を持たないだろう。建国神話は何百年? 何千年前だったか? 一つの地方が焦土と化しそれが立て直されるまでの時間だよ。その期間の記録はあるんだ。イッシュ地方としてのね。だというのに、オーキド君が生きて研究をしていた期間だけアメリカなどという名前になっていたという冗談はない」
「全く、その通り」とヨハネは教授の意見に同調する気配を見せながらも、アメリカという言葉がオーキド博士から漏れていたという裏が取れた事を確認する。
「どうして初期のポケモン図鑑にはバグが多かったんでしょう?」
「初めての試みだったからね」
教授は懐から現在のポケモン図鑑を取り出す。薄い葉書のような記録媒体だがその中には五〇〇種類以上のポケモンの記録がある。
「今はここまでコンパクトに出来たが、一般に出回っているのはまだ図鑑という名前が相応しい大きさだろう。カイヘン辺りでは未だに初期のポケモン図鑑の体裁を取った図鑑になっているらしい。カントーではすぐに初期ロットのポケモン図鑑は回収、プロトタイプの図鑑を新たなトレーナー候補生には持たせている」
「どうして初期の図鑑は回収されなければならなかったんですか?」
「内部機構に問題があった」
教授は最新鋭の図鑑に視線を落としながらぽつりぽつりと話す。
「当時の図鑑はまだ随分とアナクロでね。ポケモンの足跡と体重、体長と鳴き声、それに生態図鑑ナンバーの振り分けという機能を一手に背負っていたせいか、記述にはたくさんの誤りがあったんだ。我々が先入観でつけてしまった間違いもある」
「図鑑のシステムは、それだけで機能していたわけではないんでしょう?」
「ああ。定期的なバックアップとパソコンという大容量端末へのデータ移送という点で問題点を払拭しようとしていたのだが、たった一五〇体といえども当時としてはスパコン並のスペックを要求された。当然、図鑑にはバグが発生した」
「それを改善する手段はなかったのでしょうか」
教授は暫く考え込んだ後、「本当の、初期の話だが」と前置きした。
「ポケモン図鑑に特殊なチップを組み込んで高速演算を可能にした図鑑があった。その初期図鑑は、確か三つか四つ程度しか出回っていない」
「誰が、それを」
「オーキド君だよ。それに、タマムシ大学の教授連も何人か協力した。ある画期的なチップが存在したんだ。しかし、特許の関係とかかるコストの両方を鑑みて少数だけ生産され、ポケモン図鑑に組み込まれた」
「そのチップの名前は?」
教授は少しだけ息をついて調子を整えつつ、吐き出すように言った。
「ヘキサツールだ」
その名前が出た瞬間、キシベの言っていた事はデタラメでも何でもない事が判明した。ヨハネは心臓が早鐘を打つのを感じながら、「ヘキサツール、というのですか」と今まさに初めて聞いた風を装った。
「ああ。我々研究者の中の隠語でね。ヘキサ、六角形は自然界において強固な形を持ち、同時に平面充填形と呼ばれるものであり、我々は完璧を意味する技術としてそれをポケモン図鑑の内部、研究者以外が立ち入れずなおかつ高度なセキュリティを誇るブラックボックスとして組み込んだ。取り出す術があるのは当時の研究チームに関わっていた人間とオーキド君だけだろう」
当時の研究チーム。それを知る必要があった。しかし、聞き過ぎればぼろが出る。ヨハネは、「その図鑑は存在するので?」と聞くにとどめた。
「存在するらしい。何でもその中の一つは今でも誰かが持っているとか言う話だ。噂だよ。根拠のないデマだ。私だって実際に見たわけではない」
ヨハネは教授ですら実質的には研究チームの一員ではない事をそこで判断した。
「では、誰が」
「壁に耳あり障子に目ありだよ。私の口からはこれ以上は言えないな」
ヨハネはそれ以上の成果は得られない事を知って教授とは雑談を交わし去っていった。しかし、ヘキサツールと初期の図鑑に意味がある事は確実だ。ヨハネは国際警察の権限を使い、ヘキサツールについて調べたが確証は得られなかった。それどころかまるで逃げ水のようにその話題は追いかけた傍から去っていった。キシベは拘留から解かれ、既に自由の身となっていたために足取りは掴めず、無為な数年を過ごす事となる。
ヨハネは自分が生きているこの世界を懐疑した。
どうしてポケモンが存在するのか、そもそもポケモンとは何なのか。何のためにこの世界はあるのか。ハンサムと事件を追いながらヨハネはいつも考えていた。自分は何者なのだ。キシベの言っていた事はどこまでが本当なのだ、と。
そんな折である。ある情報がヨハネの耳に入った。テロリスト集団、プラズマ団にロケット団残党が合流するという情報だった。
プラズマ団はポケモン解放を唱える組織でありここ数年で着実にイッシュでの発言力を増した存在である。危険思想とも取れる頭目、ゲーチスの下には強大な下部組織があり、組織としての能力は最盛期のロケット団をも勝るだろう。それにロケット団残党が加わり、新たな脅威として屹立しようとしていた。
「何としても両組織の合流は防がねばならない」
上の意見はそれで一致した。しかし、動くのはヨハネとハンサムである。ヨハネは独自の判断を迫られていた。このままでは生まれ故郷が蹂躙される日も近い。そうなってしまえば全てがお終いだ。ハンサムはイッシュが故郷でないためか幾分か冷静だった。しかし、ヨハネからしてみればその冷静さが逆に神経を逆撫でした。
「今すぐにロケット団残党勢力を駆逐しましょう。国際警察の権限を使えば、それが出来る」
「落ち着け、ヨハネ」
ハンサムはヨハネをたしなめた。落ち着いてなどいられない。このままでは故郷に残してきた家族が、友人が被害に遭うかもしれないのだ。
「お前の気持ちは分かる。だが、組織に対して何の根拠もなくがさ入れする事は出来ない。たとえ国際警察をいえども」
ハンサムは得意の変装を生かして組織の中に入り込むのが通例だったが、今回ばかりは例外だと言った。
「プラズマ団はまだ日が浅い。新規に入ってくればすぐに顔が割れるだろう。ロケット団残党勢力も独自のコミュニティを築いているはずだ。新参者がすぐに上層部に掛け合えるとは思えない」
いつもは無鉄砲なくせにこういう時のハンサムは冷静だった。しかし、ヨハネからしてみればそれは故郷を標的に据えられていない事への余裕だった。
「警部! 僕は自分の生まれた場所を見捨てる事なんて出来ない!」
「誰も見捨てろとは言っていない。ただ落ち着けと言っているんだ。今のお前は我を忘れている。そんなメンタリティで捜査に挑むなど自殺行為だ」
ハンサムの言葉にヨハネは反発したい気分だった。何が分かると言うのだ。いつだって傍観者の立ち位置から、おいしいところだけ持っていくくせに。
「ロケット団残党勢力の移動方法も分からぬ以上、我々は手をこまねくしか出来ない」
その言葉にヨハネは歯噛みした。自分には何も出来ないのか。無力感に打ちひしがれていると端末に連絡が入った。知らない番号だったが出てみると久しぶりの声が耳朶を打った。
『やぁ。ヨハネ・シュラウド。私の事を覚えているかな?』
聞き違うはずもない。それはキシベの声だった。ヨハネはキシベへと問いかける。
「どうして、僕のポケギアの番号を……」
『国際警察は少しばかりずさんらしい。個人情報に入り込むのは難しくなかった』
そのようなはずがない。国際警察のプライバシーデータは極秘だ。拘束演算コンピュータを百台動員してようやく追いつけるレベルである。しかし、ヨハネはキシベならばその程度造作もないのではないかと同時に感じていた。
「何の用だ?」
自分が余程急いた声をしていたのだろう。キシベはそれを目ざとく察知して、『何かあったのだね』と告げる。
「機密だ。話せる事ではない」
『イッシュ地方にロケット団残党が合流しようとしているのだろう?』
見透かした声にヨハネは瞠目した。声も出せずにいると、『私の予言が君の力になれると思うのだが』と続けられた。
「予言……?」
キシベには犯罪を予期する能力がある。実証したわけではないが、自分は目の当たりにしている。ヘキサツールの事も、初期のポケモン図鑑の事も、知り得るはずのない情報だった。
『ロケット団残党勢力はイッシュへと航空機で渡航しようとしている。その番号を教えよう』
ヨハネには信じられなかった。そのような事をキシベが知っているはずはない、と判断する一方で、キシベならば知っているかもしれないと期待する自分もいた。
「そのような事を僕に教えてどうする?」
『簡単な事だよ。渡航する事が事前に分かっているのならば、航空機に細工すればいい。爆弾程度ならば君達の専門分野だろう?』
その言葉にヨハネは息を詰まらせた。キシベは自分に爆破しろと言っているのだ。「だが」とヨハネは覚えず声を潜める。
「それは犯罪だ」
『その通りだろう。だが、いいのか? このままではイッシュは食い潰される。プラズマ団がもしロケット団勢力を戦力として加えればその支配は磐石なものとなる。今しか決断は出来ないぞ。故郷を守るのか、それとも見捨てるのか』
キシベの言葉にヨハネはすがるような声音で、「でも、僕には……」と声を発した。
「そのような事、決断なんて」
『出来ないはずがない。君には世界の平和を守る義務がある。その権利も有している。ならば、動く事に何ら支障はない』
キシベの言葉は自分の心を射抜いていた。裏側にある本音の部分を。イッシュを守りたい。故郷を、好きにはさせない。
「だが、航空機には何も知らぬ一般市民が」
ヨハネの抗弁に、『正義とは』とキシベは説く。
『大多数を生き残らせるためにどれだけ少数を切り捨てられるかどうかの非情さだ。この場合、イッシュ一千万人規模の民と三十人程度の乗員。私は天秤にかけるまでもないと思うがね』
キシベの言葉は真理だ。このままではイッシュの地は紅蓮の炎に包まれるだろう。ロケット団が跳梁跋扈していたカントーを思い返す。あのような事はもう二度と起こしてはならなかった。
「だけど、上司がそれを許すはずがない」
『君の手には何がある? 制するための力くらいならば持ち合わせているだろう?』
覚えずホルスターのモンスターボールを手にする。相棒のポケモン、ヒトツキ。これを使えばハンサムのグレッグルを抹殺するくらいわけがない。
『君が救うんだ。そうしなければ世界が壊れるぞ』
キシベの言葉は最後の後押しだった。ヨハネは結果的に自分自身で最も非情な選択を選んだ。
ポケギアを切り、その夜にヨハネはハンサムを無力化するべく動いた。まさか部下に寝首を掻かれるとは思っていなかったのだろう。おっとり刀のグレッグルはヨハネのヒトツキの前に完全に無意味だった。ヒトツキは正確に、グレッグルの息の根を止めた。ハンサムは、「何故……」と問い返したが、ヨハネは、「正義のためです」と貫いた。
「邪魔立てされれば面倒だ。あなたには、僕の正義を見てもらいましょう」
ヨハネはヒトツキでハンサムを昏倒させた。その間にロケット団残党が乗るとされている航空機へと爆弾を設置。ヨハネはたった一つのスイッチで三十人あまりの乗客と同じくらい乗り合わせていたロケット団を排除した。
当然、ハンサムからの反発、起訴はあるものだと思っていたがハンサムは何も言わなかった。ただハンサムは二度と国際警察間でバディは組まなかった。ポケモンを持つ事もなくなった。
ヨハネが自責の念に捉われると思ったのだろう。自分が責め立てるよりもヨハネには相応の罰があると。しかし、ヨハネは既に現行の法律とは別の次元で行動を起こしていた。
ロケット団残党勢力が介入しようとした事件、及びテロ未遂に迅速に対処。その功績が認められ国際警察の中で昇級が見込まれた。第四セクションを作り始めたハンサムを他所に、ヨハネは着実に出世の階段を上ったのだ。やがて第一セクションの中でも類稀なる人望と信頼を得ていった。しかし、その陰には常にキシベの情報が見え隠れしていた。ヨハネはキシベの予言を下に犯罪組織を駆逐していったのだ。その一方で、カイヘンにも渡り、キシベと会った。何年か越しの顔には内に秘めた野心が窺えた。ヨハネはキシベが何のためにカイヘンなどという田舎に身を隠しているのかを問うた。すると、キシベは何でもない事のように計画を語り始めた。
後のヘキサ蜂起に繋がる情報だった。その時になって初めてヨハネはキシベがロケット団残党の中でも頭目に限りなく近い地位の人物である事を知った。通常ならばその時点で捕縛、ヘキサという組織は歴史の表舞台に現れないはずだった。しかし、ヨハネの正義の概念は既に旧知のものではなかった。
「……その計画、知っているのは?」
「君だけだ」
キシベの言葉にヨハネは満たされたのを感じた。自分だけがこの世界の深淵を覗き続けているキシベの考えを見透かせる。ヨハネはヘキサ蜂起の計画を知っていながらに無視した。いや、無視というよりは静観したといったほうが正しい。ヨハネは何もしなかった。キシベの計画に賛同したと言うよりも、それは止めるべき悪ではないと感じた。
自分が対峙すべき邪悪はもっと別のところにあるのだとキシベとの会話の中で実感した。キシベは何度か同じ言葉を繰り返した。
「この世界は間違っている」
ヨハネもそれには同意だった。この世界の歪み、それを正すためならば自分はどのような人道にもとる道も取ろう。世間一般の悪にもなろう。キシベは自らを「混沌の象徴」と表現した。ヨハネは、「君がカオスならば、僕は何だい?」と尋ねた。キシベは、「意志を継ぐものだ」と返す。
「どのような偉大な発明でも、驚嘆すべき考えでも意志が継がれなければ、誰かが感銘を受けなければ、ただの現象、ただ過ぎていくだけの事柄。君は私の言葉に共感してくれた。それだけでいいのだ」
ヨハネは表向き国際警察の仕事をこなしながら、裏ではヘキサ計画の障害になるであろう組織や個人を検挙していった。彼らを「危険思想」だと括る事によってヘキサ計画は円滑に進められた。
『明日、ヘキサの名前が世界に轟く』
キシベからの連絡を受けた時、ヨハネはイッシュにいた。生まれ故郷が被害に遭わないかだけが心配だった。
「そうか。君の役に、僕は立てたのかな」
『充分だ。カントーは、いや、カントーだけではない。この世界に生きる人々は揺籃の時を超え、ようやく目覚めの段階に入れるだろう』
ヨハネは、「失敗したらどうする?」と冗談混じりに口にした。そのような事は万に一つもないのだと思っていたがキシベは、『そうだな』と考える間を置いた。
『君にだけ、話しておこう。この計画が潰えた場合、何をすればいいのか』
キシベは語って聞かせた。ヘキサが失敗に終わった場合、次に準備すべきは「時間」だと。
ノアズアークプログラムを実行するには十年の月日が必要である。ヨハネはその言葉に小首を傾げた。
キシベの口から今までも度々、「ノアズアークプログラムが最後の砦だ」とは聞かされていたものの、それはヘキサの内部だと思ったのだ。しかし、キシベの言葉を聞く限り、どうやら独立した計画らしい。
「そのノアズアークプログラム、僕に手伝えることがあるのならば」
ヨハネの言葉にキシベは、次に必要なのは「人間」だと言った。
『ナンバーアヘッドをポケモンと接触させなければならない』
ヨハネはナンバーアヘッドとは何の事かを聞かされ、その覚醒への順序も聞かされた。
次に必要なのは「言葉」である、とキシベは続けた。「母」、「ルナ」、「太陽」と「月」、「方舟」、「終焉」の六つの言葉が能力奪還の鍵になると。最後に場所と時を告げた。金環日食の時にヘキサが横たわるであろう場所を示した。
「そんな……。ヘキサはカントーの衆愚を焼き尽くすはずだろう?」
ヘキサ壊滅を予期しているキシベの言葉が信じられなかったが、ヨハネは確信もしていた。キシベは嘘をつかない。今までの予言も全て当たってきた。
『ディルファンスとロケット団の併合もうまくいくかは分からない。私の動き次第で全てが変わるかもしれない』
ヨハネは託す言葉が何か自分の中にないかと手繰ったが何もなかった。キシベは全てを背負ってヘキサを作ると決めたのだ。何も言葉を挟めるはずがない。
「キシベ。幸運を祈っているよ」
『私もだ。君に栄光がある事を願う』
それがキシベと交わした最後の言葉になった。
ヘキサは壊滅し、シロガネ山にその跡地を横たえた。カイヘンで二年前にヘキサ再興計画を練っていた人物がいたとされるが定かではない。ヨハネはその人物を待つつもりはなかった。全て自分がやらなければならない。
使命を全うする者として。ヨハネは善も悪も超越した存在になろうとした。