第七章 十四節「偽りの世界」
キシベはロケット団が関与しているとは思えない事件すら予言した。
「ホウエン地方でマグマ団とアクア団という組織の宗教対立が起こる」、「シンオウでギンガ団と呼ばれる組織が表立って暴れ始める」。
どちらもロケット団との関与は薄いものの見事に日付単位で言い当てた。ヨハネはギンガ団の捜査に携わっているハンサムの留守中にキシベへと尋ねた。
「どうして分かるんだ?」
するとキシベは顔を上げて、「私にはね、神の視点が備わっている」と告げた。当然、ヨハネは胡乱そうに聞き返す。
「神の視点?」
「神とは何だと思う?」
唐突な質問にヨハネは面食らったが自分の中で答えを探した。
「多分、モンスターボールに入るものじゃない」
半分冗談のような言葉だったがキシベは肩を揺らして嗤った。
「なるほど。そう答えたのは私の他では君が初めてだ」
ヨハネはキシベへと質問を重ねる。「何故、予知が可能だったのか」。真面目な答えを期待したのだが、キシベは全く表情を変えずに、「そう囁くんだよ。私の中にいる神が、ね」と応じた。
「宗教観はあるか?」
キシベへの質問を決めあぐねていた時、キシベは訊いてきた。ヨハネは、「生憎、無宗教だ」と答える。
「イッシュの人間だろう。英雄伝説は信じていないのか?」
ヨハネはイッシュ地方に古くから語り継がれている理想と現実を体現した兄弟の英雄が白い龍と黒い龍を操りイッシュ建国に携わったとする伝説だ。
「僕は、英雄伝説にはあまり詳しくはない」
「だが、イッシュの人間は皆信じている。誰一人として、疑いようもなく」
「お伽噺だ」
ヨハネはその話題を取り下げようとした。しかし、キシベはさらに深く言い含める。
「おかしいと思わないか?」
その疑問に、「何が」と応じる。
「全ての地方に、どうしてポケモンと人間の伝説があるのか? ポケモンだけでも、人間だけでもこの世界は成り立っていないと言われているように感じた事はないだろうか。どちらかの不在が不均衡な世界をもたらすかのように。それが人々の深層意識に刷り込まれているような」
ヨハネは眉をひそめた。キシベの言わんとしている事が分からなかったからだ。
「どういう意味だ?」
「つまりだね、どうしてこの世界は人間だけでもポケモンだけでもないのか。コミュニティが発生した瞬間から、どうしてポケモンと人間は共存しているのか。有名な話をしよう。オーキド博士の論文だ」
ヨハネもタマムシ大学に通っていた手前、その論文の事は知っていた。
「矛盾する論文の事か?」
研究者の間で囁かれているオーキド博士の論文。ポケモン、携帯獣の権威と言われているオーキド博士が提唱した理論。「ポケモンは全部で一五〇種類である」とする論文である。しかし、すぐさまその理論は否定された。何故ならばジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロスなどの他地方の事を全く考慮に入れていない間違った論文だったからだ。
さらに、オーキド博士が糾弾を受けたのはそれだけではなく、他地方に残る様々な文献を無視したとする指摘である。例えばイッシュ英雄伝説は少なくとも千年以上前であるし、シンオウ創世神話は人類黎明期に端を発している。オーキド博士はこれらの追及に対して、「自分でも分からない」と述べた。
「その時には、イッシュも存在しなかった。我々の知覚に無意識のうちに刷り込みがされていたと考えるのが妥当だろう。私はイッシュ地方など知らない。その時にはアメリカ大陸と呼ばれる場所はあったが……」
この論調に有識者は反発。「もうろくした研究者」、「バラエティがお似合いの似非学者」というレッテルを貼り付けた。オーキド博士はポケモン図鑑の開発に関しての特許で食い繋いでいるために表立って研究否定は出来ないが、既に学会からは追われバラエティ番組やワイドショーのコメンテーターが主な仕事となっている。
「もし、オーキド博士の言葉が真実だとしたら、君はどうする?」
キシベの言葉にヨハネは戸惑った。「あれは、ボケていたんじゃないのか?」と首を傾げる。
「だって、僕が生まれたのはイッシュ地方だ。おかしいじゃないか。あれからまだ二十年と経っていない。だと言うのに、二十歳を過ぎた僕がいる」
イッシュ地方が存在しないというのならば、自分の記憶も存在しない。イッシュで生まれ育った同い年の何万という人間がおかしいという事になる。キシベはその意見を咀嚼するように、「その通りだ」と首肯した。
「イッシュ地方はあった。だが、それは本当にあったのか。二十年、いやもっと遡ってもいい。百年、千年前から。オーキド博士は本当にもうろくしていたのか。オーキド博士はどうして一五〇種類だと言い切ったのか」
ヨハネは頭が痛くなってくるのを感じた。キシベの言葉は果てない謎かけのようだ。ヨハネは答えを絞り出そうとした。そうしなければ自分の存在すら危うくなってしまいそうだったからだ。
「イッシュとの交流が薄かった」
だからイッシュを見落としたのだ。しかし、キシベはその発言が予見されていたかのように、「そうだとするとさらに奇妙なのは」と続けた。
「ジョウトの存在だ。カントーとジョウトは陸続きだ。どうして、ジョウトのポケモンを見落とした? しかも、ジョウトには弟子のウツギ博士がいるではないか。ウツギ博士はタマゴの発見と共にポケモンの種類を拡充させた人物として有名だが、どうしてカントーの飼育下ではタマゴは発見されなかったのか。どうしてウツギ博士が観測した時にそれが発見されたのか」
ヨハネは、「それこそ偶然だろう」と返す。
「ウツギ博士は運が良かった」
「運、か。確かにそうかもしれない。だが、運だけで今や当然のように行われている孵化や技の遺伝が説明出来ると思うか?」
ヨハネは、「研究者同士の話だ」と言った。実際、自分も研究者の端くれだったために、彼らがどのような思考回路で動いているのかが分かる。
「お互いの研究成果は極秘、というのもありうる」
「だろうね。私も研究者だった」
その発言には驚かされたがキシベは、「だとしても、だ」と首を傾げる。
「何故、ウツギ博士に発見出来て、オーキド博士には発見出来なかったのか。研究者としてはオーキド博士のほうがよっぽど優れているというのに。それに、ジョウトとて古代遺跡の名残がある。オーキド博士がそれらを見落として一五〇種類だと断定したのは、ただ単に名声を手にするためだとは私には思えない」
キシベの言葉にヨハネはいつしか聞き入っていた。「何が言いたい?」と尋ねる。
「私には、オーキド博士には本当に一五〇種類しか知覚出来なかったのではないかと考えている」
その言葉にヨハネは目を見開いた。「ちょっと待て」とその言葉を自分の中で噛み砕く。
「オーキド博士だけ、この世界の見え方が違っていたって言うのか?」
「その可能性はあり得る。いや、オーキド博士だけではない。その当時の人間達には、陸続きの地方であるはずのジョウトさえも見えなかった」
「ありえない」
ヨハネは頭を振った。そのような事があるはずがない。
「しかし、ならば何故オーキド博士はジョウトの研究分野に全く口を出さなかったのか。私はその時、カイヘンにいた」
「カイヘン地方か」
カントーと繋がっている海の向こうにある地方の事だ。
「豊かな生態系を持つカイヘンでは、オーキド博士の一五〇種類だとする論文は端から相手にされていなかった。何故ならば、カントーとカイヘンを含めただけでも二〇〇体は下らないポケモンの数が観測出来たからだ」
「カイヘン地方はカントーに対して随分と発展が遅かっただろう。だから情報網が行き届いていなかった」
「それはある」とキシベは素直に認めた。
「だがね、だからと言って、どうして既に交流のあった地方のポケモンを見逃して一五〇種類だと断定したのか。その疑問を氷解するには至っていない」
「オーキド博士は名誉が欲しかった。そのために研究分野の早期発見を急いだ」
事実、そのような見方が大多数を占めている。オーキド博士は追従する他の研究者よりも先に行くために矛盾する論文を書き上げて学会で注目を浴びたのではないかと。
シンオウのポケモン進化学の権威、ナナカマド博士はポケモンの九割は進化するとする論文を発表した。しかしカントーの飼育下において九割どころか半分程度しかポケモンは進化しなかった。
「それだけではない。新タイプがウツギ博士の研究によって発見された。鋼と悪。この二つはどうしてだかカントーでは観測されなかった。有名な話をしよう。コイル、というポケモンがいる」
ヨハネも頭の中にそのポケモンの名前と姿を呼び出した。コイルは鉛色の球体にU字磁石が両端についたポケモンである。
「カントーでは、コイルを電気単一タイプだと断定した。しかし、後の研究によってコイルには鋼タイプが付与されている事に気づかされた。では、どうしてカントーではそのタイプは発見されなかったのか」
「属性間での技の効果範囲は未開の部分があった」
ヨハネは鋼タイプと悪タイプが学会で発表された時の議論を呼び起こす。確か、弱点タイプや何が有効なのか、何が無効なのかを知るために様々な実験が成された。
また鋼と悪タイプ専門のジムリーダーや四天王を誘致するためにポケモン学会が躍起になった記憶がある。それらを認めるためには鋼と悪の分類を早期につける必要性に迫られていた。学会は鋼と悪の分類を今までのポケモンの属性に加えるために随分と大胆な声明を下したとされている。
曰く、「ポケモンの属性は未知数でありこれからも増え続ける可能性がある。そのために、我々は新たなポケモン、新たな属性が発見される度に柔軟な姿勢を示したい。もちろん、それらの新タイプを専門とするトレーナーの優遇はされるべきだ。彼らの働きによってポケモンの未開の部分は切り拓かれるのだから」と。
「学会は自分達ではポケモンを把握しきれない事を早期に判断した。発見を促すのは研究者ではなく現場、つまりポケモンを操るトレーナーなのだと」
「だからこそ、オーキド博士はポケモン図鑑をトレーナーに渡し、フィールドワークからポケモンの発見と生態研究を行った。これも有名は話だ」
フィールドワークならばホウエンのオダマキ博士が有名だが、彼の発見分野はさほど重要視されていない。やはり堅苦しい歴史が束縛しているのか、研究と発見は机の上で行うものだという理論が未だにまかり通っている。
「そのポケモン図鑑、様々なバグがあった事は知っているかな」
初期のポケモン図鑑にはバグがあった。それも有名な話だが初期のポケモン図鑑、即ちバージョン1を手に入れる事は研究者でも不可能であり、その内容は秘中の秘とされている。
「いや、僕はそこまで入れ込んでいるわけじゃなかったから」
「教えてあげよう。初期のポケモン図鑑にはブラックボックスが存在した」
「ブラックボックス?」
「オーキド博士はいくらポケモンの権威とはいえ、研究所からほとんど動けない身。そんな彼がどうしてポケモンに関する重大な声明を発表出来たのか。それは初期のポケモン図鑑の特殊性にある。初期の図鑑にはモジュール機能があった」
「モジュール機能……」
「発見に応じて自在に拡張する機能だ。ポケモンを対象Xと仮定する」
キシベの言葉にヨハネはいつしか吸い寄せられていた。
「対象Xのデータは本来、捕獲したのならば自動的にロードされる。これはポケモンがデータ生命体である事を利用した機能だ。つまりポケモン図鑑とは対象Xの姿のみならず、その生態、技構成、進化系、そのデータ内容全てをインプットするように出来ていた。我々研究者はこれを完璧な性能と成果を実現する事からヘキサツールという隠語を用いていた」
「ヘキサツール……」
聞いた事もない。そのような機能が初期のポケモン図鑑にある事も初耳だった。
「ヘキサツールは、あらゆるポケモンを捕獲する事で完成に近づくのだが、それを一瞬で推し進めた一匹のポケモンがいる。ナンバー151。幻のポケモン、ミュウだ」
ミュウの事はヨハネでも知っていた。幻のポケモンであり、全てのポケモンの祖先だと言う。噂には全ての技を覚え、ポケモンの系統樹は全てミュウへと帰属するのだと。ヨハネは、「どうして、ミュウを」と質問した。
「考えてもみたまえ。全ての技を覚え、全てのポケモンの祖であるミュウのデータが入った初期のポケモン図鑑。そこにはこれから出現するであろうポケモンも予期出来た。何故ならばミュウは全てのポケモンの祖であるから」
そこでヨハネはハッと気づく。
「だから、オーキド博士は一五〇匹でいいと考えた。ミュウのデータが手中にあるのならば、これから何が起こったとしても対応出来る」
もし新たなタイプが発見されても、あらたなポケモンが発見されてもミュウが祖先であるという事実が揺るがないのならば問題はない。ミュウのデータがあれば即座に解析する事が出来る。
「私はオーキド博士が世間で言われているようなもうろくした老人などでは決してないと考えている。むしろ誰よりも狡猾に、ポケモンという存在を突き詰めようとしていた」
その考えが正しのならばオーキド博士は最初から初期のポケモン図鑑を完成させる事が全てのポケモンを把握する事に繋がるのだと確信していた事になる。ヨハネは怖気が走った。そこまで計算した研究者が今までいただろうか。
「だが、初期のポケモン図鑑にはバグが多数存在する。これから話す記述は極秘のものだが、君ならばいいだろう。初期のポケモン図鑑で、大きさの比較、あるいは重さの比較のために用いられていた生命体がいる」
ヨハネは、「生命体?」と問い返した。
「ポケモンではなく?」
キシベはその質問が予見されていたのか、「ポケモンではない」と即座に応じた。
「それは?」
「インド象だ」
言われてもヨハネにはピンと来なかった。インド象とは何なのか。
「インド象ってのは、何だ。生き物なのか?」
その問いにキシベは軽く目を伏せた。悲しんでいるわけでもなく、憐れんでいるわけでもなく、ただ確信と共に、「やはりか」と呟いた。
「何がだ?」
「インド象は、君達の知覚からは消されている。ちょうどオーキド博士がアメリカ大陸という言葉を口にしたように。あるいはミュウが最初、南アメリカの奥地で化石が発見されたと報告されていたように」
ヨハネには意味が分からなかった。アメリカとは何なのか。
「先ほどからお前の発言は要領を得ていない。アメリカって何だ?」
「国家の名前だよ。世界警察として全世界を見張っていた。五十年代にはソ連との間で冷戦があり、核の恐怖に日本は晒される事になる。その時、特需があり日本経済は発展、高度経済成長を迎えた日本は――」
「ちょ、ちょっと待て」
キシベの言葉を遮り、ヨハネは確認の意を込めて口にする。
「日本ってのは何だ? それにソ連? どこの地方だ、それは」
キシベは何かを語りかけるような眼差しを向けて、「真実の歴史だよ」と口にした。
「真実の歴史?」
「君の歴史認識を知りたい。そうだな、今は西暦何年だ?」
ヨハネは顔をしかめる。そのような事、子供でも分かるではないか。答えようとして喉の奥で言葉がつかえたのを感じた。どうしてだか声が出ない。西暦何年なのかを口にするだけなのに。
「どうした? まさか答えられないか?」
ヨハネは自分の変化に戸惑っていた。何故、西暦何年かを答えられないのか。キシベは、「ならば」と次の質問に移った。
「イッシュ地方の英雄伝説は分かるな?」
それは分かる。ヨハネは正確な年号を伝えようとして、それが口に出来ない事に気づいた。自分の生まれ故郷の伝説さえまともに発せられない。
「何で、だ……」
「ポケモンが介入した事によってこの世界の歴史認識はことごとく歪められている。君は国際警察だが、ポケモンの新種が一種類発見される度に、既存の動植物が姿を消している事はご存知かな」
そのような話は聞いた事がなかった。ヨハネは素直に首を横に振る。
「どうして、そんな事が」
「簡単な事だよ。ポケモンがこの世界の理を淘汰しているのさ。神話や伝説は改ざんされて伝えられている。ディアルガとパルキアが時間と空間を創り、エムリット、アグノム、ユクシーがこの世界に感情をもたらしたとされているが、それはいつから言われ始めたことだ? 少なくとも、オーキド博士が一五〇体を発見した時には起こっていなかった事象ではないかね」
ヨハネは自らの知識を確認する。アルセウスが宇宙の根源に存在し、そのタマゴが孵った瞬間から現行宇宙が誕生した。少なくとも、そういう風になっている。
「どうしてポケモンを神だとしているのか? この世界は、本当にポケモン程度に創られた世界なのか」
「ポケモン否定主義者か」
国際警察をやっているとたまにこういう手合いとぶつかる事もある。今の世界は正しい世界ではないと主張する団体だ。
「私はそこまで傲慢ではないよ」
キシベは頭を振った。だが、その瞳にはこの世界を認めていないのがありありと分かる。
「否定主義者じゃないのならばどうしてここまでポケモンを認めていない。お前は一体、何を言いたいんだ」
ヨハネが問い詰めるとキシベは、「何も」と答えた。
「私はただ、事実のみを伝えているだけだよ。ポケモンを否定しているわけでも、本物の歴史に還れと言うわけでもない。今さら、この世界の人々は無理な話だろう。だが、君はね」
キシベがヨハネの顔を見やる。ヨハネは息を詰めた。
「私と同じようにこの世界、アルセウスが神ではないと言った。それはつまり、一抹の懐疑心が君の中にあると考えてもいいのかな」
全てを見通したようなキシベの言葉にヨハネは、「そんな事」と目を逸らす。だが、キシベの語る真実の歴史とやらが全くの夢物語だとも思えなかった。
「……どこから、その思想は仕入れてきた?」
その声にキシベは、「興味があるのかね?」と訊く。「国際警察として」とヨハネは前置きした。
「危険思想は摘み取らねばならない」
ヨハネの弁にキシベは、「もっともな話だ」と頷きつつも口元には笑みを浮かばせていた。その実ではキシベの話に興味を持っている事を隠し切れていないのだろう。
「真実の歴史の上では、現時点で西暦1999年。そもそも西暦という年号自体が君達の認識からは外れているだろうが」
ヨハネはキシベの言葉の一つ一つをきちんと頭に留めておいた。犯罪予言の事もある。キシベの言葉に意味のないものはないと思えていた。
「続けてくれ」
「大きな戦争が二度起きている。二〇世紀と呼ばれる世紀で核爆弾と呼ばれる兵器を作り出した人類は自らの進化を自らで滅ぼす手段を手に入れた。こちらの世界では、まだ核爆弾相当のものは開発されていないが、ホウエンのロケット技術やそれ以上の能力を持つポケモンの存在から鑑みて大した差はないと言えよう」
ヨハネは核爆弾という言葉に対して問い詰めた。何でもそれは放射線を撒き散らし、人間を骨の髄まで焼き尽くす凶悪な兵器なのだと言う。
「そんなものが……」
「あるのだよ。向こうの世界にはね」
「向こうって言うのは何なんだ?」
ヨハネの問いかけにキシベは簡潔に答えた。
「完全な世界だよ」