あとがき
あとがき
拙作『悪の帝国』を読んでくださりありがとうございます。
この作品に関しては徐々に紐解いてゆくとして、まずはこれを書くに至った経緯から話していきたいと思います。
最初にこれを書こうと思ったのはポケノベ文合わせでの短編『リフレインレポート』の存在が欠かせません。
これはロケット団員がセレビィの時渡りに巻き込まれ何度も何度も死んで、何度も同じ日を繰り返すというものでしたが、一発ネタなので実のところ完成度に乏しく、実際文合わせでも真ん中くらいの順位でした。
これをそのまま発表しなおそうと思ったのですがこの辺りが私の悪い癖で「新作を抱き合わせじゃないと誰も読んでくれないのではないか」と思ったのです。
その考えは良くも悪くも「神速の旗」の時から何も進歩していませんでした。
なので抱き合わせとなる作品群の共通するものを考えた時、カエル師匠さんがやっておられた「悪の組織を主軸に据えた短編集」というものを思い浮かべました。
そのカエル師匠さんは今のところ音信不通で、これを伝える術もないのですが、出来るならこれを読んでいただければ幸いです。あなたのお陰でこの短編集は成り立ちました。
ではまずロケット団の章から。
『ワールドマップワールド』
マサキが預かりボックスのデバックをする際にポケモンのコピー技術に目をつける、という話。これは金銀で出来た実際の技術(っていうか裏技)をメインにしています。
その際に悪に染まらざるを得なかったマサキの虚しさ、みたいなのが書いていて思ったところでした。なおこのマサキは長編作『NENESIS』のマサキとは関係ないのでご了承を。
次、先に挙げた『リフレインレポート』。
これを発表するために『悪の帝国』を立ち上げたようなものなのでとりあえずこれに関してはある種の踏み台として使いました。
プラズマ団の章。
本来、これを書くつもりはなかったのですがロケット団だけでは早くも息切れしたのと、どうせなら全悪の組織を描いたほうが面白いとしてやりました。
『ゼア・スタンディング・ポインツ』
これは新海誠監督の作品『彼女と彼女の猫』の英題ですね。だから内容もNの城にいたプラズマ団員のポケモンとの絆の疑問から成り立っています。
まぁいわゆる「イイハナシダナー」に分類される話なのでこれに関しては、あんまりこだわりはないです。
『ネオテニー』
これはプラズマ団が空白の二年間、何もしなかったはずがないとの事で書きました。
Nという求心力を失ったプラズマ団はN復活を画策してもおかしくはないのでNという存在のコピーというものを描きました。これも正直「イイハナシダナー」なのであんまり興味はないです……。
ギンガ団の章。
この時ちょうどプラチナをプレイし直していたので新たな発見がありました。それを描いた感じですかね。
『リフレインレポートVer2,0』
内偵に回っていたギンガ団の団員が時間と空間の神の怒りに触れて時と空間から切り離されてしまう話。最終的に森の洋館の怪談に落ち着くのですが書いていてなかなか落ち着きどころが見当たらなかった記憶があります。
探り探りで書いた感じですかね。
そして、最後になるのですが『悪の帝国の章』。
実のところフレア団の章だとか、色々考えていたんですけれど「フレア団はなんというか悪というのにはちょっと弱いな」だとか、最後に持ってくる悪は今までの奴よりもどうしようもない悪人で、こいつは裁かれるしかない、レベルの悪人を持ってきたかったんですがそんな悪人は実のところ(全シリーズ見通しても)いないので(サカキがギリかなーと思ったんですがサカキは長編で使うので)、どうするべ、とずっと感じていたのですがちょっと前に「じゃあ自分で作った悪の組織のリーダーとか据えればいいじゃないの?」という思い付きが浮かびました。
今まで描いてきた悪で一番悪っぽい奴といえば一発で決まりました。
『ポケットモンスターHEXA BRAVE』の悪役、カルマです。
こいつは書いていた時、絶賛をいただいたので他の悪役よりもキャラ立ちするのは一発で分かりました。
ではカルマを主役にしてどういう話を書くか。
考えたのは「カルマは死んだのか否か?」という議論です。
ネタバレになるのですがBRAVEの最終局面、カルマはとどめをさされていません。
ならあの肉体はどうなったのか。そもそも瀕死の重傷を負ったので死は時間の問題ではないのか。
その時、幽霊の殺し屋のネタが浮かびました。
というのも今書いている長編がちょうど殺し屋の話で、なら幽霊になってもその幽霊を殺す殺し屋がいてもおかしくないよな、と考えたからです。
カルマの性格(というか喋り方)がBRAVEと異なるのはやはり死んだらリセットされるんじゃないかなと思ったからです。さらに言えばカルマが諦観しているのもありました。
失敗しても死ぬだけ、だとか、もう死んでいる、だとか。
ただ最後の最後『イーヴィル・エンパイアV』に関しては、本当は四篇で終わらせるつもりだったんですが、Vで描きたかった事が描けてしまった事と、これ以上カルマの物語をしても先細りしていくだけなので、Vで完結させました。
悪らしき悪、というのも難しいです。
有り体に言えば「ロケット団だから悪さをする」だとか「悪の組織の人間は無条件に悪い」という短編がよくありますが、あれって結局、思考停止だと思うのです。
悪の組織の人間も同じ人間です。
様々な思惑があってこその善悪であると思いますし、悪の組織に属しているからじゃあ悪だ、というのは違う、とずっと言ってきました。多分、これからも言いつづける事でしょう。
幸いにしてこの短編集ではあまり人が死ななかったので黙祷は最小限に。
カルマに関しては彼の業が招いた結果なのである意味では自業自得なのですが、最後の叫びはよく出来たと思っています。
それではこれで。
悪の組織に敬意を表して、筆を置きたいと思います。
2015年10月20日 オンドゥル大使