ポケットモンスターHEXA BRAVE












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Rebellion
第七章 七節「身の程知らず」
 一報が届いたのはまだ未明の事だ。

 気だるげに暗闇の中、青年は身じろぎした。ポケッチに通知がある。読み込むと、「反逆者ユウキ、またも施設を襲撃、機密データを奪取」とある。

 乱雑な言葉の羅列に息をついて、青年は部屋の明かりを点けた。カーテンを開き、ハリマシティ一等地にあるホテルからの光景を目にする。眼下にある全ては自分の掌にある。それが彼に与えられた役割における認識だった。しかし、実のところ彼には何もない。自分で決めた事は何一つとして。全て手の中を砂のように零れ落ちていった。もう一度、掴めるだろうか、と彼は拳を握り締める。すると、ノックの音が聞こえた。

「入れ」と命じると、部下が入ってきた。かつては部下などという括りは嫌いだった。しかし、今はその括りに慣れるしかない。半年間は彼にとって順応期間だった。ある意味では地獄のような時期だったと言える。己を偽り、欺いた虚構の山の頂に立つ。それがどれほど精神を削るものか。現れた部下は彼を見やり、恭しく一礼した。

「おはようございます。ウィルα部隊隊長、ランポ様」

 名前を呼ばれ、ようやく彼は自分がまだ「ランポ」である事を自覚する。しかし、その存在は半年前に死んだ名前でもあった。表向きにはもういない。

 ――死者の名を騙る偽者だ。

 ランポは自分の事をそう蔑んだ。部下の胸には「R」を反転させた水色のバッジがあるが、それと同時に肩口には「WILL」の白い縁取りがある緑色の制服だ。矛盾している、とランポは感じた。しかし、これが今のリヴァイヴ団、つまりはウィルにおける現状なのだ。

 半年前、リヴァイヴ団は表舞台から姿を消した。あの時の演説によってウィルに宣戦布告したとみなされ、ウィルは武力を持って応戦。一斉検挙を成し遂げた。今や、カイヘンにリヴァイヴ団なる組織はいない――という建前が必要だった。

 しかしその実は生き延びたリヴァイヴ団員はウィルの構成員としてその職務を変えた。カイヘンの自治独立を謳ったリヴァイヴ団は消え去り、一時期はリヴァイヴウィルとして混在する組織名にされていたが、世論の背景も鑑みてリヴァイヴ団は完全に姿を消す事を選んだ。今やカイヘンは独立治安維持部隊ウィルのみが存在し、地下組織は全てなくなった事になっている。ランポはコウエツシティの地下監獄や、F地区の人々はどうなったのだろうか、と時折考える。彼らはリヴァイヴ団がなければ存在価値のない者達だ。彼らの処遇はどうなったのか。半年前に僅かな餞別と共に送り出してくれた人々の笑顔が脳裏に思い返され、今でも目頭が熱くなる。

「ランポ様。いかがなされましたか?」

 部下が目ざとくランポの変化に反応する。この部下は監視役だ。ランポはこの部下がつけられた時からそう感じていた。自分の行動を制限し、決して反逆行為に手を染めないように。

「いや、何でもない。行こうか、ヤマキ」

 名前を呼ぶとヤマキという部下は挙手敬礼を返した。まだ二等構成員だと言うが、それは彼の特殊な出自のせいだろう。

 ディルファンス上がりでカントー独立治安部隊に配属になったものの地下情報組織とのコネクションが明らかになり一時的に懲戒免職。ウィルを追われた彼が辿り着いたのはリヴァイヴ団だ。天性の観察力の鋭さを活かし、彼はのし上がっていたが半年前にリヴァイヴ団が瓦解。それによって再び古巣であるウィルへと戻る結果になった。何と数奇な運命だろう、とランポは彼の経歴を見た時に驚嘆したものだ。リヴァイヴ団、ウィル、両面を知る数少ない人材であり、ランポの首輪には最適だった。

 ヤマキと共にランポは部屋を出てホテルのエレベーターを下ろうとボタンを押した。ランポはα部隊であり隊長という特性上、制服の着用は義務付けられていない。なので、半年前と同じ格好だった。もし道行く人がランポの顔を覚えているならば幽霊が歩いている、という事になるのだろうか。もしかしたらまことしやかに都市伝説として語り継がれているかもしれないな、とランポは考える。そう思うと少し可笑しかった。

「ランポ様。俺は考えたんですが」

 敬称をつけながらも、自分の事を「俺」で通すヤマキという部下は、時折こうして話を始める。ランポも半年もすれば慣れたものだ。黙って言葉の行く末を眺めた。

「反逆者ユウキはランポ様の言葉ならば聞くのではないでしょうか?」

 反逆者ユウキ。その口上を聞くたびに奇妙な気分になる。半年前までは黄金の誓いを交し合った仲間であったはずの名前は、今は世界の敵としてカイヘンで認知されていた。ウィルに楯突く唯一の害悪。反逆者ユウキと彼が拉致しているとされるレナの名前は有名だった。

「何故、そう思う?」

 ランポが尋ねるとヤマキは、「そりゃあ」と首をひねりながら応じた。

「かつての上司の言葉ですから」

「君は、上司の言葉ならば何でも聞くのか? 自分の信念を曲げてでも?」

 この質問は実はナンセンスである事をランポは知っている。ヤマキはかつてディルファンス在籍時に副リーダーに楯突いて空中要塞ヘキサ攻略戦の前に組織を罷免されている。そのような来歴を持つ人間が首を縦に振るはずがなかった。当然、「事と場合によりますが」という言葉が返ってくる。

「でも、柔軟に対応していきたいとは思っていますよ」

 エレベーターの階層表示を二人して眺めながらランポは口に出した。

「柔軟、とは組織に対してか、個人に対してか」

 ランポの謎かけのような言葉にヤマキは、「参ったな」と苦笑を浮かべる。

「俺は個人だと思っています。組織が個人を殺そうとするのなら、それは、間違っていると」

「ユニークな考えだ」

 エレベーターが到着音を響かせる。扉が開いてランポは踏み込んだ。ヤマキが開閉ボタンを先んじて押している。二秒ほど間を置いて入ってきて、「何階ですか?」と尋ねる。

「とりあえずウィル本部へと向かう。降りてくれ」

 この階層より上はないのだから降りてくれ、という言葉は適切ではないが、ヤマキは首肯した。

「了解しました」

 一階のボタンを押してヤマキは開閉ボタンを押す。エレベーターの扉が閉まり、ランポは壁にもたれかかった。下降感が押し寄せてくる。腕を組んでヤマキの背中を見やった。硬く強張った様子はない。どうやらヤマキは根っからそういった緊張感とは無縁のところにいる人間だ、というのが半年間で分かった事だった。

「隊首会ですか」

 余計な詮索だろう。人によれば注意するべきところかもしれない。しかし、ランポは特に突き放すつもりもなく、「そうだな」と応じる。

「嫌になりませんか? 隊長達が一同に会するというのも」

 とんだお節介には違いなかったが、ヤマキの声音に含めるところがないのを見ると、特に考えて発した言葉ではないようである。

「やらなければならないんだ。仕方がないだろう」

「仕方がない、ですか。随分と懐が深い」

 それは半年前までリヴァイヴ団の下っ端に過ぎなかった自分が敵対関係にあったウィルの隊長達と同席するという事に対して言っているのか。そう感じたが、ヤマキはそこまで嫌味な人間ではない。それも半年間で学んだ事だ。ランポはフッと口元に笑みを浮かべて、「そうでもないよ」と呟いた。

「俺でもこの隊首会の意味は問いたいところだ。隊長同士が渋面をつき合わせて、何か価値があるのか、と」

「コウガミ総帥の決定には逆らえませんからねぇ。あの顔で叱られたらさぞかし怖いでしょう」

 ヤマキが朗らかに笑う。上司の悪口すらこの部下は笑い話の一つにしてしまう。ある意味では才能だと感じている。

「だな。我々隊長などその程度のものだ。総帥が怖くて規律に従っている」

「本来、α部隊はそういった規律からは外れた部隊でしたけどね」

 言外にランポになってから変わったと言われているようだったが、もちろん含むところはないのだろう。ランポは逆に問い返してみた。

「俺になってから変わった、と思っているか?」

 ヤマキは首を横に振り、「いえ」と緊張した素振りも見せずに返す。

「滅相もない」

「お前は正直者だな」

 ランポは笑みを深くして鳶色の眼差しにヤマキを捉える。ヤマキは、「ですかねぇ」と首を傾げた。

「そういう自覚はないんですけど」

「無自覚の才能だな。お前は、他人と自分とを同じ土俵に持ってくる気概がある」

 不意にそのような仲間がいた事が思い出された。前髪でいつも片目を隠していた、自分の事を誰よりも慕っていた仲間。もう一人、寡黙だが誰よりも情に厚く、つるむ事が好きだった仲間の顔。しかし、半年前の戦いで、古株の二人はどちらも命を散らせた。掌に思わず視線を落とす。今、ランポの手に残っているものはない。この手に掴んだと思われたものは全て滑り落ち、残ったものは何もない。虚しさだけが胸に空いた大穴に去来する。奥歯を噛み締めていると、エレベーターが到着を報せた。

「着きました。どうぞ」とヤマキがランポを通す。ランポは前を歩きながら豪奢なフロントを見渡した。シャンデリアが吊り下がり、暖色で塗り固められた壁が心を穏やかにする。しかし、その程度ではランポの失ったものを慰める事など出来ない。所詮は色によるまやかしだ。ガラス張りの出入り口を抜けると、黒塗りの車が停まっていた。

 この光景も半年で見慣れたものだ。恭しく運転手が頭を下げて扉を開き、ランポを誘う。ランポは車に乗り込んだ。リムジンタイプの後部座席は広々と取られている。後ろからついてきたヤマキが乗り込むと扉が閉まり、車が緩やかな振動と共に走り出した。ランポは頬杖をついて窓の外に流れる景色を視界に入れる。

 起き掛けのハリマシティは寝ぼけた頬を叩き起こされたようにゆったりと動き始めている。全ての物事がこの街から始まる。いわばカイヘンの心臓、中心地であった。その街並みを走る車は間もなく三十六番道路に入った。ランポはポケッチを確かめる。昨夜、この場所で激しいカーチェイスが繰り広げられたという。ウィルβ部隊が応戦したが、あえなく撃沈され、逃亡者をまんまと逃がしてしまった。逃亡者、及び首謀者の名前はユウキ――。

「昨日、ここで黒バイクと戦闘があったみたいですね」

 まるで観光見学に来たかのような気軽さでヤマキは窓の外を見渡した。ランポは、「そうだな」と淡白に応じる。ヤマキはまだ話の裾野を広げたかったようだ。「黒バイクは何が目的なんですかね?」と訊いてきた。

「さぁな。重要事項としか言えない」

「俺がランポ様の付き人でもですか?」

「お前は」とランポは微笑んでみせた。ヤマキも同じように笑んでみせる。ランポは手を前で組み合わせながら、「雑談が好きだな」と言った。

「ええ、まぁ。そういう野暮な事は、特に」

「野暮だと、自覚はあるのか」

「根っからの癖なんですよね」

 困ったようにヤマキは後頭部を掻いて苦笑する。これが狙ったものならば大したタマだとランポは感心すらしていた。

「お前は、俺の付き人業を楽しんでいるように見えるな」

「ああ、やっぱり分かります?」

「二等構成員であっても、こうしてリムジンに乗れる事を内心は面白がっている。普通ならば面倒で仕方がないだろう。しかし、面倒と面白いが表裏である事を知っている。そうやって事態を楽しめる奴だ、お前は」

「買い被り過ぎですよ。褒めないでください。俺、褒められると痒くなってしまいます」

「褒めてないがな」

 この天然のような言動も全て計算のうちだとしたらこれほどまでに自分を監視するのに打ってつけな人材はいないだろう。ヤマキを見つけてきた上層部にランポは感嘆の息を漏らした。

「黒バイクはどうしてウィルの施設を襲うんでしょう? そんな事したって罪が重くなるだけなのになぁ、って感じるわけです」

「当然の疑問だな」

 ランポはユウキの事を考える。ユウキの行動には必ず理由がある。ユウキは意味のない行動には移らない。必ず、ユウキの成す事には意味があるはずだ。しかし、ユウキは今、カイヘンにおいて悪として認識されている。裏切れとそそのかしたのは自分だ。その事実が胸の中に突き立った。だが悪を成せと命じた覚えはない。今のユウキは独自の判断で動いているのか。それとも誰かの掌の上で踊らされているのか。自分の命令の枠を超えたかつての仲間の心境を推し量るのは困難だった。

「黒バイク、いや、ユウキは決して意味のない行動はしない。何か、考えがあるはずだ」

「それはかつての部下だから、ですか?」

 知りえた情報を臆面もなく晒し、相手から言葉を引き出す材料として使ってくる。ヤマキには裏表がないのか、と思わせられる。

「俺は部下という呼び名をリヴァイヴ団にいた時には使った事がない」

 ヤマキに発した矜持は伝わったのだろうか。ヤマキは頬杖を突きながら、「なるほど」と頷く。

「ランポ様らしい」

「俺らしい、か」

「そうですね。少なくとも俺が見た限りでは、あなたは出来るだけ対等な立場で接しようとしてくれる。それに俺に対して、誰に対してもですけど、決して相手の意見を否定しない。自分の主張を通そうというわけでもない」

「自分がないように聞こえるな」

 ランポが膝元に手をやって答えると、「逆です。逆」とヤマキが手を振った。気になったので追求してみる。

「逆、というのは?」

「相手の意見を呑み込めて、なおかつ自分の信念は曲げない。これって理想的なリーダータイプです。ランポ様は恐らく慕われていたのではないでしょうか。俺の憶測に過ぎませんが」

「慕われていた、か……」

 本当に慕ってくれていたのならば、裏切れと命じた時、囮を命じた時、どのような気分だったのだろう。恐らくは奈落の底に突き落とされたかのような絶望感を味わったのではないだろうか。自分は仲間をそのような感情に陥れてしまった。

「リーダー失格だな」

 ランポは自嘲気味に呟く。その声を聞いて、「失格どころか」とヤマキが声にした。

「むしろいて欲しいくらいですよ。リーダーとしては完成形です。俺が言うのもなんですが、もっと誇ってもいいと思いますよ」

 二等構成員の意見にしてはなかなかに出過ぎた言葉だろう。しかし、それを引っ込めもしないのはヤマキという部下が無能ではない証明だ。ヤマキは自分の言葉には責任を持っている。決して、なかった事にはしないし、打ち消す事もない。ヤマキにも才覚はある、とランポは考えていた。

「おだてているのか? 何も出ないぞ」

 ランポが口元を緩めて声を発すると、「いやぁ、これ以上出してもらうのは申し訳ないですよ」とヤマキがにやけて返した。二頭構成員で隊長の監視役であり、そのために様々な優遇を受けているヤマキからしてみれば正直な感想だろう。

「お前には、才能があるな」

 その言葉にヤマキは目を丸くした。

「何の才能で?」

「人を持ち上げる才能だよ。どうしてその才能で俺の上の席を狙わない? お前なら出来るはずだ」

 過大評価をしたわけでもない。ランポとて相手の実力を見誤る事はない。ヤマキの手持ちは知っている。鋼・地面タイプのポケモン、ドリュウズ。これを仕向けられたのもある意味では的確と言えた。毒・格闘タイプのドクロッグではドリュウズに弱点を突かれる。鋼に毒は通用せず、地面タイプの攻撃は毒に効果抜群だ。逆にドクロッグもドリュウズの弱点を突く事が出来る。格闘技による鋼タイプへの効果抜群。お互いの力が拮抗していれば、いざ裏切るという段に泥仕合になるのは明白だった。ランポが眼光鋭く見つめていると、ヤマキは破顔一笑した。

「買い被り過ぎです。ですがランポ様は正直でなおかつ本気だ。だから簡単に申し上げます。俺は上の席に興味はないんです」

「興味がない? ウィルとリヴァイヴ団、両方知るお前ならば興味があろうがなかろうが上はそれ相応のポストを用意したがるはずだ」

「誘いは来ましたよ」とヤマキは何でもない事のように首筋を掻きながら応じる。

「でもその気はないんで。上に立つ者には資質が要ります。それがランポ様と俺を隔てるものです。俺とランポ様の間にはこうとは言えないが、確かに違う、と思えるものがある。そうでしょう?」

 ランポは、「ふむ」と頷いた。自分が上に立つという自覚はランポとて希薄だ。しかし、ヤマキの言わんとしている事は何となく理解出来る。

「素養、という部分だな」

「そうです。ランポ様は上に立たれるべくして立たれたお方。あなたの立場に俺が明日からなれと言われてもなれませんね。その自信がない」

「確かに。一度死んでみるくらいの覚悟は必要だ」

 ランポはその言葉でこの話を笑い話にしようとした。空気を察してヤマキは微笑んだ。阿吽の呼吸とでも言うのか、この部下は本当によく分かっている。

 ――しかし、とランポは感じていた。ヤマキを「仲間」とは思えないのは、どこかに一線があるからなのだろう。ヤマキが引いているのかもしれないし、自分が引いているのかもしれない。どちらにせよ、ランポはこれ以上、仲間が死ぬ姿を見たくない。命を散らして欲しくない。一瞬だけ瞑目したランポへと声が振り向けられた。

「ランポ様。お辛いのですか?」

「いや」とランポは微笑んで見せる。本当に、よく気がつく部下だとつくづく感心する。首輪としては申し分ないだろう。

「黒バイクの目的は何なんでしょうね。ウィルの施設を襲ってスキャンダルでも暴こうというのでしょうか?」

 話が戻っていた。スキャンダルを暴く、という部分にランポはコウエツシティでカジノの資金洗浄を暴いた時の事を思い出す。ユウキはあの時も、無茶をこじ開けて道理を蹴っ飛ばした。それだけの力がある人間なのだ。ユウキがいなければ、自分達はまだF地区に括りつけられていたかもしれない。

「今のウィルにスキャンダルはあるか?」

 ランポが尋ねるとヤマキは、「たとえばこの状況ですね」と応じる。

「俺は元リヴァイヴ団であなたもそう。しかもあなたは半年前にリヴァイヴ団ボスとして宣戦した。表向きは死んでいる。これってスキャンダルじゃないですか?」

「三流雑誌が好みそうなネタだ」

 ランポは一笑に付した。実際、都市伝説としてリヴァイヴ団のバッジをつけたウィルの構成員という話は出回っているらしい。しかし一般人が普段目にするのは四等構成員、いわゆる下っ端だ。彼らは純粋にウィルの構成員である事が多いのでこの噂が事実にならないのはそうした理由がある。

「俺はウィルに忠誠を誓っている」

 肩口の黒い縁取りの「WILL」の文字をなぞる。「R」の反転したバッジはつけていなかった。隊首会ではさすがに元リヴァイヴ団だと割れていても、印象はよくない。そういった部分の配慮は必要である。

「今は、ですか」

 含みのある声音に、「何か言いたそうだな」とランポは返す。ヤマキは首を振った。

「いいえ。俺からは、何も」

「じゃあ、誰だ。誰が俺に意見する?」

「きっと身の程知らずの誰かですよ」



オンドゥル大使 ( 2014/04/07(月) 21:03 )