ポケットモンスターHEXA BRAVE












小説トップ
Rebellion
第七章 四節「前進する者たち」
『先ほどからの話を統合すると、君達は負傷しているのか?』

「ええ、ユウキがね。あたしは何ともないわ。車を運転出来るくらいだもの」

『ユウキ君、負傷はどの程度だ?』

「ビークインが麻酔を打ってくれました。回復指令で治してもらっていますが、多分、放っておくと悪化します」

『分かった。実は目的地には部下をやっているんだ。彼女に治療のほうは任せよう』

「女性なの?」

 レナの質問にFは、『君と同じくらい聡明な女性さ』と答えた。レナは眉間に皺を寄せて、「冗談とかじゃないのよ」と真面目な口調で返す。

「本当にユウキの負傷は洒落にならないんだから。中途半端な治療じゃ逆に悪くなるわ」

『その点では心配には及ばないだろう。あと五十メートル』

 目的地までの距離だろう。車は間もなく停車した。レナが窓の外を見上げて、「ここは……」と口を開く。

「ただのマンションに見えるけれど」

 ユウキは身を起こそうとしたが、やはり腹部の負傷が治らない限り鋭角的な痛みとは決別出来そうにない。麻酔が打ってあってもまだ痛んだ。

『マンションの前に部下が待っているはずだ。ユウキ君と君は彼女に会うといい』

 レナは車から降りた。後部座席を開けて、ビークインにユウキを運ばせるように促す。ビークインがユウキの脇を抱えて、ゆっくりと後部座席から出てきた。ユウキは周囲を見渡す。閑静な住宅街に見えた。ハリマシティの郊外だろう。どの家屋も同じような形状をしているのはコウエツシティの実家を思い出させた。

「工業団地ね。一体、どこの管理の――」

『ウィルの工業団地だ』

 放たれた声はレナのポケッチからだった。既にFはレナのポケッチにハッキングしているらしい。しかしポケッチのハッキングなど相当な腕がなければ無理なはずである。何故ならばポケッチのシステム管理は全てカイヘンの政府がまかなっており、膨大な個人情報の中から特定のポケッチへと周波数を送る事は実質不可能に近い。だが、Fはそれをやってのけている。ウィルに所属しているというのは嘘ではなさそうだ。

「敵地のど真ん中よ。そんなところによくも誘導を――」

『君達を助けるためだ。灯台下暗し、と言うだろう? 敵地の中心は今やハリマシティの中央だ。郊外の管轄化にある団地を虱潰しに探すほど我々とて暇ではない。君達の身の安全は保障されたというわけだ』

「そりゃ、どうも」

 レナが苦笑いと共に言葉を返す。ユウキはビークインに抱えられながら、マンションの前に立っている人影を認めた。黒い身体に張り付くようなスーツを着込んでおり、目元はバイザーのようなもので隠されている。バイザーの中央にはδの文字があった。ショートボブの髪に紫色のリボンがアクセントになって巻かれている。顎のラインや身体つきから女性である事が知れた。

「お待ちしておりました」

 女性は言い放つ。冷たい声音だった。レナは女性を見やって、「どこに安全な場所があるって言うの?」と尋ねる。女性はちらりとユウキをバイザー越しに視線を向ける。ユウキの負傷の具合を確認したのか、ユウキへと歩み寄り、「大丈夫ですか?」と訊く。ユウキは戸惑いながら、「痛みは薄らぎましたけど、自力では立てません」と答える。このままではレナのお荷物になるのは目に見えている。女性はホルスターからモンスターボールを引き抜いた。

「行け、ラティアス」

 その言葉と共に緊急射出ボタンが押し込まれ、手の中でボールが割れた。現れたのは赤と白の身体を基調にするジェット機のようなシルエットのポケモンだ。黄色い眼が柔らかな眼差しを灯し、両手がついているものの小さく攻撃に適しているようには見えない。腹部に青い三角形の文様がある。見た目からして特別なポケモンだった。レナが息を呑むのが伝わる。

「ホウエンの準伝説級ポケモン……、ラティアス」

 それほどのポケモンなのだろうか。ユウキが訝しげな目を向けていると、女性がラティアスに命じた。

「ラティアス、癒しの願い」

 女性の声にラティアスから赤い思念の渦が巻き起こった。瞬く間にユウキへと纏わりつき、傷口が熱くなるのを感じる。一瞬だけ呻き声を上げたが、その直後には痛みが消え失せていた。ユウキは腹部を見やる。傷がほとんど塞がっている。立ち上がろうとすると、まだ少しだけ痛みが尾を引いたが、それでも立てないわけではない。一瞬であれだけの重症が塞がった事に二人とも閉口していた。

「今のは……」

 ラティアスが疲労の色を浮かべて、その場にゆらりと倒れ伏す。女性はラティアスを労わるように撫でた後、モンスターボールを向けた。赤い粒子となってラティアスがボールに吸い込まれる。

「今のは癒しの願いね。ポケモンが瀕死になるのと引き換えに、対象の全ての状態異常と体力が全快になる技」

 ユウキは腹部を押さえながら、それだけの技が放たれた事に驚きを隠せなかった。女性は、「今、歩けないと不便ですから」と冷淡に返す。

「そこまで出来るってわけ。自分のポケモンを瀕死にさせてまであなたはあたし達に協力を仰ぎたいと」

 レナの声に、「黙ってついて来てください」と女性は身を翻した。女性の態度にレナは苛立ったのか足を踏み鳴らす。

「何よ、あの態度。気に入らないわ」

「でも、僕が助けられたのは事実です。ビークイン、ありがとう。もう大丈夫」

 ビークインがユウキを抱えていた腕を放す。まだ痛みはあるものの動けそうだった。レナがビークインにボールを向けて戻し、「信じるに値するのかしら?」と疑問の声を出す。女性はガレージへと歩み寄った。シャッターを開けると、人が四人は入れればいいほうの直方体の空間がある。女性は手招いた。

「こちらへ」

 レナとユウキは怪訝そうにしながらも、従うしかない事は本能的に理解している。車へと一瞥をやって、「あの車は?」と尋ねた。

「こちらで処分いたします。今はここに」

 レナとユウキがガレージの中に入ると、ガレージの中はエレベーターになっている事に気づいた。女性がボタンを押すとガタン、と下降感が押し寄せる。レナは女性に質問した。

「さっきのポケモン、ラティアスよね? あれだけのポケモンを使えるってあなたは何者?」

 ユウキにはそれほどのポケモンなのか判断はつけかねたが、二人の間に流れる空気を感じ取る限り、どうやら先ほどのポケモンは強力な存在らしい。女性は小さな唇から言葉を紡ぎ出す。

「私は隊長に従っているだけです」

「Fの事?」

「あなた方には、そう名乗ったのならばそうです」

「ウィルδ部隊って言っていたわよね? δ部隊は何のつもりなの? あたし達を抱き込んで、どうするつもり?」

「それはこれからお教えいたします」

 下降感が消え、シャッターが開いた。女性が開閉ボタンを押したままレナとユウキが歩み出すのを待っている。二人が歩み出てから女性が後方についた。逃げ出す事も出来ない、というわけか、と確認する。飛び込んできた光景は奇妙なものだった。最新鋭のコンピュータの筐体が並び、端末が至るところに置かれている。機械の類が完備されており、司令室、という言葉を想起させた。

「まるで秘密基地ね」

 レナの歩みがそこで止まった。端末の前で背中を向けている人影を見つけたのである。キーを打っており、白衣を身に纏っているが異常なのはその背丈だ。幼児のように背が低く、白衣はぶかぶかである。長い黒髪を揺らして、その人物が椅子ごと振り向いた。

「ようこそ、ユウキ。それにレナ・カシワギ女史」

 振り返った顔立ちはまさしく少女だった。年の頃はまだ十歳にも満ちていないように見える。紫色の髪飾りをつけており、白衣の下に纏っている服の中央にはδの文字があった。レナが、「まさか」と声を出す。

「あなたが、Fの正体?」

「レナ、その質問はノーよ。私はFじゃない」

 少女が椅子から飛び降りて、レナへと歩み出す。少女は値踏みするかのようにユウキとレナを交互に見やった。その視線が煩わしかったのか、レナが、「何よ」と眉間に皺を寄せる。

「別に。カシワギ博士の事は聞き及んでいたけれど、娘であるあなたにはあまり遺伝されていないみたいね。落ち着きがないように見えるわ」

「何ですって」

 レナが怒りの矛先を向けようとするのを、少女がぷいと顔を背けて、「私はFじゃない」と続ける。

「でも、ここまで導いたのは私。その点については褒めてもらいたいものね」

 嫌味な態度にレナは歯噛みした。ユウキは、「僕は感謝します」と言葉を発する。

「ユウキ、こんな子供に……」

「でも、僕らは彼女の助けがなければここまで来る事は出来なかった」

「そりゃ、そうだけど」

 レナは何か言いたげだったが、少女が鼻を鳴らして、「いい心がけね」と告げた。

「分相応の立場を理解している人間は嫌いじゃないわ」

 レナが拳を握り締めて震わせる。余程悔しいようだ。少女が、「とりあえずママから離れてもらおうかしら」と片手を開いて口にする。

「ママ?」

 ユウキが聞き返すと、「耳が腐っているの?」と少女は顔をしかめて耳を指差した。

「私のママがあなたの負傷を治したんでしょう? 通信を聞いている限りじゃ結構な負傷だったみたいだし」

 ユウキとレナは信じられない心地で後ろに侍っている女性へと振り返った。どう見てもまだ二十歳前後だ。母親という年齢には思えない。少女はぺたぺたとスリッパを踏み鳴らしながら、女性へと歩み寄り、そのまま抱きついた。

「ママ。私、うまくやれた?」

 女性は少女の頭を撫でながら、「ええ」と返す。ユウキとレナは顔を見合わせて、状況の把握に努めようとした。ユウキはとりあえず質問をする。

「えっと、あなた達は、一体……」

『それについてはワタシが答えよう』

 突然、端末から声が響いた。画面にモノリスが表示される。δの黄色い文字が刻まれていた。先ほどまで自分達を導いていたFの声だ。

「F、ですか……」

『彼女達はワタシが信頼する部下達だよ。女性はKとでも呼んであげてくれ。少女は――』

「私が自分で説明するわ、パパ」

 少女が腰に手を当てて横柄に声を発する。胸元に手を当てて、自分の存在を誇示するかのように言った。

「私の名前はキーリ。ウィルδ部隊二等構成員」

「二等構成員? こんな子供が?」

 レナが思わず口に出すとキーリは、「心外ね」と息をついて首を傾げた。

「あなただって研究者にしては若いほうじゃない。まぁ、私からしてみればオバサンみたいなものだけどね」

 放たれた言葉にレナが青筋を立てて反発しようとする。ユウキがそれを手で制し、「あなた方は」と口を開いた。

「ウィルでありながら僕らを匿ってくれるというのですか」

 それはとても不自然な事柄に思えた。むしろここまで誘導しておいて、ウィルに売り払うと言われたほうがまだ現実味がある。キーリが小首を傾げて、「何か問題でも?」と尋ねる。

「問題でしょう。特にあなた方からしてみれば」

『そうだろうな。だが、ユウキ君。ワタシは先ほども言ったように君達に可能性を見たのだ。だからここまで案内した。君達にはウィルとリヴァイヴ団に反逆の証があると判断したのだ。君達こそが邪悪から世界を救えるのだと』

「大げさだわ」

 レナが肩を竦めると、「まったく、同感ね」とキーリも同じ動作をした。

「パパはいつでも大げさなんだから」

『キーリ二等構成員。この場ではパパではなく、隊長と呼びたまえ』

 その言葉にキーリはわざとらしく敬礼をして、「了解でーす、隊長殿」と言ってのけた。キーリの肝の据わり具合に辟易しつつも、ユウキは言葉を継いだ。

「僕らを匿ったところであなた方にはデメリットしかない」

『いや、果たしてそうと言い切れるかな』

 試すような物言いに何か含むところがあるとユウキは感じ取った。レナも同じ気配を感じたのか、「勝算があるような言い草ね」と口にする。

「勝算がなければあなた達みたいな危険因子をどうして招くもんですか」

 キーリがやれやれと言った様子で首を振る。Kという母親はキーリをたしなめる様子もない。そもそも本当に母親なのか疑わしかった。キーリが白衣のポケットに手を入れてゆっくりと歩き出す。

「この場所は、ウィルがもし暴走した時のための抑止力を育てるためにパパ、いいえ、隊長が密かに用意していた隠し部屋。この場所からウィルのネットワーク全てに介入する事が出来るし、本気を出せばカイヘン政府のネットワークにだって入り込める。それだけの力を秘めた場所だって事よ」

「そんな場所、ウィルが放っておくわけが――」

 発しかけたレナの声を遮るように、「そう」とキーリが指を向けた。指されてレナが狼狽する。

「だからパパは隊長になった。全てはこのためだったのよ。δ部隊という秘密主義の部隊を作り、ディルファンス上がりのパパとママは私を一流のハッカーに育て上げた」

「ディルファンス上がり? Fさんとあなたが?」

 ユウキがKへと尋ねると、Kは静かに頷いた。キーリは顔を振り向けて、「私はこの力を振るえる場所がここしかなかったからここにいる」と告げた。

「全てはこのような異常事態が起きた時のために。かーなーり、退屈してたけどね」

 キーリが両手を上げて伸びをしながら欠伸を漏らす。レナは先ほどから圧倒されているのかほとんど言葉を発しなかったが、やがて筐体へと歩み寄った。

「最新鋭の設備ね。まさしく秘密基地って感じ」

 ユウキへと確認の意味もあったようだ。ユウキは頷き、彼らが自分達を担ごうとしているわけではない事を確信した。

「とりあえずポケモンを回復したらどうかしら? そこにポケモンセンターと同じ設備があるから」

 六個の半球状の窪みがある端末をキーリは顎で示した。ユウキとレナはお互いに逡巡の視線を交わし合った。ここで手持ちを一時的にでも手放す事は果たして正解だろうか、と考えたのだがそれすら見透かしたように、キーリが、「誰も取らないわよ」と告げる。

「ただ全快じゃないポケモンを持っていられてもこれからの作戦に支障を来たすだけ。今は信じろとは言わないけれど、利用出来るものは利用したら? そのほうが賢明よ」

 キーリの言葉に戸惑っていると、Kが歩み出し、自分のモンスターボールを窪みに置いた。スイッチを入れると、ポケモンセンターと同じく回復の光が放射され、瞬く間に「回復完了」の文字が画面に浮き出る。窪みからモンスターボールを抜き取り、緊急射出ボタンに指をかけた。光が形状を持ち、ジェット機の威容を持つ赤い影が躍り出る。先ほどのラティアスは瀕死状態から立ち直っていた。どうやらKは自分のポケモンを使ってこの装置が安全である事を示したようだ。

「あなた達はコウエツシティからずっとその調子なんでしょ? リヴァイヴ団なんていう影の組織だから回復もまともに行っていないはずよ。いざという時に使えないんじゃ話にならない。余計なプライドは捨て去るべきじゃないかしら」

 キーリの言葉は棘があるが至極真っ当な意見だ。ユウキはホルスターからボールを引き抜いて窪みへと入れた。それを見たレナが、「ユウキ」と声を出す。

「まさか信用したんじゃ――」

「疑っていても前には進めません。それにKさんは手持ちであるラティアスを使って僕の傷を癒してくれた。恩には報いるべきだ」

「それは……」と口ごもるレナに、キーリが、「いい心がけだわ」と返す。

「ユウキ。素直なあなたの事は好きになれそう。このオバサンの事は分からないけれど」

 またもオバサン呼ばわりされてレナは眉を跳ねさせた。やけ気味に、「分かったわよ!」とビークインのボールを窪みにセットする。スイッチを入れると、回復の光が放射され、瞬く間に全快状態へと回復した。レナにビークインのボールを手渡し、ユウキはテッカニンとヌケニンのボールを確認する。ポケッチ上のステータスでも完全回復が確認された。

「これで第一段階は突破ね」

「第一段階?」

 キーリの言葉にユウキが聞き返す。キーリは後ろ手に組みながら、「そう」と歩きながら口を開く。

「あなた達がこの施設の事を信用する、という段階よ」

 キーリは、「パパ、じゃなくって隊長」とわざとらしく呼びかけた。

「そうだよね?」

『その通り。君達にこれからキーリと共に使ってもらうんだ。まずは設備を信用する事。ここから入ってもらわなければならなかった』

「ちょっと待って」

 レナが声を出す。キーリが眉根を寄せて両手でバツ印を作った。

「待ったなし。理解力が乏しいわね。それでもカシワギ博士の娘なの? オバサン」

「オバサン言うな! 大体、このガキンチョが信頼出来ないわよ! 本当にウィルの二等構成員なの? だとしたら、あたし達の身が危ういのには変わらないじゃない」

 キーリを指差してレナが言い放つと、キーリはため息をついた。諭すように、「あのねぇ」と口にする。

「そろそろ次の段階に入りたいわけ、こっちは。いつまでも信じる信じないでガタガタ言っているんじゃない。一言で、端的に言うわ。あなた達は私達を信じる信じないに関わらず、利用せざるを得ない。これは間違えようのない事実よ」

「利用……」とレナが声を詰まらせる。キーリは、「そう」と指を一本立てた。

「私達はあなた達を利用したい。あなた達も私達を利用しなければ生きていけない。これって利害の一致じゃない?」

 思わぬ言葉にレナは目を見開いた。ユウキは、「なら」と口を開く。

「僕達に何をさせたいんですか。あなた達は」

「ようやく話が次に進めそうね。あなた達にさせたい事はたった一つ。ウィルへの反逆よ」

 キーリの放った言葉にレナが、「ちょっと待ちなさい!」と声を張り上げた。キーリは耳に栓をしながら、「まーた、オバサンか」とうんざりした様子で言った。

「オバサンじゃない! ウィルへの反逆って、あたし達の立場どころか、あなた達の立場だって危うくなるじゃない。どうしてそんな事を」

『これは必要な事なのだ』

 Fが重々しく口にする。レナとユウキはモノリスが表示されているモニターへと顔を振り向けた。

『ワタシは、既に戦闘不能だと先刻言ったね。δ部隊は実務戦闘特化型ではない。情報戦に秀でている。だからこそ、知る事が出来た。君達の事、そしてリヴァイヴ団のボスが目指そうとしているある計画の事を』

「計画ですって?」

 レナが聞き返すと、『意外だな』と声が飛んできた。

『君は知っていて組織に属しているのだと思っていた』

 レナでさえ知り及んでいない計画とは何なのか。ユウキはその先を促そうとした。

「Fさん。その計画とは何です? それが何故、僕達がウィルに反逆する事と繋がるのか、それを説明して欲しい」

 ユウキの声にFは、『いいだろう。ただし』と前置きする。

『この話をするという事は完全に戻れないところまで来たという事を理解してもらいたい。構わないかな?』

 ここでの受け答え次第ではこれからの行く先が変わってくる。ユウキはそれを実感して首の裏に嫌な汗が滲むのを感じた。

 キーリとKを見やる。彼女達は分かっていてここまで導いたのだ。何も知らないのは自分とレナだけである。状況に振り回されて、未だに着地点を見つけられていない。ユウキはここが決断の時だと感じた。ランポに誓ったのと同じように、覚悟が試されている。ユウキは顔を上げて、レナと視線を交し合う。レナも同じように考えていたのか、双眸に宿る決意は同じに見えた。モノリスを見据え答えを口にする。

「構いません。僕らは、これ以上後退する事なんて出来ない」


オンドゥル大使 ( 2014/03/28(金) 21:06 )