第六章 八節「従順な犬」
ユウキはレナの部屋へと向かった。レナもスイートルームが取られている。同じ階層の中にレナの部屋があった。ノックすると、「誰?」という声が聞こえてきた。
「僕です。ユウキです」
「ああ。ちょっと待って」
レナがぱたぱたと歩いてくるのが足音で分かった。扉が開かれると、レナは白衣を身に纏っていた。眼鏡はかけていない。
「どうしたんですか?」
「何だか落ち着かないからいつもの服装にしたのよ。で? 何?」
「入ってもいいでしょうか?」
「レディーの部屋にそんな服装で入るなんて感心しないわね」
レナはユウキの服装を指差した。煤けたジャケットは確かに失礼だろう。ユウキは肩を竦めた。
「これしか持っていない」
「これだから男は……。まぁ、いいわ。入って」
レナに促されユウキは部屋に入った。部屋の中はランポと先ほどまでいた部屋と同様の豪奢な造りとなっていたが、漂う香りが違った。涼しげで、どこか甘い香りがする。レナの香水の匂いかもしれないと思った。
「香水とか使ってます?」
「使っているけど悪い? あんた達と違って女は何かと必要なのよ」
その言葉にレナが大型のキャリーケースを持っていたのを思い出した。ベッドの上に置かれており、開かれている。ユウキの視線がそちらに向けられたと見るや、レナはバタンとケースを閉じた。
「で? 用って?」
「レナさんの護衛は僕が引き継ぐ事になりました」
「どうして?」
「どうして、と言われましても……」
ユウキが言葉を濁しているとレナが、「当ててあげる」と口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「一番無害そうだから」
「外れです」
「じゃあ、あたしに関心がないから」
「それも外れ」
「じゃあ、何よ?」
「ランポに命令されたからです」
ユウキの言葉に、「また、それぇ?」とレナはベッドに腰を下ろした。
「あんた達、そういうの好きね。命令されるのって気持ちいいの?」
「別に、そういうわけでは」
「あの大男と馴れ馴れしい前髪の奴もそんな感じだし」
「エドガーとミツヤですか?」
「そう、それ」とレナが指差した。それにしてもその覚え方はあんまりだろうとユウキは思ったが言わないでおいた。レナはベッドに寝転がって、「何なの、それ」と口にした。
「命令には絶対服従。犬か、っつの。あんた達、リーダーに死ねって言われたら死ぬんでしょ?」
「そんな事……」
ない、と言いたかったがエドガーとミツヤに関しては分からない。テクワとマキシにしても、どこか自分の命を客観視している節はある。自分以外の事などここに至っても何一つ分かっていないのではないか。心の逡巡を見透かしたように、レナが、「だんまりって事は、肯定って受け取っていいのかしら」と言った。
「少なくとも、僕は違います」
レナは上体を起き上がらせ、ユウキを見つめた。
「じゃあ、あんた。えっと……」
「ユウキです」
「そう、それ」と指差して頬杖をついた。
「ユウキはさ。リーダーにいざという時逆らえるの?」
「分かりません。僕自身だってその時にならなければ分からない。自分の命のほうがかわいいのかもしれない」
「しれない、じゃなくってそうじゃない? 少なくともあたしはそうだし」
レナが顔を背けて部屋の一点を見つめた。窓があり、高層ビルが立ち並ぶ景色が望める。ユウキもそちらへと視線を移して、「レナさんは」と口を開いた。
「ランポの事を、信用できませんか?」
「そうね。つくづく紳士的だとは思うわ」
「それは褒めている……?」
「いないわよ。紳士的って事は他人行儀ってのも含んでいるし」
「もっと親密なほうがいいんですか?」
レナは黒い長髪を掻いて、「あんたねぇ」とユウキに目をやった。ユウキがたじろぐように後ずさる。
「何ですか?」
「それはあんたの事も言っているのよ」
「何が」
「他人行儀」
レナがびしりとユウキを指差した。ユウキは自分を指差して、「僕が?」と尋ね返す。
「そう。あんたあの六人の中で一番それ。自分では紳士のつもりかもしれないけど、それって壁を作っているのと同じよ」
「壁、ですか」
思いもよらない言葉にユウキは困惑の間を空けた。レナは愚痴をこぼすようにユウキへと言葉を投げる。
「親密なほうがいいですか、っていう尋ね方もそう。あんたって何だか誰とも合う代わりに誰とも合わないみたいな感じ。本当のところで心を許してない」
「そんなつもりはないんですけど」
「じゃあ無意識ね。そっちのほうが性質悪いわ」
レナが肩を竦めた。ユウキはどう返せばいいのか分からなかった。心を許していないつもりはない。ランポは信頼しているし、他のメンバーに対してもそうだ。信頼関係は築けているものだとばかり思っていた。
「あんた、ランポに似ているわ」
「似ている? 僕とランポがですか?」
「そうよ。意外?」
「ええ。だってランポはリーダーですし、僕には全然」
「そういう意味じゃないの」
聞き返そうとすると、レナが身体を伸ばした。両手を拳の形にして、一気に下ろす。
「カリスマじゃないけど、あんたにはそれがある。いつの間にか誰かを先導する、指導者のような存在感」
「僕にはないです。そんなの」
「まだ意識していないのかもね。あんた、自分が思っている以上に強かよ」
ユウキは困惑気味な顔を振り向けた。レナは横目でユウキを見てから、また視線を窓の外に移した。他人からどう見えているかなど意識していなかった。レナの人物評が当てになるかどうかは分からなかったが、少なくともレナから見た自分達なのだろう。まだ二日程度の付き合いでしかないが、レナは思っていたよりも自分達を的確に観察しているのかもしれない。研究者としての性か。それとも唯一の女性だからか。
ユウキはレナを一瞥し、ランポと示し合わせた計画を口にしようとした。しかし、その前にレナが口を開く。
「あたしはこれからどうなるの?」
今から言おうと思っていた事を先回りされ、ユウキは返事に窮した。だが、すぐに返事をしなければ勘繰られると思い、言葉を探した。
「リヴァイヴ団の傘下で、安全に研究を続けられると思います」
「安全、ね。それって本当なのかしら」
心中を見透かされているようでユウキはどきりとした。レナはユウキを見ずに、言葉を継ぐ。
「今までだって、安全だって言われてきた。リヴァイヴ団に従っていれば一足進んだ研究が出来るって。ウィルに情報統制されて、軟禁同然の研究をするよりかはマシだって。でも、リヴァイヴ団も蓋を開けてみれば対して変わらなかった。ねぇ、知ってる? ウィルに第四種δ部隊って言う研究部隊があるの」
「いえ」
初耳だった。ウィルの部隊構成は民間には極秘である。レナはユウキへと顔を振り向けて、「あんた、リヴァイヴ団なのに知らないのね」と言った。
「僕はまだ新参ですから」
「入ってどれくらい?」
その質問にユウキは指折り数えた。
「まだ一週間にもなりません」
「本当に新入りなのね。呆れた。それで骨の髄まで従順なんて」
レナが前髪をかき上げる。レナに呆れられるような事を自分はしただろうかとユウキは考える。
それと同時に、まだ一週間なのだと反芻した。
自分が入った一週間で周囲の状況は、世界はがらりと変わった。ウィルとの戦闘と離れるとは思っていなかったコウエツシティとの別れ。本土に辿り着けば、特殊任務に身をやつす事となった。ランポ達からしてみても劇的な変化なのだろうか。自分が入る以前の事は全く聞いていない事に思い至る。
考えていたより、自分の知らない世界が横たわっている。眼前に、確かな現実として。それでも、ランポに従うのはリーダーだからだという事を跳び越えているような気がしているのは確かだった。少なくとも支配被支配の関係ではない。
「僕は、そうだとは思っていません」
抗弁の口にレナが目を向けるが、すぐに、「あっ、そう」と無関心の顔になった。
「あたしからはそう見えるってだけだから。別に気にしなくてもいいんじゃない?」
「でも学んだ事もあるんです」
「学んだ事? 何それ?」
レナが興味深そうにユウキの顔を覗き込んでくる。ユウキは頬を掻きながら、「少なくともスクールの常識の通用する世界じゃない」と言った。
その言葉にレナは暫時、きょとんとしていたがやがて弾かれたように笑い出した。ベッドの上で笑い転げるレナを見やって、「そんなにおかしいですか?」と尋ねた。
「ええ、うん。……そうね。この状況にしては一級のジョークだと言っておくわ」
目の端の涙を拭って笑いを鎮めようとするも、レナはまだ笑っていた。ユウキは、「冗談のつもりじゃなかったんですけど」と返す。
「スクールの常識が全然通用しないばかりか、僕の持っていた常識の物差しはほとんどこの世界じゃ意味を成さない事を知りました」
「そうね。確かにここじゃ意味ないわね。リヴァイヴ団は悪の組織だから」
悪の組織、という事を内面から言うとここまで浮いた言葉になるのだろうか。レナが発したのはまるでシャボン玉のように取り留めのない言葉の一つに思えた。
「僕らは、悪なんでしょうか」
「悪でしょう。少なくとも世間からは」
ならば自ら悪に足を踏み入れた自分は何だ? 悪を成したくてリヴァイヴ団に入ったわけではない。ユウキが押し黙っていると、レナが読み取ったように、「あんたの目的はそれじゃないって事かしら?」と尋ねた。読みやすいのだろうか、とユウキは当惑する。
「どうでしょうか」という言葉で煙に巻こうとしても、レナは、「あんたは悪じゃないわ」と告げた。
「どこかで正義を成そうとしている感じがする。こんな、どうしようもない悪の組織に入っているのに」
「僕が、正義ですか?」
身に馴染みのない言葉にユウキは痒くなったような気がした。レナは、「別にあんたがヒーローだって言っているわけじゃないのよ」と補足する。
「ただ、目的が違うような気がする。あんた達ブレイブヘキサだけは、あたしが会ったリヴァイヴ団のどの団員とも違う方角を見ている。そんな気がしてならないの」
「買い被り過ぎですよ」
「そうかしら」とレナは首を傾げ、「そうかもね」と納得したようだった。
暫時、沈黙が降り立ち、ユウキは自分の中で言葉を決めた。
「レナさん」
「何?」
「ある計画があります。それに協力して欲しい」
「不利益じゃないんなら協力するのもいいけど」
ユウキは下唇を噛んで、「多分、いいほうには働かない」と正直に言った。
「でしょうね。あんたみたいな新入りが口に出す計画だもの。まともなものじゃないのは分かっているわ」
「ランポも了承済みです」
「またランポか。あんた達は本当、リーダーにお伺いを立てないと何も出来ないのね」
皮肉をユウキは受け止めながら、それでも言葉を続けた。
「三日後。ランポが演説をします。リヴァイヴ団のボスとして」
その言葉はさすがに衝撃的だったようでレナは目を見開いてユウキを見返した。ユウキは真実だという事を証明するために目を逸らさなかった。
「本気?」
レナが半分笑いながら、冗談で揉み消そうとする。しかし、現実は現実だった。
「本当です。ランポはボスとして矢面に立つ事になる。もうブレイブヘキサはあなたを守る事が出来ない。だから、僕があなたを守る事になった」
「新入り君に厄介事は任せたってわけか」
自嘲するようにレナは呟いて顔を伏せた。ユウキはそこから先を口にした。
「来る三日後に、僕があなたをリヴァイヴ団に引き渡す事になる」
「あたしの身の安全は?」
「それまでは僕が保障します」
「信用ならないわね」
口にされた言葉に、「それでも」と返すほかなかった。
「信用していただくしかありません。それで、三日後の引き渡しなんですか」
「何? どうせあたしは死ぬまでどことも知れぬ研究所で働かされるんでしょ」
「――僕があなたを連れ出します」
放たれた言葉が余程意外だったのか、レナは立ち上がって、「はぁ?」と聞き返した。
「どういう意味よ?」
「言葉通りです。僕はリヴァイヴ団に入る前にランポと約束した。この組織でのし上がり、世界を変えると。今が、その時なんです。あなたをボスに引き渡せば、ボスはあなたを酷使するか、そうでなければ秘密のために殺すでしょう。僕は、そうはさせたくない」
「……あたしを対ボス用の切り札にしようって言うの」
即座に理解したレナが声を発する。ユウキは頷いた。レナは前髪をかき上げ、何度か瞬きをしてから、「なるほどね」と口にする。
「あんたが他のリヴァイヴ団員と違うのがはっきり分かったわ。最初から裏切るつもりで入っていたわけね」
「僕達の計画に、乗ってくれますか?」
レナはベッドに腰かけ、息をついてユウキへと尋ねた。
「勝算はあるの?」
「腹心を黙らせるくらいには」
「その腹心だってどれくらい強いのか分からないじゃない。もしかしたらあんた程度、簡単に殺せてしまうかもしれない」
「僕は負けない」
「言葉ではどうとでも言えるわ」
レナは自分を落ち着けようと、息を吸っては吐いた。ユウキはじっとレナを見下ろしている。レナの決断待ちだった。急な決断を迫られてレナはパニックに近い状態だろう。気持ちを整理する時間が必要だった。レナは髪をかき上げて幾ばくか考えるように頷いた後、「……そうね」と口にした。
「もしボスにあたしが大人しく引き渡されたら、あんたの願いは叶わない。あんたにとってもあたしは切り札っていうわけか」
「理解が早くて助かります」
「早くて、じゃないわよ」
レナはユウキへと真っ直ぐな視線を寄越した。その眼差しを逃げずに受け止める。
「分かっているんでしょうね? これ、悪く転がればあんたは裏切り者よ。あたしだって殺されるかもしれない」
「協力するかしないかは、レナさんの自由です」
「自由と言っても、緩やかな死か、残酷な殺され方かを選べるだけじゃない。なに、あたしに全部かかっているって言うの?」
「そういうわけではありませんが、レナさんの意思を僕は知りたい。あなたの意思に反するような事はしたくない」
「よく言うわね」
レナはため息をついた。ユウキから顔を逸らして言葉を継ぐ。
「結局、あたしに選択権なんてないじゃない。今死ぬか、逃亡生活を選ぶかって事でしょう?」
「僕がボスを倒せば、逃亡生活なんて考えなくってもいい」
ユウキの言葉にレナは怪訝そうに声を返した。
「勝てる算段でもあるの?」
「いや、ないです」
「どういうつもりなの? あんたとランポは。どうせランポも一枚噛んでいるんでしょ? そうじゃなきゃ、あんたの一存だけでこんな思い切った作戦に出られるはずがないもの」
「ランポは誓いを果たそうとしてくれています。僕の夢に、命を賭けると」
「とんだ馬鹿ね」
レナは吐き捨てて立ち上がった。ユウキへとにじり寄る。ユウキは後ずさりそうになったが、何とか踏み止まった。
「男の夢に命を賭けるって? それに女を巻き込むの? あんた達おかしいわ。あたしの事を何だと思っているの?」
「僕は、仲間だと思っています」
ユウキの発した言葉にレナは、「呆れた!」と身を翻した。
「綺麗な言葉で飾り立てれば、何でも許されるって思っているんでしょ。現実はそうじゃない。あたしは研究者だからリアリストなの。男の夢想にほいほいついていくほど安い女のつもりもない」
レナはベッドにでんと座り、脚を組んだ。返す言葉もなかった。確かにランポと自分が企てた我侭で夢物語かもしれない。現実には決して届かない、意味のない虚構の城が自分達の組み上げてきたものだという主張も間違っていない。ユウキはしかし、ランポと自分が今までやってきた事が無駄だとは思えない。思いたくなかった。
「死と犠牲の果てに、僕達の命はあります」
「だから何? あたしにも父の死を自覚しろって?」
「そうじゃない」
いくらか強い調子の否定だった。その声音にレナは鼻を鳴らす。
「ただ僕らは随分と大切なものを失ってきた。誰だってそうです。だからこそ、希望を未来に繋げる必要があるんです」
「あんたの作り出す未来が正しいとは限らない」
レナの言葉は正論だった。自分の理想が皆の理想かどうかなど決して分からない。しかし、だからこそ重ね合える心が必要なのだ。
「理想は重ね合って初めて意味を成すんです。僕はランポの意志は継ぎたい。それだけは確かです」
「ランポの理想が正しいかも分からない」
ユウキはそれ以上言葉を重ねる事は出来なかった。あとはレナ次第だと思ったのだ。自分達を信じてくれるかどうか。一日や二日を共にした程度で信用しろというのは間違っているのかもしれない。断られても仕方がない、とユウキは顔を伏せた。レナが頬杖をついて横目でユウキを見やり、不機嫌そうに口にした。
「……分かったわよ。協力する」
「本当ですか?」
「ただし、あたしの生存を最優先にする。もし、ボスのほうが好条件を出してきたら、あたしはそっちになびく。それだけは忘れないで」
「それでも、認めてくださってありがとうございます」
ユウキは頭を下げた。レナが片手を振って、「大した事じゃない、でしょ」と口にした。自分の口癖を真似られ、ユウキが顔を上げるとレナが口元を緩めていた。
「いちいちあんたのお礼なんていらないわよ。ただあたしも、男の浪漫についていくような薄っぺらい女になっちゃったって事かな」
自分を皮肉った言葉に、ユウキは、「レナさんはそんな女性じゃないですよ」と返した。
「いいわよ。お世辞なんて。あんたに言われても嬉しくないし」
「僕が言いたいから言うんです。それだけだから――」
「大した事じゃないです、って?」
先回りして継がれた言葉にユウキは暫時唖然としていたが、レナが、「間抜け面」とユウキを指差して形容した。ユウキは佇まいを正して、「三日後まであなたを護衛します」と言葉を発した。
「そこから先の保障は出来ません。もしかしたら過酷な道になるかもしれない。ランポが戦力を回してくれるという話ですが」
「当てにしないほうがいいんじゃない? ランポも急がしそうだし」
レナは爪を眺めながら応じた。ランポはどこまでボスに近づけるだろう、と考える。今のところ声すらも聞いていないのならば、ひょっとすると自分達のほうがボスへと近づける可能性が高いかもしれない。
レナが立ち上がった。怪訝そうに見つめていると、「シャワーよ」と口にした。
「シャワー浴びてくるから、適当に待っていて」
レナがキャリーケースから着替えを取り出し、シャワールームへと歩いていく。扉を開けて入る直前、ユウキへと言葉を投げた。
「あたしの荷物には指一本触らない事」
「はい」
「あと覗くな。当たり前だけど」
「はい」
ユウキが恭しく頭を下げると、レナは鼻を鳴らしてシャワールームに入って行った。ユウキは直立不動も疲れるので、近くの椅子を引きずってきて腰かけた。シャワーの水音が聞こえてくる。考えまいとしても、脳裏にレナの肢体が浮かんでくる。ユウキは、「耳に毒だな」と呟いて、窓の外を眺めた。晴天の下でビルの群れが乱立し、三日後の事など露知らぬ人々が忙しなく行き交っている。
「三日後。この街がどうなるか……」
全く予想がつかない事に、ユウキはため息をついた。