エピローグW
――起きろ、ユウキ。
見知った声にまどろみの知覚が揺り起こされた。閉ざしかけた目を開き、声の主を捜すが、その知覚に割り込んできた声は判然としないまま消え失せていく。
「……誰だ」
呟くと、何かが蛍火のような光を灯した。その光がゆらり、ゆらりと揺れて、ふらふらと頼りなく自分の前を通り過ぎていく。ユウキはそれを感知野ではなく、現実の眼で認識した。
「……ヌケニン」
ヌケニンが加速の先にある闇の断崖へと達してきている。不可能なはずだ、と考える反面、テッカニンの半身ならば不可能ではない、と思う自分がいる。ヌケニンがユウキの目の前まで来ると、身を翻した。まるで、付いて来いとでも言うように。その枯れ枝のような身体から声が発した。
――ユウキ、戻って来い!
――必ず、帰ってくる。
テクワやマキシ、レナやキーリの声が重なる。しかし、加速の先に至ってしまった自分には最早帰り道など分からない。このまま闇に漂えたら、と考えていると、両肩に体温を感じた。視線を振り向けると、金髪の男とKがそれぞれユウキの肩を掴んでいた。金髪の男は優しげな微笑みを投げている。その男がFである事は直感的に分かった。Kは慈しみの眼をユウキへと向けていた。
――僕達の娘を頼む。
――あなたは私達の希望。
二人がユウキの背中を押す。こちらに来てはならないと、彼らは二人して闇の中に不意に開いた光の向こう側へと消えて行った。その光の亀裂にはエドガーやミツヤ、ランポの姿が見え隠れする。ユウキもそちらへと赴こうとしたがランポが頭を振った。
――忘れたか、ユウキ。俺達の、黄金の夢を。その続きを、お前は綴るんだ。
ランポが身を翻す。それが別れの合図だった。亀裂が閉じ、再び常闇の中へと放り込まれる。ユウキはヌケニンの鳴き声を聞いた。ヌケニンは滅多に鳴かない。その声は現実へと導く声だった。
ユウキはヌケニンに従って闇を掻いて泳ぎ出した。ユウキはヌケニンの背中に続く。
「帰らなくちゃ。みんなのところへ」
運命の使者に導かれ、ユウキは加速の闇から現実の光へと歩み出した。それは明日へと続く一歩だった。