あとがき
あとがきという形でははじめまして、オンドゥル大使です。
拙作、『ポケットモンスターHEXA』よりもこちらが先に完結してしまいました。どうしてこうなったのか。
本来ならばあとがきなど必要がないのがいい小説の醍醐味であり、あとがきを書くのは言い訳がましいかもしれませんが、この短編集『黒竜落涙譚』には思うところがあるので書き連ねたいと思います。
そもそもこの『黒竜落涙譚』をどうして書こうと思ったのか、というところから紐解いていきましょう。元々、ポケモン二次短編には手を出さないつもりでした。私は短編まで手を出してうまくいくような気がしませんでしたし、そもそも長編もうまくいっていません……。しかし、このポケノベ様にて企画、「ポケノベ文合せ春の陣」というものが開催され、僭越ながら私も参加させていただきました。この時、私は少し行き詰まりを感じており、突破口になれば、と思って書きました。三時間を要して書いた作品は企画において十一位をいただきました。それが『神速の旗』です。この『神速の旗』、意想外のところから好評をいただきまして、「ならばこれを改めて発表する機会を設ければどうか」と感じました。しかし、私はチャット内で豪語してしまったのです。「リメイクはしない」と――。
男に二言はありません。ならば、ただ単にリメイクするのは絶対にあってはいけない、そう感じました。それは読者に対して、何よりも自分を裏切る行為だと。
ならば、「『神速の旗』以外の作品も抱き合わせて発表すれば、それは新作になるのではないか?」という発想に至りました。
屁理屈です。
法の抜け目を利用したあくどい考えといえましょう。しかし、それならば自分も裏切らないし、読者の方にも目新しさを提供できる。一石二鳥と言うわけです。しかし、そのためには完全新作の短編を書かねばなりません。ちょうど、本業の合間を縫って書くのが一つのスタイルとなりつつあったので、三日程度で三本を書きました。それが表題作『黒竜落涙譚』と『樹王』、『炎魔襲来』です。これには実は元ネタがありまして、田中芳樹先生の『黒竜潬異聞』にある短編のプロットです。
私はインプットをすると同量アウトプットしなければならないという悪癖があります。だから、吸収したものは放出しなければ気が済みません。
堅苦しい漢語体のような文章は完全に放出のための作業でした。『黒竜落涙譚』の舞台はホウエンですが、半ば中国の漢文のような趣を出したいと思っていました。それが出ていれば幸いです。
まずは新作、その気持ちが最初にあったので、『黒竜落涙譚』で『神速の旗』とは違う実力を出し、あとは自分の思うままにやっていこうと思いました。小賢しく、新作、という部分にこだわったのです。
『神速の旗』については少しだけ企画参加時と変えてある部分があります。純粋にミスの部分です。ですが、リメイクをしないと豪語したので、新作のほうを多くすればこれは新作になるのではないか、という考えです。
ちなみに『神速の旗』の舞台はイッシュです。イッシュを匂わすガジェットはありませんが、なんとなくインディアンの感じが出たのではないかと思っています。神速の獣はいわずもがな、ウィンディです。神速を使ってくるポケモンといえばこれだろう、というイメージがありました。
『樹王』はシンオウです。これは作品中で言っていますが、この時点で今までの五世代を合わせて五つの作品群にすることは決めてました。結果的にホウエン、イッシュ、シンオウ、ジョウト、カントーの順になりました。これは蛇足かもしれませんが、動いている巨大なポケモンは色違いドダイトスです。針葉樹と広葉樹がテンガン山を境に分かれている、という設定から思いつきました。
『炎魔襲来』は実は一番気に入っています。これの元プロットは田中芳樹先生の『黒道兇日の女』というものです。骨組みはいただきましたが、結構別物になりました。過去のジョウトを舞台にしました。これも若干、漢文風味です。
劇中に出てくる炎の魔獣はバクフーンです。元々、「バクフーンを出したいなー。あと美少女も出したいなー」と漠然と考えていたので、バクフーンの図鑑説明に暗殺を匂わせる設定があった時には運命を感じました。
最後に『雑音異聞』。これは数合わせです。本来は『炎魔襲来』で終わらせ、次に「炎魔の章」というものに入ろうと考えていましたが、それでは短編集の体を崩すので別作品として用意しております。
カントーのラジオ塔については多分、前例があるだろうと思いましたが、一番とっつきやすそうなので選びました。出てくる謎の祈祷師、エシのモデルは某アニメに出てくる薬売りです。ドーブルを出すのも即興で決めたのでこれは一時間半程度で完成しました。割と気に入っています。
この短編集で様々なキャラクターが現れました。ライカ、シャクエン、エシという名前のある魅力的なキャラクター。その中でもシャクエンはとても気に入っていますのでまた次の機会に出したいと思っております。これはもう完成しております。
『F』という中篇になります。出てきた炎魔がメインのストーリー軸になっていきます。ちなみに誤魔化しが利かないのでR15になりそうです。
キャラクターを作って動かすのが楽しく、そもそも小説を書くのが楽しくって堪らない。小説を書くことの不満を解消するのが小説を書くことという循環思考を持っているので、色々と掘り下げられれば掘り下げたいです。
今回の短編集はかなり勉強になりました。自分では決して踏み込まないであろうポケ二次短編と言う道に踏み込めたのはかなり大きな経験になりました。特に企画時に『神速の旗』に投票してくださった方々、感想を下さった方々には大変感謝しております。
まだ『ポケットモンスターHEXA』が終わっていないのですが近いうちに新作、『F』を発表したいと思っております。
ポケモン伝奇というジャンルは多分、今までもあったでしょうが自分で本格的にやれて満足しています。伝奇作品は大好きなので機会があればさらに深めたいです。
ここまで読んでくださった方には最大の感謝を。面白い作品を書けるようにこれからも精進していきたいと思います。
2013年5月28日 オンドゥル大使より。