第五十二話 輝け、Zの鼓動
「貴様……! ジガルデコアか! だがもう間に合うまい!」
ゼラオラの放つ一撃を前にルガルガンが赤い眼光を向け、その手を翳していた。
瞬間、ルガルガンへと散らばったデブリ岩礁が一斉に迫る。まさかの全方位よりの攻撃にゼラオラがうろたえ、そしてその身に岩の攻撃を突き刺さらせていた。
「何が……何をした!」
「ルガルガンに弱点があるとすれば、それは技の構築までにかかるロスだ。そして、相手へと接近しなけりゃならねぇ。加えてオレの偏在化させた特性、ノーガードにより、ルガルガンへと全ての攻撃は因果を捻じ曲げて命中する。しかし、それはここまでエイジがお膳立てしてくれたこのフィールドに関しても例外じゃねぇ。エイジは分かっていた。メテノのもたらしたこの――岩で満たされたデブリ帯を。ここがゾーンじゃなく、通常空間であったのなら、無重力みてぇな状態にはならず、岩もそこいらで転がっているだけだっただろうさ。だが、ここはジガルデの保有するエネルギー宇宙だ。岩は重力の楔から自由になり、浮かび上がっている。周辺に浮かんだ岩を操るのは、不可能じゃねぇよな。この技なら」
ルガルガンの手の中へと岩が一斉に集まっていく。その風圧に岩の旋風が巻き起こった。ゼラオラは全身に裂傷を作る。
「この岩の烈風が狙いか! だがそれさえも小手先だ! ゼラオラ! 電気エネルギーで身を護れ! 身体に纏った高密度の電流がお前を保護する!」
ゼラオラが吼え立て、蒼い電流を鎧のように身に纏う。その電流の鎧を前に、ルガルガンの岩石の集約は意味を成さない――そう、相手は思い込むはずだ。
しかしルガルガンの手に構築されていくのは単純な岩のエネルギーではない。周囲に分散した岩を一斉に組み換え、そして再構築したのは岩の巨大な槍であった。四本の岩の槍がゼラオラを狙い澄ます。
「狙いは……岩の風じゃ、ない……」
「エイジはこの好条件を作るために、メテノの装甲を砕き、そして周囲にばら撒いてきた。確かにオレだけならこの勝利は導けなかっただろうな。エイジとオレ、お互いが何をするのかをギリギリまで予見出来ないからこそ、テメェのジャックジェネラルとしての格に左右されなかった。ある意味じゃ、悪足掻きが見出した、活路だよ。ルガルガン、渾身のZ技だ」
ダムドが片腕を掲げる。その手にはZクリスタルが握られており、ダムドの瞳より放たれた青い「Z」の因子が飛び交い、Zクリスタルを介してルガルガンへと注ぎ込まれた。ルガルガンの体表が照り輝き、その眼光が赤く染まった。
咆哮と共に舞い降りたのは月夜だ。
静謐の満月がゼラオラを睥睨する。暗黒を貫通する黄金の視線が、ゼラオラを縫い止めていた。
「これは……! 動けん……!」
「確実に、そして確定で当たる距離まで引き寄せたんだ。オレのコアの力も使って、絶対に完遂させるぜ、エイジ。オレと! ルガルガンの放つゼンリョクのZ技!」
岩石の槍の穂先がゼラオラへと向けられる。その攻撃照準にゼラオラは両手より稲光を迸らせた。
「Z技……ポケモンとの深い信頼と、そしてジェネラルとしての実力がなければ実行不可能な大技か。だが! 俺とゼラオラの纏う雷光は! その大技さえも阻むであろう!」
確かに。ゼラオラが如何にこの静寂の月に魅入られたとしても、その装甲を砕けるかまではほとんど運次第。しかし、この時、エイジはダムドとルガルガンを信じていた。
信じる事でのみ、発揮される力がある。その時にだけ、微笑む勝利の女神が。
エイジはダムドの内奥で口にしていた。
(……信じるぞ、ダムド)
「任せとけ、エイジ。絶対にぶち当てる! 食らい知れ!」
ルガルガンが両腕を広げる。その赤い眼差しの導く矛先がゼラオラを見据えていた。ゼラオラの雷の壁が屹立する。
「来い! 完全に防いでみせる!」
「――ラジアルエッジ、ストーム!」
岩石の槍が一挙に放たれ、ゼラオラを挟み込む。ルガルガンが飛び込み、巨大な岩石の槍を打ち砕いていた。
幾千、幾億の散弾が殺到し、ゼラオラの全身を震わせる。ここに来るまで、メテノの「ボディパージ」によるデブリ攻撃も受けたはずだ。
相手も相当に疲弊している。
それでも、この渾身の一打、どう受けるか――。
ダムドは満身より叫んでいた。
「届けぇ――ッ!」
ゼラオラの腕に構築された雷撃がその時、最大出力に達し、巨大な稲妻の柱が立つ。
「ゼラオラ……最大出力で応戦する! 十万、ボルトォッ!」
ゼラオラの体内に充填された青い瞬きが一射され、こちらの最大のZ技「ラジアルエッジストーム」の応酬を受け止める。
互いに熾烈を極めたこの戦いの行方は誰にも知れない。
最大級の技がぶつかり合い、直後――膨大な光の瀑布が視界を押し包んでいた。
ポケモンのエネルギーの最大の高まりがゾーンの内在エネルギーと呼応し、爆発的に高まったのである。
白熱化する視野の中、エイジはただ信じた。
己の手持ちが誇る最大の功績を。
レオンもただただ見据えるしかないらしい。
ダムドはその中でも落ち着き払い、そして口走っていた。
「……限界か」