第四十一話 争いへの前奏曲
マイナンが心配そうにこちらへとちらちらと視線を寄越す。それをネネはずっと無視していたが、それも辛くなって声を投げていた。
裏路地から表通りを抜け、川沿いに進んでいる。
川のせせらぎは間違いなく故郷のそれであったが、しかしもう決別すると決めた音色でもあった。
「……どうして、ノノってばあんなにも簡単に受け入れられちゃうんだろ……。ネネには分かんないよ……」
助けられたとは言っても、不明な要素が多い相手をどうして家に招くなんて事を仕出かしたのだろう。それも看過出来なかった。
元々、自分達二人の旅は破綻が近づいており、その解消の糸口を見つけるため、カエンシティに戻る、という口実であったはずだ。
もちろん、実力不足は嫌と言うほど分かっている。それでも、ネネ個人はジェネラルとしても道を諦めたくなかった。
まだ旅をして夢見るままでいたかったのに、ノノは早々に見切りをつけたのだ。
――ここで無理なら帰ろう。
ネネは時折、姉の見せるそういう手前勝手な割り切りの良さに苛立つ事が多々あった。どうして双子なのにこうも違うのか。
ポケモンの実力は伯仲なのに、それでも性格面がまるで異なっていた。
同じ家で育ち、同じ環境で身を置いてきたはずが、いつの間にか見ているものが違っていたのだろう。
ネネは河原に歩み出て石を手に取る。丸みを帯びた石を投げ、水を切った。
それでも気は晴れてくれない。エイジとリッカを別段、歓迎していないわけではない。ただ、この重要な局面で誰かを自分達の事情に立ち入らせられるノノの精神が理解出来ないだけ。
「……結局、ワガママなのかな。ネネは」
マイナンが慰めようと近寄りかけて、不意にその電気袋に警戒の電流を走らせる。相棒のその様子にネネは何かを悟っていた。
「……何か来るの? 野生?」
否、野生の群生地は完全に排除され、街中では野生ポケモンは裏路地以外には出現しないはず。
ならば、何が、とうろたえたネネは河原より出現した緑色のゲル状物体に目を戦慄かせていた。
ゲル状のそれが空間を奔り、瞬時に自分へと衝突する。
胸元を貫かれたと思った一撃はしかし、何も影響を及ぼしていなかった。ただ、何かの脈動を感じる。それだけは確かだ。
「……何だったの?」
問いかけにマイナンは威嚇したままである。まだ、何かあると言うのか、と視線を巡らせた直後、その視線がかち合ったのは先ほどのギンガ団の下っ端三人組であった。
まだこの街に、と構えかけて、不意にネネは膝を折る。
何かの脈動が身体に熱を生じさせていた。
「これ、何……?」
「さっきのガキじゃねぇか。こいつはちょうどいい、苛立っていたところなんだ。あんなクソガキにしてやられてな!」
繰り出されたミルホッグが瞬時に催眠術の光を放つ。マイナンで防御する前にネネの意識は昏倒していた。
その意識の表層で耳朶が拾い上げる。
「エサにはちょうどいい。あのガキに、思い知らせてやる」
それを最後にネネの意識は闇に落ちていた。