ANNIHILATOR













小説トップ
深化篇
EPISODE95 玉座

 涙は見せまい。

 それは戦士としての誇りを意味していた。

 ヨハネは素直に泣けていた。彼が羨ましい側面もある。

 こちらの顔を覗き込んでくる相棒にコルニは頭を振った。

「……駄目だね。アタシ、ヨハネにあんな事言っておいて、こんな顔見せられないよ」

 突き放すしかなかった。そうしないといつまでも甘えてしまいそうで。

 ヨハネに抱きついて泣きじゃくればよかったのだろうか。一人では不安だと。一緒に戦ってくれと。

 しかし、それは復讐者としてこの街に降り立った時点から許されない思いであった。

 自分は最後の最後、たった一人になるまで戦わなければならない。それが運命なのだ。

 戦いを始めた側のケジメでもあり、何よりも自分を最後の最後に許すのには必要なのであった。

「〈チャコ〉……、ゴメンね。弱い主人でゴメンね……」

 しかしルチャブルは少しもたじろがない。そういえばルチャブルは元々祖父のものなのだ。

 自分の幼少時より見ていた彼の眼からしてみればまだ子供なのだろう。

 子供が子供のまま、ただ復讐心に駆られて行動している。危なっかしく見えるのかもしれない。

「でも、アタシは止まる事を許されていない。一度発せられた矢は、相手の胸元に突き刺さるのが筋だ」

 降下を始めたルチャブルと共にコルニは涙を拭った。もう泣くまい。

 ホロキャスターに映るのはクセロシキからもたらされた新たなる侵入口だ。

 ファウストを信用していないわけではなかったが、二重三重の策を巡らせるのは当然の事。

 その通用口はミアレ美術館の裏側にあった。エレベーターが存在している事にここの職員は気づかないのだろうか。茂みを取り払うと小さなボタンがあり、それを押すとそのまま地面が落ち窪むのだ。

 簡易式エレベーターに揺すられながらコルニは思い返す。

 この街に来てから、自分の境遇だけが最悪でない事を知った。

 自分だけを呪うのは愚者の行いだ。マチエール――エスプリという戦い方を知り、ユリーカやヨハネに助けられ自分はようやくここまで来られた。

 自分一人で立っているわけではない。人は錯覚しがちだが、自分一人で立っている事など、あり得ないのだ。

 必ず、誰かの力添えがある。

 コルニは胸に刻んだその意志を携えて最下層へと降り立った。

 フレア団の中でも限られた人間しか入れない、玉座、と呼ばれる間。

 カードキーを通すとその部屋に続く隔壁が重々しい音を立てて開いていく。

 これからなのだ、とコルニは感じる。

 復讐を遂げてから、自分の人生はようやく始まる。

 ヨハネと一緒の道を辿るのか、それとも一人で行くのかは分からない。

 ただ、誰かと連れ添うのも悪くはない。以前までよりも前向きに感じられる。

 視界に入ったのは赤く縁取られた、溶岩流のような灼熱の部屋であった。

 最奥には玉座と呼ぶに相応しい椅子がある。その場所まで、何かの気配がないか探った。

「〈チャコ〉……、見破る」

「みやぶる」を使えば相手が何かを仕掛けている場合、それが露見する。今までのフレア団の詰所に仕掛ける場合はこれを使ってきた。

 しかし、ルチャブルは首を横に振る。

 この場所に、仕掛けなどの小細工はない、という事であった。

 歩みを進める。

 最奥に佇む人影に気がついた。あれが、自分の仇。

「炎の女……、フレア団、ナンバーツー」

 そのはず――であった。

 しかし、眼前にいたのはどう見ても……女ではない。

 太陽のような鬣をした、男であった。

「来たか……」

 重々しいその声音にコルニはハッとする。

 何だこれは……。何が起こっている?

 男は玉座から身体を持ち上げるなり、フッと自嘲する。

「何者かの仕向けた罠か。それとも僥倖、と呼ぶべきかな。君らのほうから、わたしに近づいてくるとは。いつかは、決着をつけねば、と思っていた。それを、今に推し進めてくれた事、感謝する」

 コルニは足を止めていた。

 ――違う。

 何か、決定的な間違いを犯している。

 しかし、逃げ場はない。

 隔壁も閉じてしまった。

 この場所で、王の威容を持つ男と対峙するほかなかった。

「お前は……誰だ」

 自分の仇ではない。男はアタッシュケースを携えて深く笑みを刻んだ。

「フレア団の王。名をフラダリ」

 王? 

 コルニは混乱する。

 自分はナンバーツーと戦うはずだ。何故、トップと相対している。

 その混乱が伝わったのか、それとも別の形であったのか、フラダリと名乗った男はアタッシュケースを持ち上げる。

「君も、はめられたようだな。わたしも、そうみたいだ。これの性能試験のために、三級フレア団員が戦闘に来ると言われたから、玉座で待っていたものを。君が来るとは予想外だよ、シャラシティのコルニ。いいや、反逆者イグニス、と呼んだほうがいいか」

 この場においてハッキリしている事があるとすれば、それはただ一つ。

 お互いに相手が敵である。

 それだけであった。

「……アタシも、よく分からない。でも、いずれは戦う事になっただろう。なら、駒を進めてくれた事に感謝する!」

 アタッシュケースを直上に放り投げる。コルニはバックルを腰に装着していた。

「Eフレーム、イグニッション!」

 中空でアタッシュケースが割れて内部から黒い鎧が放出され、暴風を生み出す。その台風の目の中で、コルニは鎧を身に纏い、全身から蒼い光を放出した。

 デュアルアイセンサーのマスクが装着され、最後に水色のバイザーが降りる。

 内部の二つの眼窩が蒼く煌いた。

「閃光闘者、イグニス! 命、爆発!」

 変身を終えたイグニスに対して、相手はあまりにも無防備であった。今ならば取れる、とイグニスは予感し、ホルダーからチップを取り出す。

『フライングユニゾン、ファイティングユニゾン、ツインエレメントトラッシュ』

 一気に勝負をかけるつもりであった。

 翼を顕現させたイグニスは飛翔する。

 直上を取った形のイグニスは宙返りを決めながら踵を高く上げた。

 必勝の形である。

 イグニスの蒼い炎が全身から放出され、血潮のように迸る。

 今まさに、イグニスは翼を得た。その翼の生み出す飛翔と跳躍。

 必殺の勢いを伴わせた攻撃が叩き込まれようとする。

「必殺! ローリング、踵、落としィッ!」

 その威力はEアームズを軽く破壊する。だからこそ、これを受けた存在などいなかった。

 ――今、この場までは。

「ローリング踵落としか。フライングユニゾン、ファイティングユニゾンを二重に使った、イグニスの必殺技。しかし、つまらんな、わたしに受け止められてしまうのだから」

 フラダリが片手を掲げる。それだけの動作だ。受け止める、と言えば全身を使うものである。

 しかし、この男はただ単に片腕を掲げただけでイグニスの必勝形を――止めた。

 イグニスには何が起こったのか分からなかった。

 現象でさえも及び腰になったかのように遅れて土煙が舞い上がり、地面が捲れる。

 その攻撃の威力は確かにフラダリに打ち込まれたはずであった。

 しかし、当の本人にはまるで力など宿っていない。

 たった一発の、取るに足らない踵落としであるかのように……。

「受けた、だって……」

 バイザーの奥で眼を戦慄かせるコルニに、フラダリは呟く。

「閃光闘者、イグニスと言ったか。つまらないぞ。この程度だとはな。拍子抜けと、言ってやってもいい」

 イグニスの判断が適切であったのは、もう片方の足で蹴りつけて即座に距離を取った事であった。

 そうでなければ、出現したポケモンに片腕くらいは持っていかれていただろう。

 イグニスはいつの間にか現れていたポケモンを目にする。

 水色の鱗は赤い壁面の光を反射させて艶めいている。巨大な口腔と、それに見合うかのような巨躯。龍の威容を漂わせるそれの名をフラダリは紡いだ。

「ギャラドス。わたしの、エースポケモンだ」

 ただのポケモンに過ぎない。今までも戦ってきた。

 しかし、この背筋を刺す冷たさは何だ?

 ギャラドス単体で何が出来るとも思えないのに、どうしてだかその威容にたじろいでいる自分がいる。

「ギャラドスだけでは、そのルチャブルと同程度か。いや、トレーナーならば一度くらいは、無理を承知でも戦ってみるのが定石」

 弾かれたようにギャラドスがこちらへと猪突する。咄嗟に前に出たのはルチャブルであった。

 ギャラドスの身体が赤く染まり、燐光が発せられる。逆鱗であった。その逆鱗を、真正面からルチャブルは受け止める。

 片腕でいなし、もう片方の腕を拳に変えてギャラドスの下顎へと叩き込んだ。

 格闘技ではルチャブルに比肩するはずもない。

 そう感じていたが、さほど効果がないようであった。

「ギャラドス、飛行タイプなのか……」

 そう判じた時には、ルチャブルは突き飛ばされていた。逆鱗の膂力は決して馬鹿に出来ない。

「〈チャコ〉!」

「受け止めた、その勢いはよし。しかし、タイプ相性も頭に入っていないのか?」

 フラダリは余裕の面持ちを崩さない。イグニスは吼えていた。両腕にチップを埋め込み、ユニゾンを顕現させる。

『コンプリート。エレクトリックユニゾン』の音声と両腕のブレードが開いたのは同時だった。

 電気を纏い付かせた刃がギャラドスを退かせる。ルチャブルの様子を見やったが、それほどの威力は受けていないらしい。

「よかった、〈チャコ〉……」

「電気を操る。それは我がギャラドスには少しばかりまずい、な。さて、トレーナーも参戦した事だ。わたしも、これを使うか」

 フラダリが突き出したのはアタッシュケースである。そこから先ほど、赤い鎧が放出されたのであった。

 その鎧がこちらの必殺技を受けた。右腕に手甲のように取り付けられた赤い鎧が内部に血潮を滾らせて疼く。

「行くぞ。Eフレーム、着装」

 その言葉を嚆矢としてアタッシュケースが開き、赤い鎧が宙を舞う。それぞれ銀色の線を描きながらフラダリへと装着された。

 その姿はまさしく獅子であった。

 赤と銀の獅子である。

 マスクの形状は牙のようになっており、最後に緑色のバイザーが降りた。

 全身から蒸気を放ち、その獅子は咆哮する。

『フレアエンペラースーツ。コンプリート』

「エンペラースーツ、だって……?」

「そう、これこそが、帝王のEスーツだ。わたしのみが着装を許されたスーツであり、君ら凡俗と隔てる最強のスーツでもある」

 フラダリが手を払う。それだけで、位相が変換した。ギャラドスの周囲の空間がねじれ、紫色のエネルギーの甲殻が纏いつく。

 直後にエネルギーを放出したギャラドスは全く別の姿になっていた。

 黒い真珠のような意匠を体表に持つ巨大な龍である。

 先ほどまでよりもより攻撃的に変化した姿にイグニスは呻いた。

「まさか、それは……」

「メガシンカシステムも平常通り。君の祖父から得たメガシンカの技術の結晶。素晴らしいよ」

 フラダリの手甲にはメガストーンと呼応するキーストーンが埋め込まれている。そしてそれは、紛れもない……。

「じィちゃんの、キーストーンを……」

「コンコンブル氏は偉大であった。フレア団に最大貢献をしてくれた事、感謝する」

 直後には思考が白熱化していた。

 祖父を侮辱された。否。

 自分を侮辱された。それも否。

 メガシンカを守り、受け継いでいった継承者の、今までの血筋全てを、完全否定された。

 その憎しみ、怒りがイグニスの全身から憤怒の蒼い炎を放出させていた。

 ルチャブルが弱々しく鳴く。

 それほどまでに、今のイグニスには目の前の敵が何であろうと、関係がない。

 噛み付き、踏みしだき、その尊厳を破壊するまで止まない、暴力のみがその身を支配していた。

「よかろう。来い。いずれは超える壁だ」

 イグニスが吼えた瞬間には、その姿は掻き消えている。

 フラダリの直上にあった。

 ユニゾンの音声が多重に鳴り響く。

『エレクトリックユニゾン。エレメントトラッシュ』

 片腕に凝縮された電気エネルギーをイグニスがギャラドスに放つ。しかし、それは雲散霧消した。

 何故、と問うまでもない。継承者のキーストーンでメガシンカした、メガギャラドスである。

 それほどの力の内包は予感していた。だというのに、無策に飛び込んだ。

「やれ。メガギャラドス。龍の舞から繋げ、逆鱗」

 メガギャラドスがイグニスの攻撃を受け止めたまま、その身体で陣を構築させる。

 円弧を描き、自らの尻尾を噛み付こうとしなる身体に黄金の血潮が宿った。

 その勢いにイグニスは突き飛ばされる。

 先ほどまでよりもより鋭敏化したメガギャラドスの攻撃が来る。その予感はあるのに、身体は動かない。

 メガギャラドスが弾丸のように自らを縮こまらせる。

 直後に弾けたその威力。推し量る以上であった。

 光かと見紛うほどの速度でイグニスの身体へと追突してくる。逆鱗の威力が手伝い、Eスーツの人工筋肉が全て、過負荷を引き起こした。

 そのまま隔壁に突撃されていれば、背骨を叩き折られていただろう。

 そうならなかったのは横合いから飛び込んだルチャブルの蹴りのお陰であった。

 ルチャブルの回し蹴りがメガギャラドスの勢いを弱めたせいか、イグニスは即死を免れた形となったが、それでも全てのステータスはレッドゾーンを示している。

 心肺機能低下。人造筋肉の八割が破損。修復不可能。

 次々と眼前に表示されるステータスを追い切る前に、メガギャラドスが尻尾でルチャブルを薙ぎ払った。

 ルチャブルが壁にめり込む。

〈チャコ〉、と声にしようとしたが、その代わりにバイザーの奥で吐血する。

 Eスーツでも減殺し切れない攻撃であったのだ。よろめくイグニスはルチャブルへと歩み寄るフラダリを止める事も出来ない。

「いいポケモンだ。育てられているし、いざとなれば主の盾になるのも厭わない。あの時と同じく、気高いポケモンなのだと認識するよ」

 ――こいつも、じィちゃんの死んだ時、いたのか?

 疑問を発しようにも身体が言う事を利かない。

「わたしも、とても痛ましい。こうして無駄に死んでいく命なんて、あってはならないのだ。本来、この世界はとても美しいものであると思っている。それを担うのは人間とポケモンの共存。何よりも、美しい世界を守ろうとする抑止力があった。……かつては、の話だがね」

 言葉尻の声音だけでもイグニスは怖気づいた。この男の秘める闇が露出する。

 フラダリはルチャブルの肩に指を添わせたかと思うと、不意打ち気味にその肩を指先で突いた。

 本来ならば何の威力も発しないはずのそれが、ルチャブルの肩口を射抜く。

 イグニスは起き上がろうとするが、Eスーツが逆に足枷となって動けない。

「わたしは平和が好きなんだ。博愛主義と言い換えてもいい。争い事は好まないし、平和が何よりも一番だと考えている。ただ、この世には避けようのない争いが存在する。宗教、人民、思想、地方……。それぞれの思惑が一致し、完全なる一個体になる事など存在し得ない。ポケモンも人も、同様だ。どちらかが純粋なわけでもない。子供が優れてイノセンスな側面を持っているわけではないように。いや、ともすれば過ぎたる純粋は、悪とさして変わりないように」

 その指が今度はルチャブルの額へと向けられた。イグニスはEスーツのバックルへと手を当て、バイザーを上げる。

「やめろ!」

 ようやく発した制止は、血と一緒こたになっていた。どこが破れているのかも分からない。

 それほどまでに、ボロボロであった。

 身も心も、これ以上ないほどに屈服させられている。

「君は、ポケモンが好きかね?」

 だからか、その質問は酷く浮いて聞こえた。この男は何を言っているのだ。

「今一度、問う。ポケモンは好きかね? この世界に生きるポケモンは美しく、伸びやかだと思うか?」

 イグニスは最早、それに答えるだけの体力も残っていない。しかし、地面に爪を立て、抗う素振りを見せた。

 フラダリは解せない、とでも言うように首を横に振る。

「わたしはね、もうこの世に美しいものなど残っていないのだと知った。知っているのだ。このカロス、かつては隆盛を誇り、美しき博愛と慈愛に満ちた存在がいた。しかし、今、この世界には美しさの欠片もなく、優しさなど一滴も存在し得ない。この世は残酷な、闇の時代に突入しているのだ。それを民草は知らない。不幸だ、とは思う。しかし同時に、民は知らなくともいいのではないか。わたしや、我々フレア団が民を導き、正しき方向へと向かわせる。そのために、君達には犠牲になってもらおう。尊い犠牲だ。その命の輝きはどこまでも人と人との間にあるものを蘇らせるだろう」

 フラダリがルチャブルの額に指を当てる。直後に攻撃が放たれると、コルニは予感した。

 しかし、身体が動かない。どうしようもないのだ。

 Eスーツが軋み、能力の限界点を訴える。それでも――。

 ブレードを展開したコルニはチップを埋め込んだ。一つのユニゾンチップを埋め込む箇所に、一気に三つのチップを込める。

『コンプリート。スティールユニゾン、ファイティングユニゾン、エレクトリックユニゾン』

 ――届け。

 ブレードが腕から切り離された瞬間、属性を纏ってフラダリへと投擲される。フラダリが反射的に手を払い、それを受け止めた。

 その隙にルチャブルが離脱していた。

 これでいい。これで、自分の相棒は死なずに済んだ。

「驚いたな。まだ、こんな抵抗をする気力があるなんて。だが、ここまでだ。禍根は全て終わらせる」

 フラダリがキーストーンの埋め込まれた手甲をバックルに翳す。

 その瞬間、キーストーンが脈動した。光り輝き、赤い血潮が宿る。

 メガギャラドスが口腔を開く。オレンジ色の粒子が収束し、直後に瞬いた。

「メガギャラドス。破壊光線」

 視界を埋め尽くす光条が放たれ、コルニの意識を全て拭い去っていった。

 意識が消失点の向こう側に消え失せる。

 放たれた破壊光線の熱を感じた直後、脳裏に過ぎったのはヨハネとの約束であった。

「ゴメン……約束、守れそうにない」

 最後の最後に口にした言葉は誰にも聞きとめられる事はなく――。

 イグニスの鎧が融かされ、白い光が埋め尽くした。













「美しいものだけが残り、美しくないものは消え去る。それが世の理だ」

 歩み出たフラダリは着弾点を凝視する。

 塵さえも残っていない。イグニスは完全に消滅した。

 通信を繋ぐ。すぐに相手は出た。

「わたしだ。とても素晴らしい力だよ。シトロン主任」

『それは何より。ぼくの造り上げたEスーツは無敵だろう』

「この力を使い、わたしは美しいものだけを救済する。醜いものは全て、この世に存在する事さえも許されないだろう」

 獅子のスーツを身に纏ったフラダリが宣言する。

 その言葉にはいささかの躊躇いもない。

『そういえば死体はあったかい?』

「いや、死体さえも残らないほどの力であったらしい。メガシンカの能力を底上げするスーツの能力のお陰だろう」

『そう、か。死体が残らなかった、か』

「何か不都合でも?」

『いや、研究に役立てると思っていたんだがね』

 旧友の冗談にフラダリは仮面の奥で微笑む。

「シトロン。君はいつでもそうだな」

 今一度、フラダリはメガギャラドスを見やった。自身の最終目的。そのためにこの力が必要なのだ。

「美しいものだけが、生きる事を許される世界へ。また一つ、足を進める事が出来たようだ」

『まだ正式名称が決まっていないが、キミのその姿、何と呼べばいい?』

「わたしは自らの身を地獄の業火に落としても構わないと考えている。美しさを守るためには、ね。さしずめ、その業火の名前を冠するとしよう」

『メギド、というわけか。いいね。では、フレア団の王、メギドよ。これからどうする?』

「知れた事だ。わたしは美しさのために躊躇わない。我が理想を邪魔する者への戦いを誓う。エスプリ、であったか。わたしは迷わない。それがたとえ些事であったとしても、全力で」



 第九章 了


オンドゥル大使 ( 2017/02/07(火) 22:32 )