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獄都篇
EPISODE84 帰還

 目の前の光景が信じられず、ヨハネは暫し固まっていたが、マチエールのほうから声がかけられた。

「何固まっているのさ。もしかして、幽霊見たー、だとか思ってる?」

 軽口も、マチエールのそれである。

 戸惑うヨハネに〈もこお〉が足元に擦り寄ってきた。目の前のマチエールに対して〈もこお〉が歩み寄り、そっと手を触れる。

 マチエールは〈もこお〉を抱きかかえた。

「〈もこお〉! 帰ってきたよー!」

〈もこお〉は嫌がる素振りを見せない。本物の、彼女であった。

 フレア団と取引した事もある。だが確定した事ではないと思っていた。相手は極悪非道の敵。約束などすぐに果たせないだろうと。

 しかし、結果として彼女は帰ってきた。

 生きていた頃と寸分変わらぬ面持ちで。

「マチエールさん……、本当に、マチエールさんなの?」

「疑わしいの? まぁ分からなくもないけれどさ。それにしたって、ヨハネ君、成長したねぇ。ヨハネ君が削ってくれなかったら三発の蹴りでは倒せなかったよ」

 どこまでも溌剌とした声音にヨハネは目頭が熱くなった。

 ――ああ、ここにいる。確かに触れられる場所にいるんだ。

 その感慨にヨハネが声を向けようとすると、一体のタマゲタケが視界の隅を駆け抜けて行った。

 まだ終わりではないのだ。

「一体ずつ、は無理かもしれないけれど、出来るだけ次のタマゲタケアームズを作らせないように、あたしも頑張るよ。少しでも早くに、街の平和を取り戻さなくっちゃ」

 その心持ちにはいささかの躊躇いもない。まさしくエスプリの帰還を約束していた。しかし、奇妙なのはEスーツの中心を形作るバックルであった。

 黄金の意匠が掘り込まれており、前回までのEスーツのバックルと微妙に違う。

「マチエールさん。バックルが前と違う……」

「ああ、これね。あたしが復活出来た理由でもあり、なおかつこれからの足枷になる理由でもある」

 そう簡単に生き返れた、だけでは済まないのは分かっていた。だが、マチエールはヨハネの予想よりも遥かに上の闇を抱えて蘇ったに違いなかった。

「それでも、僕は嬉しい」

 たとえ自然の摂理に反する事であっても。

 目の前の正義の味方の帰還を、喜ばないはずがない。

 マチエールは笑顔を咲かせて拳を突き出す。ヨハネはその拳に当てた。

 コツン、と約束の音がした。
















「エスプリ、全ての能力はオールグリーンです。心肺機能も復活しています。完全に、蘇生しました」

 オペレーターの声にシトロンは満足気に頷いていた。

「なるほど。あのスーツの性能面での懸念はこれでクリアしたわけだ」

「しかし、実戦データを取ろうとすれば、これ以上の関門が待ち受けているでしょう」

「覚悟はしている。Eアームズを運用しようにもその相手であるエスプリを強くしてしまったんだからね」

 シトロンは言い置いて管制室を出て行った。

「どちらへ?」

「エスプリの性能試験はキミらに一任する。ぼくには少しばかりやり残した事があってね」

 出て行くシトロンを止める人間もいない。通路を進んだ先にラボがあり、扉が開くと待ち受けていたのは薄紫色の髪をなびかせた少女であった。

「ルイ・アストラル、か。血は争えないね。まさか兄弟にして同じようなシステムを構築していたとなると」

 ルイがいーっと歯を見せる。シトロンは手を払った。

「元気でよろしい。それに対して、久しぶりの対面だというのに緊張しているみたいだ。我が妹よ」

 その言葉に部屋の隅で座り込んでいる少女が睨む目を向けた。

 金髪碧眼の少女は自分に言いたい事がありそうだった。

「お前が、まだ生きていて、Eアームズ制作の指揮を執っていたのは分かっていた」

「お前、か。随分と嫌われたものだ。時間のせいかな? それとも、ホロンの研究棟で、お前をEアームズの研究主任に置いていたのが間違いだったのかな。ユリーカ」

 ユリーカは鼻を鳴らして立ち上がる。

「何のつもりなんだ? マチエールを蘇らせて、私達のご機嫌を取って何がしたい?」

「最初から、ぼくがただでマチエールを生き返らせた、とは思わないのか」

「ただで? 殺しておいてよく言う」

 棘のこもった口調にシトロンは落ち着き払って応じる。

「イレギュラーだ。あれほどまでにモロバレルが成長するとは思わなかった」

「私の知っている兄は、それを計算出来ないほど、間抜けじゃない」

「手厳しいな」

 シトロンは歩み寄ろうとして、ユリーカの睨みに気圧された。肩を竦めて言いやる。

「……何が気に入らない? だって生き返らせなければ、今頃街は死に沈んでいた。それを阻止したいのは当然じゃないか」

「Eアームズの被害なんて無視して、ホロンの時みたいに全部なかった事にすればいい。だというのにエスプリを生き返らせた。これは何故?」

「ただ単に、張り合いがなかっただけだよ。こんな程度で死なれたら、ね」

 ユリーカの敵意が膨れ上がったのを感じたが、シトロンは軽くいなす。

「我が妹は、相当性格がひん曲がったようだ」

「お互い様だ。まさか、生きていて、こんな事を続けているなんて思わなかった。ルイ・オルタナティブ」

 その言葉にシトロンが眉を跳ね上げる。

「既に、知っていたようだね。ぼくがでは、あれを埋め込んだのも、分かっていて?」

「そこまでは読めなかった。どうして、交換という形を取った?」

「そっちのルイでも充分に出来るからね。ぼくの最終目標は」

「フレア団によるカロスの全面統治、か」

「そう、表向きは、ね。王によるカロスに生きとし生ける全ての存在への断罪の時が訪れ、生命は原初に還る……、という、表向きの目標はある」

「お前がしたいのは、そんな程度じゃない」

「いや、王の目的に比べれば些事だ。ぼくはただ、四十年前の遺物を、今に蘇らせたいだけなのだから」

「四十年前……、第一回ポケモンリーグか」

「さしもの妹でもこれは知るまい。極秘事項だ。オーキド博士はそのために必要な駒だった。見るといい」

 示した方向のモニターがアクティブになり映し出したのは培養液の入ったカプセルであった。

 肉腫のような白い物体が浮かんでおり、カプセルは多数並んでいる。

「これは……」

「四十年前からの贈り物さ。フジ博士、という稀代の天才が造り上げた最強のポケモン。ミュウツーの遺伝子を基にした人造計画だ」

 ユリーカはハッとして振り返る。

「ミュウツー。資料にのみ語られている、人造ポケモンの草分け……。そんなもの、実在するなんて」

「ところがいたんだよ。本当に、ね。だからオーキド博士が必要だった。特異点、オーキド・ユキナリの力が作用すれば、これを完成形に推し進められる」

「……憶測のみで語られている四十年前のゴシップか。そんなものを信じているなんて」

「憶測じゃない。ぼくはデータを収集し、解析した結果、これを得た。ミュウツーはこの現代においてこそ真価を発揮する。四十年前では生体鎧が必要だった。今の言葉で分かり易く言ってあげようか? イクスパンションスーツだ」

 ユリーカは目を戦慄かせる。それと同時に自分が呼ばれた意味も、交渉として成り立った理由も察したのだろう。

「……マチエールに渡したのは、違うな。それが何を意味しているのか……」

「交換しただけだよ。彼女の持っていたEスーツと、ぼくの開発した新型を」

 シトロンは白衣の懐からバックルを取り出す。カウンターイクスパンションスーツのものであった。

「新型……。マユツバだな。何をもって新型とするかは分からないが、マチエールに仕込んだな?」

「仕込まずして帰すほど、ぼくらも善人じゃなくってね」

 ユリーカはルイを呼びつける。そのままミュウツーのデータ解析を行っているようだった。本物かどうかを確かめているのだろう。

「ぼくの言葉だけでは信じられない、か」

「ミュウツーが本当に製造されたとなれば、今度は何をもって滅するかを考えるべきだ」

「製造者を前にして滅する方法を講じる。ぼくそっくりの豪胆さだ」

「一緒にするな。もう私には、家族なんていないんだから」

「血の繋がった実の兄弟だろう? 何故距離を作る事がある?」

 ユリーカは振り返り、厳しく声を浴びせた。

「お前なんて、兄でも何でもない!」

「……やれやれだ。ここまで聞き分けが悪いとは思わなかった。だが、それくらいがちょうどいい。正直なところ、何でも言う事を聞く駒ってのは退屈でね。ユリーカ。お前はいずれ、ぼくの言う事を聞かざる得ないよ。その時、ミュウツーは完成を見る」

「誰が……。反吐が出る」

 シトロンは笑みを刻んで、ラボから出て行った。

 管制室に戻らずに自分のラボへと帰ろうとするのを制した声があった。

「主任。本気で、あの小娘に出来ると?」

「出来るさ。実の妹だ」

「主任に家族がいたのは驚きですが、それよりも、あのルイとかいうシステム、危険なのでは? 主任の造ったオルタナティブと同じような気配がします」

「ほぼ同じ、いや一面で言えばそれ以上か」

「一面、とは?」

 シトロンは振り返り、愉悦に口角を吊り上げた。

「情緒面だよ。人間らしい、とも言える。それこそが、ぼくのルイには足りていなかった。あのルイにはそれが出来る。だからこそ、ミュウツーの最大の要となる」

「しかし割に合わないんじゃないですか? だってオルタナティブを手離してまで」

「キミらは相も変わらず、損得だけで物事を見る。もっと俯瞰して見るといい。シトロニックギアで全ての管制システムにはアクセス可能だし、何もルイだけに任せっきりだったわけじゃない。ルイ・オルタナティブと交換した価値はあったよ。あの、ルイ・アストラルにはね」

「……難しい話は分かりませんが、内部から壊されるなんて事は御免ですよ」

「それも心配ない。ユリーカにはきっちり保険をかけてある。それを理解出来ないほど馬鹿でもないはずだ。内部からフレア団を壊滅させるなんて事は不可能だよ。出来ているのならばぼくが既にやっている」

 胡乱な言葉に部下は周囲を窺ってから、声を潜めた。

「王がお呼びです」

「また査問会かな?」

「いえ、王の間に、直々に、と」

 意外であったが、このタイミングははかったも同然である。シトロンは容易く受け入れられた。

 現状、最も知りたいのは王本人のはずだ。

「謁見か。あまり見ない間に変ってしまっていたらどうしようかとも思っていたんだ」

「軽口は、命を縮めますよ」

「警句どうも。でも、ぼくは最初期のメンバーだ。王のやり方に賛同して、フレア団に入った人間だよ。みんなみたいに五百万円払ったわけじゃない」

 フレア団に入団するのには最低五百万円の資金が必要である。他の方法を使って入団した者もいるが、下っ端はほとんど金で入った人間ばかりだ。

 その言葉に部下は苦々しい顔をする。

「王の間へと、案内は……」

「必要ない。ぼくも王には会うべきだと考えていた」

 身を翻したシトロンはリニアに乗り継ぐ。シトロンは王の間へと続く地下宮殿へと辿り着いた。

 地下だというのに豪華絢爛を極めた内装にはいつだって圧倒される。

 王の威厳をここぞとばかりに醸し出している。

「プロフェッサーCか」

 玉座につくのは太陽の鬣を持つ男であった。重々しい語調と、照明の加減により、その男の顔は窺えない。

 普通ならば顔を見ようとも思わないのだろうが、シトロンは違っていた。傅くわけでもなく、立ったまま王の顔を窺う。

「やぁ。久しぶりだね」

 その返答に王がフッと口元を綻ばせた。

「変わらんな。シトロン主任研究員」

「そちらもご健在で何よりだ。王、いや、フラダリ」

 その言葉に導かれるように王は立ち上がった。明かりの下に降りてくると、その彫りの深い顔が露になる。

 この世全てを憎んでいるかのような痛苦が、その顔には浮かんでいる。

 岩のように険しく、海のように底が知れない。

 全ての生命体への嫌悪。否、自分の認めた以外への何よりも深い憎悪が、彼にそのような顔立ちをさせているのだ。

 この世には認められないものが多過ぎる。

 それが王の口癖であった。

「研究職はどうか。わたしはお前に全てを託してから、もう数年が経つ」

「二、三年程度で技術は飛躍しないよ。まぁ、みんなが当たり前に使っているホロキャスターに関しては随分といじらせてもらった部分はあるけれど」

「ホロキャスターか。わたしの開発したあれを飛ばせてくれたのはお前だ、シトロン」

 認めた人間への声音があった。フラダリは自分が認めた以外の人間の名前を軽々しく呼ぶ事はない。

「そりゃ、どうも。ぼくの仕事だからね。だからそれ相応には頑張るし。でも、人が悪いと思うのはそれじゃない。Eアームズ、あれはぼくの仕事には不必要であった」

「だが、ミュウツーの再生計画にはいるのだろう?」

 全てお見通しか。隠し立てするのも馬鹿馬鹿しくなり、シトロンは後頭部に手をやった。

「何だかなぁ……。昔から、キミは身勝手だったが、王になってからそれが顕著だ。自分は一切表舞台には出ない。それでいて、フレア団というカロスそのものを牛耳る組織の頭目をやってのけるんだから」

「王の身分にも責務がある。シトロン主任研究員、最終兵器の準備は?」

 来ると思っていた。シトロンは頭を振る。

「エネルギー供給量が足りない。ポケモンの生体エネルギーを変換し、カロスの土地に息づく全ての生命をリセットする兵器を使用するのには、それ相応のエネルギー変換器が必要になってくる。加えて、それ以上のエネルギー量を持つポケモンも。正直なところ、そんな都合のいいポケモンっていないんだ。だからこそ、こんな小賢しい真似をするのだろう?」

 シトロンが取り出したのはホロキャスターだ。投射されたのは今まで検体になったポケモンのエネルギー総量である。Eアームズはポケモンから生体エネルギーを奪う。では奪ったエネルギーはどこへ行くのか。

 全ては地下のフレア団のラボに蓄積されていき、そのエネルギー量を利用して、フラダリは最終兵器を発動させようとしている。

 そのためのEアームズ研究。

 ――そういう事に、なっている。

 フラダリの最終目的と自分の最終目的は、同じようで異なっているのだ。

 フラダリは最終兵器を起動させ、カロス全域の生物を根絶したい。それだけだろう。ある意味では純粋である。

 だが、自分は違う。

 ミュウツーを製造したのは破壊のためだけではない。

 何よりも力の誇示があるが、それに伴うのは新たなる生命の誕生という偉業である。

 ミュウツー再生計画は、それそのものが目的。だが、王にとってはそれも破壊の引き金程度にしか見えていないだろう。

 フラダリの見ている結末と自分の見ている結末は、恐らく大きく異なるはずだ。

「Eスーツ。新型を渡したそうだな。エスプリ、とかいう人物に」

「耳が早い」

「賢しくわたしに情報を与えてくれる人間がいるのでね。事欠かない」

 自分の部下であろうか。それともクセロシキ? 考えても仕方ない事だと思った。

「で? 王としてはどう対処を?」

「エスプリは死んだそうだな。何故生きている? いや、こう言おうか。何故、生き返らせた?」

 詰問にシトロンは肩を竦める。

「ぼくの目的のために、Eスーツは必要な駒なんだ。だからカウンターEスーツを一時的にせよ、取り戻さなければならなかった。代わりを与えたのは、何も生かすためではない。それさえも試験」

「新型Eスーツ。仮称、フレアEスーツを、一小娘に与えてやったところで何も変わるまい」

 フレアEスーツ。その名前が王の口から出た事でシトロンは確実に自分を見限ろうとしている一派がいる事に勘付いた。

 定石ならばクセロシキだが、今回、自分の身を挺して後片付けに奔走した。そんな暇があったか? と考える。

「ところが、あのEスーツにはちょっとした細工をしておいてね」

「細工、だと?」

「王であるキミには見せただろう? ぼくの開発した最高のOSを」

「ルイ・オルタナティブ」

 シトロンは指を鳴らし肯定する。

「あれをどうしたと言うのだ?」

「だから、渡してやったんだよ。エスプリに」

 その言葉にさすがのフラダリも動じたようであった。目を見開いてその事実に震撼している。

「何故だ……。むざむざ相手に強みを与えてやってどうする」

「そこが、ぼくの考えというわけだ」

 その言葉に考えなしに与えたわけではない事が理解されたらしい。

「……聞かせてもらおうか。シトロン。お前の考えを」

 さて、ここからがプレゼンだ。シトロンはそう感じて、指揮棒のように手を払った。



















「どうにも、ね。あたしの身体に一体化しているらしい」

 バックルが外せない理由を、マチエールはそう語った。自分を蘇生した際に、つけられたある種のマーキングであると。

 ならばこれから先の戦いは苦戦するのではないか。当たり前の考えに浮かび上がった影があった。

『まぁお前らに、主人が倒せるとは思えないから、当たり前と言えば当たり前だな』

 目の前にはルイと寸分変わらぬ姿の少女の像がいる。否、ルイの色をそのまま反転させたかのように、黒髪をなびかせている。

 身に纏っている服飾も黒い。

「こいつが、あたしのお目付け役らしい。ルイ、だけれどあのルイじゃない」

『ルイ・オルタナティブ。オレがこれからお前らを指示する。ヨハネ・シュラウドだったな? どうせ長い命じゃないが、よろしく頼むぜ』

 敵側もルイを持っていたのには驚きであったが、それよりもこのルイ・オルタナティブは自分達を破滅させる予感しかなかった。

「何だって、こんな事に……」

『知るかよ。お前らに遊ばせておく余裕を、主人も作る気はないんじゃないか』

「その、主人っての、誰だよ」

『教えるかよ、マヌケ』

 ユリーカのルイより随分と性質が悪い。

 ヨハネは目線を振り向ける。新たにアタッシュケースに収まった黒い鎧。Eスーツは今までよりも強固なプロテクトになってルイに補助されるらしい。代わりに、ルイが絶えずこちらの位置を相手に送り込む。

 これでは勝てる勝負も勝てないのではないか。

 ヨハネの危惧にマチエールも同感のようだった。

「見張られている、ってのは気分がいい話じゃない」

『おいおい、お前ら勘違いも甚だしいな。マチエール、お前は一度死んでいるんだぜ? それを蘇らせたのはオレと、主人である事を忘れるなよ。お前らはいずれ主人のプラン通りに動かざる得ないんだ』

 ルイ・オルタナティブを制する方法もない。

 今はただ、生還の喜びを噛み締めたいが、それも生半可ではなかった。

 マチエールは――正義の使徒は、闇を連れて来た。

 その闇がどのように作用するのか、ヨハネには一切分からない。

 ただ、闇だけではないと信じたかった。

 闇の先には光がある。

 そう感じないとやっていけない。

 ぎゅっと拳を握り締める。

 いつか自分が、その闇を払わなくては、という使命感が内奥を突き抜けた。







第八章了


オンドゥル大使 ( 2017/01/23(月) 21:13 )