EPISODE24 作戦
「い、命だけは勘弁してくだせぇ……!」
ヨハネがいくつか道を折れると、奥まった裏路地でマチエールが三人の男を追い詰めていた。以前のように金をせしめようとした男達はマチエールの暴力に逆に怯える事となっている。
彼女が足を踏み鳴らしただけで、そこは戦場だ。
ひぃ、と男達が短い悲鳴を上げる。ヨハネは後頭部を掻いて呼びつけた。
「マチエールさん」
振り返ったマチエールの瞳は暗い。暗黒色であった。
「ヨハネ君、何? 悪い、今、別件が入っていてさ。こいつらに十万の仕事を斡旋してもらうんだよ」
「じゅ、十万円なら払います! そんじゃ、ここいらで!」
男達は十万円を置いて走り去っていった。ヨハネは呆れつつ、マチエールに歩み寄る。マチエールは札束を数えながらヨハネには目線を振り向けもしない。
「何? 今、忙しいんだけれど」
「……大方、街のごろつきを相手にしているんだろうって、ユリーカさんが」
「……あいつ。まぁ、でも本当だったんだし。いいじゃん、別に」
「マチエールさん。気持ちは分かる。でも、今は、意地を張っている場合じゃ」
「意地なんて張っていない!」
張り上げられた声にヨハネは言葉を仕舞うしかなかった。マチエールは俯いたまま、口走る。
「だって……! どうすりゃいいのか、分からないじゃんか……!」
その末が行く当てのない暴力、か。ヨハネは軽率な発言はすべきではないと感じた。
「マチエールさん。僕らで作戦を練ろう」
「作戦?」
きょとんとするマチエールに、ヨハネは足元にいる〈もこお〉を目にした。
「勝てる作戦を僕らだけで提案すれば、ユリーカさんだって馬鹿にしないだろうし?」
マチエールは呆然としていたが、やがて目を輝かせた。
「いいね、いいよ! やろう! あの高慢ちきなユリーカの鼻を明かしてやろうよ!」
「そうと決まれば、作戦を練ろうよ。ここは、ちょっと寒いから事務所で」
裏路地には隙間風が差し込む。しかし、マチエールはその提案には乗らなかった。
「……でも、帰るとユリーカが馬鹿にする」
相当に根深いのだな、と理解した。この二人は自分がいるだけでも一触即発の事態がいくつかあった。今までどうやって切り抜けてきたのだろう。
「じゃあここで作戦を考えましょう。ポケモンは、持っていますよね?」
「うん、三匹とも、ホルスターに」
「まず一つ。ファイアユニゾンが出来るヒトカゲと、同時並行にニョロゾを使うのは? これは出来ないの?」
戦いの中で疑問に思った事だ。ファイアユニゾンとの並行は出来ないのか。マチエールは首を横に振った。
「火の属性でしょ、ヒトカゲは。だから、干渉し合って、相性がよくない。お互いの長所を潰してしまう」
となると同じ理由で虫タイプのアギルダーも無理、か。アギルダーの高速戦術ならば届くかもしれないと楽観視していたがそう簡単には物事は進まないらしい。
「ファイアユニゾン以外は? 使った事ないの?」
マチエールは視線を背ける。あるのだ、と直感的に感じた。
「だったら何で……」
使わなかったのだ。その理由を問い質すと、マチエールはぽつり、と語り始めた。
「ヒトカゲは、あたしが元々、持っていたポケモン。〈もこお〉と同じくらいかな、付き合いは」
足元の〈もこお〉はつぶらな瞳をヨハネに注いでいる。幾つもの修羅場を乗り越えてきた相棒、というわけか。
「ヒトカゲへの信頼が厚くて、他のポケモンに不安が?」
「そうじゃない。ノーマルユニゾンの時は、全員でも使えるし。……問題なのは、ユニゾンシステムが、一種の同調状態に近い事、かな。あいつ風に言えば」
同調。学会でも眉唾物と言われているポケモンに意識を持っていかれる現象の事だ。その同調率が高ければ意識圏の拡大や思惟でポケモンを動かす事も可能だと言われている。
「じゃあ、ユニゾンは結構危険なんじゃ」
「うん、ヒトカゲはさ、基本能力が高くないし、それに主張しない性格だから、あたしが入り込みやすいんだ。でもニョロゾとアギルダーは、別」
「別、って?」
「人からもらったポケモンだから。大切な人から」
その大切な人、というのを今彼女の口から聞くのは無理そうだった。ただ、言葉を知らぬマチエールが大切と呼べるほどの人間だ。相当な信頼関係にあったに違いない。
「その人は?」
「今は……」
濁されたままヨハネは沈黙する。ならば、ニョロゾとアギルダーを使うのは不可能なのか。
「でも、それ以外にも理由があって。ニョロゾでユニゾンした時に、一回、意識を持っていかれそうになった」
「意識を……」
「一種の同調だから、ポケモン側に引っ張られちゃう事もあるんだ。ニョロゾはそれなりに強い分、主張もあるみたいでさ。ニョロゾの意識に放り込まれた時、あたし、溶けちゃうんじゃないかって怖くなった。それっきり、ニョロゾのユニゾンは試していない」
トラウマになったのか。ヨハネは聞いていい事なのか決めあぐねていた。それを察したのかマチエールは顔を覗き込んでくる。
「ヨハネ君がそんな暗い顔をしたってどうしようもないよ。あたしの問題だからさ」
それでも、自分はマチエールを任されたのだ。何か出来る事があるはずだった。
「ニョロゾ……出してもらえるかな」
その提案が意外だったのだろう。マチエールは目を見開く。
「何で?」
「僕が偉そうに言える義理じゃないけれど、ニョロゾと一回、向き合ったほうがいい。ユニゾンがそれっきりだって言うのなら、なおさら。絶対に、ニョロゾのユニゾンは必要なんだろう?」
そりゃあ、とマチエールは口ごもる。ヨハネは強い語調で続けた。
「マチエールさんだけに任せない。僕にだって探偵戦士エスプリをカバーする義務がある。だって、助手なんだろう?」
助手ならば、自分に出来る事だってあるはずなのだ。マチエールはその覚悟を見たのか、ヨハネの気迫に首肯する。
「……言っておくけれど、結構、ニョロゾは気難しい」
「一応はこの街のスクールの出だし、ポケモンを見るくらいは出来る」
マチエールはニョロゾのボールを手にして繰り出した。ニョロゾは戦闘時でもないのに出された事に戸惑っているようにマチエールを仰ぐ。
「ヨハネ君が君を見たいんだって」
ヨハネはニョロゾへと手を伸ばした。途端、拳で手を払われる。拒絶の意思があった。当然と言えば当然か。マチエールほど自分は強いトレーナーではない。
「でも、僕にも出来る事はやらせて欲しい」
敵意がない事を示すように、ヨハネはゴルバットの入ったボールを地面に置いた。そうすると、少しだけニョロゾの警戒が緩んだ。
「ニョロゾ。君の助けが要るんだ。僕に、教えてくれないか。君の事を。知らなくっちゃいけない」
ニョロゾは主人であるマチエールの意見を仰ごうと視線を振り向けた。マチエールは静かに頷く。
ニョロゾの丸い瞳がヨハネを映し出した。すっと手が掲げられると、小さな水の玉が形成されていく。
水晶のように清らかに澄んだ水玉をニョロゾは放り投げる。ヨハネが受け止めようとすると、掌の上で水が弾け飛んだ。触れる事など叶わぬ、とでもいうように。
ヨハネにニョロゾは語ったのだ。
己が能力の真髄を。
明確に何かを示したわけではない。だが、ヨハネからしてみれば、マチエールを勝たせるために、ニョロゾの編み出した彼なりの言葉であった。
「ありがとう、ニョロゾ」
教えられたのは藁ほどの頼りなさではある。しかし、ヨハネは理解した。
ニョロゾの、水のユニゾンの真骨頂を。
「マチエールさん、これで戦えます。僕には分かった。ニョロゾの、ユニゾンの方法を。流水をもって、柔の心で剛を制する。流水の心、そうなんだね、ニョロゾ」
ニョロゾはそれ以上語ろうとはしない。マチエールもその先を見据えたようだった。
「ニョロゾ、あたしと一緒に、戦ってくれる?」
主に対して、水のポケモンはただ頷いた。
「どうにもまぁ、きな臭い話になったようだ」
イイヅカから事の次第を聞かされたユリーカの漏らした感想はそれであった。出版社だけではない、カロスという場所そのものが暗黒地帯へと入りつつある。そのような話、世迷言と切り捨てても構わなかったが、生憎と自分は現状を知っている。知った上での行動が「エウレカ」としての活動であった。
見事に餌としての機能を果たしたイイヅカは我が身の不実をただ笑うのみ。
「俺も、読みが足りなかったという事か」
「相手の、サワムラー使い。そいつの名前は……」
イイヅカは頭を振る。それだけは教えられないようだった。
「いずれ、戦わなければならないのだろうか」
「そりゃ、そうだろう。だって相手から仕掛けてくる。こっちは対応するばかりだよ」
「でも俺は、奴と戦いたくはない。出来れば敵味方という位置関係にはなりたくないんだ」
「願ったところで、相手が折れてくれる保証もなし。せいぜい、マチエールの手心に期待するしかない」
どこへ行ったのだ、とユリーカは時計を窺う。ヨハネが迎えに行ったにしては遅かった。
「ユリーカ嬢も、やはり相棒の事は心配か」
イイヅカの言葉にユリーカは素直に認める。
「アイツが戦えないとこっちの戦力はない。ヨハネ君はただの助手だし、イイヅカ氏には、違う役割を与えたい」
「何か。俺の出来る事ならば何でもするつもりだが」
「ルイ。システムバックアップを頼む。彼の本領発揮としてもらおう」
その言葉にルイは疑問符を挟んだ。
『どういう意味です?』
「簡単な事だ。イイヅカ氏、全力でミアレ出版にハッキングをする。あなたのどの記事が問題であったのかを割り出し、それをネット上で公開。喧嘩を売る、というわけさ」
さしものイイヅカも慄いたのが伝わった。最早、ミアレ出版に関わる事など露ほども思っていなかった事だろう。
「出版社に、喧嘩……」
「まぁ、正しくは後ろにいる連中への喧嘩だ。ミアレ出版はかわいそうだが犠牲になってもらう。データベースがあるはずだ。記事を管理する端末に入り、あなたの記事を抜粋する」
「そんなに容易くは」
「出来るさ。ルイ、攻勢防壁、及びダミーとデコイの設置、何分だ?」
『二十分あれば出来ますが……。マスター、本気ですか? 相手に、こちらを掴ませる要素を与えるようなものじゃ』
「サワムラー使いがEアームズに手を出したにせよ、出さないにせよ、戦って勝つしかない。そのために、挑戦状を叩きつける。記事のハッキングは前哨戦だ。情報面でこっちが勝っているのだと分からせてやる」
「無事に記事を抜粋出来たとして、どうするって言うんだ? だって、信頼出来るソースがなければただの情報の蓄積だ」
「私を誰だと思っている。このカロスでは指折りのハッカーだぞ。当然の事ながら、何人かの伝手はあるさ」
「……恐ろしいな」
素直に漏れ聞こえた感想にユリーカはコンソールに向き合う。キーボードを手繰り寄せて、ルイの作り出した攻勢防壁を援護した。
「ミアレ出版の裏、パスワードを読み取り」
『パスワード、出ますけれど三十秒ですよ!』
「充分」
ルイが読み取ったパスワードを打ち込み、タイムアウトするまでに記事管理の端末へと侵入を果たした。その間、十秒もない。
ルイの役目は今度、開けた入り口を閉ざす役目だ。自分の入っている間、他の者の侵入を防ぐ。そのためにダミーサイトを用意し、他の閲覧者はそちらのサイトへと自動誘導される。
「こんなものが可能だったなんて……。妖精を追うな、か。過言ではなかったようだ」
ルイという電子の妖精を得たユリーカはまさしく無敵。電脳世界では勝てる者はいない。速攻で閉じる仕様のブラウザを幾つも配置し、それぞれにダミーのアドレスを割り振ってこちらの動きを読めないようにする。
「閲覧履歴の新しい記事……、これか」
ユリーカがダウンロードエンジンを起動させてこちら側へと解凍しようとする。その間にもルイは入り口を閉ざし、新たな出口を作っていた。
『もう、持ちませんよ!』
「あと三秒だ! 来い!」
ダウンロードが成された瞬間、ユリーカは全てのブラウザ画面を閉じ、さらにこちらへの追尾アクセスを封じ込めた。これで相手には何が起こったのか、何が盗られたのかさえも分かっていないはずだ。
『ま、マスターぁ。こんなの、毎回は出来ないですよ』
「弱音を吐くな。システムだろう、お前は」
『だ、だってぇ』
肩で息をしているルイだったが、顔が僅かに上気していた。瞬間的な熱暴走状態なのだろう。システムの癖によく出来た反応だと感じる。
「さて、盗ってきた記事だが、これで間違いないか?」
イイヅカ本人に確認させる。彼は首肯した。
「ああ、さすがだ」
「よし、これをアップしてニュースサイトにアクセス。記事閲覧を増やし、ミアレ出版からの公式発表をでっち上げる」
そう判じたユリーカの行動は素早い。瞬く間に偽のサイトが完成し、ミアレ出版からの公式情報だという看板も作り上げた。
「よくもまぁ、嘘八百を……」
息を呑むイイヅカにユリーカはエンターキーを押した。
「これくらい、朝飯前だ、っと」
全ての処理画面が統合され、ミアレ出版からの公式発表にしか見えないサイトが構築される。
閲覧履歴さえもついており、本家本元よりもそれっぽい。
「さて、後は食いつきだが、ここは繋がりを最大限に利用する」
SNSに複数作ってあるアカウントに直結し、それらの複合情報から、ミアレ出版の公式発表というニュースを伝播させる。程なくして、千人超の閲覧が検出された。
『これで、お膳立ては出来ましたねぇ』
「そうだな。後は、どう転ぶか。それだけだ」
キャンディを口に含んでユリーカは画面を眺める。見る見るうちに膨れ上がっていくアクセス数ににやりと笑みを浮かべた。
「本当に、電子の妖精は恐ろしいな」
認識を新たにしたイイヅカにユリーカは言ってのける。
「あなたは、これを、こっち側から観測出来る事に感謝したほうがいい。大多数の人間が、糊塗された偽りを見ているんだからな」
「ありがたい、と思うべきか。俺も、とうとう、嘘をつく側になってしまった」
「何だ、今時、真実のみを追い求めるジャーナリストか?」
「それ、ミアレ出版の編集長代理にも言われたよ。流行らない、と」
ユリーカは片眉を上げて応じる。
「だろうな。ジャーナリズムなんてもう地に堕ちたも同然だ。カロスなんて特に、盗聴や盗撮の心配をしていない一般人がたくさんいる。その大多数を監視するほど、カロスの支配者も暇ではないが、大多数は情報の集積点で検閲を受けている事にさえも気づかない」
「……それ、襲われる前に話したよ」
「陰謀論だとして話にならんと言う人間もいるだろうが、実在するものを話にならんと一蹴するのは不可能だ。もうそういう常識としてまかり通っているんだからな」
「そういう常識、か。あなた達を見ていると本当に、自分が愚かしくさえ思えてくる」
「いや、いいんじゃないか。ジャーナリズム上等、正義の記者上等でも。バカと滑稽に映る所業でも、何もしないよりかはマシだ」
『マスター。ヨハネさんと、マチエールさんが』
階下の気配を感じとってルイが先んじて声にする。ユリーカは上がってきたヨハネに気づいていたがわざと振り向かなかった。
「ユリーカさん。分かりました。ニョロゾのユニゾンの方法が」
口角を吊り上げる。やはり自分の目に狂いはなかった。
ヨハネはマチエールの性能を引き上げる格好の人材となる。自分とマチエールだけでは到達しえなかった場所へとヨハネとならば到達出来る。
「それは吉報だな、ヨハネ君」
「ただ……」
濁した語尾にユリーカは首を傾げる。
「何だ。ただ、とは」
「実戦まで、使わない。これは僕とニョロゾの決定です」
つまり練習なしの一発勝負、と言いたいのか。さすがにユリーカは耳を疑った。
「……何を。ヨハネ君、キミは何を言っているのか、分かっているのか?」
「分かっていますよ。マチエールさんも不安そうでしたけれど、これは僕とニョロゾとの間に降り立った、男の了承です」
舌打ちを漏らした。これは計算外だ。
「おい、ヨハネ君。キミは助手だ。余計な事をする権限は与えられていない」
「そうです。だから、探偵であるマチエールさんを補佐する意味での、これは決定なんです」
「納得出来るか! データとして纏っていないユニゾンを、実戦で使わせるなど! キミは、部外者の立ち位置だから、そんな無責任な事が言える。Eスーツだってタダじゃないんだぞ!」
『ま、マスター。ヨハネさんだって分かっているんじゃ……』
「うるさいぞ、ルイ! これは私と、ヨハネ君の問題だ。いいか? マチエールのバカがどう言うのかはある程度察しがついていた、キミが! マチエールの性能を引き出すのに適任なのも分かっている。だが! 私の計算外の事をやるのは許さない! ニョロゾとの男の了承だと? そんなもの、期待出来ない! ステータス化出来ない事象は事象とは言わないんだよ!」
これだけ罵声を浴びせかけても、ヨハネは淡々と受け止めるばかりであった。
「ですが、これはニョロゾの納得を得た結果です。マチエールさんも、これならばいいと言ってくれた」
「私は! いいとは言っていない!」
「マチエールさんを任せると言ったのはユリーカさんでしょう? それとも、今さら不安ですか?」
煽り立てる言い草に腰を浮かしかけて、ユリーカは冷静になろうと努めた。ヨハネは何も考えなしで行動するタイプじゃない。ある程度結論を基にして動く、自分に似たタイプのはずだ。だから彼の決定は向こう見ずなどでは決してない。
計算の上での、決定のはずである。
それを疑うのは自分の役割を履き違えているのと同義。
「……ああ、分かったよ、クソッ。キミが思わぬところ食わせ者だったってわけだ」
「マチエールさんには了承を取りました。戦いの準備、出来ているんでしょう?」
どこまでも他人を食った物言いをする。ユリーカは歯噛みしたが、彼の思惑通りに戦いの舞台は作り上げられていた。
「……挑戦状を叩きつけた。言っておくが反故には出来ない」
「いいですよ。エスプリは負けない」
ヨハネには確信があるのだ。しかしこちらからしてみれば不安要素だらけであった。
階下に戻っていったヨハネを確かめてから、ユリーカは悪態をついた。
「……スクールの優等生風情が。私に口ごたえなんて!」
『でも、マスター。ダメとは言わなかったじゃないですか』
「言えるか。今回の要となるニョロゾのユニゾンの一存を、彼が握っているんだ。作戦上、支障の出る事は、私は言わない。言葉の上ではマチエールを怒らせても、本当の意味でマチエールを制御不能には置いちゃいけない」
理屈では分かっている。しかし、ヨハネの態度が癪に障る。
自分だけの制御下のつもりであったマチエールに異分子を持ち込まれた気分だった。
「妖精を追うな、と警句を発する側であっても、相手が奔放な妖精には手を焼く、か」
ぽつりとこぼしたイイヅカに、ユリーカは椅子を蹴りつけた。
「どいつもこいつも……!」