ANNIHILATOR - 烈火篇
EPISODE17 激動

 作戦の第一段階は成功。その報告にクセロシキは満足していた。

「やはり、我が目に狂いはなかった。Eアームズとの適性がない人間に、巨大なEアームズを操るのは不可能。命を削る他ない」

 最初から分かっていた事だ。追従する女研究者達が声にする。

「しかし、クセロシキ副主任。我がほうのイクスパンションの技術は水準に達しています。このレベルならば、相手側の、カウンターイクスパンションスーツを破壊する事も出来たのでは?」

 その疑問にクセロシキは恰幅を揺らした。

「駄目だヨ。まだ、あのお方が許していないからネ。あのお方が今のEスーツは不完全だと仰っていル。だから潰しても意味がないんダ。咲く前の蕾を摘み取ったところで、結果論が見えないシュレディンガーの猫のようなものだと同じだヨ」

「しかし抑止力にはなります」

 Eスーツを危険視する部下達の懸念は分かる。Eアームズ一体を製造するのとて時間も金もかかるのだ。それを一つ一つ、潰されていたのでは世話はない。

「あのお方には、ワタシのような浅薄な人間の見るようなものよりも遥か先が見えていル。つまるところ、フレア団の未来が、ダ。それを任せるのに、何の心配も要らないヨ」

 フレア団の未来のための投資だと思えばいい。部下にはそう言いくるめて、クセロシキは別室へと入った。

 今回のEアームズを回収した功労者が佇んでいる。

「アリア嬢、だったカナ。お前は何を望んでいル? 栄誉か? それとも、取り入るための得点?」

「いえ、わたくしが望んでいるのは、そのような野心ではなく、ただ単に、そうですわね……、借りを返したいだけ」

 この少女も歪んでいる。クセロシキは鼻を鳴らし、仮面を外した。

 生命維持装置を兼ねた仮面の内側には様々なパイプ部品や精密機器が集まっている。

 その隠された顔を見る事が許されているのは自分以上の大幹部と、さらに言えば特別な人間のみ。

 クセロシキはアリアがそれに値するのだと判断した。

 彼女の復讐心とでも呼ぶべき妄執はやがて力になるだろう。今はまだ、弱々しいが何が力になるのかは自分では読めない。自分は研究者であって支配者ではないからだ。

 振り向けた顔にアリアが息を呑む。

 この顔を見て表情を崩さなかったのはフレア団を束ねるある人物と、自分の上官に当たる主任研究員のみ。

 当然、少女には残酷なほどであったが、彼女は持ち堪えた。目を逸らす事なく見据える。度胸はある、と判じた。

「プロフェッサーZが、お前の上官に当たっていたカナ?」

「ええ、しかし彼の生み出すものではエスプリとやらに追いつけません。わたくしには、あなたほどの人間でなければ」

「上も選ぶ、か。よくよく考えたものだヨ」

 しかし身も世もなく戦っている、というわけでもあるまい。それほどの無鉄砲な人間には見えなかった。

 ある程度読んだ上での結論。

 クセロシキは再び仮面をつける。アリアを手招き、クセロシキが訪れたのはエレベーターだった。

 フレア団は地下に広大な研究施設を持つ。そのさらに下層へと降りていく。

 胃の腑にかかる重力が増した。彼女も少しばかり足元がおぼつかないのが背後に伝わってくる。

「重力変動区画ダ。ここの重力だけ、地上の三分の一になっている」

「……大丈夫です。問題ありません」

 顔色一つ崩さない、か。クセロシキはより、アリアという少女に満足した。

 重力変動区画を抜けてエレベーターが辿り着いたのはパイプラインの集積する場所であった。

 蒸気が渦巻き、培養液で満たされたカプセルが居並んでいる。

 その向こう側に玉座があった。

 クセロシキは恭しく頭を垂れる。

 王の間だ、と直感的に悟ったのか、アリアも同じように傅いていた。

 カツン、カツンと冷たい靴音が響く。

 面を上げず、クセロシキはその人物の到来を予期した。

 玉座に収まったその人物は、重々しい声を響かせる。

「両名、顔を上げるといい」

 クセロシキが視線を上げる。アリアもそれに倣った。

 玉座には太陽のような鬣を持つ男が座していた。

 沈痛な面持ちには今まで辿ってきた艱難辛苦の人生が滲み出ている。

 眼は睡蓮のような透明度の高い水色であった。

 その眼差しが獰猛な猛禽類の如く、細められる。

「クセロシキ副主任研究員。それに、アリア、と言ったか。何故、この場に彼女を連れて参った? ここは主任研究員相当の権限の持ち主以外、無闇に出入りするなと厳命しておいたはずだが」

 一つ一つの言葉が、まるで神託のように響き渡る。アリアは軽い呼吸困難に陥っているのか、どこか上の空であった。

「申し訳ありません。我らが盟主、フラダリ様」

「――名を、みだりに呼ぶなとも言った。私は貴様にそこまで許していない」

 突き放す言葉にもクセロシキは平伏して応じる。アリアはフレア団を束ねる王の存在に恐れを成しているのか、整えた指先が震えている。

「フレア団の一研究部門に過ぎないEアームズに関して、過ぎたる言葉ではありますが、ワタシは言いとうございます」

 常日頃のふざけた口調を封じ、クセロシキは告げていた。

「何だ? 言っておくが王の御前だ。つまらぬ事ならば書面にて纏めよ」

「これからの、フレア団を左右する問題。ワタシの一存だけでは決められません」

 その言葉にようやくフラダリは興味を示したようだ。

「話してみよ」

「畏れ多くも、Eアームズは並行研究されているフレア団のもう一つの成果であるメガシンカに匹敵いたします。メガシンカがポケモンの内なる可能性を拓くのであるのならば、こちらはポケモンとの外部的関わりを持ってその真価を解くものであり」

「いい。そういう表面を言いたいわけではないのだろう?」

 王の前に所詮、包み込んだ本音は意味を成さない。クセロシキは一呼吸ついてから口火を切った。

「……では、言わせていただきます。メガシンカ研究よりも、Eアームズの研究に、期待を示していただきとうございます」

 つまり予算の割り当てを変えろ、と言っているのだ。これが通常の幹部との会合であるのならば、自分はいつものようにのらりくらりとした口調で勝手に決める。しかし、フラダリの前となると話が違う。

 相手はこのカロスを背負って立つ王の器。

 当然の事ながら、萎縮で身体中の毛細血管が開いたかのように熱い。

 火あぶりにされているかのようであった。王の眼は熱を持つのだ。

「メガシンカよりも貴様の言う、Eアームズとやらに期待せよ、と。なるほど、それは確かに言いにくい話だ。だが、幹部総会で決めたのではなかったのか? メガシンカに七割、Eアームズは三割だと」

 そのように会合では決まった。だが、今生の王の御前にいるのは何も道楽を言いに来たのではない。

 王の前で勝手な口を開く事は死罪に相当する。

 それでもクセロシキは言わねばならなかった。

「……どうか、Eアームズへの予算の割り当てを、今一度考え直してもらえないでしょうか」

 Eアームズの未来のため。ひいてはフレア団のために。

 フラダリは僅かに王者の余裕の視線を、クセロシキからアリアへと流す。

「貴君は、どう考える? フレア団の未来のために、Eアームズとやらが必要だと思うのか?」

 一般団員の答えられる範疇ではない。口を挟もうとすると、アリアが震える声で応じていた。

「……わたくし、は、戦いとうございます」

「戦い。ほう」

 感嘆の息を漏らすフラダリへとアリアは汗を噴き出させながら訴えかける。

 己の無念と、その妄執の果てにある無間地獄を。

「わたくし、は! 戦いとう、ございます!」

 王の前で二言も口にする、というのはどれほどのものなのか、この場でクセロシキだけが理解出来た。

 フラダリが玉座を立つ。

 まさか逆鱗に触れたか。

 クセロシキが立ち上がろうとするのをフラダリが目線だけで遮った。

 よい、とその眼が告げている。

 冷たい靴音と共に歩み寄ってきたフラダリの手が、アリアの肩に触れた。

「立派な、戦士の眼をしている。そのような人間は、好感に値する。この地獄のようなノミの跳ね回る地表で、生きていていい人間の持つ魂の輝きだ」

 フラダリは身を翻し、声を新たにした。

「クセロシキ副主任研究員。許す。そのEアームズとやら、存分に発揮したまえ」

 許しが出た。クセロシキは感激に額を地に着けて言葉を捧げた。

「ありがたき、幸せ!」

「アリア、とやら。貴君の働き、期待している。そのEアームズとやらで見せてくれるな? 新世界を」

 フラダリの言葉の前にアリアは茫然自失であったが、感謝だけは忘れていなかったようだ。

「ありがとうございます!」

「プロフェッサーCに会え。彼ならばEアームズとやら、その性能を活かすやり方を知っているだろう」

「ぷ、プロフェッサーCで、ありますか?」

 思わず聞き返した。

 それは自分の直属の上司であり、主任研究員であったからだ。

「何か不都合でも?」

「……畏れ多くも、あのお方はメガシンカ部門の研究員。Eアームズには……」

 興味などないのではないか。話した事も数度しかないクセロシキであったが自分より進んだ考えの持ち主だとは思っていなかった。

 ただ一つ、尊敬出来たのは自分の仮面の下を見ても嗤わなかった事だけ。

 しかし王の命令は絶対である。

「会え。会えば分かる。彼もまた、因縁に縛られし男よ」

 その言葉を潮にして王との謁見は終了した。

 王の間を去ってエレベーターに乗った際、アリアはあまりの緊張にか、吐き気を催したらしい。

 何度か口元に手を当てて胃の中のものを必死に抑えた。

「あれが……王、ですか」

「そうダ。フレア団の王、フラダリ。あのお方は恐ろしい。ワタシも、あらゆる禁忌、タブーに触れてきたが、あのお方は違う。神をも恐れぬ、真の天上人だヨ……」

 自分も言うのも憚られるほどの事は犯してきたつもりであったが、あの王の前では全てが些事。

 フラダリの持つカリスマ性に中てられてフレア団の門を叩いた人間も数多い。

 表向きフラダリはホロキャスターの拡張機能を生み出した時の人だ。

 ホロキャスター開発の先駆者とも言われ「文明を先行く人」と持て囃されている。

 その実態がまさか、地下組織フレア団の王など、誰が信じるだろうか。

「わたくし、見てはならぬものを見た気がいたしました……」

 王の前ではそのような気持ちになる。凡俗はひれ伏すしかない。

「しかし、プロフェッサーCに会え、だと……。あの者とワタシとが噛み合わないのを知っての事か?」

 あるいはそれすら看破して、フラダリは命じたのかもしれない。

 プロフェッサーCの許しを得なければEアームズの製造は成されない。急務であった。

 休憩もそこそこにクセロシキとアリアは別の地下空間へとリニアモーターで動く地下鉄を使っていた。

 お互いに言葉少なであったがクセロシキへとアリアは尋ねる。

「プロフェッサーC、とは……?」

 一般構成員では知る由もあるまい。クセロシキは重たく口にしていた。

「フラダリ様に、早くより賛同していた有識者ダ。その実力は今日のフレア団の隆盛を形作った貢献者として、日々フレア団の生み出す利益を還元するために働いている。ワタシは元々、彼の部下であった。しかし、Eアームズの研究に懐疑的であった彼はワタシとは別方向を行った。ポケモンの内なる可能性に賭けた側の研究者だヨ」

「では、外から働きかけるEアームズを邪道だと思われているかもしれないんですよね」

「……通常は、ネ。しかし、ワタシがEアームズを生み出したわけではない。全ての始まりはプロフェッサーCのほうだ。彼こそが、Eアームズの提唱者であった」

 自分は研究分野を引き継ぎ発展させただけだ。

 本懐は彼にある。その事実にアリアは驚愕していた。

「では、真の生みの親は……」

「プロフェッサーCに会うのは半年振りだヨ。あの人は他人と会いたがらない」

 リニアレールが停車し、プロフェッサーCの支配する区画へと着いた。青白く発光する床が敷き詰められており、クセロシキの白色の仮面が浮き立って映った。

 果たして、目的の人物は研究棟の奥底で何かを溶接していた。

 訪れた二人にも目もくれない。

「後にしてくれないか。今、忙しいんだ。新しいCギアが完成しそうでね。今度のギアには相手の波導を見る機能をつけた。波導感知は先進技術だと言われている。実現すれば今までのポケモン研究は飛躍するだろう」

「プロフェッサーC。いいえ……」

 その声音に振り返ったのは金髪の青年であった。白衣の下は水色のつなぎである。そのアンバランスな組み合わせが、この青年の特殊な出生を物語っていた。丸眼鏡をかけており、その奥の瞳は水晶の蒼だ。

「――シトロン主任研究員」

 クセロシキの言葉にプロフェッサーC――シトロンは笑みを浮かべた。

「何だい、やけに改まった口調で。ぼくに用があるのなら手短に伝えてくれ。今、Cギアの調整中で誰とも会いたくないんだ」

「フラダリ様の、王のご命令ですヨ。Eアームズ研究に、再び戻っていただきますよう」

 その言葉にシトロンの笑みが消えた。工具を手離し、彼は白衣を払う。

「あのさ、もう興味ないって言ったよね? 半年前だっけ? それより前か? いや、そんな事はどうだっていい。ぼくに興味を失ったジャンルに、もう一度戻れって? それは本当に、フラダリ様が言ったのか?」

「わ、わたくしも、聞きました。そのように、と……」

 アリアの尻すぼみの声にシトロンは肩を揺らす。

「何だい、何だい。クセロシキ、キミらしくもないな。女を連れてきてぼくを説得? 言っておくが、ぼくは自分の利益以外では動かない。たとえ王の命令であっても、ぼくにはぼくの道がある」

「で、ですが……!」

「くどいぞ。ぼくの行く道は、ぼくが決める」

 やはりアリアの説得では無意味か。クセロシキは取っておいた切り札を切る事にした。

「カウンターイクスパンションスーツ。よく出来ているネ」

 ギアの調節に戻ろうとしたシトロンの手が止まった。振り返ったシトロンの表情は能面のようになっている。

 眼鏡の奥の瞳が、ぎらめいた。

「懐かしい名前を言うじゃないか」

「数年前に失った技術を思い返すのは、虫が悪いかネ?」

「そうだね。あれが今も生きているのだと、キミらは言いに来たのか」

 無言の肯定にシトロンは笑い出した。その意味を解せず、クセロシキは戸惑う。

「何が可笑しい?」

「いや、だってさ。あれは亡霊だよ? もう存在しないはずなんだ。だって言うのに、何で今? カウンターイクスパンションスーツは技術上、ぼくか、ぼくと同程度の頭脳がなければ意地が出来ない。そういう風に造ってあるんだ。調整した、というべきかな。素人が中途半端な知識で振り回して、扱える代物じゃない」

「ですが……! あの劣等生が」

「劣等生? そいつはカウンターEスーツにもっとも縁遠そうな響きだな。まぁ、どっちにせよ、存在するかどうかを議論する亡霊相手に、ぼくの出番はないだろうに」

「主任研究員。その亡霊が、今の研究分野を脅かしているのだとしたら?」

 切り出したクセロシキにシトロンは鼻を鳴らした。

「あり得ないよ。メンテナンス出来ないはずだ」

「しかしデータはある。この矛盾を、あなたはどうする?」

 シトロンは暫しの逡巡を浮かべた後、口角を吊り上げた。

「面白いね。亡霊に対して科学で打ち破れと。それはまた、面白い試みだ。実験と言い換えてもいい。――ルイ・オルタナティブ」

 呼び声に黒髪の少女が突如として出現した。

 否、立体映像だ。

 少女の形を模したOSをシトロンは呼び出したのだ。

『何? 今、Cギアの調整で忙しいんだけれど……』

 アンニュイな空気を出す専用OS――ルイ・オルタナティブの返事にシトロンは肩を竦めた。

「昔造ったお遊びが暴れ出したらしい。ルイ、ぼくについて来い。久しぶりに人と会う事になりそうだ」

『……オレ、他人と会うの嫌だよ』

「まぁまぁ。ぼくも行くんだ。我慢してくれ。さぁ、このホロキャスターの中に」

 舌打ちと共にルイの立体映像が掌のホロキャスターへと吸い込まれた。シトロンはそれを放り投げる。精密機器であるが、クセロシキが慌てて受け取った。

「ルイを預ける。本当なら、すぐにルイから返事が来るはずだ」

「まだ、疑っているのかネ?」

「そう容易く信じられるかと言うんだ。造ったのはぼくだからね。ぼくを信用させたければ証拠を持って来い。そうだな、カウンターEスーツの破片でも持ってくれば、ぼくはキミ達を全面バックアップする。今やっているCギアの強化も、メガシンカ研究も全部打ち切っていい」

「……その言葉、しかと聞き届けたヨ」

「また来るといいよ。ぼくはバカと話すのは嫌いだが、キミほどなら話してもいいと思える。ルイの解析待ちだけれどね」

 クセロシキは身を翻した。アリアもその背中に続く。奥底へと通じていたエアロックが再び閉ざされた。

「何て言うか、嫌な人でしたね」

「天才は、いつだって嫌味なものダヨ」

 さて、どうするか、とクセロシキはルイの入ったホロキャスターを見下ろした。









「何だって? 彼を雇う?」

 びしょ濡れになって帰ってきた自分達はまずシャワーに入れとユリーカに促された。

 ヨハネの着替えはないため、自室に帰ってから事務所に来た途端、マチエールが切り出したのだ。

 自分でも驚いていた。マチエールの言い出す事は突飛だが、ここまでだとは思わなかったのである。

「その、マチエールさん? 僕、そこまでは言っていないけれど……」

「黙っていなよ、ヨハネ君。今、私はマチエールと話している」

 ユリーカの鋭い声音にすっかりヨハネは気圧されてしまった。マチエールはしかし、動じずに繰り返す。

「ヨハネ君を雇ってあげてよ」

「そう容易く行くか。今だけでもカツカツなんだ。そんな状態で雇えだと? 雇用者の苦労も知って欲しいものだ、金食い虫め」

「でも、彼がいなければ、今頃ターミナルに穴が開いていた」

 その事実にはユリーカも反論出来ないらしい。幾度かヨハネを睨んだ後、後頭部を掻いた。

「……どうなっても知らないぞ」

「どうなっても、って。あたしは最初からヨハネ君を助手にするつもりだったから」

 ユリーカはヨハネを睨み上げて手を叩いた。

「ホラ! ヨハネ君、助手になるんならまず一つだ! コーヒーを入れろ。それが出来ないなら帰れ」

 急かすユリーカに閉口しつつもヨハネは今自分の意見を無視して決まった出来事に戸惑う。

「えっと、僕がここに?」

「ああ! 住み込みだ! 言っておくが自分の食い扶持は自分で稼げよ。私はEスーツの修復だけでも手一杯だってのに、シフトを組んでやる余裕なんてないからな」

「よかったね、ヨハネ君」

 マチエールの笑顔にヨハネは言いかけた文句を飲み込んだ。何よりも、彼女を守るのに適した位置ではないか。

「その、よろしくお願いします」

「頭を下げている暇があったらコーヒーを入れるんだ。さっさと! シルブプレ!」

 ユリーカの厳命にヨハネは慌てて階下へと降りかけた。その肩をマチエールが叩く。

「あたしのもね、ヨハネ君」

 どうやら大変な事になりそうだ。

 ヨハネは激動の日々が訪れる予感に不安を覚えつつも、どこか昂揚している自分を発見した。







 第二章了


オンドゥル大使 ( 2016/10/20(木) 21:34 )