EXTRAU 黄金の羅針盤
シンオウは標高の高い山々が多い。
前を行く人間の影を頼りにマチエールとユリーカは縦走を試みていた。思っていたよりも過酷なせいか、ユリーカは何度も休憩を挟む。
マチエールはペットボトルを取り出し、ユリーカに手渡した。礼も言わずにユリーカは水にありつく。
「もうちょっとで頂上だ」
「もうやめないか? 私は頭脳派なんだよ」
「駄目だって。ヨハネ君に書くネタがなくなるって嘆いていたのはそっちだろ」
「ヨハネ君には適当な嘘をでっち上げる」
「そんな度胸ないくせに」
言ってやると、ユリーカはやる気を取り戻したのか、すくっと立ち上がった。
「度胸くらいあるさ。これまでやってきたんだ。これからだって」
頭の上でデデンネが跳ねる。足元を行く〈もこお〉が擦り寄ってきた。
マチエールはその身体を抱えて山頂を目指す。
雲間に沈んでいた山間部が途端に晴れ、山頂の三角点が視界に入った。
「ほい、登頂!」
三角点を踏んで、マチエールは周囲を見渡す。
テンガン山、槍の柱からの眺めは絶景であった。
「来てよかっただろ?」
「どうだか。写真写りが悪いと意味がない。そこで、私の造った写真アプリが役立つわけだ」
ホロキャスターを取り出したユリーカの得意そうな声音にマチエールは微笑む。
失った割に得たものは少ないのかもしれない。
だが、得たものは決して無駄ではない。
「来たぞ。夜明けだ」
遥か彼方から黎明の輝きがテンガン山の山脈を照り輝かせ、闇を払う。
それはきっと、明日への道標だ。
「ああ、夜が明ける」
マチエールは被っていたフードを取り払って、ふぅと息をついた。
夜は明ける。
そして明日が始まる。
当たり前のような奇跡の繰り返しで、世界は回っている。
ふと、その視界の中に見た事のない黄金の鳥ポケモンが横切った気がした。改めて目を凝らすと、その姿は黎明の光の中に溶けていく。
「どうした? 写すぞ」
ユリーカがタイマーをセットする。
マチエールは三角点を踏んで、〈もこお〉を解き放った。
〈もこお〉のパワーが太陽の光を受けて宝玉のように煌く。
それは宵闇を貫く流星に似ていた。
「ああ、きっと、生きている事は、それだけできっと……」
シャッター音が朝焼けを切り取り、それを告げる。
明日が来る。
ポケットモンスターHEXA7 ANNIHILATOR 完