EPISODE103 彼方
しかし、何という意思の輝きであろう。
その眼差しには一切の迷いがない。
赤い鬣のような髪型に、険しいまなこは王、という言葉を補強していた。
「フレア団の、王?」
「如何にも。わたしはフレア団を束ねる存在だ」
『ここで戦ってもらうのは少しばかりイレギュラーだったんだが、王もキミ達の活躍を目にしていてね。その分、戦いたくなった、と』
「座興は、ここまで。これより先は、真の王者のみが口を開く事が許される」
フラダリが両手を叩き、Eスーツのヘルメットが装着される。右腕に施された特殊な意匠の石が照り輝いた。
「行け、ギャラドス。一気に行く。メガシンカ」
フラダリが石に指を当てた途端、空気が流転した。
エネルギーの甲殻を纏い付かせたギャラドスが咆哮と共にそれを解き放つ。
次の瞬間にはギャラドスの姿は変わっていた。
より魚類を思わせるヒレの際立った鋭角的な姿。凶暴さを増したかのような顔面が、小さき存在であるエスプリを睥睨している。
「――メガギャラドス。我がフレアエンペラースーツの真骨頂はこのメガシンカを最大限まで引き出せる。行くぞ、エスプリ」
銀色の血潮が迸り、キーストーンに輝きを灯らせる。メガギャラドスが空気を引き裂いて突撃してきた。
エスプリは咄嗟に受け止めるが、明らかにパワーが段違いである。
吹き飛ばされた形のエスプリが背筋からビルに突っ込んだ。
肺の中の空気が漏れ出て呼吸困難に陥る。戦闘の意識を一瞬でも緩めれば、致命的な一撃を受けてもおかしくはなかった。
「エスプリ!」
ヨハネの声に片手を掲げて制する。まだ大丈夫、という意思表示と共に、ヨハネに指示する。
「逃げるんだ、ヨハネ、君……」
「仲間を信ずるか。美しいな」
フラダリが片手を払う。メガギャラドスが空気圧を凝縮させて口腔から発射した。
エスプリは咄嗟に投げられたそれを手に取り、バックルに埋め込む。
茨の鞭が手首から走り、空気圧を減殺した。それでも完全に殺し切れなかったのはメガシンカポケモンの強みか。
息切れするエスプリに対してフラダリは余裕の態度を崩さない。
「紫の姿、ドラゴンユニゾンであったか。だが、それでも、我がギャラドスに通用するまい」
「通用、する、しないじゃない。あたしは! もう負けられないんだ!」
茨の鞭を両腕からしならせてエスプリはメガギャラドスへと猪突する。
鞭でメガギャラドスの表皮を叩いたものの、あまりに手応えに乏しかった。
「ユニゾンシステムでは、強大なポケモンには敵わない、と資料にあったがその通りのようだな。所詮はポケモンから力を借り受ける仮初めのもの。本来のポケモンの持つ美しき力には敵うまい」
メガギャラドスが口腔内に空気圧を溜め込み、エスプリの身体へと一射した。エスプリは片手を払い、声を張り上げる。
「デルタユニゾン! Eフレーム、フルコネクト!」
紫のラインが金色に染まり、氷結の結界が張られた。メガギャラドスの空気砲はその陣に阻まれる。
「それが、話に聞くデルタユニゾン……。フレアエクスターミネートスーツの真価か。なるほど、悪くない」
「どうだ。メガギャラドスの技を止めてやったぞ」
これならばメガシンカポケモンに拮抗出来る。そう感じたエスプリへと冷水のような声が浴びせかけられる。
「何か、勘違いをしているようだから言っておこう。今のメガギャラドスの空気砲は、技ではない。ただの、呼吸の延長線だ」
ハッとしたエスプリへとメガギャラドスが口腔内にエネルギーを溜めていく。オレンジ色の光が照り輝き、辺りの景色が歪むほどの高熱が形成された。
――何だこれは。
今までのポケモンの技ではない。Eアームズでもこれほどの高密度の技を可能にはしなかった。
避けろ、と判じた思考に対して身体があまりにも鈍い。
蛇に睨まれた蛙のように、一歩も動けなくなっていた。
「そしてこれが、メガギャラドスの、メガシンカポケモンの技だ。食らい知れ。破壊光線」
直後、放たれた光条に視界が眩惑する。
全てが炎熱の彼方に置いていかれ、ミアレの高層建築が根こそぎ巻き上がっていく。
塵芥と化すミアレの街並みを目にしながら、全身を焼かれるような痛みが襲ってきた。
だがこれは、破壊光線の前哨戦だ。
真の破壊光線の直撃を受ければEスーツとて形も残らないだろう。
直撃が来る、と予感したエスプリの視界に入ったのは、一人の人間の影であった。
「クロバット! 全力で行くぞ! エアスラッシュ、連射!」
クロバットとヨハネがその能力全てを用いて風圧の壁を張ろうとしている。だが、そのような些事を前にして破壊光線が止まるはずもなかった。
オレンジ色に染まる視界の中を、エスプリは必死に声にする。
「逃げて! ヨハネ君!」
「僕なら、まだやれる! 僕はエスプリの助手だ!」
クロバットが円弧を描いて風圧の壁の最後の仕上げを行った。鏡面のように磨き上げられた風圧の皮膜が破壊光線を直前で逸らす。だが、その高熱はヨハネとクロバットを容赦なく焼いた。
吹き飛ばされたヨハネの身体にはところどころ火傷がある。クロバットも二対ある翼の一つが焼かれて飛翔高度が下がっている。
破壊光線は最後の最後にミアレの建築物を跡形もなく消し去った。
そこにあったはずの小さなカフェがこの世にあった証明も何もかもを拭い去られている。
「惜しかった、な。いや、その少年のお陰か」
フラダリの言葉にエスプリは身も世もなく叫んでいた。
「お前だけは、許さない!」
『エレメントトラッシュ』の音声と共に両腕から発していた茨の鞭を硬質化させる。
両手首から伸びるそれは剣であった。
両手に装備した剣を振り翳し、エスプリが歩みを進める。
メガギャラドスはさすがに反動で動けないらしい。フラダリが前に出た。
一歩、また一歩と近づいていく。
お互いの距離が縮まるたびに、殺意が強まった。
剣を握り締める手首から凍てつく氷の余波が放たれる。龍の堅牢さと、氷の情け容赦のなさを組み合わせた、その力が放たれようとしていた。
両者が射程に入る。メガギャラドスを使えないとなれば相手も物理か。
エスプリの振り翳した剣に、フラダリは拳で応じていた。
その拳だけでこちらの剣が気圧されてしまう。それほどの高密度の一撃が放たれるが、下段から振り上げた剣がEスーツに切り込んだ。
銀色の血脈に亀裂が走る。
「やるな」
「殺す……、あたしは、もう迷わない!」
憎しみに駆られた視野には敵であるフラダリを屠る事しか考えられなかった。
上段から打ち下ろした剣を相手が両腕で受け止める。交差した腕をそのまま焼き切りかねないほどの圧力を与えていた。
「迷わない、か。その志、美しいな。だが」
腹腔を蹴り上げられる。距離が開いたが、エスプリはその間に属性を変えていた。
緑に染まったヘルメットの耳朶が相手の弱点を照準する。
右腕を突き上げて毒の榴弾をフラダリへと撃ち込んだ。
フラダリが片手を振るい上げると、その手を開き、指と指の間にエネルギーを行き交わした。
破、というかけ声と共に路面へと叩き込まれた掌底はそのまま地面を捲り上がらせて即席の壁を作り出す。
榴弾は壁を融かすのみに留まったが、当然の事ながら次の手を打っていないはずがない。
伸長した腕がフラダリの腕と首筋を締め上げる。水の属性を得たエスプリはそのまま相手をねじり上げた。
フラダリが全身に力を行き渡らせて解こうとするが、その前に念力によって捩じ切ろうとする。
水を基点としたエスパーの捩じ切り攻撃が発揮される前に、フラダリは自らのEスーツを解除していた。
破壊されたのはEスーツの各部だけである。
ヘルメットパーツと左腕のパーツが破損したものの、それ以外はフラダリを中心に螺旋を描き、暴風と共に変身を完了させていた。
「化け物め」
「そちらが言うか」
顔を露出させたフラダリが風に煽られつつ、エスプリへと肉迫する。好機、とエスプリは水の分身攻撃を放っていた。
フラダリが掌底で貫いたのは水で出来た分身である。
しかし物理質量を持つ分身はフラダリの腕を拘束するのには充分であった。
手錠を形作ったエスプリが左腕でそれを引きながら、右腕を渾身の力で叩き込む。
拳がめり込み、Eスーツを貫通したのを感じ取った。
勝った、という感慨の前にフラダリは否と首を振る。
「こちらも、取った」
手錠による拘束を施した右腕をフラダリが膂力で振り払う。
エスプリは一撃を打ち込んだものの、そのパワーの前に吹き飛ばされる結果となった。
お互いに距離が開く。
相手は左腕とヘルメットの破損。こちらにはダメージはないが、疲労が蓄積していた。無理もない。
これほどの密度でユニゾンシステムを使った事などなかったからだ。さらに言えば、黄金のデルタユニゾンを使いっ放しである。
今にも意識が閉じそうな中、エスプリはフラダリを睨み据える。
デュアルアイセンサーがその意思の輝きに煌いた。
「ここまでやるとは予想外であった。さすがは美しき遺伝子の持ち主だ」
「……お前に選ばれたいなんて思っていない。あたしが選び取るんだ」
エスプリの声音にフラダリは威厳を保ったまま応じる。
「気づいていないのか? いや、彼がぼやかしたか。それとも無意識の拒絶か」
「何だっていい。お前を殺せるのならば……!」
殺意の衝動に任せたその言葉にフラダリが笑みを浮かべる。
「その殺気さえ、似通っているな。やはり血は争えないか」
――今、この男は何と言った?
エスプリの殺意に一点の墨が染み渡っていく。疑念という名の墨は瞬く間にエスプリの思考を冷ました。
「……何だって?」
「お前は知らないのだな。自らの生まれについて」
「そんなの、もう消し去った」
強気なエスプリに対してフラダリは頭を振った。
「違う。何一つ、捨て切れてはいない。知らないのは罪だ。罪は贖うべきである。その美しき血統、気高き意思を尊重して、応えよう。お前をこの世に産み落とした存在はどのような人間であったのかを」
力が凪いでいく。今まで見なかった疑問点だ。
自分はどうして、いつから裏に生きるようになったのか?
当たり前のようにストリートチルドレンの時代が長かったせいで、親など考えた事もなかった。
まさか、フラダリは自分の両親について何か知っているというのか。
「……まやかしを」
「まやかしなどではないよ。マチエール。その名前は、わたしがつけたのだからね」
マチエールは仮面の下で息を呑んだ。
どうして自分の名を知っている? それよりも、この男はどうして、その名をつけたとのたまうのか。
「何を、言って……」
「わたしの美しき血筋の一つだ。王たるもの、末席の側近でさえも名は覚えているものだよ。マチエール。わたしと同じ、睡蓮の瞳をした子供」
その段になってエスプリは気づく。フラダリの眼の色は自分と全く同じである事を。
「何の関係があるって……、お前なんて、あたしは……」
「過去の清算はするべきだが、まさかシトロンに促される形となるとはな。皮肉めいているが、これも事実。マチエール。お前の父親はわたしだ」
マチエールは戦慄いた。フラダリが、自分の父親?
あり得ない、と否定する自分がいる一方で、では自分の詳細を知るこの男の正体は、と突き詰めていくと、どうしてもぶち当たる壁があった。
同じ色の瞳。
どこか、懐かしい香りがする。
拳を交し合うたびに、内奥から開かれていく何か。
それが原始の記憶であるのか。
エスプリは頭を抱えてその場に蹲った。何度も否定の言葉を吐く。
「違う、違う違う違う……。お前なんて、あたしの父親じゃない!」
「そう信じるのは勝手だが、この世でどうしようもない事の一つに、血の宿命というものがある。わたしはデータベース上では知っていたが、こうして戦ってハッキリしたよ。お前はわたしの娘だ。フレア団を継ぐ資格を持つ、王の血族なのだよ」
「嘘だァッ!」
迸った叫びと共にエスプリはバックルへとボールを埋め込んでいた。
『コンプリート。ファイアユニゾン』の音声と共に手首と足首から炎が噴き出す。
フラダリは心底解せない、とでも言うように首を横に振る。
「……だからこそ、分かり合える可能性も視野に入れていたんだが。やはり無理か。わたしの血は争いでしか、拭えないと見た」
メガギャラドスが回復し、再びこちらを睨みつける。まだフラダリの右腕は生きている。
メガシンカが解けたわけではないのだ。
エスプリは肩を荒立たせて、禁断へと手を伸ばした。
『デルタユニゾンシステム。レディ』
ヒトカゲのデルタユニゾンは試した事がない。しかし、今ならば。
何もかもを消し去ってしまいたい今ならば、それは相応しい。
ラインが黄金に染まっていく。両手、両足首に黄金の武具が備わった。舞い散る火の粉にも砂のような黄金色が宿る。
ほう、とフラダリが感嘆した。
「撃ってくるか? わたしとの血縁に、決着をつけるため」
「あたしに、親なんていない。信じられるのは、今も昔も、おやっさんだけだ!」
跳躍したエスプリが飛び蹴りの姿勢を取る。
メガギャラドスがとぐろを巻き、その攻撃に備えようとした。
足首から炎が噴き出し、推進剤のようにエスプリの身体に纏いつく。
赤い流星がミアレの景色を横切った刹那――。
全てが、火炎の向こう側へと追いやられた。
爆発の衝撃波が並み居るミアレの建築物を破砕していき、ガラスが根こそぎ叩き割られていく。
乱舞する炎が円環となり、周囲一体を焼き尽くした。
紅蓮の中に落とされた景色の中、エスプリは最後の最後に――フラダリが口元を綻ばせたのを目にした。
「何だって言うんだ、これは……」
モニターされる事象にユリーカは絶句していた。
フラダリとエスプリとの戦いが始まったのを嚆矢として、巨大な噴煙が巻き起こり、ミアレの街並みを焼き尽くしていく。
その破壊の様子に息を呑んだ。
「何だって……エスプリにあんな性能があるわけがない」
『マスター! コルニさんが!』
その声にユリーカが振り返ると、全身に精密機器のケーブルを張られていたコルニが起き上がっていた。
「起きたか、コルニ」
「ここは……、アタシは死んだはず」
「残念ながら地獄ではないよ。否、地獄があるとすれば、この先か」
「アタシは、フラダリに負けた」
前後の記憶はあるようだ。蘇生の成功を意味していると共に、最悪の事態に転がっている事も意味していた。
コルニの生存、それは即ちミュウツー細胞の活性化である。
今もコルニは無自覚でありながらミュウツーとの同調状態にある。
だが、それを話すべきではない、と感じていた。
彼女ならばそれを知るなり自害する道を選ぶだろう。
自分の得た駒を、失うわけにはいかなかった。
「コルニ、私は今、フレア団に捕らえられ動きも儘ならない。だが、お前ならば、それを突破出来るだろう」
その言葉にコルニは眉根を寄せる。
「どういう意味?」
「お前の身体とEスーツとの適合率が低いために起こった敗北だ。眠っている間に適合率を上げておいた。それと、これはもしもの時のために」
手渡したのは腕時計型の道具であった。
コルニはそれを受け取るなり怪訝そうにする。
「これ何?」
「イグニスの、もう一段階上の能力を開放するための道具だよ。お前ならば使えるかもしれない。イグニスの上位の力、イグニスコアを」
彼女が理解したかどうかは分からない。ただ、コルニは今の状況が芳しくない事だけは分かった様子であった。
「……借り、と思えばいいのかな」
「別段、気負う事もない。考えるのはこれまでと同じだ」
「そうだね。アタシは組織のナンバーツーを排除する。復讐に生きるのは、今まで通りだ。これは借りていくよ」
腕時計をはめたコルニは自分に取り付けられたケーブルを引き剥がしていく。
ユリーカはコルニにボールを投げた。
「〈チャコ〉も回復しておいた。今まで回復もろくにせずに使ってきただろう? 体力がレッドゾーンだったぞ」
「感謝はする。でも、アタシ、どうすれば? 一応、生き返らせてもらったんだよね?」
「今まで通りやるのが一番かもしれないな。私はフレア団の内部から破壊する方法を編み出す。その間、お前がやるのはその力を、存分に振るう事だ」
「エスプリにも言わなかったような事、言うじゃん」
このような酷な事、マチエールには言えるはずもなかった。
復讐のためだけに生きろ。自分の駒であるお前は、ただ戦えばいい、など。
ある面では最も残酷な事を命じているに等しい。
「〈チャコ〉の回復と、これ、もらって行くよ。アタシはもう行くけれど、逃げるのとか手伝わなくっていいの?」
アタッシュケースを背負ったコルニにユリーカは頭を振った。
「まだ、やる事があるんだ。それが終わってからじゃないと、ヨハネ君にも、マチエールにも顔向け出来ない」
「ふぅん、まぁいいけれど。アタシ、案外身勝手で淡白だよ? 恩を売るなら今のうちだと思うけれど」
蘇っても大差ない辺り、マチエールと似ているのだな、とユリーカは感じる。
「恩なんて売ったところで、お前は行くだけだろう」
「分かってんじゃん。アタシの前に立つ奴を倒す」
「一つ、面白い情報を仕入れている。前回、フラダリとお前の戦いを仕組んだ人間の事だ」
これはコルニの情報源を探るうちに知り得た情報であった。彼女は振り返らずに応じる。
「誰だったの?」
「クセロシキも、シトロンも、そしてフラダリも、全て一人の掌の上で踊っていたに過ぎない。利用されたんだ。フレア団を、そいつが手に入れるために」
そのたった一つの目的のために、全てが歪められた。
コルニはさすがに静観出来なかったのだろう、肩越しに一瞥を投げてきた。
「誰なのさ」
「名前までは探れなかったが、頻出する単語があった。コードネーム、ファウストと」
その名前を聞くなり、コルニの目の色が変わった。
瞠目した彼女はその事実を咀嚼し、何度か頷く。
「……なるほどね。そういうカラクリだったか」
「私にはそれ以上は分からなかった」
しかし、もう必要ないようだ。コルニは全てを理解したような面持ちである。
「もういい。分かった。アタシをどうしたくってあいつが来たのか。全て、パーツが揃った」
最早その歩みに迷いなど微塵にもないかのように。
コルニはラボを出ようとする。
何か言葉を投げようとして、ユリーカは投げ損なった。何を言っても、今のコルニを止められないだろう。
自責の念、よりもなお深い、罪悪感。
重石のように全身に降り立ったそれを拭い去るのには、自分の罪は容易く贖えるものではない。
『……マスター。何か、言わなくってよかったんですか』
「言ったところでコルニは止まらないだろう。私に出来るのは、せいぜいここまでだ。後は、祈るしかない」
成長を続けるミュウツーと、業火に包まれたミアレの街。
その二つの事実がやがて一つの運命となるとは、この時、ユリーカは予感もしていなかった。
第十章 了