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毒使いの紫、瞬撃の一族
第三十話「閃夜」

 空気は生ぬるく、アーロンは振り払うように手を薙いだ。

 湿度を感覚して感電させるには相手との距離が開いている。相手は三人、地の利は、とアーロンは目線を走らせる。ビルの屋上には一人、残り二人は別行動だが先ほどの攻撃が三人組である事を示していた。波導を感知する眼が、別のポケモンによる攻撃だと見抜いている。

「二人か、あるいは三人での行動か」

 見抜いた声に相手の太っちょの暗殺者は、「さすがだな」と答える。

「飛行タイプの特殊技を、人数まで見抜くとは青の死神の名は伊達ではない。しかし我ら三人、ただ闇雲に立ち向かうわけではない事を知れ」

 波導を見る視界の中で空気の弾丸が練られてアーロンへと突き刺さろうとした。直前に跳躍して逃れる。今のは「しんくうは」だ。近距離型のポケモンと、中距離型のポケモンが二体。相手はあわよくば近距離型にとどめを刺させようと中距離型でちまちまと攻めてくる。

「ピジョット! エアスラッシュ!」

 甲高い鳴き声を上げて鳥型のポケモンが放たれる。翼を翻し空気の刃が放たれた。通常ならば不可視だが、アーロンの眼には、波導を読む眼にはそれが明確に映る。
「エレキネット」を応用した電気ワイヤーでアーロンはビルの一角へとその先端を引っ掛けた。

 飛び移ろうとすると展開していたのかもう一体の鳥ポケモンが翻って風の刃を打つ。背後のビルが穿たれ、その破片が背中を打った。僅かな痛みだが無視出来る範囲だ。アーロンは飛び移って赤い鶏冠の特徴的なポケモンへと電撃を放とうとするが、相手との距離が開いている。今の状態で撃つならば接触している必要があった。

「動けまい、波導使い」

 太っちょがビルの上から声にする。飛行タイプ二体、しかもどちらも接触を許さない中距離タイプ。しかしそれだけではない。近接で必ず致命傷を狙ってくる近距離型が一体潜んでいる。それを見通さない限り勝利は訪れない。

「この距離ならばピカチュウの電撃は命中せず、なおかつ近距離型に背中を見せる結果になる、という事だな」

 電気ワイヤーを絡めつければ不可能ではない。しかしその時こそ、近距離型の接近を許す契機となってしまう。慎重を期す必要があった。

「どうした? 電気タイプは飾りか? それとも、電撃による精密攻撃には自信がないか?」

 太っちょの挑発には乗らない。だが、どこから来るのか見定めなければやられるのは消耗戦を続けるだけだ。

「そちら側から攻めさせてもらう。ケンホロウ、エアスラッシュ!」

 再び放たれた風の刃に煽られるようにアーロンは身を翻す。ケンホロウと呼ばれたポケモンとピジョットが交差して同時攻撃を撃とうとした、その時である。

 電気のワイヤーを伸ばしケンホロウに絡めつける。そのままケンホロウの飛翔に任せてアーロンは電気を流さずにピジョットとの交差点まで連れて行かせた。ケンホロウが解こうともがくが深く食い込ませたワイヤーがケンホロウの翼をもつれ込ませる。

 ピジョットが身体から光を放ち、飛行タイプの極点「ゴッドバード」を放とうとする。だがそれさえも折り込み済みだ。ケンホロウがピジョットと交差する。その瞬間にアーロンは電撃を放出する。

 ケンホロウが感電しただけではない。ピジョットも巻き込まれる形で感電し、二体の鳥ポケモンが落下していく。アーロンは太っちょの舌打ちを受けて非常階段に展開しているケンホロウのトレーナーを捉えた。電気のワイヤーで首筋をひねり込んでそのまま落下させる。自分も自由落下するかに思われたがその直前にアーロンは別の建物に飛び移った。

 ケンホロウのトレーナーが墜落死する中、アーロンの飛び移ったビルの足場が瓦解する。凄まじい膂力で足場が踏み壊されていくのが分かった。目にしたのは飛行タイプでありながら鈍そうな黒い鳥ポケモンだ。大ボスの威容を伴って片方の翼を掲げる。すると放たれた風の刃がアーロンを切り裂かんと迫る。側転で回避してアーロンは足場から離れた。あれが恐らく近距離型の飛行タイプ。だが近づけば攻撃する前に足場をやられる。

 太っちょが、「自由に戦えまい」と嘲った。

「たとえピジョットとケンホロウを破ったところで、お前は」

「ならば、お前を利用させてもらう」

 アーロンの言葉の意味が分からなかったのか太っちょが目をしばたたく。伸ばした電気ワイヤーの先が太っちょを捉えた。アーロンはそのまま砲丸投げの勢いで太っちょを鳥ポケモンへと放り投げる。太っちょの絶叫と共に鳥ポケモンが逡巡の気配を見せたが命中するギリギリで鳥ポケモンが翼で太っちょを切り裂く。

 血が迸る中、アーロンは肉迫していた。

 鳥ポケモンに取り付き、手で接触する。

 その瞬間、電撃によって鳥ポケモンが内側からぷすぷすと黒煙を上げた。鳥ポケモンが倒れ伏す。声が走り、鳥ポケモンのトレーナーが逃げ出していた。追う気力はない。

 アーロンは息をつき、高層ビル群を降りていった。


オンドゥル大使 ( 2016/03/17(木) 22:02 )