MEMORIA











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あとがき
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 拙作、『MEMORIA』を読んでくださり、ありがとうございます。毎度同じみになってまいりました、オンドゥル大使です。
 今回はHEXA六部、という事で、随分と遠くまで来たなぁ、という感慨と共に、「なかがき」で終わっているはずのこの物語が何故、この最終章を迎え、この最終回となったのか、紐解こうと思います。
 そもそもHEXA第五部『INSANIA』、あれで大体、やりたい事は出来たと言いますか「人気は出ずとも満足行くものができた」という感覚はありました。
 しかし、やりたい事とやるべき事と、その結果というのは毎度別個のものでありまして、私は満足した、かのように思っていたのですがやはりどこかで不足の要素を見ていたのでした。
「INSANIAでは自分のことなどまるで分かっていない記憶喪失の彼=ツワブキ・ダイゴを主軸とした願いと祝福の物語だった。では、その正反対、呪いしかない物語があるとすれば……」
 私の作品を知っている方ならばピンと来るでしょうが呪いと悲哀しかない物語がありました。そう、炎魔という暗殺者が主人公の物語『F』です。
 それまでに色々と試行錯誤するにつれ波導使いを主人公に据えた物語をいつかはやりたいと思ってはいたのですがその波導使いが構想段階では女の子だったり、色々と定まっていませんでした。
 それを確定させた要素が「暗殺者」です。
 波導使いは必ずしも正義の人間ではないのではないか。
 その道が拓けた瞬間、HEXA六部が形を成しました。
 波導切断、という変わった設定も全てそのためです。
 暗殺者なら最強の暗殺者がいい、それも、殺しの遂行に迷いがなく、スマートな最高にクールな奴がいい。その具現化がこの物語の主人公、アーロンでした。
 実は波導の勇者ルカリオはテレビで一回だけ観ただけであまり深くは追っていないのですが、それが幸いしてか波導使いの常套句である「波導は我に在り」を一度も言わない主人公となりました。
 この物語のアーロンは映画のアーロンとは全く違いますし、そもそもヤマブキシティ自体、ほぼ独自設定です。
 しかし、アーロンを主人公にするのならば毎度女の子が出てきたほうがいいな、と思いました。007で言う「ボンドガール」のようなものです。
 物語の彩りにはやはり女性キャラ。しかも、毎回主人公を殺しに来るほど厄介な暗殺少女達……。
 炎魔シャクエンを出すのは割とすぐに決まったのですが、それ以降も楽しんで書けました。私が書いた中では、悲劇に走り過ぎない作風となったかと思います。……まぁ、毎度のことながら人は大勢死んだのですが。
 さて、主人公アーロンと彼の周りに集まる暗殺少女達は確定したところで、この物語の根幹、いい意味でも悪い意味でも、それが見えてきました。
「手を変え品を変えれば、これいつまででも続けられなくね?」という事です。
 実のところ、毎回暗殺者を変えればこの作品、二十章くらい出来ます。
 しかし、終わりのない物語は幸福ではありません。
 物語には終わりがあるから幸福なのです。
 なので第五章と六章辺りで「この家族ごっこに終わりが来る」というのを仄めかしたのは正解だったと思っています。
 基本、毎回メインとなる暗殺者と女の子が出てきて、それを解決する、というスタンスでした。
 誰が毎回メインとなったかは、まぁ読めば分かるので割愛して、さて、最終章の話です。
 なかがきでも書きましたがこの物語、第九章で円満解決します。
 メイは真の姿を見せましたがプラズマ団はアーロンによって壊滅し、これまで通り、メイとシャクエン、アンズとの共同生活を続けられる。ある意味では、平穏な日々がずっと続いていく……。
 超ハッピーエンドです。
 しかし語られていない事が多過ぎました。
「アーロンはいつから暗殺者になったのか」「師父との約束は?」「石化の波導使いはどうなったのか」……。
 これらはわざと最後の疑問に残した代物です。しかし、これらがなくとも終わらせられた物語でした。
 メイと分かり合えたアーロンは愛と悲しみを知り、深い孤独から脱する。
 それでいいのです。通常ならば。
 しかし物語にはピリオドを打たなければなりません。なのでなかがきで忠告、という形にしました。
「これで波導使いアーロンの物語は一度終わります。しかし、これ以上を観るのには覚悟してください」
 この文句は、円満に終わらせられる物語のさらなる深い闇を直視する人のみに向けた言葉でした。
 何一つ終わっていない。アーロンの本当の最後の物語、真の完結篇――。
 最終章はそのためにありました。
 私自身がMEMORIAにケリをつけるために。アーロンが師父と、メイとの間に、芽生えた感情に終わりを告げるために。
 愛を知り、悲しみを知り、孤独である事を知り、最後の最後に、誰かが傍にいてくれることをただ願っただけの――弱くて醜い、物語でした。
 これは英雄譚ではありません。
 ましてや波導使いアーロンの成長物語というわけでもありません。
 これは小さな、最後の最後に名も無き花を守ることを決意出来たただの「人間」の物語です。
 アーロンとメイが最後どうなったのか。
 全ては皆さんに委ねます。
 これ以上語ることは無粋でしょう。
 これは影でしか咲けない花があるというだけの、些細な物語。
 次はHEXA第七部『ANNIHILATOR』でお会いしましょう。
「思い出」を巡る物語は終わりを告げました。


2016年9月26日 オンドゥル大使

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オンドゥル大使 ( 2016/09/26(月) 20:46 )