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Extra Episode 鬼哭の黒、追憶の涙
第百二十六話「死徒の翼」

「波導が、僅かにざわめいている。エアームドの動きが変わった。これは畏怖≠セ。来るか、盟主ハムエッグ。その使いである最強の暗殺者、スノウドロップ」

 歩み出るところでアイアントの群れが道を埋め尽くしていた。殺す事は出来たが、無駄を撃つ事になる。ここは静観し、別の道から行くべきか。そう感じて身を翻した波導使いの視界に、銀翼が映えて映る。空気がひりつき、それの到来を予感させた。街そのものが震撼し、災厄を打破しようとしている。

「だが、来たところでどうなる? ホテルとハムエッグが組んだところで、我には敵うまい。どこまでも無力。愚行だ」

 一体のエアームドが高空を突っ切っていく。一体だけ速度が緩い、と感じていると急に全身を粟立たせるプレッシャーの波に襲われた。

「これが……スノウドロップか」

 来ると分かっていても全く予期出来ないほどの脅威。波導使いはその場から離れようとするが、既に靴裏が凍りついていた。

「凍結範囲……、あまりに速い」

 エアームドがハーネスを外してその人物を投下させる。視界に入ったのは風に煽られる少女だ。緑色の髪に、星空を内包した瞳がこちらを見据える。

「あれが、敵だね」

 空中で射出されたポケモンが一挙に少女を包み込んだ。雪男を思わせる威容が少女を包み込み、着地に備える。

「させると思っているのか」

 赤い光が照射される。だが、それをいなしたのは攻撃でも何でもない、空気の圧力の変化であった。凍結に晒された空気と他の空気との温度差によって生じた層が石化を防いだのである。明らかにその威力が違った。熾天使とは比べようもない。

「波導使いって、全部似たようなものだね。ラピスは、多分、倒せると思う」

 その言葉に凍結の領域を広げさせたユキノオーが吼える。波導使いは後退して体勢を立て直そうとしたが、それを許さなかったのは陸路を這い進むアイアントであった。

 こちらの退路を塞ぎ、確実に正面衝突を企てている。

「これも、ハムエッグの策か」

 着地したユキノオーと少女が凍結の手を伸ばしてその衝撃を減殺させる。ばっと生じた土煙がすぐさま凍り、まるで津波のように固定化された。

「ユキノオー、メガシンカ」

 直後に放たれた声に波導使いは駆け抜ける。メガシンカされれば厄介である。何を使ってでも、それだけは阻止する。そう判じた身体が跳ね上がり、赤い光を瞬かせようとしたところでユキノオーのメガシンカの途中の腕が伸びてきた。

「メガシンカ中に、攻撃なんて」

 普通は不可能だ。だが、このユキノオーと使い手はそれを実行する。

 メガユキノオーへと書き換わっていく半身を蠢かせながら、ユキノオーの腕が樹木の槌と化す。

「ウッドハンマー」

 すぐさま飛び退れたのはまだこちらに石化の分があるからである。石化の攻撃の気配にメガユキノオーが僅かに遅れを見せた。その一瞬で何とか攻撃領域から逃れる。

 だがそれでも食らった攻撃は甚大だ。

 掴みかかられたコートは破けている。波導使いは新たに脅威として眼前の敵を見据える。

「まさか、これほどまでとはな……。最強の暗殺者、スノウドロップ」

「ラピスはね、この街が大好き。だから、主様の助けになりたいの。波導使いがその邪魔だって言うんなら、ラピス、まよわないよ。まよわずに、ころす」

 メガユキノオーへとメガシンカを遂げた躯体がこちらを睥睨する。背筋から伸びた雪の華の芽がその素早さを殺しているのが分かったが、それでも充分に脅威であった。

 まず相手の射程が割れない。どこまで攻撃可能なのか、まるで分からない。

「まずは、こちらから攻めに転じるか」

 赤い光を照射させる。メガユキノオーは地面を抉り込んだ。なんと拳の一撃で捲り上げたアスファルトを使って防御する。そのような力技などあるものか。石化の攻撃が防がれ、波導使いは横っ飛びしていた。

 次の一撃にすぐさま転じなければ、この状況では不利に転がるばかりだ。

 考える前に、次へ、次へ、と波導使いは戦術を変える。

「スノウドロップ、ラピス・ラズリ。この真の強さは、トレーナーの指示がほとんどなしに攻撃出来るというもの。だが、そのトレーナー本体はどうだ?」

 赤い光の明滅。メガユキノオーが当然防御するが、それこそが狙いであった。

 波導使いが狙いをつけていたのはカーブミラーである。その部分に反射した光がラピスへと降り注ぐ――はずであった。

 しかし、ラピスは動じない。それどころかメガユキノオーにほぼ指示を出さず、その死角からの攻撃を防ぐ。

 その方法は、自分の周囲を凍結させて逆反射させるというものだった。

 ――何という無茶苦茶な戦力。

 凍結と攻撃、その破壊力に関して言えばスノウドロップに比肩する使い手はいないだろう。鏡による反射も全て、氷によって逆反射されてしまう。

「光を使うんだ。その赤い光が、石化、の元かな?」

 ラピスは波導使いとの戦いが初めてではないはず。

 一度でも戦った事のあるタイプならば次はしくじらない。それがこの街最強の暗殺者の所以だ。

 だからこそ、波導使いは一撃によって沈める事を想定していたのだがあまりに浅かった。

 石化の光を見切られてしまえば、本体狙いは難しくなる。

「どこまでも、強大な壁だな、スノウドロップ。しかし我はそれを超える。熾天使、あれも相当な使い手であった。聞いた話ではお前のカウンターのためにある暗殺者だというじゃないか。炎魔、に相当する、と。だが、あの熾天使でさえも、我の前では些事であったぞ。スノウドロップ、お前はどこまでついて来られる?」

 まだ石化の攻撃には余力がある。どこまでもスノウドロップを消耗させる手立てはあった。

 だが、ラピスは長丁場にさせるつもりはないらしい。

「悪いけれど、主様が早く終わらせなさい、って」

 ラピスが手を払っただけで、付近一帯が凍結の領域に晒された。ビルが凍て付いたかと思うと内側から破砕される。粉塵でさえも凍りつき、氷の刃と化した。

「これが、攻防一体の実力……!」

 どんな一撃であっても無駄玉は撃たない、というわけだ。波導使いは赤い光を使って凍結を相殺させる。それを目にしたラピスが首を傾げた。

「おかしいな。だって、今の攻撃、ころすつもりだったのに、何で当たらないんだろう?」

 相手とて射程と攻撃に割く割合を読んでいる。読みながら戦っているのだ。こちらの攻撃力が割れれば不利に転がる。波導使いは最小限の石化範囲を使い、スノウドロップへと踊り上がろうとした。

「でもま、いいよね。だって本気じゃないし」

 ラピスがすっと手を掲げる。それだけでメガユキノオーが丸太のような腕を振るい上げて激震をかました。

 空間そのものが震え、攻撃の照準がぶれた一瞬。

 赤い光の照射と、凍結の刃が交錯した。

 石化はメガユキノオーの一部へと命中したがこちらのほうが深刻であった。

 凍結の刃が肩口に突き刺さる。その部位から侵食が始まり、波導使いは舌打ちをする。

「致し方ない。波導を切る」

 攻撃を受けた範囲の波導をゼロに近い値まで下げ、相手の侵食を回避した。

 メガユキノオーも命中したのは攻撃に必要な部位ではない。屹立した二本の雪の芽である。石化の攻撃が至る前に切り離された。切り離した部位が侵食されるのを目にしてラピスが声にする。

「へぇ、こういう戦い方なんだ、こっちの波導使いは。ラピスもさ、似たような事が出来るよ」

 指揮棒のように手を振るっただけで、氷が津波の如く押し寄せてくる。ブーツに雪の一片が纏わりついたかと思うと、一瞬で右脚を凍結に浸した。命中した箇所から問答無用で凍結させるなど、正気の沙汰ではない。

 ――確定で、潰す気だな。

 ハムエッグの本気が伝わってくる。波導使いは波導をコントロールし、雪の浸食を最小限に留める。

「惜しいな。ねぇ、波導使い。あなたの名前を教えてよ。ここまでやるんだからさ、お互いに名乗らないとつまらないよ」

「……驚いたな。ラピス・ラズリはハムエッグの人形と聞いていた。それが他人の名前を気にするなど」

「前までは気にならなかったんだけれど、お姉ちゃんがね、初対面の人には名前を聞かないといけないんだよ、って言うから。あなたとはすぐにさよならだけれど、名乗るのが筋だ、とか何とか聞いた事もあるし」

 さらりと恐ろしい事を口にする。これが波導使いアーロンでさえも手こずらせた最強の暗殺者の精神。

 波導使いは旅人帽を傾け、軽く会釈した。

「お初にお目にかかる。我の名前は波導使い、ゼロ。まさかこの局面で名乗るとは思っていなかった」

 波導使い――ゼロは口角を吊り上げた。それに比してラピスは眉も上げない。

「へぇ、あっちはアーロンでこっちはゼロか。面白いね。ラピスは、ラピスだよ。ラピス・ラズリ」

「存じている」

「知っているんなら、挨拶はいらないよね。ころしちゃおう」

 問答無用のスノウドロップの声にメガユキノオーが応じる。凍結の波が一直線に放たれた。跳ね上がり、ゼロは考える。

 この暗殺者にも、弱点はあるはずだ。

 だが、単体戦力でこのスノウドロップを上回る事は出来まい。メガシンカに、元々の素養も高い。加えて、聞いていた話ではアーロンとの戦闘で精神面の脆さが露呈したとの事だったが、目の前の相手にそのような素振りはない。

 克服した、と見るべきだろう。

 ならば、真に弱点のない殺し屋だ。

「しかし、この街の抵抗力も味な真似をする。熾天使、スノウドロップ、ホテルミーシャ、ハムエッグ。どれも、確かにただの暗殺者が拮抗するのには無理が生じる存在だ。だが、我は波導使い、ゼロ。それら全てを凌駕する」

「あのさ、舌噛むよ」

 下段から襲ってくる凍結の腕にゼロは瞬時に波導を読んで防御した。石化の光を浴びせ、その行く手を阻む。

「面白いな。どこまでも、楽しませてくれる。これは愉悦≠セ。我に、どこまで戦いの楽しみを味わわせてくれる? さぁ、来い」

「言われなくっても行くよ」

 背後から迫った氷の龍が口腔を剥き出しにする。ゼロは手を払い、その氷の龍を石化させたが、直後に内部から分裂した。

 粉砕した塵の一つ一つが攻撃性能を持っている。頭では防御したつもりでも、肉体の生存本能として防御出来ない部分がある。それは呼吸であり、なおかつ人間ならば逃れようのない筋肉の動きでもある。

 呼気に混じって氷が肺に侵入したのを感知した。

 ゼロは自らの胸元に手を当てて波導を読み取る。

 内側から相手の身体を食い破る凍結攻撃。だが、とその粒子を切断した。

 肺の中に存在した粒子がことごとく無力化される。しかし、それだけに尽力するほど相手も隙だらけではない。

 今度、ゼロを絡め取ったのは氷の鞭であった。空中の只中にある足を捉え、そのまま振り回される。

 地面に頭部を叩きつけられ、脳しょうを撒き散らすかに思われたが、ゼロは波導を分散させ、地面との圧力を切った。

 浮遊が生じ、ゼロの身体が無重力に晒される。触手の動きが鈍ったのを感じ取って根元から石化を浴びせた。

 弱まった触手が戻っていく。

「なんか、変な使い方だね、それ。アーロンも充分に変だけれど、その上だよ。あの波導使いは、波導を切って壊すやり方をするけれど、あなたは、波導を切っているのが何て言うのかな。本当の使い方じゃない気がする」

 さすがはこの街最強である。既にこちらの手の内は読み取られているのだろう。

「我がこれ以上、余計な手を打つ暇はないというわけか」

「そんな、余計な事なんて言っていると、本当に死んじゃうよ?」

 構築されたのは氷の槍である。十数本は一度に作り出され、同時に投擲された。

 ゼロは自分に命中する恐れのある数本だけを石化させたが、途中で軌道が変わった。

 命中しないと当たりをつけた槍に触手が巻きついている。照準を変え、こちらに矛先を向けた槍にゼロは瞬時の石化で応戦する。

「メガユキノオー本体には触れさせてくれないのか」

「だって一回でも触れられたら負けちゃうもん。それくらい分かるよ」

「だが、操っている触手とて、メガユキノオーの媒介する氷の攻撃網だ」

 石化が徐々に本体であるメガユキノオーへと戻っていく。これで攻撃が返った、と思ったがメガユキノオーは即座に切り捨てた。

「来るまで待つわけない」

「いや、それでも充分なほどだ」

 ラピスが小首を傾げている。その瞬間、石化した触手の切れ端が地面を伝ってラピスへと狙いを定めた。氷の槍が投げ返される。その挙動にスノウドロップとて目を見開いた。

「あれ? 切ったはずなのに」

「万物に等しく、波導は宿る。たとえ根元から切ったとしても生きていた、のならば、それは動くのだよ。我が波導の奴隷としてな」

 石化に晒した槍や触手が一斉にメガユキノオーへと襲いかかった。当然、命中する前に叩き落されるが一発くらいは通るだろう。

 それこそ、石化の波導の真髄であった。

 一発の槍がメガユキノオーの足元に突き刺さる。

 それだけでいい。

 相手の射程に、たった一発でも入り込めば、それが侵食開始の合図だ。

 地面を伝い、波導が流れ込む。

 メガユキノオーが感知した時には既に遅い。両腕と両脚でその巨体を維持しているメガユキノオーには避けるだけの素早さもなかった。

 瞬く間に足元が石化に侵食される。メガユキノオーが地面を踏み鳴らした。

「地震、か。組み込む技としてはさすがだな。しかし、もう体内に入っている」

 メガユキノオーが石化に喚く。ラピスはしかし、動じる事もない。

「だったら、戻っちゃおうか。メガユキノオー」

 まさか、とゼロは息を呑む。

 それがまさしく逆回しであった。

 メガユキノオーが紫色のエネルギー殻に包まれたかと思うと、全エネルギーを空気中に放出し、メガシンカが解除された。

「強制退化……。そこまでの域だとは」

「戻っちゃえば、波導の位置も変わっているよね」

 その通りだ。メガユキノオーの波導を読んだ攻撃であったのだが、ユキノオーの波導では話が違ってくる。

 ユキノオーが咆哮し、凍結の渦を形成する。吹雪に飲み込まれた形となったゼロは突破口を目指そうとして、自分に向かって飛んでくるエアームドを視界に入れた。

「何だ……?」

 エアームドが後ろ足に何かを掴んでいる。編隊を組むエアームドがそれらを起動させた。

 直後、爆発の光の輪が吹雪の渦中に広がる。

「爆導索……! 動きが」

「止まった、ね」

 吹雪の渦が全方位から細やかな刃を形成する。ミキサーに叩き込まれたように、空気が分解され、量子の段階まで還元されていく。

「よもや、ここまでとは」

「よくやったほうだと思う。でも、手持ちも晒さないで勝てるほど、甘くはない」

 ラピスは手を払う。それで終わったのだと確信したのだろう。

 だが、その認識は差があったようだ。

「よもや、ここまで――今の段階で勝負出来るとは思いもしなかった」

 その言葉にラピスが眉を寄せた瞬間、ゼロはコートを閃かせる。

「技名を隠してやっていたのもここまでだ。やろうじゃないか。デスウイング」

 ゼロを覆うように、拡張したのは内部に爪を持つ赤と黒の翼であった。両翼がゼロから展開された瞬間、包囲陣を突破する赤い光が瞬いた。

 今までの石化の赤の比ではない。

 帯のように赤い光が発射され、吹雪に風穴を開ける。

 ラピスが初めて動揺した。

「吹雪を、破った?」

「信じられないか?」

 躍り上がったゼロには両翼が生えていた。赤と黒の翼から紫色のオーラが迸る。

 ラピスが震え上がった。

「何、これ……。こんなの、感じた事がない」

「教えてやろう。それは恐怖≠セ」

 ユキノオーの操る凍結領域がこちらへと迫ろうとしてくる。ゼロは手を掲げた。

「ダークオーラ。この波導はそのような下賎なる手に穢されない」

 浮かび上がった波導にユキノオーが凍結の手を仕舞う。それほどの恐怖を感じている事だろう。今まで恐怖を知らなかったスノウドロップでさえも陥った。もう逃れる事は叶わない。

「でも、吹雪を突破したくらいで」

 再び練られる凍結の手だったが、今度はこちらから仕掛ける番であった。

「やれ。デスウイング」

 放たれた赤い光条がユキノオーへと直進する。ユキノオーが前に出て腕で払った。だが、その一撃でも石化が始まる。

「こんなの、凍結で止めれば」

 ユキノオーが凍結を広げ石化を止めようとする。しかし――。

「止まら、ない……?」

 石化は止まるどころか侵食を早めた。石化した腕を引きずり、ユキノオーが呻く。

「ポケモンのほうが物分りのいいようだ」

「何をしたの。ユキノオーの、体力が削られている」

「先ほど言ったではないか。我の波導はアーロンのものではない。アーロンの一門はかねてより、波導の放出を専門としてきた。この街にいるアーロンはその逆、切断のようだが、我の波導はそのどちらにも属さない」

 ユキノオーが石化した肩口へと腕を振り下ろす。迷いのない一撃が石化した箇所を叩き折った。

「即断即決、素晴らしいな。だが、惜しいぞ。もう、体内の波導は操っている」

 その証拠にユキノオーの放つ凍結領域が少しずつだが制御の不確かなものになっていく。

 屈み込んだユキノオーが自身の体内の不調に気づいたのか、弱々しく鳴いた。

「そんなはず……。ユキノオーが負けるはずないのに」

「教えてやろう、スノウドロップ。我の波導の真髄。それは吸収だ。デスウイングは波導を撃ち込むのと同時に、相手の波導を奪う。波導回路、というものに不調を来たしたポケモンは、自壊する。それが運命だ」

 ユキノオーの体表が溶けていく。自らの神経系統が自らの首を絞める。

 ラピスは声を張り上げた。

「ユキノオー! 敵は目の前なのに、もう戦えないって言うの……」

「残念だが、もうスノウドロップの名前は返上だな」

 ゼロが舞い降りる。「デスウイング」をトレーナー本体へ、と歩み出ようとしたところで空域の戦闘の気配が変わった。

 飛び込んできたエアームドが袈裟切りを仕掛けてくる。スノウドロップが使えないとなれば守るつもりか。

「逃がすと思っているのか?」

 エアームドに取り付けられたハーネスがラピスを回収する。その羽根に向けて赤い光が放出された。石化に晒されたエアームドが高度を落としていく。

 しかし、エアームドの編隊は完全であった。次のエアームドにラピスを任せ、石化していくエアームドは何とこちらへと特攻してきた。

「ホテルの精神か。だが自滅の精神だ」

 攻撃を放つまでもなく、石化したエアームドが砕け散る。自分へといくつもの刃が振り向けられた。

 エアームド達がそれぞれの銀翼を閃かせ、ゼロの首筋を狙ってくる。

 しかしゼロは最低限の足踏みで回避し、その身体に石化の引導を叩き込んだ。

 石化した仲間を気遣うわけでもなく、エアームド達は突進し、ある者はそのまま墜落する。

 それでもゼロを狙うのをやめないのはこの街にとって真に脅威であると認定したためだろう。

 何体目かのエアームドを撃墜した時、既にラピスの姿は見えなくなっていた。

 だが充分だ。

 これでもう、ホテルもハムエッグも歯向かえない。

「ヤマブキシティは我の前に屈服した」

 口角を吊り上げたゼロの背後にエアームドが切りかかろうとする。

「まだ残っていたか」

 石化を放とうとしたところで、はたと気づく。

 このエアームドは既に石化して撃墜したはずのものであった。それが何故か飛翔し、攻撃を繰り出してきた。

 その理由は一つしか思い浮かばない。

 首筋を叩き折ってから、ゼロは振り返る。ビルの屋上に疾風を連れて来たのは青い装束の死神であった。

「来たな、波導使い、アーロン」


オンドゥル大使 ( 2016/09/05(月) 20:31 )