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波導の青、彼方の死神
第七話「強さと正しさ」

「ピチュー! 電気ショック!」

 跳ね上がった青い電流をピチューが放出する。草原の草木を焼きながら向かっていったその先にいたのは超然としたルカリオだった。

「弾け」

 師父の声にルカリオは軽く腕を払う。それだけで渾身の電気ショックが弾き落とされた。無理もない。こちらはまだ未成熟のポケモンだ。それが放つ電気ショックは諸刃の剣。自分の体力と引き換えに撃っているのだから。

「波導を読んで撃って来い。そうでなければ未成熟のポケモンでルカリオに一撃さえも与えられんぞ」 

 師父の声にアーロンは手を払った。ピチューが尻尾を振るい上げて電気の網を敷く。

「エレキネット!」

 しかしルカリオは頭上から降りてきたその電気の網を突き上げる拳で霧散させた。

「素質はあるようだ。電気技を使える素質は、な。だがまだだ。波導を読んで攻撃しろ。ルカリオの波導を集中して読め」

 どだい無理な話だ。今まで制御して見る事の出来なかった波導をいきなり読めなど。ルカリオは攻撃の瞬間、僅かながら波導を放出する。しかしそれが一瞬であるためにアーロンには一切隙をつけなかった。

「どうした、へばったか? この程度で息を切らすのでは、アーロンの名は相応しくないぞ」

「ぼ、ぼくは、アーロンになんて……」

「だがならなければ、わたしはお前に一切の波導に関する事を秘匿する。そうなれば困るのはお前のほうだが?」

 ここで勝利しなければ波導に関しての制御法も、何もかも見失う。アーロンはピチューへと声を張った。

「ピチュー! これには渾身の集中がいる! 全力で決めるぞ!」

 ピチューが全身から電流を放出する。黄金色に変化した電流を纏い、ピチューの姿が電流の中に溶けていく。まかり間違えれば自らを焼きかねない電気技の頂点。

「ボルテッカー!」

 ピチューが駆け出す。その速度はこれまでの比ではない。ルカリオが拳を放つ。ピチューは辛うじてそれを回避し次の一撃に繋げた。

「突進しろ!」

 ピチューの「ボルテッカー」がルカリオへと突き刺さる。これで一撃、と感じたがルカリオには傷一つなかった。

「何で……」

「波導を読む、扱うという事はこういう事だ。ルカリオは今、波導を一点に集めてボルテッカーの攻撃を無力化させた」

 そんな事が可能なのか、と問いかけている暇もない。肉迫してきたルカリオの拳がピチューへとめり込む。そのまま叩き落とされる形でピチューが草原を転がった。今にも身体に纏いついた電気が剥がれそうである。

「波導を読まなければ、読めなければ、ルカリオに一撃だって与えられはしない。ルカリオ、とどめを」

 ルカリオが拳を振るい上げる。その瞬間、アーロンは極度の集中を注いだ。

 攻撃の瞬間、僅かながら波導が放出される。その時だ。その時しかなかった。

 ルカリオの拳、指の合間から垣間見える波導の残滓。それを狙う。

「雷パンチ!」

 起き上がったピチューが「ボルテッカー」に費やしていた電気を全て拳に集め、ルカリオの拳とぶつけ合った。ルカリオが後退する。対してピチューは限界が訪れていた。

 もう電気が出せないのだろう。暴走した電気袋から過剰な電力が放出されている。

「ピチュー、ぼくは……」

「よくやった」

 師父の声にアーロンは顔を上げる。ルカリオの指先に傷があった。

「攻撃の際に出る波導を僅かだが読んだな。ルカリオにとっては大した傷ではないが、初めてにしては上々だ」

 回復の薬を放り投げられアーロンはピチューを回復させる。電気の放出が収まってきた。

「そのピチュー、素質がある。波導使いのポケモンになるにはいくつか条件があるが、そのピチューは波導を回路に見立て焼き切るだけの電気技が備わっているな」

「波導を、回路に……」

「物の見方の一つだ。さて、少し休むか」

 師父は鞄からサイコソーダを取り出してアーロンに手渡す。アーロンは師父に手招かれるまま木の根元に背中を預けた。

 サイコソーダの炭酸が喉を潤す。師父は遠くを眺めながら呟く。

「お前は、何も見ないためにこの草原にやって来たんだろう。だが、わたしの経験則だとこの世界に、波導のない場所はない。波導使いの認識にも寄るが、無生物にも波導が宿る。空間にも波導はある。だからお前の眼を治す方法は存在しない。使いこなすしか、生きていく道はないのだ」

 茨の道だ、とアーロンは感じる。どうして自分だけそのような過酷な道を歩まなければならないのだろう。

「自分だけ、などと思うなよ」

 だからか見透かされたような師父の言葉にアーロンは目を見開いた。師父はサイコソーダを呷って、「波導は力だ」と告げる。

「力を得れば、それを使う責任が伴うのは世の理。彼方の昔より、波導使いは重宝された。時の権力者に取り入った波導使いもいれば、追放され旅に生きる他なかった波導使いもいる、あるいは戦いの中に意味を見出すしかなかった波導使いもな。今のお前と全く同じ葛藤を彼らもしてきたのだ。そして思っただろう。いずれは報われる時がくると。波導使いが、この世の中にあっても何ら不条理に襲われる事のない、平和がやってくると。……だが波導は時に争いを呼ぶ火種になる。わたしはそれが嫌で旅をしている。一ところに留まらないのは思い出を作らないためだ」

 アーロンには師父の言葉の半分も分からなかったが波導使いである師父は悲しみの上に今、この場にいるのだけは分かった。安易に大変だった、で済ませられない境遇である事も。

「ぼくも、その道を辿るんでしょうか……」

 不安を口にすると、「そうならないために、強くあれ」と師父は言う。

「強くあれば、自分の生き方を曲げずに済む。波導使いが迫害されてきたのは、その強さを誰もが恐れたからだ。だがその力を正しく使えれば、強さはきっと正しさを導く鍵となる。わたしはそう信じている」

 立ち上がった師父はルカリオを伴って声にした。

「さぁ、やるとしよう。波導を読むのには場数が必要だ。一回や二回で波導は読めない」

 アーロンも木の根から立ち上がり、戦う事を決めた。


オンドゥル大使 ( 2016/01/17(日) 23:36 )