ポケットモンスターHEXA











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交錯、思い滲んで
第五章 二十二節「光と影」
 その声の先を、突如響き渡った轟音が遮った。鉄骨に張り付いていたのであろう、敵影が躍り出て、オレンジ色の光条を放ったのだ。すぐ脇をオレンジの光の粒子が叩きつけ、空気の焼け爛れた臭いが鼻をついた。「はかいこうせん」の光だとすぐに知れたエイタはバリヤードに「ひかりのかべ」の指示を出そうとして、別方向からの甲高い音が耳朶を打ち、目を剥いてそちらに視線をやると、逆光で照らし出された影が視界に入った。

 それはまるで蝶のさなぎのような姿をしていた。濃い灰色の体色もそのイメージに近い。だが、それがさなぎと決定的に異なるのは目があること、そして身体に開いている穴だった。その穴から蒸気が噴出し、そのさなぎの姿勢を制御していた。さなぎの鋭角的な眼の下にある口と知れる場所へとオレンジ色の電子が集束し、球体を形成する。エイタは破壊光線が来ると読んでバリヤードに指示を出した。

「バリヤード、光の壁!」

 さなぎへと向き直ったバリヤードの眼前に五角形の黄金の皮膜が形成される。一秒後に放たれた破壊光線の光芒が光の壁に弾かれる。破壊光線は偏向し、天井の岩肌に突き刺さった。

 これで二体、そう思っていると真上から先ほどと同じ甲高い音が耳に届く。天井へと視線を投げた一同は、頭を逆さにして舞い降りてくるさなぎの姿を見た。その口元にオレンジ色の粒子が束になっているのも。

 逃げろ、と叫びかけたエイタの声は声にならず、降り注いだ光が構成員達を一瞬で蒸発させた。モンスターボールを握る余裕もなく、一瞬でたんぱく質が炭化し、黒い塊と成り果てた。編隊に加わっていた三人が一気に削られ、残るはバリヤードに光の壁を張らせていたエイタ一人だけとなった。生き物の焼ける臭いに顔をしかめながら、エイタは三体のさなぎが集まった場所に目をやった。そこに立つ黒スーツ姿の男を睨みつける。眼帯をしているがその白髪と顔は間違いなかった。

「――カリヤ」

 久しぶりに口にした旧友の名は、苦々しいものだった。白髪の男、カリヤは肩をすくめて旧知の友の声に応じた。

「久しぶりじゃないか、エイタ。元気だったかい?」

「どうして、お前が」

「どうして? おかしなことを聞く。こんな風にまで俺を追い詰めたのはお前達だろう。でも、いいさ。過去は水に流そう、エイタ。昔話を重ねても意味はないだろ。今は現在の話をするべきだ」

 カリヤは口角を吊り上げていやらしく嗤った。エイタはバリヤードに光の壁を展開させたまま、カリヤと対峙した。

 カリヤの前で先ほどのさなぎ三体が居並ぶ。カリヤはそのうち一体の表皮を手で撫でた。

「こいつはサナギラスという。岩・地面タイプのポケモンだ。俺の育てたポケモンだよ、エイタ」

 サナギラスの眼に敵意が宿り、口元にオレンジ色の電子が集束する。それを見たエイタが身構えると、「まぁ、待てよ」とカリヤがその攻撃を制した。主人の意思を感じ取ったのか、オレンジの光が霧散する。カリヤは頷き、エイタに視線を向けた。

「俺とお前はいつから道を違えたんだろうな。どちらも小さなニビシティで育ち、どちらも同じように旅をし、そしてどちらも同じ少女に恋をした。そこまで同じだった俺達って呆れちゃうよな」

 カリヤが笑い声を上げる。しかしエイタは一笑もしなかった。カリヤは急に真面目な顔になって言った。

「でもさ、お前はディルファンス、俺はロケット団。結局、どこで道を間違えたのか、分からずじまいだよ。――人生という道は多数の分岐点によって成り立っている。まるで駅のようだ、っていうのは親父の口癖だったか。そんなことはどうでもいいんだ。分からないのは、どこでその分岐点とやらがあったか、ということさ。でも、これだけは言える」

 カリヤが指を一本立てた。それを怪訝そうにエイタが見ていると、カリヤは指を静かに左右に振った。

「エイタ。お前は光で、俺は影。いつだってそうだったよな。お前はいつでも主人公だったよ。んで、俺は脇役。お前を引き立てるためのさ。でも、知っているか? エイタ。影がなければ、光もまたあり得ないって」

「何が言いたい、カリヤ」

 堪えかねたエイタが口を挟んだ。カリヤは肩をすくめ、「え、ここで口挟んじゃう?」と素っ頓狂な声を上げた。

「俺とお前の物語を反芻してやってるんだよ。どうしてかって? 俺、知っちゃったからさぁ」

 カリヤは歌うように言葉を続けた。

「人は死ぬ前に走馬灯見るっていうけどさ、あれ嘘だわ。走馬灯なんて見えなかった。見えたのはお前らが幸せそうに肩を並べているところだけ。あぁ、憎い。俺を差し置いてそんなに幸せかってな。そんな憎悪で蘇った俺、カリヤ。憎悪で濁った眼には何が映るか?」

 カリヤが眼帯を外した。その眼は蒼く光っていた。だが虹彩はなく、眼球の形も成していない。潰れた目の奥で蒼い光が憎しみの炎のように燃えている。それを見たエイタは言葉をなくした。その様子を見かねて、カリヤはわざとらしくもったいぶった。

「俺、醜い? この眼、醜いっスか? 醜いよなぁ。お前ら影を覗き込むことしないだろ。光ばっか見つめてよ。いっぺん、覗いてみな。醜い影は誰でも隣にいる。お前の場合、そこには俺がいるからよ」

 サナギラスの表皮に皹が入る。灰色の身体から眼が消え、内部でミシミシと幾重にも音が鳴る。サナギラスの背部が割れ、そこから緑色の影が現れる。憎しみで濁った青い眼が六つ、中央のカリヤを入れるなら七つ、煮えたぎったように揺れている。緑色の影は粘液を引きながら、口を開いた。その口は裂けていた。そこから吐き出された三つの咆哮が共鳴し、バリヤードの光の壁に皹が入る。

 殻を脱ぎ捨てた緑色の影が三つ、カリヤを中心として並んだ。

 それは往年の特撮怪獣を思わせる姿をしていた。緑色の体表、身体の所々に点在する穴から白い煙が漏れている。背びれの並んだ刺々しい姿は、それだけで攻撃的なポケモンだと分かった。カリヤの憎しみを吸い上げ、今進化したポケモン。

「影の掴んだ影のポケモン、バンギラス。悪・岩タイプの、俺のポケモンさ。どうだ? エイタ。俺もさ、一端にポケモンを育てられるようになったんだよ。だからさ」

 カリヤがエイタに指を向ける。バンギラス三体が並んで口を開き、乱杭歯の並んだ口腔内を露にした。

「――死んでくれ」

 バンギラスの口腔内にオレンジ色の電子が集束し、球体をなす。それがバンギラスの口を満たした瞬間、エイタはハッとしてバリヤードに指示を出した。

「バリヤード、光の壁を張りなおせ!」

 バリヤードが展開中の光の壁に重ねるように、もう一枚の黄金の皮膜が張られる。その瞬間、圧縮された三つの破壊光線が空気を破りながらエイタとバリヤードに襲い掛かった。

 バリヤードの光の壁の表面で集まった破壊光線が弾け、飛び散った粒子が地面を焼いてゆく。

 ようやく破壊光線の飛散が止んだと思うと、エイタを頂点として三角を描くように地面が抉れていた。破壊光線の威力を痛感しつつ、エイタはバリヤードの状態に目をやった。展開した光の壁は砕け、バリヤードの掌は黒く焼け焦げていた。二重の光の壁で威力を四分の一にしても、まだ有り余る高威力か、とエイタは独りごちてカリヤに視線を向ける。カリヤはエイタの視線を感じて、満足気に息を吐き出した。

「素晴らしいだろ、エイタ。これは月の石の力だ。進化に使うんじゃないんだぜ。高純度の月の石の力はな、ポケモンの潜在能力を引き出して五倍以上に高めるんだ。それを三体、俺は所有している。どうだ? 勝てると思うか?」

 エイタは俯いた。それを勝利と確信したカリヤは、バンギラス達をゆっくりと進ませた。

「バンギラス三体で囲んで、骨も残らないまで焼いてやるよ。こうすりゃ、アスカはお前が死んだことに気づかない。ホラ。優しいだろ、俺って」

 バンギラス三体がエイタとバリヤードを囲む。その蒼い眼が小さなトレーナーとポケモンを見下ろし、大きく口を開いて咆哮すると同時にオレンジ色の電子を口腔内に溜める。

「これで終わりにしてやるよ! じゃあな、エイタ。俺が光になるのさ!」

 バンギラスの口から一斉にオレンジの光芒が迸る。カリヤは高笑いを上げた。遂に影が光を砕いた。今度は、自分が光になる。

 そう確信し、爆心地に上がった土煙が晴れるのを心待ちにしていたカリヤは、次の瞬間、期待が音を立てて折れたのを感じた。そこには、銀色の立方体に囲われたエイタとバリヤードの姿があった。

 立方体の中でエイタは俯いたまま、口を開いた。

「……光、影か」

 エイタが顔を上げる。口角が裂けるほどに吊り上がった笑みがそこにはあった。

「ばぁーか」

 エイタの声に、カリヤは言葉を返せなかった。何が起こっているのか。月の石を投与したバンギラス三体の破壊光線を受け止めきれる技なんてあるはずがないのに。

「これ、なーんだ?」

 エイタがジャケットから何かを取り出す。それは掌に収まる程度の直方体だった。その直方体の端を開き、中から青い液体が揺れる試験管を取り出す。

「これは月の石だ」

 カリヤは驚愕に身体を震わせた。どういうことなのか。なぜ、石を液体状にしたものをエイタが持っているのか。エイタは笑みを浮かべたまま、それを懐に戻した。

「お前はいつでもそうだったよなぁ、カリヤ。なーんも、知らねぇんだモン。お前の親父が僕の母親に言い寄っていることも知らなかっただろうし、僕がアスカといつキスしたのかも知らないんだろ?」

「なっ、どういう事だ!」

 カリヤが声を荒らげる。それを事もなさげに見つめ、エイタは指で天井を示した。

「どうもこうもねぇの。つまるところ――」

 示していた指をカリヤに向ける。その瞬間、エイタの顔が愉悦に歪んだ。

「こういうことだよ。バリヤード、ミラーコート」

 銀色の立方体の表面が波打ち、激しいオレンジ色の輝きを生じさせる。それが鏡面のように磨きあがった光を放ったと思うと、そこから放たれたオレンジ色の光芒がバンギラスの頭へと反射してきた。バンギラス三体は避けることも出来ず、頭部を弾き飛ばされた。着弾点が焼け爛れ、残った胴体から血飛沫が舞い、エイタとバリヤードを濡らした。その中でエイタは嗤っていた。バリヤードの蒼い眼が、カリヤを見下すように光っている。

 その時になってようやく、カリヤは自分が何も知らなかったのだと悟った。自分が何もかもを知ったつもりになっていたが、エイタはその先を知っていたし、多分自分の行く末も握っている。

 それが実感となって襲い掛かった瞬間、エイタは「あ」と思い出したように声を漏らした。

「あと、アスカはお前の事、なんとも思ってないから。教えてやると、ひとつだけ正解だったよ。お前が優しすぎるってことだけはな。僕達に優しくしてくれてありがとう、さらば旧友」

 エイタが手を振った。バリヤードから放たれた青い光がカリヤの真上にある鉄骨に絡みつく。

「あともう一個。アスカは、身も心も僕のモノだ」

 エイタが口角を吊り上げ、舌で唇を舐めた。その瞬間、全てを悟ったカリヤが叫んで飛びかかろうとした。

 その時、天井の鉄骨を支えていた接合部分が外れ、真っ直ぐにカリヤへと数十トンはある鉄骨が落ちてきた。天が落ちて、自分は名実共に影になる。そんな性質の悪い冗談が、カリヤの頭に浮かんだ最後の思考だった。

 カリヤの叫びが鉄骨に阻まれ、土煙がその姿を呑み込んだ。エイタは倒れた三体のバンギラスに冷笑を送り、旧友へは嘲笑を浴びせた。

 最期の瞬間にようやく全てを理解した愚鈍な旧友。鉄骨に潰された哀れであっけない幕切れが用意されていたカリヤの生き様に、エイタはせめてもと拍手を送ろうとした。

 その時である。

「……カリヤ、さん」

 背後から聞こえてきた声に、エイタは振り返った。そこにいたのは緑色の髪の毛をツインテールに結った少女だった。ディルファンスの制服を着ているが、こんな少女が部隊にいたか、と思う間に少女は魂が吸い取られたような力のない足取りで鉄骨のほうへと向かっていった。エイタなどまるで目に入っていないように、ひしゃげた鉄骨の前に座り込み、地面に弾けた血溜まりを見つめた。その肩にエイパムがしがみ付いている。そのエイパムが振り返り、口元を緩ませ、丸い目でエイタを見つめてきた。

 それを不気味に思いながらエイタは声を掛けた。

「君、この部隊の所属かい? 一人でも生き残ってくれてよかった。僕と一緒にロケット団の制圧に向かおう。立てるかい?」

 歩み寄ろうとしたその時、「それ以上、近づかないで」という冷たい声音がエイタの耳朶を打った。それは目の前の少女から発せられたものだった。少女は立ち上がり、拳を握り締めて肩を震わせる。

「ねぇ。あなたはどうして、カリヤさんを殺したの? 聞いた限りじゃ、知り合いだったんでしょう? それなのに、どうして」

 エイタは足を止め、諭すように少女に語りかけた。

「仕方がない。彼はロケット団、僕はディルファンスの副リーダーだ。組織の前では、個人の意思なんて無意味なんだよ。僕だって彼を殺したくは――」

「うそ。あなたはカリヤさんを初めから殺そうとしていた。分かるのよ、私には」

 少女が振り返る。その眼は先ほどと明らかに違っていた。微笑むように細められた目の奥に、どこか狂気めいた光を宿らせている。

「アヤノには分からないでしょうけど、私になら分かる。あなたは最初からカリヤを殺すつもりだった。分かるわ。馬鹿のひとつ覚えの破壊光線、思い上がりの思考、全部うざいもんね。どうしてアヤノはあんなのがよかったのか分からない。でも、アヤノはカリヤを愛していた。だから、決めたのよ私は。アヤノが愛している分、カリヤを苦しめて殺してやろうって。それなのに、あんたは台無しにした。それを償ってもらおうかしら」

 エイパムが少女の肩から降りる。その眼が蒼く染まってゆき、口元をさらに緩めた。エイタは思わず後ずさりながら口を開いた。

「……君は、誰だ?」

「誰でもいいでしょ。ただ私は、あんたが許せないだけ」

 少女がエイタに指先を向ける。エイタが逃れるようによろめく。少女と蒼い眼のエイパムはエイタをその眼に据えた。

「いきなさい、エイパム」

 その言葉に呼応したようにエイパムが駆け出した。真っ直ぐにエイタへと襲い掛かる。エイタは慌ててバリヤードへと指示を出した。

「バ、バリヤード! リフレクター」

 バリヤードの前面に水色の五角形の皮膜が形成されてゆく。エイパムは攻撃のほとんどを、手のような形をした尻尾で行うポケモンだ。攻撃は物理攻撃に限られてくる。そうなれば物理攻撃を半減する「リフレクター」の技を使えば、月の石を投与したバリヤードならばほとんど無効化することが可能だと判じたのだ。エイパムの手のような尻尾が握られ、拳と化す。空気の壁を破り、音速を超えた鉄拳「マッハパンチ」が、リフレクターへと打ち込まれた。リフレクターが反動でたわみ、バリヤードが大きく後退する。だがリフレクターには傷ひとつなかった。そこまではエイタの予想範囲内だった。次に近づいてくれば、リフレクター越しに十万ボルトを撃ち込めばいい。そう考えていた。

 エイパムは効果がほとんどなかったと見るや、その尻尾をふらふらとさせて首を傾げた。その時、揺らいだ尻尾を不意に背後の地面へと叩き込んだ。何をしている、とエイタが思う間に尻尾はずぶずぶと地面に潜ってゆく。やがてエイパムはずるりと地面から尻尾を引き抜いた。エイパムの尻尾には何かが巻きついていた。天井の照明からの光がそれを明瞭にする。

 それは影だった。エイパムは地面に尻尾を突っ込んでいたのではなく、影に尻尾を浸していたのだ。尻尾に纏わりついた影が生物のように動き、エイパムの手のような尻尾の先にある指先に影が接合し、巨大な鉤爪を作り出した。尻尾に現れた鉤爪は全部で三つ、ふらりと揺らしてエイパムは口元を緩めた。エイパムが短い足で跳躍する。宙返りする刹那、少女が言葉を発する。

「エイパム、シャドークロー」

 その声にエイパムの尻尾が振るわれた。瞬間、尻尾に繋がっていた影の鉤爪が離れ、空中を刃の如く疾走した。三つの影の刃が軌道上にある光を奪いながらバリヤードへと迫る。バリヤードはリフレクターを翳して身を守ろうとした。だが、一つ目の影の刃でリフレクターに切れ目が走った。先ほどの「マッハパンチ」は「シャドークロー」で確実に相手を仕留めるための布石だったのだ。二つ目の影の刃が、リフレクターを断ち割り、三つ目の影の刃がバリヤードの身体を突き抜けた。

 バリヤードの腹部から血が迸り、ごとんと重たい音を立てて上半身が落ちた。上半身を失った下半身が惑うようによろめき、思い出したように断面から血を噴き出させるとその場に倒れ伏した。エイパムと少女がエイタへとゆっくりと歩み寄ってくる。エイタは腰を抜かした。

 ――何なのだ、こいつらは。

 蒼い眼が贖罪を訴えかけるように輝き、エイタを見据える。少女は裂けるほどに口角を吊り上げ、エイタを見下ろした。

「エイパム。シャドークローでコイツを引き裂きなさい。獲物を横取りした報いよ」

 その声に従い、エイパムが影へと手を突っ込む。エイタは歯の根が合わずにガタガタと震えながら、身動きが取れなかった。これが報いなのか、という思考が脳裏を過ぎり、今までの行為が反芻される。人は死ぬ前に走馬灯を見るじゃないか、と心の中でカリヤに独りごち、エイタは目を瞑った。

 その時、けたたましい叫び声がエイタの鼓膜に突き刺さった。目を開けると、少女が白目を剥いて倒れていた。エイパムはどうしたいいか分からないように首を傾げている。その眼は元の黒色に戻っていた。何が起こったのか、状況を把握しようとエイタが周囲を見渡すとバリヤードの姿が目に入った。バリヤードは少女へと片手を突き出している。その手の表面を僅かな電子が跳ねた。恐らく主人が殺されると見て、少女に「じゅうまんボルト」を放ったのだろう。バリヤードはエイタが無事なことを確認して安心したように瞳を閉じた。もう起き上がることはなかった。

 エイタはまだ力の入らない足腰に鞭打って立ち上がった。目の前に横たわる少女をどうするべきか。ふとエイパムと視線が合った。エイパムも分からないとでもいうように首を傾げた。


オンドゥル大使 ( 2012/10/13(土) 14:41 )