ポケットモンスターHEXA











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交錯、思い滲んで
第五章 七節「悪欲」
 ディルファンス本部の地下二階、居住ブロックの一室においてアスカとエイタは暗闇の中に複数の光と対峙していた。

 エイタの眼鏡に光が反射する。その光は人の形を取っていた。立体映像である。今、エイタとアスカ以外の人物は立体映像越しに座って顔を突き合わせている。円卓に並び立つ七人の光の人々は一様に暗い顔をしていた。その中の一人、3チャンネルで繋がっているヒグチ博士の立体映像が円卓に両肘をついて重々しく口を開いた。

『……今回のロケット団の復活宣言だが、私はディルファンスが介入すれば事態がややこしくなると考えている。そこでカイヘンの警察機構にここは任せるべきだと思うのだが、ディルファンスリーダー、アスカ君はどう考えている?』

 アスカが自慢の赤髪をすくい上げるように撫でてから言葉を返した。

「私は今ディルファンスが退けば、ロケット団にとって優位な状況になると考えています。ですから、あえて介入の必要があるかと」

『介入すれば世論が反発する。タリハシティの現状を見ていないのかね。早朝に行われた有識者会議でディルファンスはこれ以上首を突っ込むべきではないと判断されたのだぞ』

 5チャンネルで接続されている白髪混じりの男が口を挟んだ。彼は政府から派遣されたポケモンリーグ管理局の官僚だ。白髪混じりの男の言葉に、エイタが言葉を返した。

「ではロケット団を野放しにしていいと言うのですか。ロケット団は意図的な映像編集であんな風に世論を操作したんですよ。許されることじゃない」

『ならば、あれは真実ではないのかね?』

 6チャンネルの禿頭の官僚が問うと、エイタは「勿論です」と答えた。

「あんな残虐行為に及んだわけが無い。我々はあくまで自衛的措置を取る民間団体です。ロケット団以外の人々には傷ひとつ与えていない」

『だが、それを真実だと証明する手立てが無いだろう。あちらが提示した映像は民衆の価値観を百八十度変えるものだった。もうあの映像は動画サイトを通じてカントーにも広がっている。ディルファンスという組織自体のあり方次第では資金提供の面でも考え直さなければならない』

 2チャンネルのカイヘンにおける開発責任を勤める官僚が腕を組みながら大きく息をつく。エイタは思わず立ち上がって机を叩いた。

「近いうちに必ずディルファンスの潔癖を証明して見せます。だから資金提供を断ち切るのだけは止めてください。もうディルファンスは何十人もの構成員を抱えているんです」

『しかしだね、証明と言ってもどうする? 警察の情報封鎖も万全ではない。現に秘匿回線のはずのロケット団の電波発信位置がマスコミに漏れた。君たちが極秘に彼らを処分して、全てが終わりましたなんてことは出来ない』

 4チャンネルの爪を削っていた中年の官僚が削りかすを息で吹きながら言った。エイタは俯きながら、――金と権力で腐った人間がと胸中で罵った。言葉に出来ないのはその官僚が警察と通じているからだ。今まで警察に圧力と金をかけて封じていたことが明るみになれば、ロケット団の映像と言葉にさらに信憑性を加えることになる。

『やはり警察機構に任せることが賢明ではないのかね。そうすれば君たちへのバッシングも治まるだろうし、なにより我々としても支援していた組織が叩かれるのはおもしろくない』

 そう言ったのは7チャンネルの官僚だった。彼はポケモンジムの関連局長だ。その言葉にアスカが反発した。

「警察は駄目です。今までだって、警察で解決できなかった事件を私たちが解決してきたじゃありませんか。それを、こんな大事な局面で任せるなんて、それこそ勝手だと民衆からの支持が低下する恐れがあります」

『だがこの事態を収拾するには警察が一番だろう。君らディルファンスは所詮、民間団体だ。ポケモン事件のエキスパートと言っても、落ちた信用はそう簡単に戻ってくるはずが無い。マスコミにあることないことを吹聴されてこれ以上信用を落とすのは嫌だろう。沈黙こそ美徳だよ』

 言って4チャンネルの警察官僚がふぅとまた削りかすを吹いた。エイタは唇を噛み締めてその言葉に耐えた。何を言っても無駄、そう感じたからだ。ディルファンスの退陣を望み、自分たちが関わっていたという記録を消したい利権優先の人間ばかりだった。

『だが、君たちの有用性は認めている。この事件のほとぼりがさめれば、また君たちの出番だよ。そうなった時に活躍してくれ』

「……それは、我々ディルファンスは一度闇に消えろと仰られているように聞こえますが」

 エイタが堪らず口走った。アスカが顔を青ざめさせてエイタへと目を向ける。俯いたエイタの顔色は陰になって見えない。だが、その眼が憎悪に沈んでいるのは見なくとも分かった。

 エイタの言葉に官僚たちが大声で反発する。

『なんだね、その口の利き方は!』

『ディルファンスは必要だと、何度も言っているだろう! ただこの事件を君たちが解決しようとすればするほど不利益だと言っているんだ! そんなことも分からないのか!』

「分からないのはあなた方も同じでしょう。ディルファンスでしか、この事件は解決できないと言っているんだ!」

 エイタが今まで溜め込んでいたものを放つように大声で言い返す。それを官僚たちは快く思わないのは明白だった。手綱を握っているのはこちらだと言わんばかりに官僚たちは資金と権利の話をし始めた。

『生意気な口を叩くな! 君達は我々の支援があるから組織を存続できるのだぞ! それを失念しているのかね!』

『私の印がなければ君たちはこれほど大きくもなれなかったはずだ。それの恩を仇で返すようなことを言って、一人でなりあがったとでも思っているのか!』

 興奮した官僚たちとエイタはしばし睨みあった。だが、それを破るように呆れたような声が掛けられた。

『まぁ、興奮しないでください。彼らも悪気があったわけじゃない。ただ自分たちの存続が危うくなると知れて、不安定になっているんですよ』

 その言葉は1チャンネルで繋がっている青年のものだった。官僚の目が全てそちらに集中する。紫色の髪にラフな服装をしている。穏やかな銀色の瞳が官僚たちを見つめる。髪を撫でながら、彼は言葉を続けた。

『あなた方も興奮しないでください。ここは公正な話し合いの場のはずです。お互いを罵りあう場所ではない』

 その言葉に立ち上がっていた官僚たちは鼻を鳴らして座った。それを確認して青年は静かに全体に向けて言った。

『こういうのはどうでしょうか? ロケット団が復活宣言の後、警察でも対処できない事件を起こしたら、超法規的措置としてディルファンスを動かす、というのは』

『つまり、ディルファンスを公安のように扱えと言うのかね』

 警察官僚の声に青年は笑顔で『まぁ、そういった類とも言えなくありません』と言葉を継いだ。

『ディルファンスの力はここにいる方々のお墨付きだ。ならば、時期を待てばいい。世論が納得する理由ならば、ディルファンスを警察機構が有する一組織として使えばいいんですよ。それならば、アスカさんやエイタさんも納得できませんか?』

 その質問にエイタは座りながら、「それなら」と曖昧に頷いてアスカと目配せした。アスカがエイタの目を見て頷く。

「その条件ならば、我々としても助かります」

 エイタの言葉に青年は笑みを見せた。

『ならば、この会議はその結論としましょう。こちらからの攻撃は一切しない。あくまで自衛、とする。それで異議はないですね』

 沈黙が降り立つ。誰もが不安の色を隠せなかったが、それに異論は無い。異議なしの沈黙だった。

『では、ディルファンスを交えた有識者会議を終わります。皆さん、お疲れ様でした』

 青年の言葉でチャンネルが切断されてゆく。官僚たちの姿が暗闇に呑まれるように消え、ヒグチ博士が心配そうな目を寄越してから消えた。この部屋にはアスカとエイタ、そして青年だけが残された。

『エイタ。あんまり本音を言っちゃ駄目だよ。彼らは気が短いんだ。僕のように気長に付き合うことをお勧めするよ』

 人懐っこい笑みを青年は浮かべる。青年とエイタは旧知の仲だった。青年はエイタ達と同じニビシティの出身だがエイタ達と違い、すぐにカイヘンへと渡った。カントーでエイタ達がポケモンリーグを征している頃に、青年は実力を認められ空席だったカイヘンを束ねるトレーナーの玉座へと身を納めた。エイタは頭を下げた。アスカもそれに倣う。

「感謝します。現カイヘン地方ポケモンリーグチャンピオン、ハコベラ様」

『様、なんてガラじゃないさ。僕はただ君たちが潰れるのを見たくないだけだよ。だけど、助けられるのは多分、今回だけだ。次にこんなことがあったら無理だよ。じゃあね、エイタ。それにアスカさんも』

 ハコベラがふらりと手を上げる。そこで通信が切れた。照明が音も無く点き、室内が照らされる。ようやく解放されたとばかりにアスカが息をついた。エイタはふらりと立ち上がり、振り返り様に壁を拳で殴りつけた。

「あの腐れ官僚共が! 調子付きやがって!」

 叫びが会議室の中で木霊する。アスカはエイタを宥めるように空いているほうの手を握った。

「大丈夫よ。ハコベラさんのおかげで時間は稼げそうだし、今すぐに資金提供が遮断されるわけじゃ――」

「分かってるよ、そんなことは! 遮断されたらお終いだろうが! 僕が折角ここまででかくした組織も、全ておじゃんだ!」

 エイタがアスカの言葉を遮って叫ぶ。アスカは震えて耐えるようにきつく目を瞑っていた。エイタは我に返り、アスカの様子に気づくと、先ほどの声が嘘のような穏やかな声音で言った。

「ごめんよ、アスカ。僕、僕は……」

「いいのよ。疲れているのは分かっている。私にだけは弱さも見せて」

 アスカはエイタに唇を重ねた。エイタはアスカの頭に手をやり、その唇をより強く押し付け、アスカの身体をテーブルへと導いた。

 エイタの手がアスカの首筋を滑り、胸元に至る。アスカは唇を離して声を上げた。

「ちょっと、エイタ。こんなところで」

「こんなところだからだよ。今なら会議中だと思って誰も入ってこない。アスカも苛立っていただろ。発散しようよ」

 アスカの服をエイタが引っ張って脱がそうとする。アスカは「自分で脱ぐから」とその手を制した。アスカのしなやかな身体が露になる。

 アスカとエイタの身が絡み合う。誰も知らないところで、彼らは身体を重ねた。





















 エイタが会議室から出て、シャワーを浴びようと共同浴場に向かおうとした。その時、後ろからエイタを呼ぶ声が聞こえてエイタはどきりとして振り返った。

 そこには少女が立っていた。おかっぱ頭に見える髪形に紫色のリボンをつけている。コノハだった。エイタが警戒した様子で「何かな?」と尋ねる。

「……あの、エイタさんが、会議の後に話があるって言っていたから」

 その言葉でエイタは思い出した。そうだ、コノハに会議の後で話があるからエイタの部屋の前で待っているようにと言っておいたのだ。

「中々戻ってこないから、ちょっと心配になっちゃって、あの、私」

 俯いて遠慮がちに話す横顔にエイタは手を添えて「大丈夫だよ」と囁いた。

「ちょっと長引いちゃったんだ。悪いと思っている。さぁ、僕の部屋に行こうか」

 コノハの背中に手を当てて促す。その小さな背中がびくりと震えた。緊張しているのか、とエイタは感じ取り口元を微かに歪めた。

「少し話すだけだよ。フランのことをね」

 喪失の悲しみに震える心の隙間に、エイタはその名を口にすることで入り込んだ。コノハの顔色が変わり、エイタに視線が向く。エイタはひとつ頷いてから、言葉を発した。

「あとは部屋で話そうか。廊下だと誰かに聞かれてしまう」

 囁くように言って、エイタはコノハと共に自室に向かった。



















 エイタの部屋はディルファンスの副リーダーだからといって他の構成員の部屋と変わるところは何も無かった。ベッドがあり、その反対側にデスクがある。デスクの上には資料と、ノートパソコン、それに青い液体の入った試験管があった。奥にはテレビが備え付けられているところも他の部屋と同じだった。だが、他の部屋に無い機能がエイタの部屋とアスカの部屋にはあった。それは電波遮断機能であり、ディルファンスのバッジから出ている盗聴電波と位置を特定する電波がエイタとアスカの部屋では完全に遮断されて、モニタールームにいる構成員からも分からなくなっていた。そうでなくともエイタとアスカのバッジだけは、盗聴電波は出ないようになっていた。

 エイタはコノハを先に部屋に招き入れると、後ろ手に扉をロックした。施錠音にコノハが身を固くすると、エイタが柔らかい笑顔を作って、警戒を解こうとした。

「フランの話は誰にも聞かれたくないだろ」

 その言葉にコノハは頷いた。エイタはデスクに座るとコノハにベッドに座るように促した。コノハは遠慮がちにベッドに腰を下ろした。恐らく男の構成員の部屋に入ったことは無いのだろう。どこか緊張しているように見えた。エイタが優しく問いかける。

「男の構成員の部屋に入るのは初めて?」

 その言葉にコノハがどこか気後れした様子で応じた。

「はい。フランの部屋には何度か入ったことがあるんですけど、フランは男の人っていうより、兄のような存在でしたから」

 なるほど、とエイタは納得し机の上に置かれたペンを手に取った。手元でペンをいじりながら、コノハへと言葉を掛ける。

「フランのこと、残念だったね」

「……はい」

 コノハは俯いた。エイタはいかにも残念そうな顔をしている、という仮面を被りながら、独り言のように呟いた。

「彼は優秀な人材だった。あの局面において適切な判断を下したのも彼だと聞く。彼のおかげで助かった命もたくさんあるんだ。無駄にしちゃいけない」

「……はい」

「だから僕は嬉しいんだよ。君がシルフカンパニー襲撃時に率先して戦ってくれたことをね。きっとフランも喜んでいるよ」

「そう、でしょうか」

 コノハが膝に置いた両手を握り締めた。どこか嘆くような口調で言った。

「私は、ロケット団が昨日流した映像を観ました。私のカイリューがたくさんの人を殺すところを。私は、それを観てから自分が本当に正しいことをしたのか分からなくなっちゃって、それでこれからどうしたらいいのかも分からなくて……」

 エイタはペンを机に置き、立ち上がった。後ろ手に手を組み、宙へと語りかけるように口を開く。

「大きな事を成したときには必ず二つの見方が存在する。ひとつは成したことを賞賛してくれる側、もうひとつが成したことの大きさを受け止められずに糾弾する側だ。ディルファンスのメンバーはみんな、君が成したことを誇りだと思っている。君自身も誇りに思えばいい。必ずマイナスの見方は存在するんだ。たとえどれほど正しい事をしたとしてもね。正しさとは全ての人の中で一定ではない。それだけの話だよ」

 エイタが身を翻し、コノハへと視線を向ける。「だが」とエイタは続ける。

「ロケット団は人々の中で一定ではない正しさの定義を意図的に利用しようとしているんだ。それは許されることじゃない。僕らはもう一度、立ち上がらなくてはならない。真の正しさを、人々に示すために」

 エイタが拳を握り締め、それをもう片方の手で覆った。深い悔恨を示すようにその手に力を込める。

「僕は、少し後悔しているんだ。君を矢面に立たせたことを。いくら思いが強くても他の人はその思いを汲み取ってはくれない。君と君のカイリューが糾弾の対象となることは僕としては大変心苦しい」

 コノハは黙ってエイタの言葉を聞いていた。エイタはコノハの顔をひそかに窺う。幼さのまだ残ったその瞳が僅かに揺れている。迷っているのだと知れた。ディルファンスに留まるのか否かを。コノハのドラゴンタイプのポケモンはディルファンスにとって貴重な戦力だ。それをここで逃すわけにはいかない。

「君は、何を望む?」

 突然の問いかけにコノハは顔を上げた。エイタは覚悟を問いただすような眼差しで告げる。

「フランの仇が我々を世間の敵と定義し、再び日の下を闊歩しようとしている。それをどう感じる? どうしたいと望んでいる?」

 コノハは俯き、青いラインの入ったディルファンスの制服のスカートの端を強く掴んだ。

「……ゆる、せません。あいつらは敵です。たくさんの罪も無い人々を殺したというのならあいつらだって同じ。ディルファンスに属していただけの人たちを殺した。もっと酷いこともたくさんしてきている。なのに、私達が悪者にされるなんて……」

 スカートを掴んだ拳に骨が浮かぶほど、コノハは怒りを露にしていた。エイタはそれを確認し、デスクを背にしてコノハへと問いかけた。

「コノハ、力が欲しくはないかい?」

 コノハはその言葉の意図が分からず、エイタの顔を見つめた。エイタは笑みを浮かべながら、デスクの棚を開けて掌に収まるサイズの物体を取り出した。鉛筆より少し長い白色の直方体だった。片側の端の部分にボタンがついている。もう片側には小さな穴があった。エイタは直方体のボタンの部分にある出っ張りに指をかけ、そこを開いた。中は何も無い空洞だった。エイタはデスクの上に置かれた試験管に手を伸ばす。試験管を直方体の中に入れ、ボタンのついた蓋を閉じる。

 それをコノハへと差し出した。

「これはポケモンを強くするための薬が入った注射器だ。手持ちはこれしかないが、これを君にあげよう」

 コノハの手を取り、注射器を掴ませた。コノハは躊躇するように手を開こうとしたが、エイタはコノハの手を強く包み込むように触れながら続けた。

「君には強くあって欲しい。それをフランも望んでいるはずだよ」

「……フランも」

 コノハの呟きにエイタが頷く。

「そう。力を持って、本当の正義を示すんだ。コノハ、君にはその資格がある。僕とアスカも頑張るけど、僕らだけじゃ何も果たせない。コノハ、君の力が必要なんだ」

 その言葉にコノハは受け取った注射器に視線を落とした。これがあれば正義を示せる。ディルファンスこそが正しいのだと、世間が納得する。そう思うと、注射器を掴む手に自然と力が入った。

「それは二回分ある。一回はポケモンに、もう一回は自分用にだ。ポケモンの意識と君の意識が同調し、新たなる力が授けられる」

「……新たなる、力」

 呟き、コノハはその注射器を制服のポケットに入れた。一刻も早く試してみよう。そう思い、立ち上がって扉へ向かおうとした。その時だった。

 その手をエイタが掴んだ。そういえば礼を言ってなかったと思い、コノハは振り返って頭を下げた。その頭上からエイタの言葉が降りかけられる。

「そうじゃないだろ」

 その言葉に疑問を感じる前に、エイタの力でコノハは無理矢理引っ張り込まれた。背中をベッドに打ちつけ、一瞬息が出来なくなる。エイタはコノハに歩み寄った。大人の男の影がコノハの頭上に迫る。

「ごめんよ。痛くするつもりはなかったんだ。だけどさ、力だけあげてはい終了、な訳ないだろ?」

 エイタがコノハへと覆い被さってくる。コノハは身をよじらせた。エイタの手がコノハのジャケットを剥ぎ、その下の服を無理矢理脱がせてゆく。

「暴れないでよ。折角のディルファンスの制服を破きたくないだろう。それに僕は君に力を与えた。君も僕にするべきことがあるんじゃないのかい?」

 ぞくりとした感触がコノハの身体を突きぬけ、コノハは助けを呼ぼうと叫んだ。エイタは眉根を寄せて困惑したように言った。

「心外だな。そんな風にされるのは。ディルファンスにいたいんだろ? 正義としてロケット団と戦いたいんだろ? そんな聞き訳がないとフランが悲しむよ」

 フランが悲しむ。その言葉でコノハは動けなくなった。フランを悲しませたくない。フランの死に報いたい。その思いが暴れる気力を萎えさせる。

 大人しくなったコノハを見て、エイタが嬉しそうに口を開いた。

「そうだよ。大人しい君が一番だ。フランもきっと喜んでいるよ」

 スカートの中にエイタの手が滑るように入る。コノハはもう抵抗しなかった。フランのために力が要るのだ。そう断じて、エイタを受け入れた。ベッドが軋みを上げ、コノハの身体が小刻みに揺れる。

 その瞳から頬へと涙の筋が流れた。

オンドゥル大使 ( 2012/09/14(金) 22:37 )