第三章 七節「強襲、ディルファンス本部V」
マコは赤い景色をじっと見つめていた。
空気中に充満する熱で、喉の奥がひりひりと痛む。空気が酷く乾燥しており、煤が舞っているせいか眼も痛い。だがそれでもマコは目を閉じることはなく、戦いが起こっている中心地を見据え続けていた。
その時、視界の隅に小さな影が現われた。それに目を凝らすと、赤い景色の中に青い髪が揺らめいているのが見えた。マコはハッとして立ち上がり、それに近づいていくとその人影もマコのほうへと駆けて来た。近づくとそれがサキであることが分かった。
マコはやっとサキに出会えた安堵から、顔をほころばせた。
「よかった。無事だったんだ」
マコが嬉しそうに言った。だがサキは対照的に追い詰められているような顔をして、「カブトは?」と切迫した声で言った。
「え? あぁ、カブトなら私が」
言い切る前にサキはマコの手からカブトを引っ手繰り、そして叫んだ。
「今すぐここから逃げろ! ここにいたら危険だ!」
その言葉にマコは面食らった。街で二人組みに会ったときにもあれだけ冷静だったサキが取り乱している今の状況が飲み込めなかったのだ。
「確かに危ないけど。でも、今はハクリューの神秘の護りのおかげで怪我はしないし、それにアスカさんやエイタさんが来るのを待たないと。それにフランさんも――」
「そのフランからの指示だ、逃げろ!」
サキがマコの言葉を途中で遮って叫んだ。
「お前らもだ! そいつらを悠長に待っていたら全員死ぬぞ!」
マコの後ろにいる人々に対してもサキは叫んだ。それを聞いてコノハが逡巡しながら言った。
「でも、フランが抑えてくれているはずなのに、私たちだけ仲間を置いて先に逃げるのは……」
「そんなことを言っている場合じゃないんだ! 相手は普通じゃない。奴は――」
その時、足音が響き渡りサキの言葉を遮った。冷たい足音が炎のひしめき合う空間に反響する。それと同時に岩を転がすような音も聞こえてきた。音の感じから車輪のように岩を転がしているようである。その音と足音が平行しているようだ。
その場にいた全員がその音が近づいてくる方向に目をやった。そこでは炎が壁のように燃え盛っていた。その向こうから足音と岩の車輪の音が聞こえてくるようである。全員が固唾を呑んでそこを見つめていると、黒い影と巨大な何かの影が現われた。そしてその二つの影が炎の壁を越えてこちら側にやってきた瞬間、その姿が露となった。
ひとつの影は痩身の男、カトウの姿。その口元は悦楽に歪んでいる。もうひとつの影は前輪しかないバイクに跨ったような異形の姿。刺々しい背びれや、黄色いてかてかとした眼がこの世ならざるものの空気を纏っている。
炎の前に立つその二つの影はまさしく、絶望的な宣告を届けに来た死神のようだ。そしてサキにとってはまさしく死神そのものだった。カトウとマグカルゴが目の前に現われたということはフランの力では止められなかったことを示している。さらに見たところマグカルゴには外傷はない。それはフランが全力を持っても太刀打ちできなかったことを表している。
「なんだ、こんなところに集まっていたのか」
カトウが言った。するとマグカルゴが甲高い声を上げながら、黄色い眼球でサキたちを凝視した。それはまるで獲物を見つけたことに興奮しているように見えた。
「急かすな、マグカルゴ。焦らなくても奴らはここから逃げれはしない。無抵抗なまま、奴らはお前に蹂躙される運命だ」
カトウがなだめるように言うと、マグカルゴが口をだらしなく開いた。すると、粘っこいマグマの唾液が垂れ落ちて地面を焼いた。そのままマグカルゴは、呼吸困難になったように、身体を震わせて灼熱の息を吐いた。
それを見てカトウが口元に笑みを浮かべながら言う。
「我慢できないのか? 仕方がないな」
カトウがサキたちのほうへと向きかえり、そして寄り集まっているサキたちを眺めながらまるで食材を選ぶかのようにじろじろと見た。一通り見終わると、カトウは指を指した。それは真っ直ぐにマコへと向いていた。
「まずは君からにしよう。マグカルゴの空腹を満たすための――前菜だな」
言った瞬間、マグカルゴが猛り狂ったように炎を全身から噴き出し甲高い声で叫んだ。岩の車輪を高速回転させる。
だが、それを遮るように集団から一歩踏み出す者がいた。それはサキだった。サキはカブトを腕の中に抱えたまま、カトウを真っ直ぐに見据える。その姿を見て、カトウがマグカルゴを片手で制し、言った。
「どうした? 君はメインディッシュだ。まだ、君の出番は――」
そこでカトウは言葉を切った。サキの様子がおかしいことに気が付いたのだ。サキはさもおかしそうに言った。
「メインディッシュ? 前菜? ――笑わせてくれる」
サキは後ろの集団を制するように片手を大きく広げて言った。
「お前はどれも喰らうことはできない。なぜなら、私が今からお前を潰すからだ」
そのサキの言葉にマコが駆け寄っていく。
「サキちゃんっ! でも、あなただけじゃ――」
「来るな!」
マコの言葉をサキは大声で遮る。そのたった一言で、マコはまるで身体の自由を奪われたように動けなくなった。ただサキの背中を見つめることしか出来ない。そのマコへと呟くような声で言葉が投げかけられる。
「来るな、マコ。大丈夫だ。私が、――勝つ」
言ってサキはカブトの鼻先へと手を伸ばした。そして次の瞬間、突然カブトの口の中に手を突っ込んだ。それを見た全員がざわめく。しかしサキはそのざわめきを意に介さず、何かを探るようにカブトの口の中へと懸命に手を入れる。そして何かを見つけたのか、その手の動きが止まった瞬間、一気にサキは手を引き抜いた。それと同時にサキの手から何かが地面へと投げられる。マコが目をやると、それは拳ほどの大きさの石だった。何の変哲もない灰色の石だ。
サキはカブトを自分の足元に置いた。マコが見た限りでは、サキが初めてカブトを自分の意思で手放した瞬間だった。そしてサキはカトウを見つめて、言った。
「さぁ、来いカトウ。第三ラウンドだ。今度はお前を楽しませる暇はない。すぐに終わらせてやる」
その言葉で先ほどのサキの不審な行動に思考を奪われていたカトウが、我に帰ったようにして叫んだ。
「戯言を。マグカルゴ、火炎車だ!」
その言葉でマグカルゴの身体が岩の車輪の中に仕舞い込まれていく。目玉も身体も、赤いマグマとなって、岩の隙間から内部へと入り込み、そして岩の車輪の中を溶岩が満たした瞬間、汽笛のように岩から炎が噴き出した。そしてその炎は車輪に絡みつき、棘のようになって車輪を覆っていく。
巨大な炎の棘が伸びる凶悪な車輪と化したマグカルゴは、サキへと一直線に向かっていく。その炎の車輪の勢いはとても小さなカブトに止められるようなものではない。今にもカブトをひき潰そうとする映像が浮かび、集団の人々は目を閉じた。だがその中でマコだけが目を開けて、サキを見つめていた。
――勝つ。サキが言ったその言葉を信じて。
火炎車はカブトへと迫る。そして一秒後にはぶつかるであろう瞬間、サキが言った。
「カブト、波乗り!」
次の瞬間、火炎車の進行方向の地面が青く輝いた。それに気づいたマグカルゴが、車輪を横にして急停止する。その途端、青く輝いた地面から無数の水柱が立ち上った。それはマグカルゴの視界を覆い、一本一本の水柱は合わさって巨大な水の壁を作り出した。その壁に阻まれて、マグカルゴは進むことが出来ずに火炎車を解いて、岩の車輪の中から顔を出す。
その瞬間、サキの声が響き渡った。
「切り裂け!」
刹那、水柱の中腹が唐突に裂かれた。それをマグカルゴが理解すると同時に、マグカルゴは自分の視界が二つに裂けていることを知った。水を裂いた衝撃波がマグカルゴの顔を斜に断ち切っていた。
切り裂かれたマグカルゴの顔の半分が落ちて、地面を焼く。それと同時に、水柱が一気に引いて遮られていた視界が露になり、カトウがそちらに目をやった。
そこにはサキがいたが、その目の前にいるのはカブトではなかった。
全体としては直立した人を思わせるような細いシルエットだった。茶色い外骨格の甲殻が全身を覆い、三角形の頭部にはカブトの時には見られなかった鋭い眼がある。そしてもっとも目を引くのは両腕の鎌だ。蟷螂のような鎌が、周囲で燻る炎を鋭いその身に映して赤く輝いている。それは巨大な水蟷螂ともいえた。
その水蟷螂のような姿の怪物は振り下ろした鎌を戻し、そして威嚇するように鎌を大きく広げた。
カトウはこの水蟷螂のような怪物を知っていた。確か、既に絶滅したはずのポケモン、カブトの進化系であり、高い凶暴性を誇るポケモンであると。このポケモンの名は、
「――カブトプス」
サキが俯いて、静かに呟くようにして言った。
「できればお前をこの姿にしたくなかった。お前は私の大切な人が、最初にくれたポケモンだから。変わらずの石≠使って、ずっとカブトのまま旅を続けたかった」
その言葉でマコは先ほどサキがカブトから取り出した石が何なのか分かった。あれは「変わらずの石」だ。進化するはずのポケモンをずっと進化させないままの状態にできる能力を持つ石である。
「――でも」
サキは顔を上げ、カトウを見据えた。その目には確かな闘志がある。
「今は、倒したい奴がいる。お前じゃなきゃ倒せない。一緒に、闘ってくれるか?」
その言葉に応えるようにカブトプスは巨大な鎌を振るいながら低く鳴いた。それにサキは頷いて、呟く。
「ありがとう」
その時、マグカルゴの身体に周囲から炎が飛び掛り、マグカルゴの身体に纏わりついた。その炎はすぐさまマグカルゴの欠損した部分を補うように寄り集まり、切り裂かれた顔面を修復していく。
それを見てサキが呟いた。
「自己再生能力か。面倒な能力だな」
「そうだ。いくらカブトプスの攻撃力が高かろうが、炎さえあれば私のマグカルゴに死は存在しない。どうやらこの勝負、私の勝ちのようだな」
「そうか。炎がある限り無敵というわけか。ならば――」
サキが手を挙げ指で天井を示した。それをカトウが怪訝そうに見ていると、サキは小さく言った。
「炎を全て消せば、お前は不死身ではない」
その時、カブトプスが大きく足を挙げ踏み込んだ。すると、その足から青い光の波紋が周囲に広がっていき、それは壁を伝って天井へと至った。その瞬間、天井が青く輝き始める。
それを見てたじろいでいるカトウを見つめたまま、サキは言った。
「カブトプス、雨乞いだ」
瞬間、青く輝いた天井から大量の水滴が落下してきた。大粒で激しく降り注ぐそれは、まるで嵐のときの雨のようだ。その雨が、地面でいまだ燻る炎の勢いを徐々に削いでいく。そして数秒後には、その炎は全て消えていた。これが「あまごい」と呼ばれる雨を降らせる技である。
カトウは助けとなる炎が全て消されて、わなわなと眼球を震わせながら口惜しそうな顔をしていたが、すぐに口元に笑みを浮かべながら言った。
「だ、だが、炎を消した程度ではまだ勝ちとはいえない。たとえカブトプスといえど、真正面から火炎車を止めることなどできはしない」
その言葉で天井から降り注ぐ雨に叫ぶように、マグカルゴが雄叫びを上げながら岩の車輪に跨ったような姿へと変化し、そのまま全身から炎を噴き出しながら向かってきた。
その姿を見据えたまま、サキは言った。
「カブトプス、終わらせるぞ」
それに応えるように、カブトプスは半身になって鎌を剣道の居合いのような格好で構えた。瞬間、カブトプスの鎌に紫色の波動が宿っていく。その波動によって鎌がまるで鏡や宝石のように光沢を増し、次の瞬間にはその鎌の表面の空気が震え始めた。
マグカルゴが粘液を口から飛ばしながら凄まじい声で叫び、狂ったように向かってくる。それはきっと捨て身の一撃であろう。再生できなくなったマグカルゴにとって一撃でも急所に喰らえばそれは死である。しかしマグカルゴの「かえんぐるま」は並大抵の技では止められない。それをサキは分かっていたからこそ、今のカブトプスが持つ最強の攻撃で迎え撃とうとしていた。
紫の波動が鎌の表面を満たし、光が鎌の上で水面のように揺らめいた。その時、サキは叫んだ。
「カブトプス、亜空切断!」
カブトプスが下段から上段へと鎌を振るう。瞬間、振るった鎌の軌跡が紫色の斬撃の波動となってマグカルゴへと放たれた。マグカルゴは真正面から火炎車でそれを受け止めようとする。しかし、紫の斬撃は火炎車とぶつかり合って摩擦することも、火花を散らすことも無く、いとも容易くマグカルゴの身体を岩の車輪ごと両断した。
これが「あくうせつだん」である。超振動や高周波による切断を超えた、切り裂く瞬間の波動による断絶。高威力を誇る特殊技である。
真っ二つにされたマグカルゴは少しの間、よろめきながら半分ずつでそのまま動いていたが、しばらくするとその場に倒れた。
カトウがその姿を見て舌打ちしながら叫んだ。
「だが、まだ火炎車によって発生した二次的な炎がある。それでマグカルゴを繋ぎ合わせれば」
確かに火炎車が走ったことによって、地面には僅かながら新たな炎が燻っていた。だが、それはただの炎のまま揺らめくばかりで、先ほどのようにマグカルゴに飛びついて再生を促したりはしなかった。
「な、何故だ! 何故再生しない!」
「無駄だ。マグカルゴをよく見ろ」
サキの言葉に、カトウは半分になったマグカルゴに目をやった。すると、驚くべきことにマグカルゴの断面は紫色の波動で覆われていた。それがまるで再生を拒絶するかのように、マグカルゴの断面を塞いでいるのだ。
「これが亜空切断の特性だ。この技は単に相手を切り裂くのではない。周囲の空間ごと、断絶させる。つまり、マグカルゴは二度と再生することは無い」
その言葉にカトウは絶句した。二度と再生することがないということは、不死を謳うカトウのマグカルゴにとっては致命的であったからだ。不死であるが故に強力であり、不死であるが故に相手に恐怖を与え蹂躙することが出来た。それが永久に奪われたのである。これはつまり、カトウのトレーナーとしての死を意味しており、そして、
「お前の負けだ。カトウ」
サキは冷たくそう言い放った。カトウは膝を落とし、そして今まで自分が踏みしめてきたトレーナー達と同じように絶望的な叫び声を上げた。
サキは身を翻しカブトプスとともにマコの目の前まで歩いていた。
そしてマコの前で立ち止まり、ただ一言「無事だったか?」と尋ねた。それでマコは頷いた。
「……うん。私は、平気だけど」
言ってカブトプスを見つめた。カブトプスはカブトであった頃の面影はほとんど残っていなかった。鋭角的な眼、戦闘に特化した鋭い鎌。どれも先ほどまで自分の腕の中にいたポケモンと同じだとは思えなかった。
「……カブトは、大事なポケモンだったの?」
マコのその言葉にサキは俯いて、小さく頷いて答えた。
「ああ。カブトは私が初めて貰ったポケモンだ。だからこそ、その姿を変えたくなかった。ずっと、あの人から託された時と同じ姿のまま一緒に過ごしたかった」
「でも、私たちを守るために、変えさせてしまった」
マコは呟き、そして頭を下げた。それにサキが逡巡していると、マコは言った。
「ごめんなさい。そんなに、大切なものだと知らずに、私たちは勝手に……すがって……」
マコの声には嗚咽が混じっていた。サキは困ったように頭を掻きながら、マコを見ていたが、突然、マコの頭にポンと手を置いたかと思うとその手でマコの頭をぺちぺちと叩き始めた。
「……やっぱり馬鹿マコだな。いいんだよ、別に。今は、形なんかに私はこだわっていない」
マコは頭を下げたまま、サキに叩かれていた。サキは叩いていた手を止めて、マコの頭に優しく手を置いて言った。
「形が変わっても、同じ存在だ。なら、私はカブトプスと一緒にいられることが幸福なんだ。だから、お前が気に病む必要は無い。――まぁ、お前に言ったところで泣き虫の馬鹿マコだから理解できないかもしれないが」
言い終わってサキが置いていた手を退けると、マコは顔を上げた。頬には涙の伝った跡があったが、マコはもう泣いていなかった。マコは笑いながら頬を膨らませて言った。
「私、馬鹿マコじゃないもん。泣いてもいないし」
それを見てサキも微笑みながら「そうか」と言った。
その時、呟くような低い声が聞こえマコとサキは声の聞こえてきた方向に振り返った。
鬼のような形相のカトウが、こちらを睨んでいた。
「この程度で、勝ったと思うなよ。まだ、私のマグカルゴは、戦える」
それを見据えて、サキは言った。
「よせ。もうお前は戦えない。マグカルゴがそんな様子では、どんな技も出せない」
サキの言葉を聞くと、カトウは歯をむいて今までで一番厭らしい笑みを浮かべた。そして息を荒らげながら、血走った眼でサキを睨んで言った。
「……ま、まだだ。まだ、いける。まだ、戦える。こんな状態でも、私が一言そう言えば、出せる技がある。……マグ、カルゴ。最後の技だ」
瞬間、二つに割れたマグカルゴの身体がまばゆく輝いた。その禍々しいまでの赤い輝きに、その場にいた全員が戦慄した。これは危険だと、本能が告げる。
倒れているマグカルゴの身体が膨張し始める。内部から放出されるはずの熱が逃げ切らずに膨らんでいるのだ。
それを見た瞬間、サキが後ろの集団に向けて叫んだ。
「まずい。逃げろ!」
それとほぼ同時にカトウは歯をむき出しにしたまま嗤い、呟いた。
「――大爆発」
その言葉が響く刹那、赤い光が景色を塗りつぶした。
赤い閃光が視界を奪い、劈くようなマグカルゴの高い声が響いたかと思うと、次の瞬間には腹の底から揺さぶるような轟音と高熱が景色を埋め尽くした。
その刹那、コノハは一瞬の判断でハクリューに指示を出した。
「ハクリューっ! 神秘の護り!」
その声に応えるようにハクリューが鳴き声を上げながら、白く輝く紋様を周囲に発生させていく。その紋様を発生させている間にも皮膚を焼くような熱気が傍らを通り過ぎていく。
コノハはさらに叫んだ。
「もっとっ! ハクリュー、もっと強い護りを! そうしないと、皆が!」
ハクリューがさらに鳴き声を上げると、神秘の護りの輝きは増し、赤い景色を照らし出す。その護りの紋様が集団を包み込んでいく。それでやっと熱気が完全に遮断された。
サキはしばらくそのまま神秘の護りの中にいたが、やがて爆発の余波が収束したと見ると、すぐに護りの外側に飛び出した。コノハがその背中に制止の声をかけたが、サキは止まらず、さらにマコがそれに続いていった。
サキは皮膚を焼くような熱気に耐えながら、周囲を見渡していた。その後ろにマコが来て、サキの視線の先を追っているとサキが苛立たしげに言った。
「いない。どこにもいない」
サキは地団駄を踏むようにして、口走った。
「カトウに逃げられた」