第六章 十七節「pain」
フワライドの群れが空を覆いつくしている。
それを縫うように雨が降り始めていた。駆け出し初めかと思ったがすぐに本降りになった。屋上に人がいることに気づいた直後の出来事だったためにナツキとリョウは対応し切れなかった。彼らが何故モンスターボールを持っているのか。疑問に思った二人はまだ高度がさほどの高くないフワライドへと近づいた。フワライドの特性は「ゆうばく」だ。下手に近づいて爆発すれば、二人ともただではすまない。一定の距離を開けつつ、リョウが上へと回り、ナツキが下で待機する。もしフワライドが誘爆しても下でナツキが受け止められるようにするためだった。リョウはフワライドの頭に乗っかっている人間へと声をかけた。
「なぁ。あんたらに聞きたい事がある」
その声に気づいたのはまだ歳若い女性だった。「ひっ」と短い悲鳴を発し、フワライドにしがみつこうとする。フワライドは少しの刺激でも爆発するために、リョウは宥めるように言った。
「待て、待ってくれ。敵じゃない。俺はただ、どうしてあんたらがフワライドに乗っているのか聞きたいだけなんだ。どうしてフワライドに?」
女はなかなか警戒を解こうとはしなかった。リョウは空を見やる。フワライドは徐々にではあるが、高度を上げつつある。このままでは上空にいるフワライドの尻にぶつかってしまい誘爆を起こしかねない。早いところ聞き出さなくては。逸る気持ちを抑えて、リョウは深呼吸を一つしてからゆっくりと尋ねた。
「もう一度聞くぞ。どうしてあんたらはフワライドに乗っているんだ? ここで何があった?」
女は怯えた表情のまま固まっていたが、やがてぽつりぽつりと語りだした。
「ふ、フワライドっていうの? このポケモン。私達はただ、脅されて……」
「脅された? 誰に?」
女は首を横に振った。
「分からない。一体誰なのか。黒いジャージを着た男だった。どこかで見たような気もするんだけど、そんな事に構っている暇は無かった」
「……どういう事だ?」
女は逡巡するように顔を伏せた。語りたくないのか、とリョウが思っていると女はフワライドに手をついて、「このポケモン」と言った。
「フワライドの入ったモンスターボールを渡された。タリハシティの住人全員に。それでこう言われたのよ。これからお前らを殺しに来る連中から逃げるために、そのポケモンをやる。お前らはタリハシティから逃げろ。そうでなければ全員、殺される≠チて」
それは奇妙な話だった。この街を占拠したのがヘキサならば、何故逃げろなどと言う必要があるのか。人質としては使えないからか。それとも本当に逃がすつもりだったのか。それにしてはフワライドを住人全員に渡すというのはどう考えてもおかしい。フワライドのような危険なポケモンで逃がすというのはあまりに不自然だ。だとするならば、純粋に逃がすつもりではなかったということになる。
「……さっき、輸送機が突っ込んできたでしょう。あれがきっと私達を殺しにきたのよ。だって輸送機がフワライドにぶつかった瞬間、爆発したじゃない」
それは違う、と言いたかった。だがポケモンの知識のない人間に対しては慎重を要する事柄であった。輸送機がフワライドを破壊したのではない。フワライドにぶつかったから輸送機が破壊され、周囲のフワライドが誘爆したのだ。だが、それを教えて何になろう。今にも爆発するかもしれないポケモンに乗っていると知れば、パニックに陥るに違いない。
はっきりと言えることは、フワライドを住人に渡した人間こそ敵だという事だ。フワライドで空中からの奇襲を防ごうとしているのである。人質と、爆弾。両方に使えるからだ。彼らは空から来るものが自分達を殺しに来ると信じ込んでいる。今、タリハシティが浮き上がっている事に気づいているのかいないのか。少なくとも女はそれどころではなさそうだった。今も頭を抱えてぶつぶつと呟いている。
「……だって、昨日も停電だったし、またヘキサとか言う組織が来たんでしょう? そいつらが殺しに来るのなら、逃げないと。私は、私は……」
この街そのものがヘキサの本拠地などとは思いもしないのだろう。リョウは目を瞑ってから、上を指で示して言った。
「なら、上のフワライドにぶつからないようにするんだ。横も駄目だ。フワライド同士で近づくと敵が撃ってくる。出来るだけばらけるんだ。モンスターボールを持っているんだろ?」
リョウの言葉に女はモンスターボールを取り出し、何度も頷いた。
「モンスターボールを持っているうちは、あんたがトレーナーだ。とにかくフワライドに他のフワライドから距離を取るように指示しろ」
「で、出来ないわよ、そんな――」
「やるんだ。やらないと、敵の思う壺だぞ」
遮って放った言葉に女はモンスターボールに視線を落としたまま固まった。リョウはこれ以上、言う事はないと高度を下げた。ナツキが「どうだった?」と尋ねる。
「ああ、少しやばいかもな」
そう応じて、ナツキと共に高度を下げていった。
ナツキは空を覆うフワライドを見上げる。紫色の風船状の物体が多数浮く様は夢物語のように思えた。だが、これは現実なのだ。紛れもない現実。それを胸に刻んでナツキは地上で待つサキ達へと合流した。二人ともポケモンを労ってボールに戻した。
「どうだった?」
開口一番切り出したのはヒグチ博士だった。リョウが歩み出て首を横に振る。
「芳しくないな。タリハシティそのものがヘキサの本拠地だ。俺らは敵の手の中へとまとめて転がり込んだ事になる」
その言葉に全員が動揺を隠せなかった。まさか街そのものが本拠地とまでは思っていなかったのだろう。冷静沈着なサキでさえも、目を見開いて驚いていた。
「しかし、そうだとすればタリハシティは元々ヘキサの本拠地だったという事になるのか? だとすれば、シルフビル襲撃もロケット団のそれまでの行動も全て制御下だったのか?」
サキの疑問に答えられる者は誰もいなかった。どこまでが偶然でどこからが仕組まれていたのか。当事者であるサキからしてみれば冗談ではないのだろう。今更問うても仕方がない事はサキとて承知している。だが、問わずにはいられなかったのだろう。リョウは首を横に振った。
「やめようぜ。いつから、なんて事を今更掘り下げてどうなるってんだよ。これから、だろ。問題なのは」
「僕もリョウ君に同意見だ。今の状況をどのように打破するかが肝心となるんじゃないか?」
フランの言葉に一同は頷いて、空を仰いだ。フワライドの群れが飛び交い、それに阻まれて降りられない輸送機が滞空している。ディルファンスであろう事は全員が認識していた。先程、炎に包まれた輸送機もディルファンスのものだったのだろうか。だとするならば、自分達は目の前で命が消えるのを黙って見ていたという事になる。もうここにいる全員が当事者なのは違いなかった。
「……どうすべきか」
博士が呟いた声に、マコが返した。
「あの、緑色の光線を出す砲台みたいなのを壊せませんか?」
その言葉に全員が視線を向ける。マコが少したじろいで顔の前で両手を振った。
「いや、無理ならいいんです。でも、あれがあると皆、傷つくばかりだし、ディルファンスの人達も……」
「マコ。お前、同情しているのか?」
サキが放った冷たい言葉にマコはハッとして押し黙った。自分達を裏切った組織にいつの間にか同情していたというのは二人とってしてみれば複雑な心境だろう。見捨てる事も出来ず、かといって今更共闘というわけでもない。微妙な立ち位置にいる二人はここでどう動くかを迫られているようだった。
その時、フランが出し抜けに声を上げた。
「見てくれ、あれ」
指差した方向には、先程と同じ二重構造の黒い砲身が出ていた。人工破壊光線だ。しかし、見ていながら誰も動こうとはしなかった。ディルファンスの味方になる事に躊躇いを感じているのか。それとも、事態に対して動くという意志を持つ事が出来ずにいるのか。人工破壊光線の砲身が緩慢な動作で照準を定めようとする。フワライドの群れに隠れて狙いづらいのか、何度も砲身を微調整する。
――見ていられなかった。
ナツキは走り出していた。背中にリョウが自分を呼ぶ声が聞こえる。しかし、立ち止まれない。一刻も早く、砲身まで近づかなければ。
「ライボルト! ダイノーズ! お願い!」
ナツキはホルスターからボールを二つ手に取り、緊急射出ボタンを同時に押した。光を振り払い、現れたのは金色の鬣を持つ青き獣、ライボルトともう一体いた。それはまるで岩石そのもののような形をしていた。体表は青く、頭部に帽子のようなピンク色の構造物があった。鼻も同じ色で大きく三角形であり、鼻の下にはまるで髭のような砂鉄が寄り集まっている。本体の両側面と背面には本体をそのまま小型化したような物体が取り付いていた。このポケモンこそ、ナツキの手持ちの一匹、岩・鋼タイプを持つダイノーズだった。ライボルトが素早く駆ける。それに比べてダイノーズは動きが遅い。それでもナツキが走るよりは速かった。ナツキはダイノーズに飛び乗り、指示を飛ばす。
「ダイノーズ、電磁浮遊!」
瞬間、ダイノーズに取り付いていた小型の物体――チビノーズが一斉に外れた。三つがそれぞれ磁気と電流を放ち、ダイノーズの周囲で浮遊する。それに伴ってダイノーズ本体も俄かに浮き始めた。チビノーズが作り出す磁場の中にダイノーズが乗った形となる。ダイノーズは傾き、速度を増した。ライボルトほどではないが、それでも先程より速い。先行するライボルトが砲身を睨み据える。ナツキもダイノーズに乗りながら、砲身へと鋭い視線を投げた。今、砲身は照準を定めようとしている。ディルファンスの輸送機を破壊するために。
「――その前に、破壊する」
口にした決意が熱い言葉と意志として二匹のポケモンに伝わり、ライボルトとダイノーズがさらに速度を上げる。ナツキは指鉄砲を構えた。砲身へと狙いを定めるかのように目を細め、唇を舐める。
「ライボルト! ダイノーズ!」
呼ぶ声に二匹の挙動が変わった。ライボルトは鬣を三つに分裂させた。それぞれ上と左右の鬣から電気を集め口の中で青い電流の塊が凝縮される。
ダイノーズの体表を金色の電流が走る。その電流が鼻先に至ったかと思うと、髭のような砂鉄が揺れ始めた。砂鉄が電流を纏い、その身を動かす。傍から見ると髭がうねうねと動き、今にもダイノーズがくしゃみをしそうな風に見える。その時、ダイノーズがくしゃみ、では無く一声吼えた。それに反応したように砂鉄が筒状の物体を形作ってゆく。瞬く間に、砂鉄は黒い砲身へと姿を変えた。その砲身の内側で電流が青白い光を放ち、電流の砲弾が目まぐるしく回転する。
人工破壊光線の砲身で緑色の光が何度か往復する。今しかない。そう感じたナツキは指鉄砲を砲身に向けて叫んだ。
「電磁砲!」
ライボルトの口腔内から、ダイノーズの砂鉄の砲身から、青白い電気の砲弾が弾き出された。
――中れ!
念じるように目を閉じる。その願いが通じたのか、二つの電磁砲は砲身へと吸い込まれるように命中した。人工破壊光線の砲身が帯電する。一度、定まった照準がぶれ始めた。砲身が外側へと折れる。砲口が向いたのは外側にいるフワライドの群れだった。
「まだ、完全に破壊できていない!」
叫んだナツキに呼応するようにライボルトとダイノーズは街の端へと駆ける。砲身が震えながら内部にエネルギーを凝縮する。
「やらせない。ここで、破壊する!」
ライボルトとダイノーズが砲塔へと飛びかかろうと崖を蹴った。二匹が再び電磁砲を撃とうと、青い光を溜め始める。
その瞬間、ライボルトとダイノーズは何かに弾かれたように、内側へと引き戻された。衝撃を感じたのも一瞬、次の瞬間にはもう二匹とナツキの身体は街の中へと転がっていた。何が起こったのか。確認する前に、鼓膜を破るような高周波が響き渡った。砲身が光り輝いている。
「駄目っ!」
叫んで身を起こした瞬間、網膜の裏に焼きつくほどの光が迸り、視覚を強く刺激した。咄嗟にダイノーズが影になるように立ちはだかり、かろうじて失明は免れた形になったが、それでもしばらくは光の余波でまともに物が見えなかった。漆黒の中、音だけが明瞭に聞こえる。爆発音が何重にも折り重なり、その中に感知野で拾った人々の叫び声が鼓膜にこびりついた。ナツキは両耳を塞いでその場に蹲った。ようやく音がやみ、眼も見えるようになった頃に誰かが近づいてくるのが分かった。顔を上げると、そこにはどこか悲しそうな顔をしたリョウがいた。隣にはリーフィアが侍っている。リーフィアの周りには七色に輝く葉っぱが舞っていた。リョウが重々しく口を開く。
「……お前が砲身に飛び込もうとした瞬間、マジカルリーフでライボルトとダイノーズを弾き返した」
その言葉にナツキは思わず立ち上がり、リョウの胸元を掴んで叫んだ。
「何でそんな事をしたの! もう少しで破壊できたのに!」
「何でそんな事をしたのかって? お互い様だろうが!」
ナツキの声に被せるように放たれた怒号にナツキの手が緩んだ。リョウは胸元を掴む手を振り払い、怒りを露にして言った。
「どうして勝手な真似をした。ナツキ!」
「だって、そうしないとディルファンスの人達が――」
「あいつらは味方じゃないだろう!」
遮って放たれた声にナツキは硬直した。リョウは言い聞かせるように何度も言った。
「味方じゃない。味方じゃないんだ! いちいち守ってたらこっちの身が危ういだろうが!」
「……でも、リョウ」
「でも、じゃねぇよ! ナツキ。言ったよな。お互い、相手を守る余裕なんてねぇって。目的のためならよそ見出来ないって。なのに、どうしたんだよ」
その言葉にナツキは今朝自分で言った事を思い出した。そうだ。自分で決意したはずじゃないか。そのために皆で戦うと決めたのだ。だというのに、何故――。
「お前、ちょっとらしくねぇよ」
リョウは背中を向け、リーフィアをボールに戻した。ナツキはしばらく呆然としていた。誓ったはずの事を忘れて一人で全てを背負おうとした。そんな自分の無能さに腹が立つ。だが、怒りに全てを忘れる事も出来ない。最後の戦いに来ているというのに、失念していた。それは多分、目の前の命を見捨てられるか、大きな目的のために動けるかどうかのだろう。リョウはルイを助け、ヘキサを壊滅させるという大きな目的を持っている。だというのに、自分は目的を掲げたくせに目先の事に囚われた。それは弱さなのか。
少しぶれるが支障のない眼に映るのは、ガスを空気中に残したフワライドの残滓と、それを塗り潰す雨の線と、そこから垣間見えるディルファンスの輸送機だった。
「外、れた……?」
操縦席にいたエイタは思わず腰が砕けそうになった。間近を行き過ぎた緑色の破壊光線がフワライドを破壊し、爆発の牡丹を雨空に咲かせる。それは距離を置いていたフワライドをも巻き込み、誘爆の連鎖がタリハシティ上空を覆った。エイタは破壊光線の余波が機体表面を揺らしているのを感じて、パイロットに尋ねた。
「飛行に支障は?」
パイロットはそれに応じなかった。茫然自失の状態で広がる爆光を見つめている。エイタは語気を強めてもう一度はっきり口にした。
「飛行に支障はあるか?」
その言葉には気づいたのかパイロットは慌てた様子で機器を確認し始めた。
「飛行状態は大丈夫です。問題ありません。先程の光線も当たっていませんし」
「ならば、やる事がある」
エイタは強化ガラスの向こう側を指差した。パイロットが目を向ける。そこにはフワライドが誘爆してくれたおかげで開いた空間があった。輸送機ならば充分に入れる大きさだが、パイロットは振り返り目を見開いた。
「正気ですか? あんな強力な兵器があるのに、懐に突っ込むなんて」
「だからさ。今しかない。多分、今の砲撃は僕達を狙おうとしたんだ。それが外れた。という事は、つけ入るチャンスは今だけだという事だ」
「しかし、罠だという可能性も……」
「フワライドで空間を塞がれる前に全速力で突っ込むんだ。砲撃の再充填までには時間がある。今しかないんだ」
エイタの熱のこもった言葉に、パイロットは決めあぐねていた。ディルファンスの命運を握っているのは自分といっても過言ではない。そう考えているに違いなかった。どちらにせよ、懐に入らなければ降下する事も着地する事も出来ない。エイタはパイロットの肩に手を置いた。
「君だけが頼りだ」
その言葉はある意味では殺し文句だった。パイロットの迷う心を定めるのには充分な魔法の言葉である事をエイタは承知していた。
「……行きます。どうなっても知りませんよ」
最後の一言で言い訳を作りながらも決めるのはパイロットだった。操縦桿を強く握り直す。エイタはその背にダメ押しのように「君の勇気は素晴らしい」と賞賛した。それの効果があったか分からない。だが、輸送機はフワライドの隙間を縫うように、速度を上げてタリハシティへと潜入した。
「四番の砲門にトラブル! 再攻撃は不可能です!」
叫んだ団員の声に指揮官がすぐさま「損害状況報告!」と指示の声を飛ばした。
「四番の砲身に何らかの攻撃が加えられた模様。再度発射するのは不可能と考えられます」
「砲身ごと取り替えるのだろう。無理なのか?」
その疑問に、団員の一人が椅子ごと振り返った。
「砲塔にもダメージがあります。砲身を取り替えるにしても、肝心の砲塔とのジョイントが出来なければ無意味です」
「何の攻撃だ? 誰も攻撃できるような人間はいないはずだが」
「現在、付近の監視カメラを確認中です」
キーボードを叩く音だけが戦闘ブリッジに響き渡る。以前のようにスクリーンに映し出す事は出来ない。設備が古いためだ。全員で情報共有できない事に、指揮官は歯噛みした。
しかし、と指揮官は考える。ディルファンスも上陸していないというのに、誰が攻撃するというのか。しかもディルファンスの輸送機を狙った攻撃だ。ディルファンスと何らかの縁のある人間でなければ思いつかないし行動できない。そもそも見ただけではディルファンスの輸送機だとは分からないだろう。状況を的確に判断し、分析出来る人間がいるという事か、と思っていると団員の声が弾けた。
「確認できました。第34地区に侵入者。数は6です」
「侵入者だと? どうやって入ってきた? フワライドに邪魔されて上空からの潜入は出来ないはずだ」
「恐らくはタリハシティが浮遊する前からいたと思われます」
答えたのはフクトクだった。その言葉に指揮官は椅子に深く座りなおし、顔を拭った。だとするならば、タリハシティを占拠する事が外部に漏れていた事になる。もしかしたら攻撃されない要塞だと考えているのは自分達だけで既にあらゆるところを攻撃されているのか。今の攻撃はその一波に過ぎないのか。そんな考えが鎌首をもたげる。その思考を裏付けるように、団員が声を上げた。
「新たな熱源を探知! 真っ直ぐにこちらへと向かってきます!」
「またディルファンスか?」
「いえ、これは……」
ヘッドセットに耳をつけた団員がじっと耳を澄まして音を聞いているようだった。機械かそうでないかは区別出来るらしい。指揮官にはその違いがよく分からず、その団員の耳を信用するしかなかった。団員は振り返り、驚愕に塗り固められた表情を向けた。
「……これはポケモンです。しかも、こんな大きさの飛行ポケモンはデータにありません」
またデータにない謎の飛行物体か。口にしかけて慌ててその言葉を振り払い、喉の奥から指揮官の声を出した。
「警戒態勢を取れ。謎のポケモンが突っ込んでくる可能性も視野に入れろ。各員、対ショック姿勢!」
「目標、こちらへと急速接近。この、ポケモンの形状は――」
そこから先の言葉を激震が遮った。