第六章 十四節「空を裂き坐する者」
「これは……!」
呻いた声がコックピットの壁に染み渡るのを感じ、エイタは思わず口を閉ざそうとしたが、もう遅かった。というよりもエイタ一人が口を閉ざしたところで意味がない。既にパイロットにはそれが見えていたからだ。
大地が砂の飛沫を上げて割れ、ケーキのように綺麗に切り取られてゆく。だが、その実は甚大な被害を出しているに違いなかった。エイタはコックピットから望める景色の中にリニアラインの駅が入っていない事に気づいた。
「交通網を遮断する気か」
リニアラインへと続く道路は寸断され、今や切り離された大地は徐々に浮かび上がっているように見えた。
「どう、なっているんだ」
パイロットが驚愕のあまりか操縦桿を握る手が震えている。額には脂汗を掻いていた。無理もない。大地が持ち上がる光景など、二度生まれ変わっても見る事はないだろう。それは世界の終わりを容易に連想させた。
エイタは視線を走らせる。すると、ある事に気づいた。六角形に切り取られたタリハシティ。それは先程、本部で見た電力供給の図と重なっている。
「このためだったのか。電力を集めていたのは。繋ぎ目は元々弱く作られていた。そうでなくては破砕できない。それとも、破砕するための装置があらかじめあったか。なるほど、四つの異常な熱量というのは浮遊機関。だが、どうやって浮かせている? 排熱する機関とはいえこれほどまでに欺けたという事は、単純な固形燃料や液体燃料のエンジンではない。何か別の……、それに浮かせてどうする気だ? それほどのエネルギーがあるというのか? だが、それを今までどうやって隠してきた?」
顎に手を添えて思索を巡らせるがどれも答えが単純に出るものではない。すし詰めになっている構成員達に報せるべきか。パニックを起こして敵前逃亡、などでは困るがこの状況に陥れば決断するしかないか。それとも――。
昨日からの寝不足と疲労がたたり、エイタは額に疼痛を覚えて手をやった。
「どうします?」とパイロットが探る声を肩越しに寄越す。どうもこうもない。ここまで来て退くという選択肢などない。ディルファンスが盛り返すためには、ここで退いてはならないのだ。
「総員に降下準備をするよう伝えて欲しい。タリハシティを我々はヘキサ本部と断定。カイヘン地方に残る最後の正義の組織として、これより破壊活動に入る」
「り、了解」
パイロットはどこか気圧されたように頷き、エイタの声を復誦する。無茶な作戦だという事は百も承知だ。だが、ヘキサが遂に動き出した以上、動かない手はない。ヘキサは首都を破壊するという立派なテロ行為を犯した。まだ自衛権は生きているはずだ。この状況で最も適切に行動できるのはディルファンスだけなのだ。
「総員、降下準備。タリハシティ上空へとこれより向かう。繰り返す……」
パイロットのアナウンスが今頃は窓もろくな換気もない輸送庫に響いている事だろう。構成員達は狼狽するに違いない。だが、それをまとめるのが自分の役目なのだ。
「……悪は罰せられなくてはならない。僕が正義だ」
その言葉は誰にも聞き届けられる事はなかった。ただ復誦し続けるパイロットと、強化ガラス一枚で隔てられた外の状況がえらく遊離して感じられた。
「――僕が正義だ、なーんて思っちゃってるんだろうね、エイタは」
呟いた声の主は双眼鏡越しに壮絶な景色を眺めていた。首都タリハシティが浮かび上がる光景。街一つがそのままヘキサの本拠地だというのは悪い冗談だと思えたが、目の前の事態を見る限りあながち夢物語とは言えない。高層ビルと同じ高さの砂煙をもうもうと上げ、浮き上がる様は、まるで空へと引き寄せられているように見えた。
「地獄の釜が開くか」
口元を歪めて発したジョークに、ここまで車を運転してきたチャンピオンつき秘書官は笑わなかった。
双眼鏡を外し、ハコベラは紫色の髪を撫で上げた。
「街一つとは、スケールの大きい事で。また予算会が大ピンチになるね」
振った言葉にも秘書官は冷たく返した。
「予算計画を組むのは私です」
「手厳しいな」
ハコベラは笑ったが笑える状況でないことは分かっている。カイヘン地方ポケモンリーグから大型フェリーを乗り継いで約一時間半。ようやく本土の最北端であるカワジシティへと辿り着いた。高級車がフェリーで本土まで渡り、港町の道路を走るのは滑稽に見えたに違いない。だが車で行こうと思えばこうなるのは必然であった。カワジシティはどうやら停電の憂き目にはあっていないようで、何事もないかのように漁師が海に駆りだしていた。港町の活気は衰えていなかった事に嬉しさを感じているわけではない。元々、ハコベラは生活というものに無頓着なほうだった。
カワジシティから南に走って、現在は七十四番道路の端の草原に車を停めている。七十四番道路はいわゆる峠道であり、タリハシティの様子が天辺からならばよく見えた。双眼鏡片手に、ハコベラは車のボンネットに片肘をついた。
「さて、どうなるかな。僕の見立てでは既にディルファンスが近辺にいるはず。下手に動いてディルファンスに勘付かれるのは、正直面白くない」
「共闘、というのは」
秘書官が発した言葉にハコベラはしまりのない笑みを浮かべて「キョウトウ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「馬鹿言っちゃいけないよ。共闘なんて、何でそんなことしなきゃいけないの? 僕はディルファンスを正直潰したいんだよ。僕まで汚名被る羽目になるじゃない」
「では、どういう形で事態を収束されるので?」
秘書官の言葉にハコベラは「うーん」と瞼を閉じて心底悩んでいると言いたげにうなった。秘書官は冷たい眼差しを送っていた。
「なかなか難しいけど、要はディルファンスに加担しなければいいんだよ。ディルファンスですら、敵対勢力とみなす、じゃ駄目か。そうだな、あくまで別行動だという事を強調するために、あの――」
ハコベラが再び双眼鏡を構え、遥か先にある小さな黒点を捉える。タリハシティに比すれば米粒のような二つの黒点は、恐らくチャーターした輸送機だろう。
「ディルファンスの輸送機をヘキサの尖兵だと判断して墜とす、とかかな。口封じも同時に出来て便利だし」
「しかし、エイタ様が乗っておられる事は確実ではないのでは?」
秘書官の返事にハコベラは双眼鏡を外して笑みを投げた。
「まるでそれ自体に反対するわけじゃないみたいな言い方だ。君もなかなか酷いね」
秘書官は顔を逸らして「お互い様です」と言い返した。ハコベラは「ともかく」と続ける。
「ディルファンスが保有していないと確実に言える戦力なら、別行動だという事を示すことが出来るし、同時に僕が事態を収束させればディルファンスが無能だという証明にもなる」
「策はあるのですか」
「あるよ。一体だけね」
「一体、とは」
「まぁね。ポケモンを扱うチャンピオンならばチャンピオンらしい戦い方ってのがある」
ハコベラが腰のホルスターに引っかけたモンスターボールの表面に指を這わせる。どこか艶かしさを感じさせる指先に秘書官は悪寒を覚えた。ハコベラはそんな秘書官の感情など意に介していないように、爽やかな笑みを浮かべる。
「僕もポケモントレーナーだ。当然、ポケモンを使って事態を収束させる」
「ですが、ポケモンの兵器転用は国際社会からの非難を浴びます」
「僕のポケモンを僕がどうしようと勝手でしょー。そんなんじゃ、居合い切りは森林伐採行為になっちゃうし、岩砕きは自然破壊だ」
「偏屈ですね」
「いいね。君の飾らない物言いが素敵だよ」
普通の女ならばぐらついてしまうようなその言葉に、秘書官は無言を返事とした。ハコベラも心得ているように笑って見せた。
「さて、狙うとするならば」
双眼鏡を再び用いてタリハシティを視界の中心に捉える。ヘキサの牙城と化したタリハシティがどのような原理で浮いているのか。それを突き止める必要があった。
「あれだね」
ハコベラが双眼鏡から目を離さずに指鉄砲で狙いをつける。秘書官はハコベラの言っている事が分からずに首を傾げた。ハコベラが「タリハシティの地下階層部分、見てみるといい」と言って双眼鏡を手渡した。秘書官は双眼鏡を受け取ってハコベラの言う通りの場所を視界に捉える。砂煙が上がっており、どこかぼやけた幻想の中の城に見えるタリハシティ。その下腹部で、今、赤い稲光が走った。
「……今のは」
思わず呟いて、もう一度よく目を凝らす。走った稲光は一筋ではない。幾つもの稲光が折り重なり、砂煙の向こう側で火花が散る。
「よく見えない?」
心の中を見通したようなハコベラの言い方に、内心苛立ちを覚えつつ「ええ」と平静を努めて返す。ハコベラは双眼鏡の側面についているボタンを押した。
「もう一度、見てみなよ」
その言葉に秘書官は双眼鏡へと、再度目を押し当てる。すると、先程までとは違った景色が広がっていた。緑色がかった視界の中に、オレンジ色で塗り潰された塊がある。上には沈黙したタリハシティのビル群を背負っている。タリハシティ地下のみに電力が供給されているため、下部分だけがオレンジに見えるのだ。その中に、一際赤く縁取られている部分を見つけた。その部分から赤い稲光がもう一点の同じ反応を示す部分に橋渡しされている。
「これは……」と口にした声にハコベラが返した。
「電力供給されている部分のみを示すモードだ。強い電力が集中し、熱を発している部分は赤く表示されているはず。そうだね。多分、タリハシティを抱えている四隅の辺りかな。赤いのは」
ハコベラの言葉は当たっていた。オレンジ色の立方体のそれぞれの端に当たる部分に、楕円形の赤い部分がある。秘書官は双眼鏡を通常モードに戻した。砂埃でまだ全体像は掴めないが、あらかたの形は先程よりも明瞭に見えた気がした。
「電力を発生させて浮いているんだ。停電はそのせいだろう。いや、もっと前から気づかれないように電力を拝借していたのかもしれない。停電したのは最終局面を前に電池切れしないためかな。電磁浮遊、というポケモンの技があるだろう?」
その名前は聞いた事があった。電気タイプのポケモンや鋼タイプのポケモンが覚える技、「でんじふゆう」。それは天敵である地面タイプのポケモンの攻撃を無効化する効力を持っている。
「ええ、ありますが」
双眼鏡から目を離し、ハコベラに視線を向ける。ハコベラはボンネットに寄りかかって言葉を発した。
「それの応用、と言ったところだよ。電気ポケモンの何十、いや何百倍ものエネルギーを集中させて、擬似的な電磁浮遊を行っている。ただそれだけじゃカントーまで進めない。後ろに推進剤でもついているのかな?」
その言葉の直後、青い光が視界の隅に映った。秘書官は急いで双眼鏡を向ける。タリハシティのカントー側からすれば後ろのほうより、青い光が幾つもの光の筋を描いて放出されていた。まだガスのように淡いが、それは点火の前だからだろう。
ハコベラの予想通りに事が運ぶことに、秘書官は驚きを隠せなかった。双眼鏡を片手に秘書官はハコベラを見やった。
「知っていたのですか?」
思わずそんな言葉が漏れた。ハコベラはそんな失礼とも取れる発言を風と受け流した。
「まさか。僕がヘキサと繋がっているわけないじゃない。ヘキサなんて組織がいれば一番困るのはこの僕なんだよ」
飄々として掴みどころのないハコベラを相手に、問答を続ける気力もなく秘書官は話を変えた。
「……しかし、これだけのものをヘキサがどうやって造ったのでしょう。勘付かれずに造る事など不可能なのでは? 街一つですよ」
「だから、勘付かれないように造ったんでしょ。カイヘン地方が開ける前から」
「だとすれば、ヘキサの計画は長期的なものだったと?」
「いいや、違うね。ヘキサ自体は多分、演説の男の独断だろう。設備自体は、恐らくロケット団だよ。カイヘン地方が今のような繁栄を誇る影にはロケット団の開発があった。山一つを基地にするロケット団が、首都に何も施さないと思うかい?」
そう言われれば納得もする。ならば、ヘキサはロケット団の遺物を使っているという事なのか。その思考を見透かしたように「あの男は」とハコベラが口にした。
「全てを利用するつもりなのか。ディルファンスも、ロケット団も、このカイヘン地方でさえも」
「どうなさるので」
秘書官が探る目を寄越す。ハコベラは心の奥底が読めない笑みを浮かべながら、「とりあえず」と言った。
「ヘキサにカントーまで行かせるわけにはいかない。ヘキサはいいのかもしれないが、全て終わった後に、カイヘン地方の自治権が他地方に奪われるのは御免だね。かといってディルファンスに華を持たせるのも僕としては不都合だ。ディルファンスには消えてもらわなければならない。いつだってそうだろう? 歴史が証明している。正義を騙った組織や人間は必ず粛清を受ける。彼らにはしかるべき報いが待っている。そうでなくては、これ以上好き勝手にされるのは、ね。僕は気に入らない」
「それでは……」
「ああ、ここで全てを終わらせる。ロケット団の因縁も、ディルファンスも、ヘキサも」
ハコベラがホルスターに手を伸ばす。ホルスターにあるのはただのモンスターボールではない。本来赤い部分が紫色であり、突起がついている。秘書官はそれを知っていた。ロケット団がカントーでかつて開発に着手した究極のモンスターボールだ。あまりに強力なため、少数しか生産されなかった代物である。それはポケモンの抵抗力を完全に奪い取り、強制的に僕にすることが可能なためにポケモン愛護団体から激しいバッシングを受けたボールであり、強いトレーナーならば一度は耳にした事があるはずのボールであった。
その名は、マスターボール。ポケモンマスターが手にするのに相応しい、覇者のボール。
マスターボールを掴んだハコベラはボールを掲げ、緊急射出ボタンに指をかけた。
「行け」
ボタンを押し込んだ瞬間、金色の光が弾けた。まるで今まで受けていたボールの呪縛から解き放たれたように、金色の光と緑色の身体がボールから躍り出た。光を振り払い、うねりながらその全体像が明らかになる。
一見しただけで、ゆうに七メートルを超える長い身体。蛇の如き緑色の身体が天空で舞う。鋭い鉤爪を有する手が前方の下腹部についており、鋭角的な頭部を持っていた。それは東洋の龍を思わせる威容である。その実、それはドラゴンタイプのポケモンであった。裂けた口から空気を割る咆哮を発し、白目の部分が黒く、金色の虹彩が射る光を放つ。緑色の身体に金色の縄目文様が入っており、文様部分が鼓動のように金色の明滅を繰り返す。
その姿はもちろん、普通のポケモンではない。ホウエン地方の伝説に刻まれた、陸と海を統べ、天空を制する伝説のポケモン。その名は、
「――レックウザ」
ハコベラが名前を口にする。レックウザはそれに応じるように一声鳴いた。空気が震え、放たれる金色の光に秘書官は身が竦みそうになった。
「どうして、こんなポケモンを……」
思わず漏れた声に、ハコベラが応じる。
「ああ、僕とホウエンのチャンピオンは随分と懇意にしてもらっていてね。ホウエンへの資源提供が気に入ってもらえたらしい。個人的な付き合いもあるんだ。それで手に入れた。どうにも手に余る力だそうでね。僕に譲ってくれたわけだが、……なるほど、手に余るわけだ」
ホウエン地方のチャンピオンといえば、マグマ団とアクア団の闘争に端を発した異常気象を収めた少年だという。陸を司るポケモン、グラードン。海を司るポケモン、カイオーガの暴走を食い止めた少年がニュースになったのは三年ほど前だ。程なく玉座へと上り詰めた少年とハコベラが交友を持っていた事は初耳だった。
ハコベラはレックウザを見つめている。先程の声は平時のものだったが、今は額に汗を掻いている。その指先も震えているようだ。ハコベラのような人間が動揺しているのを秘書官は初めて目にした。
「どうなさるので」と差し込んだ声に、ハコベラは幾分か顔を引きつらせて言った。
「とりあえず、僕はこいつを近くに置きたくないね。目の前にいるとトレーナーであるはずの僕まで竦みあがってしまう。さっさとヘキサの根城にまで飛んでいってもらうとするよ」
ハコベラがレックウザの名を呼ぶと、レックウザは心得ているとばかりに、その身をくねらせ、上空に激しい風を巻き起こす。嵐のようなその風に目を瞑った一瞬のうちに、レックウザは真っ直ぐにタリハシティへと向かっていった。もう随分と遠い。翼のないドラゴンタイプでありながら、空を流れ星のように駆けていく姿はどこか不思議に見えた。レックウザが離れて、ハコベラは車のボンネットに身体を凭れかけさせた。額の汗を拭い、ふぅと息をつく。
「さすがだね。伝説のポケモンと呼ばれるだけはある。僕でさえトレーナー戦となれば御しきれる自信がない」
「では、どのようにしてヘキサを止めるつもりなのです」
「浮遊機関を叩く」
迷わずに放たれた言葉に、秘書官は半ば予想していながらも本気だとは思っていなかっただけに、思わず問い返した。
「レックウザに命令が届きませんが、どうなさるのです?」
「これを使う」
ハコベラが懐から取り出したのは片耳にかけるタイプのヘッドセットだった。そこからケーブルが延びて、掌に収まるサイズの小型の液晶端末がある。その液晶には今、暗雲たちこめるタリハシティが映っていた。
秘書官はレックウザにつけられたカメラのリアルタイムの映像なのだと理解する。ハコベラがヘッドセットの真ん中を叩きながら、
「ここに音声がノイズを抜いて送られてくる。で、映像はこれが受信しているわけさ。まったく、世の中便利になったものだよ。遠距離で奇襲なんて事が簡単に出来てしまう。怖いね、本当に」
ハコベラは小型端末に視線を落として、口元を歪めた。秘書官はハコベラという男の一端を垣間見たような気がした。利用できるものは全て利用する。たとえそれが敵だろうが、御しきれない伝説のポケモンだろうが。ハコベラの思考には迷いがない。それが彼の強みであり、同時に人並みはずれた判断を下せる部分なのだろう。戦いの時にこそ、彼の頭脳は最大まで研ぎ澄まされる。生まれつきのトレーナー気質だ。だからこそ、彼がここまで上り詰められた。ハコベラがチャンピオンなのは決して運だけではない。実力がもちろん伴っているのだ。飄々としていて、ともすればヘキサの首領以上に計り知れぬ男である。
その時、ハコベラが「おっ」と出し抜けに声を上げた。
「タリハシティは雨だね。面白いものが見られるよ」
子供じみたその言葉に、秘書官は先程まで考えていた計り知れぬ、という部分を自分の中で撤回した。この男はまだ子供なのだ。事態を楽しんでいる部分のほうが大きいのかもしれない。
――その大きい子供のお守りが自分というわけか。
自嘲しようとして果たせず、秘書官は分からぬ程度にため息をついた。