第六章 五十二節「真実の喉元」
「今……」
振り返った思惟が見たのは、とめどない光の奔流の反対側、暗がりだった。あちらへと行ってはいけない、と誰かが告げる一方、手を繋いだチアキは、行くべきだ、と言った。
――本当に大切なものが何なのか。お前は知っているだろう?
「でも、チアキさんを放ってはおけません。そうだ。一緒に戻りましょう。そうすれば、皆、きっと」
ナツキの声にチアキはゆっくりと頭を振った。
――ナツキ。この光の先には全てが連なって見える。今まで人類が犯した罪悪も、これから犯すであろう事も。だが、同時に希望も見えるんだ。光の筋となって、私の知覚へと入り込んでくる。思惟の海に委ねて、私は行くべきところに行く。だが、お前はまだ、その時じゃないだろう?
「私も、行きたいんです。チアキさんと一緒が、いい」
我侭に違いなかったが、ナツキは精一杯繋ぎ止めようとチアキの手を両手で掴んだ。チアキは優しく微笑んだ。
――心に従えばそうなるだろう。だが、ナツキ。希望も見えると言っただろう。その希望の光の中には、お前も見えるんだ。
「私、も……」
――答えに至るにはまだ早い。この光は万物に平等に訪れる。人もポケモンも。お前はお前のペースで、ここに来ればいい。その時には待っている。
確固たる言葉に、ナツキは頬を熱いものが伝うのを止められなかった。二度も別れを告げられる事が耐えられなかったのか。それとも、チアキに拒絶されたと思い込んだのか。しかし、チアキは決して拒絶などしない。今は思惟の海へと溶け込んで、生前にはなかった柔らかな光を放っている。
ナツキは身を翻した。
眼前にあるのは暗闇だ。だが、その中を手探りで進むしかない。人間はそう簡単には出来ていないのだから。光の中を魂という一個体だけで進むには、人間は複雑で、猥雑で、乱雑に出来ている。だが、その整然とされていない感覚こそ、人とポケモンだけのものなのだ。その感覚こそが人とポケモンを繋ぐ架け橋となりえる。
「ありがとう。チアキさん」
振り返らずに別れの言葉を告げる。振り返れば甘えてしまいそうだったから。チアキは言葉を返す事はなかった。思惟の海をナツキは泳ぎ、手を伸ばす。小さな身体。何一つうまく出来ない、あの身体へと収まるために。その身体の周りにある光にナツキは目を凝らした。
人の灯火。魂のかがり火。淡く暗闇に光を放っている。これこそが生きる原動力なのだろう。
「皆……」と発した声を最後に、光の道が途絶えた。
ハッと、目を見開くとリョウが左手でナツキの胸倉を掴んでいた。その眼にある剣幕に一瞬気圧されそうになったが、掴まれているのが胸元だという事にナツキの羞恥の心が勝った。
「何してんのよ、リョウ!」
思わず放った張り手がリョウの頬へと命中する。リョウは手を離し、二三歩よろめいた。ナツキは足の裏に地面の感触を確かめ、次いで掌をじんと伝わる痛みがようやく、元の身体に戻った事を告げた。バシャーモとカメックスが自分を見下ろしている。二体とも主君を信じきっているような眼差しだった。不意にバシャーモとカメックスが膝を折り、その場に跪いた。まるで玉座の前のように。
「何が……」
起こっているのか、と言葉を発する前に、リョウが「いってー」と左手で頬を押さえていた。突然の事に手を上げてしまった。申し訳ない気持ちで一杯になり、ナツキは「ゴメン、リョウ」と頭を下げた。上目遣いに見やったナツキへと、リョウは後頭部を掻きながら、
「まぁ、胸倉掴んだ俺も悪かったよ。それよか、俺よりも謝ったほうがいい連中がいる」
リョウが顎でしゃくる。顔を上げて周囲を見渡すと、ディルファンスの面々やフランやアスカ、サキやマコ、アヤノが安堵の息をついていた。彼らにも心配させてしまった。ナツキがまた頭を下げようとすると、「いいって」とフランが制した。
「ナツキさんが無事だったのがよかった。もしかしたらリョウ君の呼びかけがなかったら、無理だったかもしれないし、お礼と謝罪はリョウ君に」
「いらねぇよ。そんなもん」と切り捨てるリョウの右腕がない事に、ナツキはその時になって気づいた。ハッとして思惟の声で交わした会話を思い出す。
「リョウ。右腕……」
「ああ。これからは左利きだな」
それだけの言葉で片付けてしまえる心境ではないはずだったが、リョウの言葉に何も返せなかった。ここから先は当事者の問題なのだ。容易に踏み込む事など出来ない。思惟を重ね合わせた時の距離はどこへやら消えて、今は当然のように肉体が邪魔をする。
しかし、それでいいのだ、と思う部分もあった。魂を重ねて、混合すれば、本当の意味で分かり合えるだろう。だが、それはまだ人類には早すぎる扉だった。自分はその扉の入り口までポケモンと共に辿り着いたのだ。そこから先には生きている者は行き着く事は出来ない。
ナツキは伸ばしかけた手をぎゅっと握って、胸の前にやった。マコが「……これで、終わったの?」と呟く。
「いや。まだ分からない。もうカントーの領空に差し掛かっているはずだ。カントー側からの攻撃は、さっきの戦闘で目立たなかったが確認できた。あれを」
サキが指差したのは、一部分だけ抜け落ちたようになっているフワライドの群れだった。ほとんどの者がゲンガーとの戦いに気を取られたせいか、今しがた気づいたようだ。ナツキは感知野の網でそれを確認していた。急に差し込んできた敵意がドラゴンタイプの像を結んだのは覚えているが、そこから先が判然としなかった。ナツキはもう一度、カメックスへと思惟を飛ばそうとして、「やめとけ」と遮る声に邪魔された。リョウが肩越しに見やって、息をついていた。
「お前はそうじゃなくても二体分操っていたんだろうが。確認は俺がやる」
リョウは長く息を吐き出し、フシギバナへと意識を飛ばした。同調したフシギバナが顔を上げ、首を巡らせる。花弁が揺れ動き、匂いを嗅ぐようにフシギバナは鼻を突き出した。
「ドラゴンタイプは全部で二十五体。うち七体が空中要塞に乗り移っている。でも、どれも動いていないみたいだ」
身体へと意識を戻したリョウが右手で額の汗を拭おうとして空を掻いた。慌てて左手で拭うが、その姿に自責の念を感じないわけがなかった。もっとうまく立ち回れていれば、と今更の後悔が胸に湧いて引き裂かれそうになる。
「リョウの感覚が本当なら、私達はカントーを相手取らなけりゃならないのか? そうなると、今の状況では厳しいが」
サキの言葉に、アスカが頭を振って言葉を発した。
「いいえ。カントー政府は我々がここにいる事を承知してはいないはず。敵対組織の一部で片付けるにしては、私達は動きすぎたし」
「でも、カントーはどう出るか分からない。リョウ君。ドラゴンタイプって言ったよね?」
フランの問いかけに、リョウは頷いた。フランは顎に手を添えて難しそうに額に皺を作った。
「と、なるとカントーでドラゴン使いと言えば数が限られてくる。こういう時に動ける戦力とすれば、四天王相当か。ジムリーダーじゃ、有事に対応出来るほどの戦力を保持しているとは思えないからね。僕が知っている中じゃただ一人……」
「カントー、ジョウトリーグの元チャンピオン。ドラゴン使いのワタル」
濁した語尾を引き継いでアスカが口にした。ディルファンスのリーダーであったのならば、上層部の情報も入ってきたはずである。恐らく、彼女はそこで耳にしたのだろう。神妙な語り口で続けたアスカの顔には苦渋の色が浮かんでいた。
「だとすれば、勝てないわ。チャンピオンを相手取れるほどの実力者がいるとは到底思えない。ドラゴンに有効な手を打てるポケモンもいない。攻め込まれると、厄介ね。防ぎきれないかもしれない」
「かもしれない、じゃなくって防ぎきれないだろう」
アスカの言葉にサキが口を挟む。不遜な態度を崩さないサキらしからぬ弱気な発言だったが、チャンピオンとなればさすがに勝てると確信を持てるわけではないのだろう。加えて、サキの手持ちは手負いの身だった。考えてみれば、ダメージを受けていないのはディルファンス構成員の手持ちだけで、他のポケモンは深刻なダメージを受けている。すぐにポケモンセンターで治療するのが望ましいのだが、今は傷薬などの応急処置に頼るしかない。
「二十五体、そのうち七体と言っても、強さは一体が私達のポケモン十体ほどに相当するかもしれない。それにトレーナー本体を狙うわけにもいかないだろうな。チャンピオンならば、自分は安全な場所にいるはずだ。リョウ、トレーナーを確認出来るか?」
振り向けた声に、「やってるよ」とリョウは返した。瞬きをしてから、首を横に振る。
「駄目だな。俺じゃポケモンの気配しか探れねぇ。それもギリギリってところだ。もしかしたらもっと多いかもしれない。それに話によっちゃ、この空中要塞って後退してるんだろ? それにしては、さっきから全然動いていないように思えるんだが、気のせいか?」
浮遊する物体に乗っていて動きを知覚出来るのは空気の流れを感じ取れるからだが、確かにリョウの言う通り、空気の流れがまるで感じ取れなかった。推進機関から伝わる地面の揺れもほとんど感じない。これほどの質量を動かすのならば、当たり前のように足裏から感じ取れるはずなのに。
「何かが、起こっているのか……」
呟いた博士の声に、誰もが沈黙した。フランとアスカがホルスターに留めておいたボールに手を伸ばし、「ブリッジに確認しに行きましょうか?」と尋ねるが、ナツキは首を横に振った。
「今行っても多分、混乱するだけだと思うんです。それにサーナイトとエルレイドはゲンガーのダメージを受けている。安静にしていないと」
その言葉にリョウの隣にいるルイがびくりと肩を震わせた。自分の責任だと思っているのだろうか。確かにルイはゲンガーを操っていた。つい先程までは明確に敵であったが、ヘキサツールを取り込んだゲンガーが暴走して引き起こした攻撃である以上、ルイを咎めるわけにもいかない。何よりも、それが事態の解決に向かうとは到底思えない。
ルイという存在自体がどこかあやふやで儚げな印象を受けた。掴もうとすれば、零れ落ちていく砂のような存在。リョウが必死に追い求めた理由の一端が分かった気がして、ナツキは顔を伏せた。その気持ちも分からずに、酷い事を言ってしまった。他人の気持ちなんて、重ね合えなければ完全に分かる事など出来ない。同調現象によって遊離した自己の精神が、思惟の海を漂わぬ限り、誰かと交差する事など出来ないのだ。交わろうとしても、肉体の壁という現実が道を阻むだろう。
「ディルファンスが、交渉すると言うのはどうでしょうか」
歩み出て発言したのはディルファンスの女性構成員だった。先程、サヤカと名乗った構成員はどこかおどおどしながら言葉を発する。
「カントーにもその名は轟いているはずです。公安部隊だと言えば――」
「無理だな」
断じたサキの声は冷たく、息をついてそれを一蹴した。
「裏切りの実行犯であるアスカがいる。信憑性は薄いだろう。裏切った張本人がいるのに、信じろとはとんだ茶番だ。情に動かされるような人間に実行部隊を任せているとは思えない。ヘキサの一味と見られるのがオチだろう」
「……では、どうすれば」
戸惑う声に、サキも言葉を返しあぐねていた。どうあるべきか、判断がつかないのだろう。冷静なサキが下唇を口惜しそうに噛んでいる。いい案など浮かばないのか。ナツキとて、この状況を打開する方法など見つかりそうになかった。この身一つでは、どうしようもない。だが、とナツキはカメックスとバシャーモに交互に顔を向けた。二体が面を上げ、じっと見つめ返す。どうやら考えている事は同じのようだった。頷きを返し、ナツキは言葉を発する。
「皆、落ち着いて聞いて」
振り向けた声に視線が集まった。自分が今から発する言葉を予想してか、リョウの表情は険しかった。それでも、ナツキは喉から言葉を発した。
「私はこれからこの二体と同調し、ドラゴンタイプを引き付ける。その間に、何とかしてブリッジまで行って、カントーと交渉をして。地上の敵なら何とでもなるから」
「何とでもって、そんなわけないだろう!」
声を荒らげたのはサキだった。リョウは押し黙り、ナツキを見つめている。マコが止めに入ろうとするが、サキはマコを突き放してナツキへとにじり寄った。
「ナツキ。お前は自分が何を言っているのか、分かっているのか? 囮になるって言っているんだぞ」
「同感ね。承服出来ないわ」
口にしたのはアヤノだった。いつもと気配の異なるアヤノが髪を指先でいじりながらちらと視線を向ける。その眼差しに先程の感覚が確信に変わった。
「アヤノ。あなた、やっぱり……」
「私の事はいいのよ。問題は、あなたの事でしょう、ナツキ」
アヤノは、いやアヤノの姿をした誰かはずいと歩み出る。博士もその後に続くように口を開いた。
「私も、賛成は出来ないな。それは自身を追い込む行為だ」
皆の言っている事はもっともだった。自分はただ我侭を言っているだけなのかもしれない。過ぎりかけた不安の傷口を押し広げるように、サキが言葉を押し被せる。
「ようやく、戻って来れたんだ。なのに、またどこか行ってしまうのか? ナツキ、お前は私達の気持ちを踏みにじって――」
「やめろよ、サキ」
遮って放たれた声はリョウのものだった。リョウがサキの肩を掴んでいる。サキはそれを振り払い、リョウと顔をつき合せた。
「何だ、リョウ。さっきから妙に静かだと思ったら、ナツキの側なのか」
「誰だって同じ気持ちだろうが。今の状況を何とかしたいけど変えられない。それだけの力が無い」
「ナツキにはそれだけの力があると言いたいのか?」
「分かんねぇよ。だけどさ、俺らが言い合うことじゃねぇだろ。ナツキが決めた事なんだから」
リョウが真っ直ぐにナツキを見据える。その瞳は「やらないのなら自分がやる」という無言の訴えがあった。リョウも同じなのだ。力を持った者の責任、と言えば聞こえがいいが、実際には自身を孤独に追い込む行為なのかもしれない。意識の海の向こうに行った時のように、魂を光として認識出来たらとこれほどまでに思った事は無かった。きっと、誰もが同じ輝きを宿しているというのに。それが分かり合えれば、一番なのに。
「苦渋の選択だって、全員分かってんだろ。だったら、踏みにじるなんて言い方だけはするなよ」
その言葉にサキは沈黙して俯いた。青い髪に隠れた赤い瞳が見えないと何を考えているのか全く分からなかった。しかし、その心中はナツキと同じ気持ちが渦巻いているはずだった。ポケモンが健在ならば、同じような行動を取っただろう。サキは肩を震わせて歯噛みし、頭を振った。
「それでも、死んだら意味ないだろう!」
声は願いの象徴だった。誰も死なない、死なせたくない。これ以上の犠牲は出さない。暗黙の内に了承していた言葉が染み入り、ナツキは「ありがとう」と口を開いていた。
「そう思ってくれるだけで、充分だよ」
顔を上げて掴みかかりかけたサキの肩を掴んだのは、今度はマコだった。「サキちゃん」と控えめに放たれた声に、サキは目元を拭った。
分かってやれとは、こうも残酷な言葉なのか。理解は時に刃のように人を傷つける。相手の気持ちを自分のものと同じように思えるからこそ、人はすれ違い、また傷つけあう。因果の糸のもつれに引き込まれ、誰もが戻れない道を辿ろうとする。しかし、それは自分だけでいい。そう思える心がナツキの中にはあった。生き急いでいるわけでも、生に無頓着なわけでもない。ただ単に、自分のやれる事をするだけだった。上げた顔に、全員の眼差しを確かめる。
任せるつもりはない、という眼をした人間ばかりだった。ただ苦渋の選択を迫られ、その末に託すという行為を選択したのだ。ナツキは託された思いを胸に、深く息を吐いて頷いた。
「じゃあ、私が――」
続けかけた声を遮るように、轟音が響き渡り、全員が慣性に引かれるように滑った。つんのめった視界の中に地面が大写しになり、思わず両手をつく。片手でルイを支えたリョウが首を巡らせて、「今のは」と呟く。ナツキも顔を上げた。
その視界の中に、青白い光が幾重にも重なって地平線に映った。地平と言っても空中要塞の地平だ。ビルが割れたかと思うと、そこから巨大なノズルが出現し、鼓膜を破るような轟音と視界を焼ききるような光が貫いた。空間ごと割れたかと思えるような音に、耳を塞ぐ間もなく、間断のない振動が身体を揺さぶる。鳴動が身体の内奥に伝わり、ビィンと間延びするのが感じられた。
「一体、何が……」
呟いた声に、「来るべき時が来たのだよ」という声が返ってきた。重々しく響いたその声の主へと全員が視線を向ける。そこにいたのは地面に足をついていないが故に唯一この騒動から切り離されたように浮遊しているペラップだった。ペラップの嘴から漏れているのは、キシベの声だ。
「どういう、事なんだ、ペラップ」
博士の言葉にペラップは表情の読めない目を注ぎ、「ペラップではない」と言った。
「私の意思だよ、ヒグチ」
その言葉の意味を誰も読み取れずにいると、ペラップがふらふらと翼をはためかせて飛び、道路の中心に至った。辛うじて破壊を免れ、瓦礫の一つも落ちていないその場所の上で、ペラップは滞空した。
「開け」
その言葉と共に、道路がまるでシャッターのように開き、幾重にも張り巡らされた隔壁が開く音が轟音の響く中、僅かに耳に届く。ナツキは道路の中心に突如として現れた暗がりに目を凝らした。階段があるようだった。どうやら降りられるらしい。ペラップが全員の動向を探るように視線を巡らせ、言葉を発する。
「行こうじゃないか。ヘキサの真実の扉へ」
ペラップの姿が暗がりの中へと吸い込まれるように消えていく。ペラップには恐れなど微塵もないようだった。残された者達はどうしたらいいのか分からず、視線を交し合っていると、博士が不意に歩み出た。
「行こう。多分、待っている」
その言葉は妙に説得力があり、引き付ける力に満ち溢れていた。博士の後にぐっと決意を固めた表情を向けたサキが続き、マコが続き、アスカとフランが続いた。アヤノやディルファンスの面々も入っていく。
ルイを抱えるリョウとナツキだけが、取り残される形になった。まだ扉は開いている。だが、飛び込んでいいものか。それは怪物の口の中かもしれない。逡巡のうちに、リョウはポケモン達をボールに戻したかと思うと、ルイを片腕で抱えたままナツキの横に並び立ち、顎でしゃくった。
「行くしか、ねぇだろ」
リョウの言葉に、ナツキはようやく頷き、バシャーモとカメックスを戻して一歩を踏み出す。暗がりの中に入る感覚に思わず、ミサワタウンで体験した真実への既視感を覚える。この扉もまた真実の扉なのだ。そう思うと身が凍りつきそうなほどに感じられたが、今更歩みを止めるわけにもいかなかった。暗闇の口へとナツキ達は不安が渦巻く胸中を抱いたまま、真実の喉元へと至る階段を踏んだ。