第六章 四十八節「希望への終局」
真っ黒い影が屹立し、火柱のように身体を揺らめかせる。
影そのものと思える姿と威容に、ナツキは覚えず同調を解いて自身の眼で確かめた。
ゲンガーの瞳孔が収縮し、その色が七色に輝いて見える。一時も同じ色を灯さない瞳はこれから始まる何かへの準備段階に思えた。
リョウはバシャーモからルイを受け取って、そのまま後ずさった。今にも抱き締めたいだろうにそう出来ないのは、目の前のプレッシャーが強烈だからか。今まで半身とも言えたゲンガーはルイの制御下を離れた。どう行動するのか予測など出来ない。
ナツキは肩越しに博士を見やった。博士もこの状況を読みきれていないらしい。惑うような視線をナツキへと向けた。思わず後ずさったナツキと入れ替わるようにエルレイドとサーナイトが前に出る。フランとアスカがぐっと眼に力を込めて踏み込んだ。抗いがたい重力のような圧迫感を二人とも感じていないわけではないだろう。それでも戦おうとするのは意地か。それともこの二体ならば勝てる算段でもあるのか。
「フランさん、アスカさん……」
小さく発した声に二人が気づいて各々応じる。
「大丈夫だよ、ナツキさん。今はまだヘキサツールが馴染んでいないはずだ。さっきのメタモンのような状態になる前に倒せばいい」
「それに、トレーナーをゲンガーは自ら切り離した。これなら今のゲンガーは野生と同じ。正確な判断力があるかも怪しいわ」
アスカの言葉にフランは頷いて、強く言葉にした。
「そう。今しかないんだ」
今しかない。本当にそうなのか。確信に至らない言葉にゲンガーを見上げる。ゲンガーの身体が炎のように揺らぎ、両端から何本もの手をゆらりと持ち上げる。エルレイドとサーナイトが反応して身構えた。エルレイドは直角の肘を突き出して前傾姿勢を取り、サーナイトは青い光を周囲に纏っている。サーナイトの眼はまたも蒼くなっていた。アスカとの同調状態にある。アスカのサーナイトがエルレイドよりも前に出る。近接特化ではないサーナイトが前に出るのは、ゲンガーの動きを素早く察知するためであろう。アスカはまだ感知野の扱いに慣れていない。出来るだけ近くのほうがいいと考えたのだろう。サーナイトの足元の石ころがカラリと音を立てて転がる。それがサーナイトに触れた瞬間、皹が入って砕けた。石が砂となって舞う瞬間に、今だと感じたのは両者同時だった。
ゲンガーの影の手がサーナイトへと迫る。しかし、それらは一瞬早く地面を蹴ったエルレイドが残像の刃を振り翳した事によってことごとく防がれた。残像の刃が影の手を引き裂き、血飛沫が舞う。エルレイドがサーナイトの上に回り、腕を振り上げた。「サイコカッター」の光が鋭く煌き、空気を引き裂いてゲンガーへと直進する。ゲンガーは影の手を射線上で丸め、それを繭のように形成してあろう事か「サイコカッター」を取り込んだ。繭の中で「サイコカッター」が分散され、紫色の残滓となって溢れ出る。
だが、攻撃に転じたのはエルレイドだけではなかった。エルレイドがサーナイトの前に着地すると同時に、サーナイトの前面に黒い球体が四つ作り出されていた。光すら奪う球体が膨れ上がり、サーナイトが見上げる動きに連動してゲンガーへと照準を定める。エルレイドが着地して駆け出したのをゲンガーが目で追った瞬間、四つの球体が弾き出された。影の球体――「シャドーボール」が空間の光を吸収し、ゲンガーの身体へと食い込んだ。影の位相が歪み、ゲンガーの形状が僅かに崩れる。ゲンガーは口腔を開いた。青白い舌の上で黒い球体が練られていく。「シャドーボール」を返すつもりだ。
そう思った瞬間には、背後に回りこんでいたエルレイドが肘を振り上げていた。それに気づき、ゲンガーが振り返る前でのタイムロスを狙い、肘と連動した「サイコカッター」が打ち下ろされる。念力の刃はゲンガーの脳天へと確かに食い込んだ。脳天が裂け、影の血飛沫が舞う。その血を一身に受けながら、エルレイドがさらに深く切り込んでいく。この一撃で全てを決めるつもりなのは明白だった。エルレイドの肘がゲンガーの頭頂部から額までを切り裂き、ゲンガーが口の中から青白い舌を出して苦悶の表情を浮かべる。
「勝てる、の……?」
ナツキはこの状況に思わず呟いた。背後はエルレイドが押さえている。前面はサーナイトが攻撃すれば、もう少しで全てが終わるのではないか。エルレイドの「サイコカッター」が残像を帯びてゲンガーの口元まで割った。ゲンガーが影の手を伸ばしてエルレイドを摘もうとするが、その手が青い光に絡め取られて硬直した。サーナイトの「サイコキネシス」が影の手の動きを封じている。
ゲンガーが喉の奥から地獄の底からの叫びのような呻り声を出す。思わずナツキは耳を塞いだ。
エルレイドは片方の腕からも紫の残像を引き出し、それを噴射剤のように用いて攻撃に勢いをつけた。ミシ、と肉の弾ける嫌な音が響き、ゲンガーの身体が両断された。影の水溜りから噴水のように血が噴き出す。それを二体のエスパータイプのポケモンは黙って見ていた。緊張の糸を張り詰めたまま、それを見守っていた二体の主は顔を見合わせ、荒い息をついていた。タイミングのずれなどほとんどなかった。完璧な連携攻撃だった。
「……終わったの、か?」
フランが先に緊張の糸を解いてエルレイドに顔を向ける。エルレイドは両腕を下ろして、戦闘態勢を解いた。もう攻撃の必要はないと感じたのだろう。
その時、不意に影の水溜りに波紋が生まれた。まだ生きているのか、とエルレイドが顔を向ける。影の水溜りから細長い塊が自分に向けて伸びていた。それをエルレイドは目で追う。
「……エ、エルレイド」
フランが呻くような声を上げる。その時になってようやくエルレイドは気づいた。自身の身体が影の手で貫かれている事を。理解が追いついた瞬間、影の手が引っ込んだ。抜き取られた身体から血が迸る。フランはエルレイドへとボールを向けた。崩れ落ちる前に、エルレイドは赤い粒子となってボールへと引き戻される。その瞬間、数本の影の手がエルレイドのいた空間を引っ掻いた。一瞬遅ければエルレイドは八つ裂きにされていただろう。
サーナイトがアスカの思惟を感じて、後ろに下がろうとすると、影から不意に縄のようなものが伸びてきた。足に引っかかった縄がサーナイトを抗いがたい力で引っ張る。サーナイトは全身から青い光を発して制動をかけようとするが、まるで意味を成さずに影の中へと引きずり込まれようとする。ナツキは咄嗟に叫んだ。
「バシャーモ!」
命令に応じたバシャーモが爪を立てて縄を切り裂く。しかし、縄は切り裂かれてもまるで生きているかのようにサーナイトの足に絡みつき、伝って上ってくる。アスカは脚を押さえた。ナツキが見やると、脚へと鎖のような何かが絡まって締め付けている。ダメージフィードバックだ、とすぐに判じたナツキは叫んだ。
「バシャーモ! 縄を切り裂いて!」
バシャーモが縄をサーナイトの脚から振り解こうと歩み寄ると、影から糸を引いて何かが出現した。全員がそれに目を向ける。それは巨大な鎌だった。影の鎌が影の中から引き出されているのだ。影の鎌がバシャーモの首を狙って伸びる。ナツキはバシャーモへと意識を飛ばした。即座に反応したバシャーモが炎を足首から迸らせ、脚力を増強させて飛び退る。鎌が一瞬前までバシャーモのいた空間を掻っ切った。サーナイトの脚を締め付ける影の縄はいよいよきつくなり、アスカ自身も立っているのが限界となっていた。
「アスカさん、同調を切って!」
ナツキが叫ぶがアスカは頭を振った。
「……違う。既に、切っているつもりだわ。でも、何かに無理やり繋ぎ止められたみたいに……」
アスカの脚に鎖の紋様が浮かぶ。その鎖がアスカの脚に食いついているように見えた。ナツキは感知野の網を広げてそれを視る。アスカから伸びた感知野はサーナイトと影に繋がっていた。ゲンガーが自らを同調させてアスカの離脱を阻んでいるのだ。既に脚はゲンガーと同調している。
「……ゲンガーと。でも、どうやって断ち切れば」
「私がやる」
そう言って歩み出たのはアヤノだった。だが、どことなく纏っている空気が違う。ナツキの視線に気づいたかのようにアヤノは手を振るった。
「面倒ね、いちいち説明するのって。察して、ナツキ」
アヤノの肩からエイパムが飛び降りる。エイパムの眼が蒼くなっている事にそこでナツキは気づいた。どこで、と思う間もなくエイパムが身を翻し、尻尾を振るい上げた。尻尾には影の鉤爪が付いている。その鉤爪がエイパムの宙返りと同時に飛び、サーナイトの脚を切り裂いた。アスカが痛みに呻き声を上げて脚を押さえる。しかし、鎖も消えていた。ナツキはすかさず言った。
「アスカさん。早くサーナイトをボールに戻してください」
アスカは苦しげな声を上げながらボールを取り出し、サーナイトを戻した。フランがアスカに肩を貸す。アスカの脚は本当に神経が断絶されたかのように動かなくなっていた。ナツキは影へと視線を向けながらアスカに言葉を投げる。
「アスカさん。同調時のダメージはしばらく残りますが時間が経てば消えます。心配しないで」
精一杯の慰めのつもりだったが、アスカは聞こえていないかのように顔を伏せた。影の表面が位相を変える。まるで虹のように見る角度によって微妙に色が違って見えた。
影からまたもや何かが引き出される。それは四つのドリルを備えた腕だった。粘性を持った影が糸を引いて回転する。地面に飛び散った影が焼け爛れたようにコンクリートを溶かした。
一撃でも当たるとまずい。
そう思わせるには充分だった。回転するドリルから摩擦による火花と煙が上がる。ナツキは腕を振るい、目を閉じた。カメックスと意識を同調させ、身体をカメックスの背中へと投げ込むイメージを持つ。開いた視界はカメックスと同化していた。カメックスが全身から蒸気を噴出して回転し、ドリルの前で四肢を展開させて立つ。ドリルが緩慢な動作で首を巡らせる。それ自体に眼はないのか、と思っていると、ドリルの一部に亀裂が走り、そこからカッと眼が開いた。ゲンガーと同じ赤い眼だった。
その瞳孔がぎゅるぎゅると動き、カメックスを見定めると、亀裂が閉じる。瞬間、急に鋭敏な動きを得たドリルの腕がカメックスへと襲い掛かった。カメックスは両腕を仕舞って水流を発射し、後退するがドリルは地面に突き刺さると同時に肘部分からも腕を発生させ、そこから伸びた一本のドリルが空間を貫いた。カメックスは突然に回避する事も儘ならずに真正面に迫ったドリルを両手で掴んだ。掌でドリルが回転し、摩擦熱で皮膚が根こそぎ奪われていく。その痛みが伝わり、ナツキは顔をしかめた。奥歯を噛み締めて同調のずれを修正し、バシャーモへと思惟を飛ばす。
影の背後から回ってきたバシャーモの両手から炎が迸り、「ブラストバーン」完全展開時ほどではないが、長刀と脇差を作り上げる。
長刀でバシャーモは影の腕を切りつけた。血が迸る前に、泡だった傷口から新たな腕が飛び出す。それを脇差で上から串刺しにした。手首から炎が迸り、刀身を形成する炎が揺らめく。炎が一瞬にして影の腕を焼いた。傷口から溝を這うように炎が渡り、影のドリルの腕も焼ききろうとする。ドリルの腕は回転をやめ、蛇のように四つのドリルの頭を上げて身悶えした。影の表面が波立ったのを見たナツキはすぐさまバシャーモに後退の思惟を飛ばす。
バシャーモが飛び退いた瞬間、剣山のような影がバシャーモの先程までいた場所を貫いた。バシャーモとカメックスが影を中心として向き合う。つい先程まではお互い敵同士だった。だが、主人を信じる気持ちは同じだ。今はナツキのために二体が全力を尽くしてくれているのが分かる。だが、この二体をもってしても倒せるかどうか自信はなかった。敵は未知の存在だ。ポケモンとも何とも形容出来ない。端的に表すのならば影≠セが、先程から使っているのはポケモンの技のような気がしていた。その時、ドリルを掲げていた腕が突然に二つに裂けた。裂けた腕が二本ずつのドリルを携え、凶暴な回転音を響かせてバシャーモとカメックスに向かう。
――二体同時にさばけるか。
そう考えた刹那だった。命令の声が耳朶を打った。
「ドサイドン! 岩石砲!」
その声と共に腹の底から突き上げる轟音が響き渡り、視界に映った巨岩がカメックス側のドリルの腕を粉砕した。パラパラと砂粒の散る中、ナツキはバシャーモに意識を飛ばしたまま、自身の背後を見つめた。そこにいた巨躯に目をみはる。オレンジ色の装甲が食い込んでおり、重機を思わせる身体が巨大な砲身といえる掌に穴の開いた腕を突き出している。バシャーモに回避運動をとらせ自分の傍に戻す。影の腕へと牽制の脇差を投げ放ってから、ナツキは自身の身体へと意識を戻して振り返った。改めてみるとスケールが分かる。足が短く、腕が長くて太い。荒々しく岩を削ったような身体がまさしく全身が武器である事を物語っている。背後に控えていたディルファンス構成員が歩み出て、そのポケモン――ドサイドンと並んだ。
「一人で格好つけないでくれ。俺の名はセルジ。ナツキさん、だったっけ。君の強さは分かっている。だからといって――」
「先行し過ぎても仕方がないという事だ」
言葉を引き継いだサキが歩み出てモンスターボールを取り出す。その背中にマコが追随し、同じようにモンスターボールを取り出していた。だが、彼女達のポケモンは重傷のはずだった。
「危険よ。今のカブトプスとウォーグルでは、まともに渡り合えるかどうか……」
ナツキの言葉にサキはため息をついてナツキへと歩み寄り、その頭をペチンと叩いた。いきなりの事に呆気にとられているナツキへとサキは憮然として言い放つ。
「一人で格好つけるなって、この男も言っただろうが。私達はどうしてここまで一緒に来た? バラバラになりながらもこうして集まったのは何故だ? 一人ではどうにもならない事を身に沁みて知っているからだろう。それを言いだしっぺのお前が自ら破る事はあっちゃならない」
その言葉にハッとした。確かに自分で言ったのだ。一人ではどうにもならないと。だというのに、今、自分の力に任せて一人で突っ走ろうとしていた。ナツキの様子にサキは笑みを浮かべた。
「気づいたか。気づける心があるだけいいんだ。人のポケモンも、同じように気づいて変われる。気づかなければ、結局、元の木阿弥だ」
「哲学的だね、サキちゃん」
マコの言葉にサキはマコへと空手チョップをお見舞いした。マコが押さえて蹲る。
「馬鹿マコが。この程度で哲学的という脳細胞に恥じるんだな。……まぁ、今はいいさ。行け、カブトプス」
「……うう、ひどいよ、サキちゃん。あっ、お願い、ウォーグル」
一拍遅れてマコがボールを開く。カブトプスは両手の鎌がなかった。ウォーグルも傷薬で応急処置をしたとはいえ、まだ手負いの身だった。満身創痍という言葉を想起するのは難しくなく、ナツキは躊躇いがちに言葉を発した。
「サキ。マコちゃん。無茶は――」
「無茶はお互い様だ」
遮って放たれた声にナツキは言葉を詰まらせた。サキは赤い眼をナツキへと向け、そこに確かな覚悟の灯火を燃やした。
「だからってお前だけに背負わせるのは、私としても不安が残る。お前が私を知っているように私もお前を知っている。マコといい勝負の馬鹿だという事がな」
サキの言葉にマコが頬を膨らませて、「また馬鹿って言った!」と抗議する。今の状況に不釣合いな二人にナツキは放心したように口を開いていたが、やがて微笑んだ。
「ええ。サキの言う通りかもね」
「だろう。任せておけ。私とて、戦う理由くらいはある」
サキがリョウの抱きかかえたルイへと視線を流す。その眼は半身の痛みを分かとうとでもいうのか。浮かんだ光を隠すようにサキは顔を伏せた。リョウはルイをかかえて魂を抜き取られたかのように押し黙っていた。無理もない。守ろうとした相手を自らの手で傷つけてしまったのだから。サキはそんなリョウの様子を見て、舌打ちを漏らした。
「リョウ! いつまでそうしている!」
叱咤する声に、リョウが力なく顔を上げる。生きている者の光を灯していない瞳に、ナツキは息を呑んだが、サキは苛立ちを募らせたようだった。手を振り翳し、「お前は!」と叫ぶ。
「状況を変えるために戦ったんだろう? ならば、誇りを持て! 人は間違いから気づけるものなんだ! 本当に大切なものを」
胸元に手をやってサキが声を張り上げる。自分も気づけたものがある、というように。実際、そうなのだろうと思う。あの時、間違えなければという後悔はいくらでも出来る。その後悔に足を浸して歩みを止めるのは簡単な事だ。だが、澱みに足を取られたまま前を向いて進むのは皆が皆出来るわけではない。サキも、ここにいる全員が一歩踏み出したのだ。深い澱みを振り切り、新しい明日を手に入れるために。ならば、誇っていいのだ。踏み出せたのは微弱でも自身の力なのだから。リョウは未だに何を信じればいいのか判らない風だった。ルイは時折痛みに顔を歪ませる。リョウの手が強張り、上げかけた顔をまた伏せた。サキが舌打ちを潮にして、身を翻した。
「いいさ。お前は立ち止まっていろ」
冷たく放った声は、今は傷の舐め合いをしている場合ではないと断じた声だった。ナツキには双方の気持ちが分かった。喪失の痛みに喘ぐ魂と、無茶苦茶でも前に進もうとする魂。どちらも清く美しいのに、こうも相反するのは何故なのか。
「セルジ。ドサイドンにロックブラストを放たせろ。ローブシン戦でも使った戦法だが、カブトプスの攻撃性能をもう一度復活させるにはこれしかない」
サキの言葉にセルジが頷いてから、リョウへと僅かに視線を送った。それを遮るように、「早く!」とサキの怒声が飛ぶ。セルジは影へと攻撃の眼を向けた。ドサイドンが両腕を広げる。爪の先から放たれた赤い光条が幾重にも重なり合い、岩を形成する。「がんせきほう」に比べれば随分と小ぶりな岩はしかし一発ずつではなかった。作られる先から、掌の穴へと補充されていく。肘にあるアンカーから煙を発し、ドサイドンは影を見据えた。
影からずるりと何かが引き出される。それは平行して形成された二枚の板を備えた腕だった。板の間を紫色の電子が行き来する。ドサイドンが両手を突き出した瞬間にアンカーが飛び出し、セルジが叫んだ。
「ドサイドン、ロックブラスト!」
アンカーが音を立てて撃鉄のように打ち付けられる。手の中から弾き出された岩の弾丸が、影の腕へと向かっていく。板の間を行き来した光が瞬きを発し、直後強烈な閃光が視界を貫いた。岩の弾丸が音を立ててボロボロに空中で崩れる。
「着弾しなかった……」
呟いたフランの声に、サキが「いや!」と返した。
「当たらない事は想定内だ!」
いつの間にか足の裏に水の下駄を備えたカブトプスが地面を滑走していた。光と「ロックブラスト」に気を取られて、いつカブトプスが動き出したのか誰も気づかなかった。しかし、カブトプスの両手の鎌はない。今のままでは無意味に討ち死にするだけだ。
その時、カブトプスへと細かく散った砂粒が降り注いだ。「ロックブラスト」の岩の欠片だ。カブトプスが両腕を広げると、砂鉄のように砂粒がカブトプスの腕へと纏わりついた。瞬く間に砂が岩となり、それがカブトプスの身の丈ほどもある鎌を形成するのが見えた。その時になってようやく、カブトプスが岩・水タイプのポケモンである事をナツキは思い出した。
岩を扱うならば岩タイプが適任である。
三日月のような両腕の鎌を翼の如く広げて、カブトプスは背中の甲殻を開いた。そこから水蒸気が噴射剤のように放射され、カブトプスの身体を持ち上げる。カブトプスは影の腕へと突っ込んだ。板の間でまたもエネルギーの充填がなされようとするが既に遅い。カブトプスは射程に入った瞬間に、岩の鎌を振り下ろした。板を有した影の腕が真っ二つに裂け、亀裂から影の血飛沫を迸らせる。
肩口から水圧の噴射を行ってすぐさま離脱したカブトプスは着地時に滑りながら、右手の鎌を後ろに引いた。鎌の表面で紫色の波動がたゆたい、磨き上げられた鏡面の光を発する。分かれた影の腕はすぐさまその形状を変化させた。カブトプスと同じ、鎌を形成したのだ。影の鎌はしかし、カブトプスのものよりも禍々しく長大であった。鎌がカブトプスへと迫る。その時、十字に瞬いた光の刃が鎌の行く手を遮った。ナツキが顔を向けると、ウォーグルが翼に纏いつかせた風を飛ばしていた。鎌が二つの目標に惑う挙動を見せた瞬間、カブトプスの岩の鎌に紫色の光の血脈が宿り、砂粒が弾けた。
「カブトプス、亜空切断!」
カブトプスが引いていた鎌を振るい上げる。その軌跡にそって、波動の刃が放たれた。空間を裂いた亜空切断の刃が首を巡らせていた片方の鎌へと直撃した。着弾の煙が上がる事も血が迸る事もない。影の鎌は切り裂かれた断面を垂らして、ぶるぶるとその身を震わせた。再生出来ないのだろう。「あくうせつだん」は空間ごと切り裂く技だ。相当な耐久力がない限り、その攻撃を受け流す事など出来ない。サキとマコが顔を見合わせる。それを見てナツキは、いつの間にかここまで息の合う間柄になっている二人の距離に驚いた。拒絶や虚勢を張っていたサキの事を知っているからなおさらそう思ったのだろう。二人もまた失うばかりの戦いの中で得たものがある事にナツキは少なからず安堵した。博士も同じ心境のようで二人を見つめている。親の気持ちとはそういうものなのだろうか。
その時、影からこの世のものとは思えない叫び声が響き渡った。ビルに反射し、木霊する声に全員が顔をしかめる。
生きている人間を死に引き込むような、不快感を催す声。死神の声があるとすればまさにそのような声だった。
影はだらんと垂れていた鎌をもう一本の鎌で、あろう事か根元から切り落とした。その行動に面食らっていると、影の鎌の形状が変わって三つの指となる。指先が鎌の残骸を掴み、それを影の外側へと捨て去った。影の外に出された途端に、ジュッと音を立てて鎌が霧散する。影は破壊された部位を保持出来ないのか。
三つの指の形状が変化し、コンセントのような三つの爪を突き出す。紫の電流が一瞬流れたかと思うと、中央で電流が球体をなし、余剰した電流を撒き散らす。攻撃の光だ、と断じて声を発しようとした瞬間に、それは放たれた。真っ直ぐに空間を走り、カブトプスへと命中する。カブトプスは電流の刃で電信を貫かれ、大きく仰け反った。
「カブトプス!」とサキが声をかけた時には、カブトプスの全身から煙が立ちのぼっていた。甲殻の隙間から焼け爛れた臭いが鼻をつく。
「早く、戻すんだ!」
博士の発した声に、サキは慌ててカブトプスへとモンスターボールを向けた。赤い粒子となって戻される直前、追い討ちのように電流の腕がカブトプスのいた地面を抉った。寸前のところで命を踏み止まったカブトプスへとサキがボール越しに目を向ける。全員、重い沈黙に顔を伏せた。見えかけた希望が消し飛んだ。その衝撃を誰もが隠しもしない。ウォーグルが影の上を旋回していたが、影の腕がそちらへと今度は照準を向けたのを見て、マコは思わずボールを突き出してウォーグルを戻した。賢明な判断だった。直撃を受けていれば、飛行タイプのウォーグルは大ダメージを負う事になる。
この場で戦えるポケモンはもうほとんどいなかった。
影の腕が形状を変え、指先を形作り、影へとその指を浸した。引き出されてきたのは巨大な影の壁だった。その壁の端には申し訳程度の腕がついている。上部が逆立っており、三つの亀裂が走った。一つは裂けた口を、残り二つは赤い眼となった。カッと開いた眼の奥で虹色の光が見える。ゲンガー本体だった。
「……もう、姿を隠す必要もないという事か」
博士が苦々しく呟いた言葉に、ナツキは歯噛みした。ゲンガーを止めなければ、災厄をカントーに持ち込む事になる。今のゲンガーならば、海に落ちたところで水ポケモンとなって岸まで辿り着くだろう。
「――ここで、断ち切るしかない」
ナツキは一歩踏み出した。自分がやらないで誰がやると言うのだ。「……ナツキ」と呼び止めようとする声は誰のものだったか分からなかったが、ナツキの決意を変えられる者はいなかった。傍らに侍っていた二体のポケモンへと思惟を飛ばす。バシャーモとカメックス。相対していた二体のポケモンが同じ主人の思惟を受けて踏み込んだ。二体で止められるかどうかは分からない。先程の戦いで全ての技とタイプに対応できるのは明白だった。
今や、ゲンガーはヘキサツールを使いこなそうとしている。その点ではポケモン図鑑の646体全てが敵と言えた。たった二体で全てのポケモンの力を相手取ろうなどというのは無謀に他ならないのかもしれない。しかし、やるしかなかった。カメックスが身体を沈め、バシャーモが両腕を開いて前傾姿勢になる。ゲンガーから覆い被さるプレッシャーの圧力が増していく。押し潰される、と過ぎりかけた感覚に割って入るような波を感じた。カメックスと同一化した視界に黄金に光る球体が映り込み、ゲンガーの身体に命中する。着弾点を焦がす事も出来なかった攻撃を向けてきた主へと、ゲンガーとカメックスは同時に視線を向けた。
リョウがゲンガーを指差して、顔を俯けさせていた。傍らにいるマルマインの姿が二重写しになっている。「エレキボール」を放ったのだろう。リョウはルイを抱えたまま、身を翻し、博士の前に立った。
「よろしく頼む」
短くそう告げて、博士へとルイの身体を手渡した。博士は僅かな逡巡の後、ルイの身体を引き受けたが、すぐさま背中を向けたリョウへと「君は」と声をかけた。
「どうするんだ?」
博士の質問に、リョウは肩越しの視線を向けた。
「決まってんだろ。ゲンガーを倒す」
「無茶だ。なにせ、君は――」
「同調に失敗したトレーナー、か?」
リョウの言葉に博士は声を詰まらせた。リョウは息をついて、「俺は」と切り出し始めた。
「今まで独りで戦ってきた。それが正しいと思っていた。だけど、ルイと出会えて、お前らと共にここまで来れて変われたんだ。格好悪いところも見せちまった。でも、今戦えるのはナツキのポケモンと俺の手持ちだけだ」
リョウはフシギバナ達が寄り添いあう場所へと歩んだ。誰にもその歩みを止める権利はなかった。自分を戦わせるのに、リョウまで戦わせないわけにはいかないからか。それともリョウに賭けているのだろうか。勝てる可能性を。
フシギバナとリーフィアが両隣にいる。リョウは二体の頭を撫でた。二体とも気持ちよさそうに目を細める。まだ繋がりが切れたわけじゃない。ナツキはそう感じ、ゲンガーへと視線を据えた。リョウも同じようにゲンガーを睨み据え、「行くぞ」と告げる。
「同調すると痛みもフィードバックされる。もし、ポケモン達が限界に達した時には迷わずボールに戻して、リョウ。命にかかわるわ」
忠告だけしておいて、ナツキはカメックスとバシャーモに意識を重ね合わせた。思考が半分に分けられ、バシャーモを動かす自分とカメックスを動かす自分がいる。アヤノのように二つの人格ならば、と思いかけて、それは最悪の発想だと苦味を覚えた。自分の出来る事をやっていくしかない。たとえ、不器用でも。リョウも目を閉じた。感覚を取り戻すまでは時間がかかるだろう。
――それまで、押さえる!
断じた心が声となって吹き抜け、バシャーモとカメックスがゲンガーの動きに注意を配った。ゲンガーは今にも覆い被さって来そうなほどに巨大だったが、鈍重にも見えた。だが、本来のステータス上では素早さはかなりのものだ。嘗めてかかればやられる。
緊張が感知野の網に伝わって強張る。プレッシャーの雲が額に圧し掛かり、今にも重いスコールを落としそうだった。生身の身体に汗となって伝う感触が同調を鈍らせる。ゲンガーは本体の両腕を広げたかと思うと、足元の影から新たな両腕を引き出した。影の両腕にはそれぞれ宝玉のようなものと、先程のコンセントのようなものがついている。宝玉は恐らくエスパータイプ。コンセントは電気タイプと予想された。確実に弱点を突いてくるのは明白だった。今までの戦闘だって、ゲンガーは的確に弱点を狙い、自身の身体を攻撃の無効化に集中した。トレーナーとある以上に、ポケモン単体でヘキサツールとは真価を発揮するのか。判断の遅れが生じるトレーナーなど必要ないのか。
「それは違うぜ」
感応波を拾い上げたリョウが静かに口にする。思わず身体に意識を戻しかけたナツキへと、リョウは言葉を振り向ける。
「こっちは向かなくていい。時間がかかっているだけだ。すぐに追いつくさ」
ナツキは感知野の網の中にリョウの存在を感じた。リョウの身体が拡張し、新たな網目を傍らのポケモンへと広げる。フシギバナだった。さすがに二体同時は無理か、と判じたナツキはゲンガーへと思考を向ける。ゲンガーは宝玉の腕とコンセントの腕を翳した。コンセントの腕の表面で紫色の電子が弾け、宝玉の表面が紫色の光をぼうと発する。バシャーモとカメックスはいつでも動き出せるように準備はしている。ナツキは並び立つリョウへと一瞬、意識を向けた。まだか、と思ったのだ。
その瞬間だった。意識に生じた隙をつくように、コンセントの腕が振り上げられる。
すぐさま攻撃の思惟を飛ばしたナツキは、バシャーモに先行させた。片手に炎の長刀を提げている。もう片方の指の間で、炎のナイフを三本挟んでいた。カメックスは両脚を仕舞いこみ、水圧をジェット噴射して大きく後退してから、上空へと飛び上がる。攻撃の照準を惑った影の腕へと、回りこんだバシャーモの長刀が振りかぶって一太刀を浴びせる。
炎が舞い散り、刃の鋭さを伴った火花が針のように宝玉の影の腕へと突き刺さった。
片手で放った一閃では、腕を落とす事は出来なかった。先に弱点の腕を潰すつもりだったのだが、うまくは行かなかったようだ。
歯噛みする前に、宝玉が直下のバシャーモへと緩慢な動作で狙いを定める。バシャーモは足首から炎を迸らせ、後退しようとした。その足へと影の縄がいつの間にか伸びており、絡め取る。思わぬ攻撃にバシャーモも不意をつかれた結果となり、片膝をついた。宝玉の表面が暗色の光を湛えて今にもバシャーモへと攻撃が発せられようとする中、水圧の砲弾が宝玉へと命中した。
コンセントの腕が空中から援護射撃をするカメックスを捉える。ゲンガーが本体の手を振り翳し、コンセントの腕へと命令を伝える。コンセントの腕が伸び、カメックスへと向かおうとする瞬間、バシャーモは片手を振るい上げた。そこから放たれた炎のナイフ三つがコンセントの腕の道を遮る。コンセントの腕の挙動が鈍った隙をついてカメックスが全身を甲羅の中へ仕舞い、甲羅を回転させて刃の鋭さを伴った水色の光と共に宝玉へと突撃する。宝玉が首をもたげた瞬間、甲羅に絡み付き削岩機となった水の尾が宝玉を食い破った。宝玉に亀裂が走ったかと思うと、影の腕が破壊された端から消えていく。
――ダメージを超過すれば、攻撃の手を消せる!
その確信に、ナツキはバシャーモへと攻撃の指令を走らせた。バシャーモが長刀を逆手に握ったかと思うと、波立つ炎の刀身を伸ばし影へと突き込んだ。
影本体から炎が立ち上り、ゲンガーの身を焼く。
ゲンガーの赤い眼が怒りを湛えてバシャーモを睨む。バシャーモは気圧されないように睨み返した。
炎の長刀は勢いを増し、影がコールタールのように焼け焦げる。カメックスが空中で四肢を広げ、片手を凍結させて突き出した。
ゲンガーが顔を上げた瞬間、凍結した拳が脳天へと突き刺さる。氷が根を張るようにゲンガーの頭部から眉間へと至り、熱と冷気の二重奏にゲンガーが悲鳴のようなものを上げた。
直後、バシャーモがゲンガーから砂煙を上げながら後退する。拘束が解けたのだ。カメックスは襲い来るコンセントの腕の直上にいた。コンセントの腕がそれ自体に眼があるかのように幾何学に走り、カメックスを三つの爪の合間に捉えようとする。カメックスは両手両脚全ての穴と、砲門から水流を発し、コンセントの腕を退けようとした。しかし、コンセントの腕から発せられる電流が水を蒸発させ、渦巻く乱気流の中からコンセントの腕が突き上がる。今まさに、コンセントの腕に捉えられようとした、その時だった。
――フシギバナ!
意識の中に切り込んできた声と共に、コンセントの腕へと何かが伸びてきた。絡みついたそれはコンセントの腕を引っ張り、その動きを封じる。カメックスは一度着地してから、跳ねるように後ろへと退き、それを見た。蔓だった。緑色の蔓がコンセントへと複雑に巻きつき、網のように捕らえている。その主をカメックスとバシャーモは振り返って見た。フシギバナの花と身体の合間から何本もの蔓が伸び、織物のように重なってコンセントを掌握している。コンセントはそれ自体が獣のように電流を弾けさせて、動けない事実に身悶えした。
ナツキが意識の声でフシギバナと交信する。
――リョウ、なの?
――ああ。ナツキ。間一髪だった。
返ってきた声にナツキは安堵の息をつこうとして、リョウの声がそれを遮った。
――だが、完全な同調じゃねぇ。いつ切れるか分かったもんじゃない。それに今だって……。
コンセントの表面で電流が跳ね、蔓を赤く焼いていく。焦げた蔓が焼け落ち、ぷつりと切れてコンセントの腕がその身をくねらせる。瞬間、腕のいたるところからコンセントの爪が現れ、全身に電流を浴びせかけた。蔓がぶちぶちと音を立てて千切れる。痛ましいその音に、リョウが呻き声を上げる。
――リョウ?
――大丈夫だ。蔓は絶縁体。電流のダメージはねぇ。発生した熱でやられただけだ。蔓自体からのダメージじゃない。俺の心の弱さが原因だ。
その声はどこか自身を責め立てているように思えた。誰だって最初からうまくやれるわけじゃない、そんな言葉を返そうとして、それがリョウの誇りを傷つけるものだと察して意識の中の口を閉ざした。
――とにかく、蔓程度じゃ、あの腕のパワーは押さえつけられねぇ。でかい技を本体にぶつけて、腕ごと本体をやるしかなさそうだ。そうじゃねぇと……。
濁した語尾に、影の中から新たな腕が引き出される。それは棒状の先端に幾つもの穴が開いた腕だった。銃器のようにも見えるその腕の筒先から、炎が噴き出される。その様子に、ナツキはハッとした。ヘキサツールは全ての技とポケモンを司る道具。ならば、敵に対してタイプを変え、攻撃方法を変えるのは当然の事だ。
――あれは、火炎放射器……。
――フシギバナを警戒しているようだな。だが、これで一つだけはっきりした。
リョウの顔にどこか余裕を隠し持った笑みが映る。その笑みと同じようにナツキの眼には額に浮かんだ汗が克明に見えた。
――リョウ。無理は……。
――してねぇよ。ナツキ。戦いに集中しろ。今、奴は腕を二本持っている。だが、おかしくはねぇか? こっちは三体なのに、向こうは二本だ。これじゃ、二体分しかさばけねぇ。
その言葉にナツキは息を呑んだ。慎重に言葉を切り出す。
――攻撃に限度があるって言うの?
ナツキの声にリョウは頷いて、フシギバナと連動した視界をゲンガーに向けた。
――そうじゃなきゃ、三本出してる。今までだってよくよく考えれば、二本以上は出してねぇ。ヘキサツールを使いこなせていないのか。それとも付け焼刃のヘキサツールじゃ、それが限界なのか。どっちでも構わない。だが、今が好機って事だけははっきりしているぜ。
リョウの言葉に果たしてそうなのだろうかと疑う自分もいた。ゲンガーは本当に自分達程度に全力を出しているのだろうか。ヘキサツールの終着点はこの程度なのだろうか、と。
しかし、リョウの言葉に希望を見出せるのもまた事実だった。その希望にすがりつくしか、今の自分達には道がないのだ。
――やるしか、ないみたいね。
――だな。
二人はポケモン達と連動した視界をゲンガーに据えた。ゲンガーはまさしく壁となって、プレッシャーの圧を重力のように振り撒いていた。その重圧に潰されまいと、二人とそのポケモンは覚悟の火を胸に灯した。