第三十話:レイの特訓
新たに加わった仲間とすっかり打ち解けて話し込んでいたら、気づいた時には既に夕暮れ時だった。簡素な弟子部屋に一つだけつけられた窓からはオレンジ色の光が差し、じきに夜になると知らせてくれた。
今から出るにはもう遅いということもあり、レイとサンはギルドに一泊することになった。二匹に加えて、ウィン、ルナ、ガラン、アラン、スカイと別の時代から来たポケモンがこうも集結するのも珍しいことだろう。いや、そもそも時代を越えてやってきている時点で普通ではないのだが。夕食時には無事に目を覚ましたカズキやウィンも加わり、いつも以上に賑やかな食卓となった。
「さあみんな、仕事にかかるよ♪」
『おおーッ!!』
翌日、いつものように朝礼を終え、弟子達はそれぞれの持ち場へと散っていく。今のところヨノワールから連絡は来ていない。まあ、まだ一日しか経ってないしそう簡単に引っかかるほどジュプトルも甘くはないということか。
それよりも意外だったのはレイとサンがギルドに入門しなかったことだ。チーム名もあったし、てっきり入門するつもりでいたのかと思ったがそうでもないらしい。というのも、ここまで過去から来たポケモンが揃っているならばそばにいなくても問題ないだろうということが一つ。また、一か所に戦力を集中させるよりもいくつかに分散した方が効率的というのもある。ギルドに入門すれば修行として依頼をこなさなければならないし、いざというときに自由に動ける戦力は必要。他にも理由はいくつかあったが、そんなわけでスターズは別方面からバックアップしてくれるそうです。頼もしい限りだ。
「あー、お前達、今日は掲示板やお尋ね者のポスターを見て依頼をこなしてくれ♪」
「わかりました」
「だが、無理はするなよ?昨日のこともあるし、危なくなったらすぐに戻ってこい!」
ヨノワールから連絡が来るまでは通常通り仕事をこなす手はずとなっている。ペラップとの会話も毎朝の恒例行事となっているが、今日はいつもより優しい気がする。やはり昨日襲われたことが心配なのだろうか?いつもならギルドのためにたっぷり稼いでくれと鼻歌交じりに背中を押すのだが。滅多に見れないペラップの変化に思わずクスリと笑いが漏れた。
「ご心配ありがとうございます。優しいんですね」
「ば、馬鹿を言うんじゃないよ!ほら、さっさと行った行った!」
「はーい」
顔を真っ赤にして羽をバタつかせるペラップ。このままペラップを見ていたいが、さすがにそろそろ本気で怒られそうなので言われたとおりに掲示板へと向かう。
普段は厳しい先輩なのに実は一番心配してくれている。でも、それを面と向かって言うのは恥ずかしいからついついきつく当たってしまう、と。なるほど、これがツンデレってやつね。――なにを言ってるんだろう?なんとなくしっくりきたけど。
「ヒナタ、今日はどんな依頼にする?」
「うーん、そうねぇ」
結局昨日は依頼をこなすことはできなかったし、昨日の分も含めて多めにやろうかな。その方がペラップも喜ぶだろうし、サボった分はきっちり返さないと。まあ、プクリンの許可を得て休んだわけだし、別にサボったわけじゃないんだけどね。
そういうわけで掲示板に目を通す。お尋ね者を捕まえるのもいいが、数をこなすならやはりこっちだろう。なにかアイテムを届けてほしい、あるいは拾ってきてほしいという依頼なら倉庫に目当てのものがあるかもしれないし。不思議のダンジョンを探索しているといろいろなアイテムを拾えるため、ガルーラの倉庫にはかなりお世話になっている。
「ヒナタ、カズキ。ここにいたか」
「あれ?レイ、それにサンも。どうしたの?」
適当な依頼書を手に取って見ていると、唐突に声を掛けられた。振り返ってみると、そこにはライチュウとピチュー――レイとサンの姿が。朝から見当たらなかったけどどこに行っていたのだろうか?カズキが話しかけると、懐から数枚の紙を取り出し、手渡してきた。
「お前達に用がある。一緒に来てくれないか?」
「え?で、でも依頼をこなさないと――」
「――ええっ!?ヒナタこれ見てよ!」
さすがに二日連続で仕事をしないわけにはいかない。レイには悪いが断ろうとすると、いきなりカズキが大声を上げる。完全に不意打ちだったため耳がキーンとなった。なんなのよもう。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、それよりも早く受け取った紙を目の前に突き出してきた。仕方なく紙に目を通してみる。
「……え、これって」
「お尋ね者の依頼書だ。これで仕事は大丈夫だろ?」
お尋ね者の依頼書は中央にポケモンの絵が貼られ、その下に懸賞金と罪状やらなんやらが書いてあるのだが、カズキに見せられたのはまさにそれだった。しかもただの依頼書ではなく、依頼が完了したことを示すハンコが押されたものだ。それも一枚ではなく何枚も。レイ達は昨日は空いている部屋を貸してもらってそこで寝たはずだが、私達が朝礼を終えるまでの間にこれだけの依頼をこなすって正直考えられないんだけど……。よく見ればランクもそこそこ高いものばかりだし、一体どれだけ手際よくやればこんなにできるんだ。
「もう一度言うが、一緒に来てくれるか?」
「え、えっと……わ、わかりました」
「よし」
受け取った報奨金もちゃんと渡してくれて、ここまでされては嫌とは言えなかった。妙な威圧感も感じたし、なにがなんでも私達を連れて行きたいらしい。それほど大事な用事なのだろうか?誤解は解けたはずだけど、まだ私のことを毛嫌いしてるわけじゃないよね?ともかく、行くと言ってしまった以上は仕方ない。私達はレイ達と共にギルドを出た。
どこか広い場所はないかと聞かれ、やってきたのはトレジャータウンの一角に建つ施設――ガラガラ道場だ。
経営不振が続き、一時は廃業にまで追い込まれていたが、探検隊の力になりたいと願う有志が集まり、なんとか再開されることになった。結構前にオープンした施設――私達が初めてお尋ね者を捕まえた頃だろうか?修行ができると聞いて立ち寄ってみればお客はまったくおらず、名前の通りガラガラ状態。なんと私が初めての客だったということで、あまりの嬉しさにタダで道場を貸してくれるというサービスをしてくれたのは衝撃だった。
「おお、オメェら!今日も修行さ来てくれただかぁ?」
中に入ると真っ先に出迎えてくれるのは道場主のガラガラだ。いや、ガラガラしかいないんだけどさ。どこの言葉か知らないけど、訛りの強い口調は初めて聞くと少し話しにくいが、話してみれば涙脆くて心優しいまるでうちの先輩のような性格ですぐに打ち解けることができた。
ガラガラに事情を話すと、道場の扉を開けてくれた。ここには道場の他にも地下に不思議のダンジョンに似せて作られた迷路が存在し、ボランティアのポケモン達が相手になってくれるのだが今回は出番はなさそうだ。
「そんじゃあ、頑張って修行してくんろ!」
「はい。いつもありがとうございます」
「礼を言うのはこっちの方だぁ。いつも道場を使ってくれて、オラの親父も喜ぶってもんだぁよ」
道場はいたってシンプルな作り。土の地面に白く縁どられたラインで書かれた長方形のバトルフィールド。壁や天井は岩で補強されており、ちょっとやそっとの衝撃では崩れないようになっている。技の練習用に的なども用意されており、ギルド裏の森でやっていた時と比べると格段に練習の質が上がった気がする。おかげで葉っぱカッターもかなりできるようになったしね!
「ところでレイ、なにをするんです?」
「決まっているだろう。お前達を鍛えるためだ」
まあ、道場に来てやることと言えば鍛えることなんだろうけどさ。自慢ではないが、修行に関してはかなりやっている方だと思っている。ほぼ毎日やっているし、ガラガラ道場を利用するようになってからはカズキも加わって、依頼が終わった後や夕食後にやっている。確かにまだまだ実力不足かもしれないけど、頑張ってはいるつもりだ。
「はっきり言わせてもらうが、お前達は弱すぎる」
『えっ』
グサッと言葉の槍が胸に突き刺さる。自覚しているとはいえ、やはり他人に言われると来るものがあるわね。唐突だったためぽかんと口を開けてしまったのが無自覚を演出して余計にレイの言葉が深く突き刺さった。
「悪く思わないでくれ。オレはお前達のために言ってるんだ」
「は、はい」
「このままだと、いずれ命を落としてもおかしくないと思ってな。そうなる前に、オレがお前達を鍛えてやる」
レイの表情を見れば、それが自慢や蔑みなどではなく、心から心配してくれているということがわかる。命を落とすかもしれない、その言葉を聞いて昨日の記憶が蘇った。
ルナティックの一匹、アリアドスのリグドとの戦闘。あの時は善戦していた方だと思っていたが、よくよく考えればそれはただの慢心に過ぎないと思った。私がほぼ無傷だったのもカズキが気絶させられただけで済んだのもすべてはリグドが積極的に攻撃をしなかったから。毒針だけでもかなりの高速でよけるのにも一苦労だった相手。もし殺す気で来ていたなら確実にただでは済まなかっただろう。
「で、でも、強くなれるかな?」
「だいじょーぶ!ぼくだって頑張れたんだから♪」
我を忘れて猪突猛進に突っ込んでくる不思議のダンジョンの敵程度なら今の修行でも何ら問題はない。しかし、レイが見据えているのはルナティックとの戦闘。私を守るために何匹ものポケモンが力を貸してくれているが、それでも自分の身は自分で守れるくらいの能力は欲しい。ルナと共にピンチに陥ったのを見たからこそ、早急に対処すべきだと考えたのだろう。
「まずは一通り技を見せてみろ。どれほどのものか見極めてやる」
「レイ兄話長いよぉ。カズキにはぼくが教えてあげるね〜♪」
「うんっ、よろしくね!」
カズキとサンは私から少し離れた場所でなにやら話し合っている。二匹ともなんだか子供っぽいし、惹かれるものがあるのだろう。必然的に私はレイの指導を受けることとなった。
とりあえず、言うとおりに的に向かって技を繰り出してみる。ツルのムチ、葉っぱカッター、体当たり、あとは宿り木の種や状態異常を引き起こす粉技など、自分の使える技を一通り繰り出す。
「ふむ」
「どうですか?」
「悪くはない。だが、やはり威力不足だな」
どれもこれも全力で繰り出していたが、レイから見れば全然らしい。特に葉っぱカッターは練習しただけあって自信があったのに残念だ。
レイはおもむろに腕を組むとしばし目をつむって唸りだした。そもそも電気タイプであるレイが草タイプである私に技を教えることなんてできるのだろうか?原理はわかっていても自分で使えない分、コツの掴み方とかわからない気がするけど。
「まずは葉っぱカッターだが、どんなイメージで使っている?」
「え?それは――」
技を繰り出すコツはイメージすること。これはキマワリに教えられたことだが、おかげでスムーズに答えられる。私がイメージするのは風に乗る木の葉。ふわりと木の葉を舞い上げて、突風に乗せて放つ。そんなイメージだ。コントロールを重視している分技の威力は低めだが、遠距離から攻撃できるというメリットは大きい。
「それじゃダメだな」
「じゃあどうすれば?」
「風に乗せて放つんじゃない。風を切り裂いて飛ばすんだ」
……なかなかに無茶なことを言う。一見真面目そうなのだが、こういうことに関しては根性論を信じるポケモンなのだろうか?レイが言うには、私がイメージしているのはメインが風で、サブに木の葉というもの。つまり、攻撃役である木の葉がおまけになっているということだ。この二つは言い換えればコントロール制度と攻撃力。風がメインになってしまっているのは私がコントロールを重視したせい。
「とりあえず、勘でいいからやってみろ」
「そんなこと言われても……」
レイが言うのはその逆。木の葉をメインに、風をサブに。とにかく言われたとおりにイメージしてみるが、案の定、葉っぱの数は増えたがそのほとんどが的を外してしまった。今の私が制御できるのはせいぜい四、五枚程度。いきなりその倍以上も制御できるはずがなかった。まあ、練習を繰り返せばいずれできるようにはなるかもしれないけど、葉が多くなる分、やはり命中率が落ちる気がする。
「違う、そうじゃない」
「え?」
「いいか、見てろよ?」
攻撃力に重点を置き、失敗したものの要望通りにやったはずだったが何かが違うらしい。首を傾げる私に再び唸ると、手元に小さな電気の塊を作り出した。
レイが意識を集中させると塊は次第に形を成し、別の形状へと変化する。ある程度形が変わると分裂し、同じ形のものが二つ出来上がった。バチバチと音を立てて白く発光しているが、その形は私がさっき繰り出したものよりも大きな三日月形の葉だった。
「数を増やす必要はない。大事なのは意志の強さだ」
「意志の、強さ?」
出来上がった電気葉っぱは弧を描き、見事に的を真っ二つに切り裂いた。私と違い、数で攻撃力を底上げするのではなく、単体に集中させることで攻撃力を増すという方法らしい。
レイ曰く、強い意志を持つことが大事だという。命中率や攻撃力を気にして制御するのではなく、敵を倒したいという気持ちを葉に乗せる。そうすることで、葉は意志を受け継ぎ、攻撃力と命中率を両立させることができる。俄かには信じがたい話だが、実際に目の前で披露された以上反論することもできない。でも、なんとなく理解できる部分もある。
私は技を繰り出すとき、無意識に技の名前を叫んでいる。私だけではなく、カズキやギルドのメンバーもみんなそうだ。もしかしたら、技名を叫ぶことによって技に意志を宿そうとしているのではないか?技を当ててやるんだという気持ちが本能的に叫ばせているのだとしたら、レイの言うことも一理ある。
「うまく意志を乗せることができれば、こんなことだってできる」
再び電気の葉を生成するレイ。先程と同じく、見ているだけでも強烈な力を感じる葉はバチバチと音を立てながら空を舞う。しかし、レイがそれを放ったのは的とは真逆の方向。あれでは確実に当たることはない。――そう思っていた。
明後日の方向へ飛び出した葉はいきなりクンッと向きを変えると、反対方向にある的へ吸い寄せられるように向かい、見事に切り裂いて見せた。一度放った技を百八十度転換させるなんて芸当、エスパータイプのポケモンでもない限り容易にできることではない。それをさらりとやってのけたレイは得意げに笑顔を見せた。
「お前だって修行すればこれくらいはできるようになれる。強い意志を持つことができればな」
「これが、意志の強さ……」
呆気にとられる私にレイは優しく語りかける。強い意志を持つ――それはすなわち、絶対に勝つぞという気持ちを常に持ち続けるということ。例え相手が自分よりデカかろうが実力が上だろうが決して臆さず、自分の意思を信じて戦い続ける。
勝つという意識がなければ勝てる試合も勝てなくなる。今まで私がルナティックに抱いていた感情は恐怖。それは戦闘においても発揮され、無意識のうちに戦わないで済む方法を探していた。だからこそ、真っ向から戦うのではなく、相手の戦意を削ごうと考えを巡らせていたんだ。“勝つ”ではなく、“生き残る”という意識を持って。
「レイさん……」
「なんだ?」
「私でも、勝てますか?」
「――ああ。お前ならやれるさ」
その言葉を聞いて、少し安心した。今まで逃げていた自分でも、まだ強くなる手段があるのだから。
これは今までの修行のやり方を一から考え直す必要がありそうだ。生き残るという考え方が全部悪いわけではないが、その意識を少しでも勝とうという方向に向けることができれば、レイのように技に意志を宿すことができるかもしれない。実際にやってのけたレイができるというのだ。私にだって、絶対にできる!
「ところでレイさん、気になることがあるのですが」
「なんだ?」
「それって、どうやってるんですか?」
決意を新たにし、意欲が十分に湧いてきたところで本格的な修行を始めたいところだが、その前に私にはどうしても気になることがあった。それ、というのはレイが先程放った電気で作られた葉っぱのこと。
さらりとやっていたが、本来電気は自然界に発生するもので特定の形を持たない。電気タイプのポケモンは自力で電気を発電する機能を備えているが、技として放つ電気は通常は稲妻型。例外もあるが、普通はレイのように自由自在に変えられるものではないはずなのだ。擬似的に葉っぱカッターを作り出すことはもちろん、それを攻撃に用いたり、ましてや百八十度方向転換させるなんてまず不可能。
「ああ、なんてことはない。お前も練習すればできるようになるぞ?」
「何年かかりますかね……」
「そんなにかからないさ。コツさえ掴めばな」
そのコツを掴むのにどれだけかかるのか……。レイは私より少し上くらいみたいだけど、一体どれだけの修行を積んできたのだろうか?私より年下に見えるサンだって、あれこれカズキに教えているみたいだし、相当凄腕の師匠に教わったとか?――謎だわ。
レイ曰く、ポケモンには一匹一匹に固有のエネルギーのようなものが存在するらしい。電気タイプなら電気のエネルギー、草タイプなら草のエネルギーという風に。私達が普段使っている技は、そのエネルギーの一部を使用して繰り出している。云わば、技の源。だから、それが尽きてしまうと技を繰り出すことができなくなってしまう。レイはエネルギーのことを、技を繰り出すための力という意味でパワーポイントと呼び、さらに略して“PP”と呼んでいるという。
「PPは普通は目には見えないが、技として繰り出すときはこうやって形になる」
「じゃあ、今持ってるのはなにかの技?」
「そうだ。これは本来は十万ボルトだな。出力を加減すれば簡単にできる」
再び作り出した電気の塊は拳ほどの大きさ。まるで白く輝く石が雷を纏っているかのよう。レイが意識を集中させると石は粘土のように変形し、様々な形を作り出す。それは槍だったり、ナイフだったり、剣だったり、あるいはさっきのように葉っぱの形だったり。最後には星形に変化させ、空中へ解き放つと花火のようにパッと霧散した。
原形が技だったとしたら、十万ボルトの他にも火炎放射だったり水の波動だったり、あるいは私の葉っぱカッターだって元を辿れば葉っぱ型のエネルギー弾だから形にできるはず。早速意識を集中させてみるが、これが思いの外難しかった。
「あっ」
レイのように自由自在に形を変えることはまず無理だろうとは思ったが、塊にするくらいならできると思っていた。しかし、実際にやってみると塊にする前に放たれてしまい、思うように形にすることができない。出力を加減すると言っていたが、大きくしすぎると形になる前に飛んで行ってしまうし、逆に小さくしすぎると消えてしまう。絶妙な力加減が必要だった。何度か試行錯誤を重ねるうちになんとか形にすることはできたが、今にも消え入りそうなほど小さな欠片で塊とは言い難い。
「初めての割にはよくできたじゃないか」
「結構難しいです……」
なんというか、塊にしようと思って葉を集めても一つにまとまらずにすぐに別れてしまう。初めから一つの大きな葉っぱをイメージしてみたが、大きくなればなるほど制御は難しく、形にすることができない。削りに削ってようやく維持することができたのが小さな葉っぱ一枚だけ。本来は形を持たないものを形にするというのは考えていたよりもよっぽど難しかった。
PPの制御。戦略の幅を広げることにもなるし、是非とも習得したいところだがなかなかうまくは行かないものだ。でも、これから修行を重ねていけばいつかはできるようになるだろう。これから先、また昨日のように私とカズキ。あるいは私だけでルナティックと戦う日が来るかもしれない。その時に足手纏いにならないようしっかりと鍛錬に励むことにしよう。
「まだ始まったばかりだ。しっかり鍛えてやるからついて来いよ?」
「はい、よろしくお願いします!」