第六章
第二十九話:新たな仲間
ずっとこんな日常が続けばいいと思ってた。お母さんと笑い合って、ウィンとじゃれあって、ソルトをからかって、サンやレイと一緒にいっぱい遊ぶ、そんな日常。人間と同じ過ちを繰り返さないように、平和な世界を作ろうとたくさんのポケモンが努力して、力を合わせて形を作った。みんな幸せになってハッピーエンド、そうなるはずだったのに――

「止めだ」

今、目の前で大剣を振り下ろそうとしてるやつはそんな平和を否定してぶち壊そうとしてくる。どうして平和を嫌うの?どうして復讐なんて考えるの?また同じ過ちを繰り返そうそしていることになんで気づかないの?自問自答の答えは出ないまま、今という現実に流されて頬を濡らす。

「(ここまでなのかな……)」

大ぶりな攻撃は、まるで止まっているかのようにゆっくりと迫る。死に際には今までの出来事が走馬灯のように思い浮かぶと言うが、まさにその通りのようだ。描いた理想は砕かれて、風化した岩のように脆く崩れ去る。涙と共に流れ去った感情は最後に仲間のことを想い、やがて諦めへと変化した。

「ルナお嬢様ぁぁぁ!!!」

ガキィィン!!
目を閉じかけた瞬間、自分に降りかかるはずだった衝撃がなにかに阻まれたように甲高い音を響かせた。もちろん、ルナにはそんな気力は残っていないし、ヒナタもカズキも加勢できる状況ではない。
ルナの目に飛び込んできたのは、オレンジ色の背中。カールのかかった耳に長く伸び、先端が稲妻のような形状のしなやかな尻尾。鋭利な刃物で切られたかのような古い傷跡が残る尾を揺らし、短い手で得物を握って振り下ろされた大剣を見事に弾き返した。

「お嬢、大丈夫?」

「……レイ?それに、サンも……!」

倒れたまま動けないルナに差し伸べられたのは黄色い手。先の攻撃を防いだポケモンよりもかなり小さく、先端が黒いひし形の耳にほっぺのピンク色の電気袋。エル字型の黒い尻尾をひくつかせ、つぶらな瞳は心配そうにルナを見つめていた。
ライチュウとピチュー。どちらも過去の世界で、共に未来へと旅立った頼もしい仲間。

「貴様!お嬢様を傷つけてただで済むと思うなよ!!」

「待っててね。レイ兄がすぐに終わらせるから♪」

全身の毛を逆立てて、激しく威嚇するライチュウ――レイの手にはバチバチと音を立てて仄白く発光する槍が握られている。手にする得物、体格、かなりの差があっても決して退かず、怒りのこもった目でベルクを見据える。
一方、ルナを助け起こしたピチュー――サンは無邪気に笑いながらルナを戦線から下がらせた。緊迫している状況にもかかわらず、笑う余裕があるのはそれほどレイのことを信頼しているから。
例え相手がデカかろうがタイプ相性が悪かろうがその程度では屈しない。それがルナに関わることならばなおさらだと。幼き弟は兄の背中を見て勝利を確信していた。

「またしても邪魔か」

「行くぞ!“疾風迅雷”!!」

目にも止まらぬ速さで駆けだしたレイは高速で白き槍を突き出す。ルナと同じように大剣でそれを防ぐベルクだったが、攻撃が素早く、何発かの突きがガードを抜けて接触する。強固な防御力を持つベルクだったが、あまりの速さに攻撃に移る隙すら与えられず、次第に押されていった。

「ミサイル針!」

「むっ!」

怒涛の勢いに相性をひっくり返して押し通せるかに見えた。しかし、敵は一匹だけではないのを忘れてはならない。右舷から迫る無数の針を見て、レイは攻撃をやめて防御へと移る。弾道をすべて読み切り、避けたり槍で弾いたりしてすべての攻撃を無効化する。その早業はまさしく疾風迅雷の如く。

「ベルク!ここは一旦退け!」

「……已むを得んか」

助太刀の参上に不利を感じたのか、今まで介入してこなかったリグドは撤退を進言した。せっかく敵を追い詰めたというのにここで退くのは苦渋の選択だったが、無理をしてやられてしまっては元も子もない。最終的にベルクはリグドの提案に乗った。
撤退していく二匹。レイは後を追おうと一歩を踏み出したが、しばしの沈黙の後手にした槍を消滅させてルナの下へと急いだ。





突如、疾風の如く現れた二匹の勇姿に私は絶句していた。ルナがあれほど苦戦していた敵を圧倒し、リグド共々追い返した。思わぬ助っ人の登場と、危機を脱した安心感からかドッと体の力が抜けるのを感じる。しかし、置き土産の蜘蛛の糸はいまだ健在で、力を抜いたところで体勢を変えることはできなかった。立ち尽くしたまま座ることもできない。……なんか情けないな。

「お嬢様、ご無事ですか!?」

「う、うん。なんとかね……」

「サン、すぐに手当てを!」

「オッケー」

テキパキとルナの傷の状態を確認したライチュウはピチューに傷の手当てを命じる。ここからだとよく見えないけど、腹部の毛が黒い液体で変色しているのが見える。あんなでっかい剣で叩かれたらダメージは相当のものだろう。おそらく衝撃は体を貫通し、内部にまで響いているはず。
慎重に体を起こして患部に白い布を巻き、懐からある物を取り出す。細長いガラスの管に連なるようにいくつか入っている粒状のものを一つ取り出すと、ルナの口元へと運んだ。

「シルフからもらった薬だよ。飲んで?」

「あ、ありがとう」

それを口に含み、喉を通過して体内へと吸収されると、驚いたことにルナは平然と立ち上がって見せた。さっきまでは息も絶え絶えで立ち上がる気力も残ってなかったかのように見えたのに、ものの数秒でこの回復力。後から聞いた話だが、これは過去の世界で仲間の医師が作った丸薬だそうだ。非常に即効性が高く、怪我にもよく効く万能薬だそうだが、とてつもなく苦いらしい。立ち上がったルナの表情が何とも言えないものだったのはそのせいだ。

「お前、怪我はないか?」

ルナの復帰を見届けたライチュウはその場をピチューに任せて私の下へとやってきた。さっきまでは必死の形相で声を荒げていたが、危険も去って落ち着いたからか威圧感が残るものの、わずかばかり声色を和らげていた。

「わ、私は大丈夫です。でも、カズキが……」

拘束されているとはいえ、私自身は大きなダメージは受けていない。リグドはこちらを倒すのではなく、精神的に追い詰めることを狙っていたようだからあえて攻撃してこなかったのだろう。しかし、パートナーのカズキは首筋を殴打されて気絶。苦手な炎タイプに念を入れたのだろう。やろうと思えば私もやれたはずなのにあいつはカズキだけを狙って……。

「気絶してるだけのようだな」

「え、ええ」

「さて、と」

カズキの状態を確認し、命に別状はないと踏んだのか再び私に向き直り、両手に電気の塊を出現させた。なにをするのかと思えば、次第に塊は形を変え、やがて一つの武器へと変化する。その形状はナイフと酷似し、バチバチと音を立てて白い光を発している。さっきの戦闘で使っていた槍と同じだ。
電気のナイフと手に素早く私の周りの糸を刻んでいく。数秒で切り終えると、私の体は自由の身となっていた。

「ありがとうございます」

「気にするな。それよりもお前にはいろいろと聞きたいことがある」

「えっ?」

ナイフを消滅させ、差し伸べた手で私の体を起き上がらせてくれた。紳士的な対応に思わず頬を緩ませる。しかし、どこか言葉にトゲを感じた。一見優しげなお兄さんといった感じの声なのに、心を閉ざしているかのように警戒した雰囲気が見える。危機は去ったはずなのに、今でも殺気のこもった視線で射抜かれているような不思議な緊張感。いったい、なんだっていうの?

「レイ兄!いったん戻ろうって!」

「ああ、今行く」

このまま射殺されてしまうのではないかと心配になるほどに強烈な視線。しかし、不意に届いた無邪気な声が助け舟となり、ライチュウはピチューの方へ視線を外し、そのまま歩み寄っていった。

「心臓に悪いわ……」

緊迫した状況から解放され、身体から汗がドッと溢れ出す。以前にも体験した熱水の洞窟や北の砂漠といった暑さからくるものではなく、体の芯から凍りつくような冷や汗。助けてくれたし味方なんだろうけど、素直に喜べない。
――私、殺されたりしないよね?あまりの威圧感に不安に駆られた。





時刻はお昼を過ぎた頃。いつもなら弟子達は依頼や探検で夕方近くまで帰ってこないので、私達の登場に驚いたことだろう。油売ってないで依頼をこなせとペラップにどやされそうだが、満身創痍の私達を見て異変を感じ取ったチリーンやビッパはすぐさま弟子部屋の扉を開けて救急キットを用意してくれた。

「ヒナタ、いったい何があったんだい!?」

「そ、それは……」

カズキをベッドへ寝かせ、回復したとはいえ重傷を負ったルナも一時部屋で休むことになった。必然的に唯一そこまで怪我を負っていない私に状況の説明を求められた。
騒然となったギルドの地下二階。チリーンにグレッグル、探検の準備のため残っていたビッパ、ウィンの看病をしていスカイとイクリプスの二匹、それにペラップにプクリン親方まで。チリーンは治療のために、スカイもルナが心配だと部屋へと向かったが、それ以外は私を囲むように答えを待っている。

「凶暴なポケモンに襲われていたようです。たまたま通りかかったところを私が助けました」

「む?失礼ですがあなたは?」

「申し遅れました。私はレイと申します。そして、こっちのちっこいのが弟のサンです」

「ちっこい言うな!」

どのようにして状況を伝えようか悩んだ。ウィンの方針で、ルナティックの事はギルドのみんなには内緒にしようということになっていたから。もし言えば、心優しいみんなの事だから弟弟子のために立ち向かってしまうだろう。そんなことをすればギルドのみんなまで命を狙われることになってしまう。だからこそ、どうやって説明しようか悩んだ。
考えあぐねていると、代わりに答えたのはレイだった。ルナティックの事をしゃべってしまうのではないかとドキッとしたが、“凶暴なポケモン”とオブラートに包んで言っているあたり、知らせるべきではないということは理解しているらしい。ひとまずほっと胸を撫で下ろす。

「ふむ、なるほど」

「裏の森と言ったらすぐ近くだな」

「いったい誰がこんな酷いことをしたんでゲスかね……」

ここはプクリンのギルド。多くの有名探検家を輩出すると名高い名門ギルドだ。そんなギルドにわざわざ近づくお尋ね者などそうはいない。いるとすれば、知識の浅いコソ泥くらいなものだろう。だからこそ、私達を襲った犯人が誰なのかという疑問に辿り着いた。弟子達の中では新人の部類に入るとはいえ、仮にもシルバーランクの探検隊を倒せる実力を持っているのだから相手は戦い慣れている。ぽっと出のコソ泥がやれるような芸当ではない。ペラップの指示で掲示板に掲載されているお尋ね者の手配書を確認してみたが、サイドンとアリアドスなんていう珍しい組み合わせのものは見つからなかった。

「ペラップ、念のためみんなが帰ってきたら注意するように言ってくれる?」

「了解です!」

「ヒナタもお疲れ様。今日は休んでていいよ♪」

「は、はい……」

状況は曖昧のままだが、プクリンの一声でひとまず解散することになった。情報が少なすぎて、対処しようにも難しい。できることと言えば注意喚起を促すことくらいだ。プクリンの指示を受けてペラップが号令をかけると、弟子達はそれぞれの持ち場へと戻っていく。残ったのは私とレイとサンの三匹となった。

「あ、そうだ。そこの友達〜♪」

「わ、私ですか?」

「そうだよ♪」

ただ一匹、部屋に戻ろうと背を向けたプクリンはなにかを思い出したように振り返るとレイとサンの手を握ってぶんぶんと振り回した。一緒に手を振り返して乗ったサンと違い、突然の出来事に困惑するレイ。例え相手が初対面だろうがプクリンにとっては誰でも友達。史上最年少でギルドマスターにまで上り詰めたとは思えない性格だが、それがプクリンの良さでもある。伝説のポケモン相手ですら物怖じしないその態度はマスターたる貫禄を感じられる、かもしれない。

「僕の弟子(友達)をあんまりいじめないでね?」

「ッ!?」

「頼んだよ、友達友達〜♪」

耳元でそっと呟かれた言葉にレイは目を見開いてプクリンを見た。すでにプクリンは自分の部屋へ戻る最中だったが、今まで余裕を感じていた身体に緊張が走った。
プクリンにしては珍しく小さな声だったためなにを言ったかはわからないけど、驚きの表情を浮かべているあたりなにか予想外の事でもあったのだろうか。しばし立ち尽くすレイに私もサンも不思議そうに目を向けた。

「レイさん?」

「レイ兄、大丈夫?」

「……あ、ああ。なんでもない」

呼びかけに対して笑顔を返すレイ。しかし、ちらちらとプクリンの部屋の扉を見ているあたりやはり何かあったようだ。――入門するように勧められたとか?ペラップならやりそうだけど、プクリンがそんなことするなんて聞いたことないけどなぁ。

「……ごめんな」

「えっ?」

ペラップが念のためと地下一階にいる探検隊にも注意を促すため席を立ち、改めて三匹だけとなった。今なら話をするには絶好の機会。森で出会った時の刺々しさを感じるレイの声を思い出し、なにを聞かれるのだろうと身構えていたら、第一声は謝罪の言葉だった。あまりに予想外すぎる言葉。私は助けてもらった身だし、私がお礼や謝罪をいうのはともかくとして、レイが謝る理由など見当たらないのだが。

「お前、ヒナタって名前なんだな?」

「は、はい」

「お嬢様がなんでお前を助けようとしたのか、ようやく合点がいったよ」

えーと、一体どういうことなんだろう?名前はペラップやプクリンが呼んでたから知っているのはわかるけど、なにを理解してくれたのかな?
私はレイに嫌われていると思っていた。だからあんな視線を向けてきたのだと思った。でも、謝ったということはそれが勘違いから来たものだったということだろうか。レイの質問に対して潔く答えようと思っていたが、逆に私がレイに質問を投げかけたくなってきた。

「レイ兄はお嬢がボロボロになったのはヒナタのせいだって思ってたんだよ」

「ええ!?」

「おい、サン!――悪かったな。名前を知るまで、お前が守るべき存在だということに気付けなかった」

ドキッと心臓が大きく脈打つ。レイの様子からして、ルナのことを心底大事に思っているのはすぐにわかった。つまり、私がルナの戦いに水を差してピンチに陥らせた。あるいはルナを巻き込んでしまったと思い、ルナを傷つけた原因は私にあるとそう言いたいのだろう。
……実際、その考えはあながち間違っていない。私がルナの後を追おうとしなければ戦いに巻き込まれることはなかった。しかし、不意打ちをかわしたり、敵の一匹を引きつけたり、私達の行動が全くの無駄ではなかったと信じたい。

「レイさん達は、過去から来たポケモンなんですか?」

本題に戻り、私はずっと疑問に思っていた問いを投げかける。いや、これは確認と言った方がいいだろう。ルナのことをお嬢様と慕い、私の名前を聞いて守るべき存在だと呟いた。それはつまり、レイとサンもウィン達と同じく、過去から来たポケモンだということ。あの時、ウィンが言っていたはぐれていたもう一チームとはレイとサンの事だろう。

「ウィンから聞いたのか?その通り、オレ達は過去から来たポケモンだ」

「ぼく達はチームスターズ!ヒナタの事はぼく達が守るよ♪」

サンのハイテンションに若干流されたが、新たな仲間に友好の証として握手を求めた。それに対し、二匹は快く応じる。
レイとサン、兄弟というだけあって見た目の雰囲気は似ているが、性格は正反対のようだ。それはウィンとルナも同じだが、見た目と中身が合致しているだけこちらの方がわかりやすい。落ち着いた物腰のレイに無邪気に笑うサン。わずかだが、二匹との距離が縮まるのを感じた。

「改めて、私はヒナタです。よろしくお願いします」

「ああ。だが、まずはいろいろと教えてくれないか?」

「今まで見当違いのところ探してたからここら辺の事もあんまり詳しくないしね」

「わかりました」





プクリンから直々にお休みをいただいたとはいえ、やはり心配らしい。レイ達にギルドを案内していると行く先々で大丈夫か、とか、無理はするなよ、とか呼び止められまくった。確かに戦闘で多少疲れてはいるが、何度も言うようにそこまでひどい怪我は負っていない。せいぜい体を拘束されたのと、かろうじて毒針が掠った程度。毒に耐性を持つ私にはなんの問題もない。……でも、せっかく心配してくれているのにその気持ちを無下にするのも忍びないよね。

「外はいい。部屋でウィンやお嬢様のことを教えてくれ」

「わかりました」

気を効かせてくれたのか、梯子の前で逡巡する私の肩をそっと引き戻すレイ。ひとまず、カズキがいる私達の部屋へと向かうことになった。
途中、チリーンとすれ違ったが、どうやらカズキの体に異常はなかったらしい。しばらくすれば目を覚ますと聞き、ホッと胸を撫で下ろした。なんだかんだでカズキにはいつもお世話になっている。今度何かの形でお礼をしたいな。

「それじゃあお話しますね」

部屋には気絶したカズキがベッドに寝ているのみ。枕元にはオレンの実がいくつか置かれていた。カズキが目を覚ました時、少しでも元気が出るようにとチリーンが気を効かせてくれたらしい。チリーンにも後でお礼を言わないと。
心の中でそう思いつつ、私はこれまでの経緯を話し始める。遠征途中でのウィンとの出会い、ルナティックのライボルト――ラクシアとの戦闘とルナの合流。その後、ルナティックの刺客――ギブドとの戦闘を経てガランとアラン、スカイが仲間になり、水晶の湖では特殊な姿に変化したウィンが大立ち回りを演じたり。今までウィンやルナと共に過ごしてきた日々をなるべく事細かに伝えた。

「なるほど。そんなことがあったのか」

「ぼ、ぼくウィンを見てくるね!」

話を聞くや否や、サンは自分のカバンを手に部屋を飛び出していく。あの中にはルナに使っていた薬が入っているはずだから、おそらくそれでウィンも目覚めることだろう。今、ウィンがいる部屋にはルナやスカイ達もいるはずだから一層狭くなりそうだ。

「まさかガランとアランまでいるとはな」

「残念ながら記憶を失っているみたいですけどね」

「辛い体験をしたんだ。それも仕方のないことだろう」

過去にどんなことがあったのかは私にはわからないが、衝撃的な出来事があったのだろう。それこそ、記憶を失うほどの辛い体験。私自身ももしかしたらそういった何かが過去にあったのかもしれないわね。

「一番驚いたのは、お前が人間ではなく、フシギダネの姿だったことだがな」

「あはは。それは私も驚いてます」

記憶を失った原因もそうだが、最大の謎は人間だったはずの私がなぜフシギダネの姿になってしまったのか、だ。今でこそ笑って話せるだけの余裕が出てきたが、ポケモンになった当初は人間との違いに驚き、困惑したものだ。特にフシギダネの骨格では四足歩行なため、自然と歩けてしまった時は心底違和感を感じた。今ではすっかり慣れ、四足歩行も手代わりのツルも違和感なく使いこなすことができている。――それはそれで人間としての私が消えていくみたいでなんか嫌だけども。でも、ギルドに入門して戦闘もするようになって、否が応にも順応してしまうのだからこればかりは仕方のないことなのかなぁ。

「まあ、ウィンやお嬢様がそう言うのならお前は救世主なのだろう」

「私はそんな大それたものじゃありませんよ?」

「オレ達にとってはそれくらいの存在だ。もっと胸を張れ」

そんなこと言われても、私自身にそんな自覚がないのだから仕方ない。でも、時の歯車が盗まれることで星の停止という世界の終りが迫っているという現実。そして、どういうわけか時空の叫びという不思議な能力を持つ人間である私。今の状況はまさしく、ウィンが言っていた予言に酷似している。ここまで来たら、私も無関係だとは思わない。最も、私が救世主でなかったとしても全力で止めるつもりだが。

「それと敬語じゃなくていいからな?そんなに年は変わらないだろ」

「えっ?そ、そうで……そうかな?」

ポケモンって見た目が似てるから年を判断するのは意外と難しい。カズキやギルドのみんな、トレジャータウンの住民達は何度も会っているからわかるけど、初対面のポケモンはさすがにすぐには判別できないよ……。うーん、雰囲気とか大人びてるし、声色も落ち着いているからたぶん私よりは年上だと思うんだけどなぁ。――後でルナに聞こう。

「じゃあ、改めてよろしくねレイ」

「ああ、よろしくな」



ウィンデル ( 2015/10/04(日) 00:24 )