第五章
第二十六話:小さな協力者
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。ジュプトルとの一戦、満身創痍になりながらもどうにかジュプトルを倒し、ホッとして気を失っていた。私が気が付いたのは、誰かの話声が聞こえたから。うっすらと目を開けてみると、ジュプトルが呻きながらも上半身を起こしているところだった。

「ぐっ……くぅ……」

よほど傷が痛むのか、緩慢な動きで体を起こしていく。なんとか胡坐をかくくらいまで起き上がった頃には息も絶え絶えで気絶しないのが不思議なくらい。精神力の鍛錬でもしていたのだろうか、不屈の心に感心するばかりだ。いや、それよりもこのままではいずれ逃げられてしまう。見たところ、他に気が付いてるポケモンはいないみたいだし私が何とかしなきゃ――

「見つけたぞ、ジュプトル」

「!?」

なんとかすると言っても、まだ体を動かせるほど回復したわけでもないし、ツルも先の戦闘で焼きただれて動かすことすら難しい。呻き声すらあげられないし、今私にできることは、ただ見ていることだけだった。
しかしそんな時、思いがけず助け舟を出してくれる者が現れた。視界に映り込んだのは黒い影。赤い一つ目、巨大な手、お腹に開いた口。見るからに凶悪そうな見た目だが、この状況においてもっとも心強いポケモンが来てくれたようだ。
ヨノワール――チームを持たず、常に一匹で行動する孤高の探検家。今までに上げてきた功績は数知れず、巷では彗星の探検家なんて呼ばれている優秀な探検家だ。

「久しぶりだな。探したぞ」

「ヨノワール……まさかここまで、追ってくるとはな」

ヨノワールならば安心してジュプトルを任せられる。そう思ったのも束の間の事だった。“久しぶり”、その言葉に疑問を抱く。久しぶりということは、ヨノワールはジュプトルを前から知っていたってこと?でも、そんなことギルドでは一言も話してなかった。一体どういうことなのだろうか?――知りたい。なのに、私の意識はまた薄れ始めていく。ヨノワールの声もだんだん遠くなっていき、ついには聞こえなくなってしまった。ヨノワールさん、あなたは一体……。





とうとう追いつめた。この日を一体どれほど待ち望んでいたことだろう。私の追跡を掻い潜り、うまい具合に時の歯車集めに奔走していたようだがそれもここまでだ。

「さあ、一緒に来てもらうぞジュプトル」

「断る」

随分と派手に戦闘したようだが、私以外にジュプトルをここまで追い詰められるポケモンがいたとは驚きだ。元人間だというヒナタという少女もなかなかやってくれる。

「私と戦うつもりか?そんなボロボロの体で」

「やって見なくちゃ、わからないだろ」

「戯言を」

どんな攻撃を受けたか知らないが、体中に奔る無数の裂傷。おそらくこうして話しているだけでも辛いはず。意識を失わないのが不思議なくらいだ。だが、いくら威勢が良くてもこの状況ではただのやせ我慢に過ぎない。私の勝利は確実だ。仮に逃げられたとしても、その傷では遠くへは行けまい。放っておいたとしても疲弊して倒れるか、ギルドの誰かに見つかって捕まるだけだ。

「威勢がいいのはいいが、ここまでだ」

「くっ……!」

これ以上の会話は無用。ジュプトルが変な気を起こす前にさっさと捕らえてしまおう。奴の悔しげな表情は実に愉快だ。私が近づいても後退りすることもできず、ただ睨みつけることしかできない。いくら俊敏な足を持っていたとしても、こうなってしまえばただのトカゲだ。これでようやく、帰ることができる。

「ッ!?」

ほんの数歩、手を伸ばせば届く距離まで迫った時の事だった。どこからともなく飛んできたなにかが私とジュプトルとの間に突き刺さる。一度手を引き、その物体を観察すると、先端が尖った黒光りする岩が二本、突き刺さっていた。こんな形状のものは見たことがない。ポケモンの技でもないし、自然生成された物でもなさそうだ。ただ一つわかることは、何者かが私を狙って放った攻撃だということ。

「誰だ!?」

「どこ見てんの?こっちだよ」

とっさに辺りを見回してみるが、ここは湖の中心に位置する小島。周りに隠れられる場所は湖の中かあるいは天井に張り付く、または浮遊するしかない。ざっと見渡してみても敵の姿を確認することはできなかった。しかし、親切にも敵は不意打ち可能という有利を捨て、目の前に姿を現した。いつの間に現れたのか、敵はジュプトルの前に立ち塞がり私を睨んでいる。敵は二匹いた。
一匹はクラゲのような容姿をしており、光沢のある青いボディに目のような赤い球体が水滴を反射してきらりと光っている。体を支える大量の触手は黒く、不気味にうねっている。もう一匹は硬そうな赤い甲羅を身に纏い、無数に開いた甲羅の穴から触手のような黄色く細長い四肢がうねっている。意地悪そうな笑みを浮かべ、もう一匹の頭の上でふんぞり返っている。さっきの台詞はおそらくこいつのものだろう。
――ドククラゲにツボツボ。なんとも奇妙な組み合わせだが、それよりも攻撃してきた理由だ。私の知る限り、ギルドにもトレジャータウンにもこんなポケモンはいなかったはず。それに、自分で言うのもなんだが、私はそこそこに有名な探検家。世間の認知度は高いし、信頼は厚い。にも拘らず攻撃してきたということは、大方事情を知らないダンジョンを縄張りとするポケモン達だろう。まったく面倒な。

「何者ですか?」

「それはこっちの台詞だよ。たった一匹でみんな倒しちゃうなんて、君こそ何者?」

さっさと説得してこちらに敵意がないことを示そう。そうすれば、エレキ平原の時のように事なきを得るはずだ。と、最初は軽く考えていた。しかし、どうやら状況は思ったより悪いらしい。目の前の二匹はあろうことか、この惨状を私がやったと思い込んでいるようだ。

「ご、誤解です!私はヨノワール、探検家です。決して彼らに危害を加えたりはしていません」

この上なく面倒になってきたが仕方がない。私を知らない無知な田舎者にもわかりやすく説明する。私はこんな惨状を作り出したポケモンではなく、プクリンのギルドと協力して、お尋ね者であるジュプトルを捕まえるためにここに来た。こうなった原因はジュプトルにあり、私が来た時には既にこのありさまだった。嘘偽りなく、ツボツボの憎らしそうな眼を見ながら感情を込めて。これだけ丁寧に言えばわかってもらえるだろう。

「ふーん、捕獲しに来た、ねぇ」

「ええ。ですから事が済み次第すぐにここから退散するので、少しだけ時間をいただけますか?」

「嫌だね」

……聞き間違いだろうか?ここまで懇切丁寧に説明したのに、了承するどころか即答で拒否してきた。今の説明でどちらが悪でどちらが正義かよーくわかったはずだ。相当な頑固者、面倒とは思ったがここまでとは。

「本当にすぐに済みますので。どうかご勘弁ください」

「嫌だよ。そいつが悪者だったとしても、疲弊しきった相手に殺意のこもった目を向けて近づくような奴の言うことなんか聞くもんか」

「!?」

殺意のこもった目?平静を装っていたはずだが、追い続けていたポケモンをようやく捕らえられる。その高揚感から内心が顔に出ていたかもしれない。だが、今はそんなことどうでもいい。こいつ、ただ縄張りを荒らされたから出てきたというわけじゃない。私の顔色を見て、ジュプトルを助けに入ってきた。

「いくら犯罪者でも殺しはいただけないね。この時代の法では死刑なんてないし、必要以上に痛めつけるのはそれこそ犯罪だしね」

「それに彼の目的――時の歯車を集めているようですが、盗れば世界を揺るがすほどの代物をなんの目的もなしに盗むほど愚かには見えません。時の歯車を集めなければならない大切な理由があるはずです」

おまけにただの無知なポケモンかと思いきやこの世界での法を知り、さらにはジュプトルの行動の意図を察して肩を持つ。どうやら普通のポケモンではなさそうだ。もはや面倒などと言っている場合ではない。内心で警戒を強めるが、表情は崩さない。まだ、こちら側に引き込むチャンスはあるはず。

「確かにそうかもしれませんが、ジュプトルは時の歯車を四つも盗んだ大悪党。例え傷だらけの状態だったとしても警戒を怠るわけにはいきません。現に今までもこうした修羅場を何度も潜ってきていますし、殺意を込めるくらいの圧力を掛けなければ足元を掬われてしまいます」

それに、仮に時の歯車を盗む特別な理由があったとしても、すなわち時の歯車を盗んでいいというわけではない。ドククラゲの言うように世界を揺るがすほどの宝なのだから。それにこの惨状、ジュプトルは時の歯車を盗むためなら平然とポケモンを傷つける凶悪犯。もしも死刑が採用されているのであれば下されてもおかしくないくらいのポケモン。容赦なく捕まえることはあっても慈悲を与えるのは筋違いというもの。

「それは違うね」

せっかくジュプトルを捕まえるまたとない機会が巡ってきたというのに目の前で待ったを掛けられてはいら立ちも募るというもの。あの傷ではしばらく動けないとは思うが、万が一にも逃げられでもしたらたまったものではない。世間とは真逆の価値観を持っている異色コンビを早く退けたいところだが、これだけ言ってもまだ異を唱えてくる。なんなんだこいつらは!?今まで会ってきたポケモン達ならば、喜んで私に賛成してきたものを!

「確かに傷つけてるみたいだけど、この場のどのポケモンの傷口を見てもかなり浅い。一文字の線はちょっと深いけど、これって峰打ちの痕だよね?つまり、死なないように手加減したってことだよ」

「あなたは、彼が時の歯車を盗むためならどんなことでもする大悪党だとおっしゃいましたが、そんな大悪党がこのような真似をするでしょうか?」

「あなた達はそう考えるかもしれませんが、世間一般から見ればどちらが正しいかは明白です。仮に良心が働いて手加減していたとしても、瀕死になるほどの重傷を負わせているのですから悪党に変わりはありません」

どうあっても私を信じようとしない二匹にいい加減嫌気がさしてきた。こちらが下手に出ていれば好き放題。これではいつまで経っても埒が明かない。これ以上歯向かうのであれば実力行使もやむを得ないか?

「さて、ちょうど応援も来たみたいだしそろそろ終わりにしようか」

「なに?」

「最後に言っておくよ。僕は君を信じない。必ず化けの皮を剥いでやる」

言うが否や、二匹の姿を黒い煙が包み込む。黒い霧、相手の身体強化を打ち消す特殊な効果を持った霧を発生させる技。一見無意味に見える攻撃だが、自分の周りを包めば煙幕のように相手の視界から外れることができる。真っ黒な煙はすぐに霧散したが、煙が晴れた頃には二匹の姿は跡形もなく消え去っていた。――傷だらけだったジュプトルと共に。

「逃げたか。あと少しというところだったのに」

まさか本当にジュプトルを取り逃がす結果になろうとは。相手を見下すような自信に満ち溢れたツボツボの表情を思い出し、自然と拳を握りしめて舌打ちする。さすがに余裕がなかったのか、時の歯車まで消えていなかったのがせめてもの救いか。ともかく、まだそう遠くへは行っていないはず。逃がしはしない!





すぅっと景色に溶け込むように黒い影が姿を消した数秒後。静寂を取り戻した湖に新たな訪問者が現れた。ブラッキー、ポリゴン、そしてウインディ。ダンジョン内で手分けして捜索する際、リリーフが最後に分かれたチーム、イクリプスのメンバーだ。やっとのことで辿り着いた水晶の湖、最初こそ美しさに感銘を受けていた三匹だったが、すぐに現状を察して小島へと駆け寄った。

「こ、これは一体!?」

「お、おい!しっかりしろ!」

まさに地獄絵図。リリーフを含め、守護者のアグノム、クレスントの二匹まで傷だらけで倒れているという惨状。とっさにヒナタを抱え起こすが、軽くゆすっても目覚める様子はない。もしやと思って体に耳を押し当てると、力強く脈打つ鼓動が聞こえてきてホッと胸を撫で下ろす。

「どうしたんだよ!なにがあったんだ!?」

「うっ……」

唯一反応を示したのはルナだった。他のポケモン達と比べて傷が少ないところを見ると、そこまでダメージを受けなかったのだろう。真っ先に駆け寄ったスカイが抱き起すと、片前足で傷を押さえて辛そうに顔を歪めるものの、意識ははっきりとしていて話せる状態ではあるようだ。

「ルナちゃん、大丈夫か!?」

「あ、う、うん、平気……」

「なにがあったんだ?」

しばらくボーっと辺りを見回していたが、首を数回振ると段々現状を理解してきたのか弱弱しく話し出す。しかし、早々にやられてしまったのか、ジュプトルと戦ったものの油断して倒されてしまったということくらいで詳しいことは覚えていないそうだ。
ぴったりと寄り添い、心配そうに頭を撫でるスカイ。普段とのギャップが半端ないが、スカイのルナに対する気持ちを考えれば特には気にならなかった。しかしその裏で、内心はとても憤りを感じているのがわかる。その矛先はルナを傷つけたジュプトルだろうか。

「……とにかく、まずは傷の手当てをしなければ。他のみんなを呼んでくる」

おそらく命に別状はないだろうが、このまま放っておくわけにはいかない。姿が見えないジュプトルの事は気になるが、今はヒナタ達をギルドに運んで治療することの方が先決だろう。進言したアランはこの場を二匹に任せて来た道を戻る。

「ジュプトルの野郎、ぜってぇ許さねぇ!」

「ああ」

スカイの背中に薄らと漂う赤いオーラは見間違いなんかではないだろう。よりにもよってルナを相手にするなんて、ジュプトルも運がない。今度スカイの前に現れようものなら丸焼きにされることだろう。
しかし、たった一匹でこれだけの数を相手に全滅まで追いやるとはなかなかの実力者だ。この分だと時の歯車も盗られてしまっただろうか?だとしたら相当にやばい状況だが。

「あれは、時の歯車か」

相変わらずルナ以外には目もくれないスカイに(かなり心配だが)この場を任せてざっと辺りを見回すと、湖の中央に幻想的な輝きを放つ歯車を確認できた。時の歯車を見たことはなかったが、一目でわかった。どうやら無事のようだ。ひとまず胸を撫で下ろす。

「ジュプトルは、どこに行った?」

しかし、そうなると不可解な点がある。ヒナタ達を倒したのはルナも言っているし間違いなくジュプトルのはず。なのに、時の歯車が無事で、ジュプトルの姿は見えない。難なく倒したのであれば、予定通り時の歯車を盗んでいるはずだし、逆に負けたのであればここに伸びているはずなのだが。勝負には勝ったが戦いの最中で重傷を負い、回収する余裕がなかったのか、それとも――

「ん?これは……」

まだ近くに潜伏している可能性も考慮し、湖に沿って小島の外周を慎重に歩いていると、ふとある物が目に飛び込んできた。水晶の床に突き刺さったそれは、半分は刃のように鋭く、もう半分は細い結晶。細い方には持ちやすくするためか白い布が巻かれている。ルナティックのメンバーには武器を使っている者もいるが、こんな武器を使うようなポケモンはいなかったはず。それに、これを見ているとなぜだか懐かしさを感じる。まるで、何年も会っていなかった旧友に出会えたかのような感覚。閉ざされた記憶の扉がわずかに開き、とある二つの名が呼び起された。

「無月、それに長……?」





水晶の洞窟を脱出した一行はヨノワールの追跡をなんとか掻い潜り、山を越えてある場所へと辿り着いていた。周りを山で囲まれ、隠れるようにひっそりと存在していたのは小さな集落。と言っても建物はどれもボロボロで、とてもポケモンが住んでいるとは思えない。まさにゴーストタウン。観光で来るには遠慮しておきたいところだが、隠れ家としてはちょうどいい場所。

「ここは……?」

「ここはレンレン村。もっとも、今では廃村になってるけど」

逃げる道中、傷の痛みに呻いていたジュプトルだったが、今では歩ける程度にまで回復することができていた。無論、この短時間で自然治癒能力だけでここまで回復したわけではなく、ツボツボがぶっきら棒に渡してきたジュースを飲んだから。ツボツボは種族柄、木の実を体内で発酵させてジュースにできる能力を持っている。そうして造られたジュースは普通に木の実を食べるよりも効果が高く、即効性も高い。

「はい、木の実ジュース。オレンの実入りだから」

「……すまない」

適当な家の残骸に腰を下ろして一息入れると再びジュースの差し入れが。ひとたび口に含めば木の実の濃厚な味と香りが口いっぱいに広がる。口当たりもよく、のど越しも爽やか。お店に並べても差支えないくらいの逸品だ。ジュースの効果はすぐに現れ、体を蝕んでいた痛みもかなり引いてきた。

「ところで、お前達は何者なんだ?」

ジュースを飲み干し、落ち着いたところで質問を投げかける。助けてくれたことには感謝するが、見ず知らずのポケモンをとっさに助けるなんて只者ではない。あのヨノワールに対して全く臆さず、自分の考えを貫いてこれを実行できるのだから。

「僕は無月。呼び方はなんでもいいよ」

「私は長と申します。無月様のお世話をさせていただいております」

「そうか。俺はジュプトル。……お礼がまだだったな、感謝する」

「んじゃ、さっそく聞きたいんだけどさ――」

お互いに自己紹介が済んだところで本題に入る。どうやら無月もいろいろと聞きたいことがあるようで、こちらが質問するより早く質問で返されてしまった。無月達が助けた理由は云わばただの勘に過ぎない。世間一般から見れば泥棒の逃走を手助けしたことになるため、自分達のした行為が正しかったのか早く確信を持ちたいのだろう。もちろん、助けてもらった恩もある。こちらの聞きたいことはそのあとでも構わない。だが――

「俺は……いや、どうせ言っても信じないだろう。言うだけ無駄だ」

どこから来たのか、なぜ時の歯車を盗むのか。正直に答えてもいいが、普通のポケモンには理解しえないような答えだ。言ったところで冗談だと思われるか、精神の病気を疑われるかだろう。だからこそ、泥棒という形で盗み続けてきたのだから。そんな態度が気に入らないのか、無月は目を半目にして見下すような視線を送っている。

「そんなのわからないよ。とにかく言ってくれない?でないと……埋めるよ?」

「ッ!?」

機嫌の悪そうな声色だったが、特段ドスの利いた声というわけでもなく、ただ静かに呟くように言った言葉。しかし、それを聞いた瞬間背筋にぞくりとした嫌な感覚が伝う。まるで喉元に鋭利な爪を突き立てられているような感覚。こいつに逆らってはいけない、さもなければただでは済まないと本能が告げている。

「わ、わかった、言おう」

「それでいいんだよ」

殺気にも似た威圧感は一瞬で消え失せ、子供らしさすら窺える笑顔を見せる無月。そんな様子を見て長はやれやれといった様子で触手をくねらせた。
とっさに言うと言ってしまった手前、もう後に引くことはできない。こうなったら正直にすべてを話してしまおう。信じてもらえなかったとしても二匹に嫌煙されるだけ。それで二匹が離れていくのなら巻き込まないで済むのだから何の問題もない。

「まず、俺は――未来から来たポケモンだ」

今まで決して誰にも明かさなかった自分の正体。別に隠すつもりはなかったが、未来からタイムスリップしてきたなんて言ったところで相手の反応は目に見えている。だから、言わなかったというより、言う必要がなかったと言える。
話すと言ってしまったとは言え、自分を救ってくれた恩ポケにこんな話をするのはやはり気が引ける。わざわざ探検家の前に立ち塞がってまで助けたポケモンが世迷いごとをほざくようなポケモンだったら失望もかなりのものだろうから。

「へぇ、未来から?それは驚いたね」

「私達と似たような境遇を持つポケモンに出会えるとは思いませんでした」

「信じられないのも無理は……な、まさか信じるのか!?」

浴びせられるであろう罵詈雑言を頭に浮かべて身を屈めていたが、返ってきたのは対して驚いた様子もない口調の冷静な返答。予想外の答えに思わず体勢を崩して尻餅をつく。変わったポケモンだとは思っていた。ヨノワールに歯向かい、自分を助けたのが何よりの証拠。しかし、こうも簡単に信じてもらえるとは思ってなかっただけに拍子抜けというか、ホッとした気がする。

「似たような境遇だと?」

「そ、僕達もこの時代のポケモンじゃない。時間を越えてやってきたから」

「あなたと違うところは未来からではなく、過去から来たということですね」

「過去から来たポケモン……」

今の自分の顔はどうなっているだろうか。きっと驚きや喜び、疑問と言った様々な表情が綯交ぜになったような複雑な顔をしていることだろう。普通のポケモンが自分の話を聞いたらこんな顔になるのではないだろうか。特異な境遇にいながらにして当然の反応ともいえる感情に襲われる。ある意味で貴重な体験と言えるだろう。

「僕達はあるポケモンを手助けするために来たんだよ」

「大げさかもしれませんが、世界の命運にかかわるような重要な任務ですね」

二匹の目に曇りはない。自分に合わせて話しをでっち上げているわけではなく、一語一句すべてが真実だと確信できるだけの力を二匹から感じ取れた。なるほど、確かに境遇が似ているかもしれない。この二匹もまた、世界を護るために立ち上がった戦士というわけだ。

「で、君の目的は?」

「ああ。俺も――世界を救うためにここに来た」

たとえ世界中のポケモンが敵に回ったとしても、身を削って世界を護る。誰も賛同してくれないし、成し得たところで無事では済まない。それでも、守りたいと思う。それが、俺の使命だ。

ウィンデル ( 2015/07/20(月) 18:25 )