第五章
第二十三話:残された可能性
時の歯車を求めて砂漠へと足を踏み入れた私達は、流砂の謎を解き、地底洞窟の奥底に眠る湖を発見した。ヨノワールの予想通り、時の歯車は存在し、時の歯車を護る番人――エムリットとも接触することができた。しかし、同時に盗賊ジュプトルもここの時の歯車の存在を知り、私達は一瞬で倒されてしまう。ジュプトルの目的が時の歯車である以上、こうした事態になるということは当然予測できた。ヨノワールもジュプトルは時の歯車のある場所に現れると踏み、だからこそ時の歯車の捜索を提案した。――だが、早すぎた。ジュプトルの情報収集スピードは予想をはるかに上回り、結果、十分な対策もできないまま戦う羽目になり、時の歯車を奪われる形となってしまった。すぐさまジュプトルを追跡することも考えたが受けた傷は大きく、また、迫りくる灰色の空間から逃げるのに精一杯だったため叶わず、重傷を負ったエムリットを優先してギルドへと戻った。

「――報告は以上です」

プクリン、ヨノワールを含めて弟子達が注目する中、私は昨日体験した出来事を報告する。
一夜明け、チリーンの手当てのおかげもあってか、痕は残るものの傷はだいぶ癒えたようだ。かなりの無茶をしたせいか、ギルドに着くや否や倒れ込んでしまって昨夜は大騒ぎだったようだが、気絶してしまいそこら辺の記憶が少し曖昧だ。治療してくれたチリーンによれば、傷は思ったより深くなく命に別状はないとのこと。ただ、少し痕が残ってしまうかもしれないと言っていた。

「北の砂漠には時の歯車があったのか!」

「しかも流砂の中だって?よく見つけたなぁ」

「はい。でも、歯車はジュプトルに奪われてしまって……ごめんなさい」

カズキも同じように肩から脇腹までを切られていたが、大事には至らなかったらしい。相性が良かった、というのが不幸中の幸いだろう。後は、ジュプトルが手加減していたおかげか。肩ひもがちぎれたバッグの切り口を見たウィンが、これは“みねうち”によるものだと推察していた。確かに、まっすぐ切り下されたにしては切り口が荒々しい。しかし、それでもここまでの傷を負わせられるということは相当な手練れということ。それこそ、ルナティックにも引けを取らないような。

「いやいや、ヒナタ達はよく頑張ったでゲスよ!」

「ああ、そうだとも。逃げずに戦ったその勇気、同じプクリンのギルドの仲間として誇りに思うぞ」

現に峰打ちだったにもかかわらず、エムリットは重傷を負った。命に別状はないとは言うが、しばらくは動けないとのこと。今は経過を見つつ、ユクシーと共にジバコイル保安官が保護している。
私の報告を聞いて、ジュプトルを取り逃がしてしまったことに批判を投げかける者は誰もいなかった。むしろ、よく頑張ったと称賛する声ばかり。しかし、私の表情は晴れない。時の歯車は、その地域の時間を司る世界の秘宝。それを盗ればどうなるか、私はこの目ではっきりと見た。万物が時間を刻むことを封じられ、灰色と化していく光景。このまま時の歯車が盗まれ続ければ、いずれ時間の崩壊は世界中に侵食し、世界のすべてを飲み込んでしまう。ウィン達が告げられた予言もそうだが、それ以前に本能で感じ取ることができる。この世界は今、危機に瀕していると。

「……あれ?ビッパ、それなぁに?」

「ああ、これでゲスか?水晶の洞窟で拾って来たんでゲス!」

あの時、ジュプトルを倒せるだけの力を持っていれば、時の歯車を護ることができれば。悔やんでも悔やみきれない自責の念。暗い表情で俯いている私とは打って変わって、カズキはいたって冷静だった。時の歯車を護れなかったことを悲しみこそしたが、次こそはと瞬時に立ち直る。いつも通りの笑顔で私や弟子達に接している。作り物ではない、純粋無垢な表情で。――私も、見習わなくちゃね。

「まあ、いつの間に。全然気づきませんでしたわ!」

「ビッパ。我々は時の歯車を探しに行ったはずだ。なのに目的を達成するどころかこんなお土産まで拾ってくるとは、お前は一体なんなのだ!」

「うぅ、きれいだったからつい手が出ちゃったんでゲスよ……」

ビッパが手に持っていたのは水色の水晶だ。時の歯車を捜索する際、ビッパ、ダグトリオ、キマワリの三匹は“水晶の洞窟”と呼ばれるダンジョンに赴いた。トレジャータウンから北東に位置し、その名の通り水晶が散りばめられている宝の洞窟。不思議なダンジョン故近づく者は少ないが、一部の盗賊や賞金稼ぎがたまに出入りしている場所でもある。
自然生成されたものにしては形もよく、宝石としての価値もさることながら、目に入ればふと手に取ってしまうような煌めき。思わず持って帰ってきてしまったビッパの気持ちもわからなくもないが、依頼に関しては真面目なダグトリオからの叱責は免れなかったようだ。まあ、ダグトリオも事務仕事を息子に押し付けてサボっているのを何回か見ているのだが。

「ヘイヘーイ!そんなことよりジュプトルの事だぜ!」

「そうだな。だが、次につながる手がかりが……」

世界が危機に瀕しているかもしれない。そのことを忘れて、自分の欲のために水晶を取ってきてしまったビッパは確かに軽率かもしれないが、今はそれよりも大事なことがある。今回、地底の湖から盗られたものを含めると現在わかっているだけでも四つの時の歯車が盗まれている。一刻も早くジュプトルを確保し、時の歯車を取り戻さなければまずい。その危機感は誰もが覚えていることだろう。しかし、ドゴームの言うとおり、次につながる手がかりがない。砂漠の時は運良く見つけることができたが、これでまた振出しに戻った。ジュプトルがどこまで時の歯車の情報を掴んでいるかはわからないが、霧の湖、地底の湖と隠された場所を次々に見つけていることを踏まえると、次の時の歯車の場所もすでにわかっている可能性が高い。対してこちらはなにもない。大幅な情報のアドバンテージをとられている。

「いや、そうでもありませんよ」

今から探したとして、果たして間に合うだろうか?私なりにいろいろと分析してみるが、最低でもジュプトルも時の歯車の場所をまだ知らないという前提がなければ先に見つけるのは不可能に思えた。絶望的な状況。
しかし、ヨノワールは今までの会話からいくつかわかったことがあるという。まず一つ目に、霧の湖の守護者であるユクシー、地底の湖の守護者であるエムリット。この二匹の存在から、時の歯車の守護者の中に“アグノム”がいるのではないかということだ。

「アグノム?」

「はい。ユクシー、エムリット、アグノムの三匹は精神を司る神とされ、知恵、感情、意志の力で世界のバランスを保っていると言われています」

三匹はそれぞれ結束し、世界の均衡を護っている。ユクシー、エムリットの二匹が時の歯車の守護者だったということは、残るアグノムも同じく時の歯車を護っている可能性が高い。さらに言うならば、三匹は湖に住むとされ、現実に二匹が湖に隠された時の歯車を護っていた。ということは、アグノムもおそらく湖に住んでいるはず。

「ただし、ユクシーは高台の頂上に、エムリットは砂漠の地下深くというように普通ではない隠された場所に湖がありました。ですので、アグノムがいる湖も想像を超えた場所にあるのではないかと思われます」

「なるほど、単純に湖を探すだけではだめということか」

「いやいやいやいや!やっぱりヨノワールさんはすごいですね♪」

ユクシーとエムリット。二匹の存在から三匹目の守護者を特定し、かつ調べる範囲をわずかながらも狭めた。ヨノワールの知識により、皆無だったはずの手掛かりの糸を微かながら掴むことができた。その洞察力にペラップが翼をバタつかせて大喜び。他の弟子達も大いに感心していた。さすがは彗星の探検家、その身一つで探検を成功させ、名声を手に入れただけのことはある。

「そうなると、皆さんが調査した“水晶の洞窟”や“東の森”にもまだ謎が隠されているかもしれませんね」

「確かに。ちょっとやそっとじゃ見つからねぇ様に隠してあるなら、念入りに調べ直せばひょっこり見つかるかもしれねぇな」

新たに時の歯車が見つかった北の砂漠は、もともとヨノワールが目星を付けたポイントだ。実際に見つかったということは、同じくヨノワールが示した場所にも謎が残っているかもしれない。ウィンとスカイの言うとおり、調べ直しが必要かもしれない。

「可能性はあるでしょう。そこで、ビッパさんにお願いがあるのですが」

「へ?あっしにですか?」

「あなたの持っている水晶なのですが、少しの間貸していただけませんか?」

「ええ!?嫌でゲス!これはあっしの宝物でゲス!」

ヨノワールに水晶の借用を求められたビッパは、水晶を抱え込むようにして渡すまいと躍起になる。よほど愛着が湧いてしまったのか、必死に拒むビッパの姿に誰もが苦笑いを浮かべた。まさか反論されると思わなかったヨノワールも決して盗ったりするわけではないということを諭しながら再度提出を求めた。
それにしても、一体どうするのだろうか?このタイミングでビッパが水晶を取ってきてしまったことを咎めるわけでもないだろうし、なんの目的が。
ヨノワールの真摯な態度にビッパもとうとう折れたのか、しぶしぶながらも水晶を手渡した。お礼を言いながら受け取ったヨノワールは、傷がつかないよう丁寧に水晶を持つと、私に差し出してきた。

「これを、あなたに触ってもらいたいのです」

「私が?」

「もし、水晶の洞窟に謎が残されているのならば、水晶に触れた時に“時空の叫び”が発動し、何か見えるかもしれません」

なるほど、そういうことか。時空の叫びは、ポケモンや物に触れた時に発動し、そのものの過去や未来を映像として映し出すことができる能力。どういうわけか、私にはそんな人間離れした能力が備わっているのだ。……まあ、今はフシギダネだから人間じゃないんだけどさ。確かに、もしも発動することができれば水晶の洞窟の謎についてわかるかもしれない。私は頷き、水晶を受け取った。

「なあ、時空の叫びってなんだ?」

「ヒナタが持ってる能力だよ。ヒナタはなにかに触れると、たまにそれの過去や未来に起こった出来事を見ることができるんだ」

『えええ!?』

何の説明もなしに行われたヨノワールと私とのやりとり。事情を知らない弟子達から見ればなにをしているのか理解不能な行動だろう。カズキが時空の叫びについて補足すると誰もが目を見開いて私を凝視した。別に隠すつもりはなかったのだが、そういえば言ってなかったわね。注目を浴びてしまい、何となくやりにくい雰囲気となってしまったが仕方ない。目をつむり、水晶に額をくっつける。

「(見えるかどうかわからないけど、集中してみよう……)」

グワンッ――

閉じているはずの視界が歪み、耳鳴りがして、頭の中をかき回されているかのような気持ち悪い感覚。久しぶりに襲って来た酷いめまいが容赦なく私に襲いかかる。水晶に頭を押し付け、少しでも気を紛らわそうと強く握りしめた。
しばらくして頭の中にぼんやりとした白い光が浮かび始める。同時に耳鳴りはさらにひどくなり、甲高い音が脳内に木霊する。輪郭がおぼろげだった光はやがて一筋の線を描き、そして、弾ける。

キーーーン!!

水晶と思しき岩が散りばめられた洞窟内。かなりの広さを誇る空間の大部分は水で埋め尽くされており、湖のようだ。中心には小島のような地形が存在し、そこで二匹のポケモンが争っている。
一匹は盗賊のジュプトル、そしてもう一匹は見たことのないポケモンだが、額に埋め込まれた宝石や二本の尻尾など、その容姿はユクシーやエムリットのものに酷似する。

『うぐぐ……うぁ……』

『もらっていくぞ、時の歯車を!』

アグノムと思われるポケモンにはかなりの傷がある。体を震わせ、やがて地面に倒れ伏したアグノムに対してジュプトルは時の歯車を見据えている。

『だ、ダメ、だ……あれを、盗っては、絶対に……!』

シュピン!

そこで映像が途切れる。先程まで私を苦しめていためまいや耳鳴りは嘘のように消え去り、現実に戻ってきたことを実感した。ちょっと吐きそう……。
い、いや、今はそれより見えたことについてだ。今の映像、ジュプトルが時の歯車を盗もうとしていたシーンで間違いない。広大な湖に時の歯車の守護者アグノムがボロボロになりながらジュプトルの前に立ち塞がっていた。すぐさま見えた光景についてギルドの弟子達に伝える。

「な、なんだってぇ!?」

「ジュプトルがアグノムと思われるポケモンを倒して時の歯車を盗もうとしていただってぇ!!?」

「は、はい」

今までも何度か見ているカズキと時空の叫びについて知っているヨノワールはさほど反応を示さなかったが、初めて見る弟子達は歓声を上げ、すごいすごいと称賛する。ついには拍手までする始末。確かにすごい能力だとは思うけど、そこまでしなくても。というか普段から口うるさいペラップとドゴームが大声でしかも同時に叫ぶものだから倍の倍くらいうるさい。ただでさえまだ少し気持ち悪いんだから頭痛くなるようなことしないでよ……。

「ヘイ!ヒナタ、そのポケモンはアグノムで間違いないのか?」

「あ、はい!ユクシー達と姿がそっくりでしたし、間違いないと思います」

「私もヒナタさんに質問があります。ヒナタさんが見たものは過去と未来、どちらのものだったのでしょうか?」

「それは……」

ヒートアップして落ち着きのないペラップ達と違い、早急に平静を取り戻した弟子達は各々に質問を投げかける。その中の一つ、チリーンの質問に私はとっさに返事ができなかった。時空の叫びは触れたものの過去や未来を映し出す。しかし、見えた映像が過去のものなのか、それとも未来のものなのか私にもわからないのだ。正直に答えると、チリーンは小さく体を揺らしながら不安そうに顔をしかめた。

「そうですか……」

「見えたものが過去か未来かわからないということは、ヒナタが見たものは過去のものということもありうるということか」

そう、ダグトリオの言うとおり、先程の映像が過去の可能性もある。それはすなわち、すでにジュプトルは時の歯車を手に入れてしまっているということ。簡潔に言えば――

「じゃ、じゃあ、もう手遅れってこと!?」

誰が言ったのか、その可能性に気付いた時、まるで時が止まったかのように場がシーンと静まり返った。過去か未来、二つに一つの可能性。もちろん未来である可能性もあるが、過去であった場合盗まれた時の歯車は五つ目となる。時間を司るほどの秘宝だ、そうそう何個もあるわけない。おそらくだけど、これが最後の時の歯車。だとしたら、一部の地域だけにとどまらず、各地のいたるところに時の停止が起こってしまってもおかしくない。そしていずれは、世界も――

「皆さん待ってください!確かに過去が見えたのかもしれませんが、未来が見えたという可能性だってあります」

重苦しい空気が漂う中、自然と弱気になっていた弟子達に活を入れたのはヨノワールだった。ヨノワールの言うことは正論だが、確証もなにもない言葉はいくら有名な探検家の言葉だったとしても下がった士気を取り戻すには今一歩足りない。そこでヨノワールはカズキに一つ確認したいことがあると言った。

「カズキさん、エムリットは時の歯車が盗まれたことを“ユクシーから聞いた”。これは間違いないですね?」

「うーんと……うん、間違いないよ!」

「アグノムの名前は出ましたか?」

「ううん、出てないよ。ここでヨノワールさんに言われて初めて知ったくらいだし」

怒りの感情をむき出しにしたエムリットが言った言葉。隣で聞いていた私もよく覚えている。あの時、エムリットはユクシーからテレパシーで、時の歯車が盗まれたという情報を知り、私達を泥棒だと勘違いしていた。カズキに合わせて私も頷くと、ヨノワールは自信を持って宣言した。

「それなら、まだ可能性はあります!」

『えっ!?』

きょとんとする弟子達にヨノワールは両手を広げて説明する。根拠はエムリットにテレパシーを送ったポケモン。仮にテレパシーを送ったのがアグノムだと言っていれば、先程の映像は過去のものとして間違いない。しかし、エムリットはアグノムではなく、ユクシーからテレパシーを受けた。それはつまり、まだ未来である可能性があるということ。

「な、なるほど」

微弱な可能性がほんのわずかだけど高まり、弟子達の不安を取り除く。名前を出さなかったというだけの不確かな根拠だが、なにも根拠がないのと比べたらずっと高いように感じる。
さらにもう一つ、確実に言えることがある。水晶に触れたことにより時空の叫びが発動したということは、水晶の洞窟のどこかに時の歯車があるということを意味している。

「確かにもう手遅れかもしれません。しかし、まだ間に合う可能性だってあるんです!」

このまま何もしなければ、各地の時間が止まってしまう。可能性が1%でも残されているなら、それに賭けてみてる価値は十分にある。時空の叫びによって時の歯車の場所はかなり絞られた。ヨノワールの言うとおり、間に合う可能性は十分にある!

「その通りだな、ヘイヘイ!」

「さすがはヨノワールさんでゲス!」

「きゃー!燃えてきましたわー!」

「みんなで調べようぜ、水晶の洞窟を!」

未来である可能性に賭け、弟子達は次々に声を上げた。一時はお葬式でも始まるのかというくらいどん底だった士気も徐々に取り戻し、元のプクリンのギルドの姿が蘇る。

「ヨノワールさん、これはもう行くしかないようですね。行きましょう!ギルドを上げて、水晶の洞窟へ!」

プクリンのギルドが総出でかかれば例え時の歯車であろうとも見つけられるはず。団結し、一体となった弟子達を前にして、ペラップは親方であるプクリンに号令を求めた。しかし――

「……………………」

「……親方様?」

返ってきたのは長い沈黙。訝しげに顔を覗き込んでみても口を半開きにしてぱっちりと目を見開いているプクリンの表情は変わらない。たっぷりと五呼吸くらいおいても返答がないので、さすがに不審に思ったペラップが顔を近づけると、

「……ぐぅ………」

「へっ?」

微かに開いた口から吐息は時に雑音を響かせながら規則的なリズムを刻んでいる。そういえば忘れていた。桃色でフレンドリーでいつも何を考えてるか全く読めないギルド一番の妖精様は朝礼の時にいつもこうなる。見た目は起きているように見えるが、これはどう見ても――

「(まさか親方様……)」

「(寝てますわね。しかも、目を開けたままで)」

「(いつから寝てたんでゲスかね?)」

「(もしかして、最初から寝てたんじゃ……)」

「親方様ー!親方様ー!」

ひそひそとざわめきだす弟子達の声を背中に感じながらなんとかプクリンを起こそうと羽をバタつかせるペラップ。今起こせばまだ間に合うと心の中で思っているが、どう考えても手遅れなのは言うまでもない。

「……はっ!」

「親方様!」

「ペラップ!」

何度か顔の前でバタバタしていると、ようやくペラップの祈りが通じたのかお目覚めになられたようだ。しかし、まだ問題は残されている。もしもプクリンが初めから寝ていた場合、いきなり号令を!と言われても何のことか理解できないだろう。つまり、今ペラップに課せられた使命は今までの話を簡潔でかつわかりやすくプクリンに伝えることだ。長年プクリンと共に過ごし、培われた感覚で瞬時に自分の使命に気付いたペラップは数秒で話をまとめるが。

「はい!えー、親方様、最初から申し上げるとですね――」

「みんな!ジュプトルを捕まえるよー!」

『お、おおーッ!!』

ペラップの苦労などどこ吹く風。さっき寝たばかりで話しを全部聞いていたのか、睡眠学習したのかは知らないが、説明しようとしたペラップを遮りまだ頼まれてもいない号令をかける。突然の事だったが、弟子達も高らかに雄叫びをあげた。

「行きましょう!水晶の洞窟へ!」

「どこかに謎があるはずだぜ!ヘイヘイ!」

「うしッ!気合入れていくぞ!」

「私も水晶の洞窟に向かいます。皆さん、頑張りましょう!」

「ヨノワールなんもいるなんて心強いですね!」

「きゃー!張り切っていきますわよー!」

各々探検の準備を整え水晶の洞窟へと向かう弟子達。いつにもまして気合が入っており、今回の探検がいかに大切なことか再認識させてくれた。その後に続き、私達も梯子に手を掛ける。残された可能性、次こそは必ず止めてみせる!

「ヒナタ、頑張って行こうね!」

「ええ、もちろん!」

先程までの大所帯が嘘のように静まり返る朝礼広場。誰もいなくなった部屋の真ん中で、一羽の鳥がうなだれていた。

ウィンデル ( 2015/05/14(木) 23:38 )