第二十話:盗賊ジュプトル
「なぜ、オレ達だとわかった?」
荒れた荒野に響く雷鳴。薄暗い空の下で、私達と対峙するドクローズのリーダー――スカタンクは不思議そうに顔をしかめた。
ドガースとズバットから水のフロートの話を聞き、これは利用できると手紙を置いてリリーフを呼び出し、レントラー達と戦わせる。これが作戦だとも知らず、リリーフは筋書き通りに行動してオレ達に痛めつけられるはずだった。
なのに――
「あなた達の考えそうなことですからね。それに、手紙に自分の語尾を付ける人なんて初めて見ましたよ」
「クククッ、そうだ。お前達がレントラーにズタボロにされたところでさらに痛めつけてやろうと思ってたよ」
レントラーと戦わせるまではよかった。だが、そこにヨノワールが止めに入ってくるのは計算外だった。
リリーフが苦戦して弱っているのは確かだが、ヨノワールが来たせいで出ていくに出れなくなってしまった。こうなっては仕方ない。ここは出直すかと考えてたところで二匹揃って見つけやがった。
ヨノワールはともかく、あんな弱そうなパートナーを持ってるあいつがなんで気づける。
「なぜそんな真似を?」
「遠征の時は胸糞悪いキュウコンのせいでお宝を取り逃したからな。その腹いせだ」
例えヨノワールが相手だろうと物怖じはしない。半ば開き直っているのかもしれないな。だが、遠征の時のことを思い出せばそんなことはどうでもいいことだ。
お宝まであと一歩というところでプクリンに連れて行かれ、隙を見て脱出してやろうと思えば一緒にいたキュウコンに遊び相手になれと言われ、こっちの意見なんて聞かずに問答無用で“鬼火キャッチボール”だぁ?ふざけんじゃねぇ!
「つまり八つ当たりですか。そんな理由でリリーフを襲うとは」
「ふんっ、そんなのオレ達の勝手だ」
だが、仕返ししようにもあのキュウコンは意外にも強い。それなら一緒にいたイーブイでもいいかと思ったが奴も強かった。なら、残るのは弱そうなリリーフだけ。
この際仕返しできれば誰だっていい。なにかにストレス発散しないとむしゃくしゃして仕方ねぇぜ。
「ところで、その作戦が破られた今、あなた達はどうするつもりですか?」
「そうだな。リリーフだけならこのまま痛めつけてやろうと思っていたが、天下のヨノワール様が相手となっちゃあ話は別だわな」
さすがにヨノワールに勝てるなんて思っちゃいない。ちっ、こいつさえ来なけりゃ少しは楽しめたものを。
「ずらかるぜ!」
『ヘイ!』
逃げるのは癪だが仕方ない。ここで負けたらまたストレスが溜まっちまうからな。
子分を引き連れ一目散に。あいつらが追ってくる様子はなかった。
「もう!今度という今度は絶対許さないからね!!」
まったく、逃げ足だけは早い奴らだ。ヨノワールを見て分が悪いと踏んだのか、ドクローズは一目散に逃げ出していった。胸糞悪いキュウコンがどうのとか言ってたけど、もしかしてルナの事だろうか?確かに遠征の時一緒にいたけど、一体なにをしていたのやら。
「お兄ちゃん、水のフロートが返ってきたよ!」
それはともかく、無事に水のフロートを取り返すことができたので、さっそくマリル達に返してあげることにした。
家に行こうと思ったけど、カクレオン商店の前にいたのを偶然見つけたのでその場で手渡した。
「ルリリを助けていただいた上に今度もまた……本当にありがとうございました!」
「いやいや、当然のことだよ!それにお礼ならヨノワールさんに言ってくれるかな?」
「今回の件は、ヨノワールさんがいなかったらやられていただろうしね」
トランポリンのように尻尾の上で跳ねて喜びを表現するルリリに目に涙を浮かべて何度もお礼を言うマリル。感謝されて悪い気はしないが、今回感謝すべきはヨノワールだろう。
ドクローズの作戦を見破っていたとはいっても完璧じゃなかったし、最後の攻撃を食らっていたら本当に筋書き通りになっちゃってたかもしれないし。
カズキの言葉を受けて二匹はヨノワールにもお礼を言う。
「いやぁ、さすがはヨノワールさんですね!でも、リリーフもすごいと思いますよ?今回もしっかり依頼を成功させましたし、ルリリちゃんの時もすぐに場所を突き止めていち早く駆けつけましたしね!」
「ああ、あれは突き止めたというより偶然ヒナタが夢を見て……」
マリルの案内があったとはいえ、誘拐されたルリリの居場所をいち早く探知し救出したことは、傍から見たらすごいことなのかもしれない。しかし、実際は変な予知夢のおかげ。トレジャータウンでスリープとぶつかった時にめまいを起こし、その時見えた光景が大きなヒントになったから。
原因はわからない。わかっているのは私がなにかに触れた時にそれの過去や未来が見えるということだけ。ここだけ聞くと便利な能力かもしれないが、発動するタイミングは完全にランダムなせいで見たい時に見れるわけじゃないから困り者。ついでにめまいでスッゴク気持ち悪くなるし……。
「夢?夢とはどういうことですか?」
「どういうって、えーと……あっ!ヨノワールさんならわかるかも!!」
すぐさま居場所を特定することができたのは、私が夢を見たからだと知っているカズキは意味を理解できるけど、なにも知らないヨノワールが聞いてもなんのことかわからないだろう。しかし、経験豊富なヨノワールならば説明すればこの現象がなんなのかわかるかもしれない。
「なにかに触れた時にめまいに襲われて過去や未来の光景が見える、というものなんですけど」
「なっ!?そ、それは、“時空の叫び”では!?」
私の説明を聞くなり、ヨノワールは血相を変えて叫んだ。普段は冷静な対応を心掛けるヨノワールが取り乱している。滅多に見せない表情にカズキだけでなく、カクレオンやマリル達もぽかんと口を開けていた。
この反応、明らかにめまいについて知っている。なにかに触れたらそれの過去や未来が見えるなんて能力、持っているポケモンなんてそうそういないはず。もしかしたら、ヨノワールなら私のこともなにか知っているんじゃないかな?
「……ヨノワールさん、ちょっと相談したいことが」
少し迷ったが、ここはヨノワールの知識に賭けてみることにした。
失われた私の記憶。正体不明の能力について知っているらしいヨノワールなら、もしかしたら知っているかもしれない。以前は私の友達かなにかだったのではないか、と淡い期待をしつつ、私達は海岸へと向かった。
わざわざ海岸まで移動したのには理由がある。ヨノワールが叫んだことでトレジャータウンの住人の視線が集まり話ずらい状況だったというのもあるが、この海岸は私が倒れていた場所だからというのが一番の理由だ。私のことを説明するにはうってつけの場所だろう。
「――ふむ。それで、この辺りに倒れていたというわけですね?」
「はい」
私が倒れていた場所は、入り口から少し奥に入った波打ち際。ちょうど、海岸の洞窟の入り口のすぐそばだった。実際にその場に立ってみると、寄せては返すさざ波が足を濡らしては引いていく。
唐突な相談にもヨノワールは快く応じてくれた。だからこそ、包み隠さずにすべてを話す。私がここで倒れていたことや記憶をなくしていること。そして――
「ヒナタは、元は人間だったらしいんだ」
「えっ、人間!?で、でも、どう見てもポケモンの姿をしてますよ?」
私が続けようとしたところで、傍観していたカズキがおずおずと口を開いた。
元は人間だった。言葉だけ聞けば、つまらない冗談を、と思うかもしれない。ヨノワールもそんな事例は聞いたことがないらしく、見開いた目で私の体をまじまじと観察してくる。しかし、どんなに見つめても瞳に映るのはフシギダネの姿。訝しげに表情を歪めるヨノワールを見れば、疑っているのは明白だ。
「うーん、そこが謎なんだよ。気がついたらポケモンになってて、人間の時の記憶もないみたいだし」
「覚えているのはポケモンについての知識や自分が人間だったこと。そして、名前だけでした」
状況から考えると、私はなんらかの理由で遭難してこの海岸まで流れ着いたというのが妥当な考えだろう。過酷な体験にショックを受けて記憶を失ったと考えれば辻褄も合う。しかし、そうだとしてなぜポケモンになってしまったのかが説明できない。カズキの言うとおり、それが一番の謎だ。
「……あなたは、自分の名前を覚えているとおっしゃいましたね?」
怪訝な表情は変わらないものの全く信じていないというわけでもないらしい。組んでいた手を解いて尋ねてきた。
私が人間だったことを証明するものはほとんどない。人間の時に身に着けていたであろう服もないし、身体に目立った特徴もない。唯一あるとすれば“ヒナタ”という名前だけ。その名前を伝えると、ヨノワールは呆然とした表情でゆっくりとそれを繰り返した。
「ヒナタ、さん……」
「なにか心当たりはありますか?」
心の中で祈りつつヨノワールに問いかける。無くした記憶の中に残ったただ一つの希望。自然と体に力が入る。
カズキも同様に固唾を飲んで見守る中、ヨノワールが出した答えは――
「……うーん、残念ながらなにも」
「そっかぁ、ヨノワールさんでもわからないかぁ……」
世の中に知らないものはないと豪語されるヨノワールでも人間の私のことは知らないようだ。がっくりと肩を落とすカズキ。大きな期待が深いため息となって吐き出されていく。
探検を続けていくうちに自分の正体もわかるかもしれない。カズキと出会ったあの日、胸に秘めていた想いがようやく叶うと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。――名前を聞いた時、一瞬だけ笑ったような気がしたけど思い過ごしだったのかな?
「しかし、夢については聞いたことがあります」
「ホント!?」
「ええ。“時空の叫び”と言って、なにかに触れた時、稀に時空を超えた映像が夢となって現れる、というものです」
ヨノワールが教えてくれた内容はあのめまいと酷似していた。自分が何者なのかを知ることはできなかったが、それと同じくらい重要な情報。奇妙なめまいの正体がようやくわかった。
エスパータイプのポケモンの中には“未来予知”ができるポケモンもいるが、時空の叫びはそれとはまた違うようだ。触れさえすれば限りなく近い未来だけでなく、遥か先の未来や遠い過去でも見通すことができる。
「そんな能力が……」
改めて実感してみるととんでもない能力だと思う。スリープの時にしろ滝壺の洞窟の時にしろ、時空の叫びがなければ依頼を成功させることはできなかった。ダンジョンに仕掛けられた謎や罠を見破ることもできるし、あるいはポケモンに触れることで、これからなにをするか、なにをしてきたかを見ることができる。神にも匹敵する力。問題があるとすれば、触れたら必ず発動するわけではないし、見たい映像を決められるわけでもないこと。気まぐれに発動し、気まぐれな映像を見せる。激しいめまいを伴いながらね。
「よし、決めました!」
『えっ?』
「私もヒナタさんに協力しましょう。もっとも、正直に言うと私に知らないことがあるのは悔しい!というのが本音なんですが。ハハハ!」
有名探検家としてのプライドか、単に親切心からなのか。任せてくれと言わんばかりにドンと胸を叩きながら協力を申し出るヨノワール。お店の前の時のように取り乱す姿も珍しいが、こうして豪快に笑う姿もまた珍しい。別にヨノワールという探検家が普段どんな表情をしているかなんて私は知らないけど、なんとなくイメージとして。
「ホント!?ヨノワールさんがついてくれるなら心強いよ!」
とはいえ、協力してくれるポケモンがいるというのは心強い。こんな話を信じてくれるポケモンなんてそうはいないだろうしね。それも優秀な探検家とあれば言うことなしだ。思わぬ助っ人にカズキも大いに喜んでいる。
バサッ、バサッ
「ん?あっ、ペリッパーだ」
カズキが羽音を聞きつけ、空を見上げたのは、話が纏まってヨノワールと握手を交わした時の事だった。つられて見上げてみると、無数に飛び交う鳥ポケモンの姿を確認することができた。
つぶらな瞳に身体の半分はあろうかという大きな嘴を持つポケモン――ペリッパー。彼らの仕事はギルドの掲示板に張ってある依頼書や道具を配達する運び屋。各地に連絡所があり、大きな口に荷物を入れて日々配達に勤しんでいる。ペリッパーが飛んでいることは特段珍しいことでもないが、今のように数十匹が一斉に飛び交う姿は異常だ。なにかあったのだろうか?
「おーい!!」
「あれ、ビッパ先輩?どうしたんですか、そんなに急いで」
大量のペリッパーに続き、海岸へとやってきたのは弟子の一匹であるビッパだ。息を切らせて走ってきたのを見るとやはりなにかあったらしい。
「はぁはぁ、召集がかかってるでゲス!ギルドの弟子はすぐ集まるようにと!」
よっぽど急いできたのか、苦しそうに表情を歪めながらも必死に言葉を紡いでいる。ギルドの緊急召集。私がギルドに入門して以来そんなことは一度もなかった。よほどのことが起こったと肌で感じ気を引き締める。
「やっぱり、なにかあったんだ!」
「カズキ、ギルドに戻るわよ!」
「私も行きます」
「い、急ぐでゲス!」
こういう急いでいる時にはギルドの立地条件は少し不便だ。小高い丘の上に建てられているギルドに行くためには長い階段を登らなければならず、それも走って登るとなるとさっきのビッパの疲れようも頷ける。息を切らせながらもなんとか階段を登り切り、門をくぐってすかさず梯子を降りる。非常事態だからか、ギルドに入る際の足形鑑定はされなかった。
「もうみんな集まってるでゲス!」
地下一階まで降りると掲示板の前に弟子達が集結していた。親方のプクリンを初め、おしゃべりなペラップも陽気なキマワリも、いつもは無表情のグレッグルさえ深刻な表情で掲示板の一点を見つめている。
「あ、ヒナタさん!どうやらかなり深刻な事態になってきたようです」
到着した私達に気付いたウィンが青ざめた顔で近づいてきた。召集がかかった上、弟子達の表情を見れば状況は緊迫しているのはわかる。ウィンに状況を尋ねると、掲示板に張られている一枚の依頼書を見るように言われた。
通常の依頼書ではなく、文字の代わりにでかでかと描かれたポケモンの似顔絵。そして下に書かれた懸賞金額。これが意味するのはお尋ね者討伐の依頼書ということだ。それも高額なのを見ると相当な極悪ポケモンのようだ。
「いったい、なにがあったの?」
「時の歯車が……また、盗まれたのだ」
『ッ!?』
時の歯車が盗まれた。苦々しい表情で答えたのはペラップだった。
もう知っているとは思うが、時の歯車は森や鍾乳洞、湖といった隠された場所に存在し、各地の時を護っていると伝えられる秘宝中の秘宝。それを盗ったらとんでもないことになるとわかっているが故にどんな大悪党でも盗まない神秘の存在なのだ。それを盗んだらどうなるか?今まで前例がなかったことだが、最近起こった二つの事件でその均衡は破られる。報告によれば、時の歯車が盗まれた地域は風も吹かず、葉に着いた水滴すら流れ落ちることのない灰色の空間が広がり、まさしく時が止まったかのような状態だという。
「こ、今度はどこの?どこの時の歯車が!?」
「そ、それが……」
世界を揺るがすほどの秘宝。本来ならば盗まれるなどあってはならないことだ。しかし、犯人は一つでは飽き足らず二つ。そして今、三つ目の時の歯車を盗んだ。
カズキに場所を聞かれ、言いよどむペラップ。大変な事態に動揺しているのもあり、音符のような頭から冷や汗が流れ落ちる。だが、動揺している理由はただ単に時の歯車が盗まれたからというわけでもなさそうだ。
「どうしたんでゲスか?なにか言いにくいことなんでゲスか?」
「まさか……」
ペラップが言いにくそうにしている理由には心当たりがあった。それはつい数日前、ギルド総出で遠征に出かけた時のこと。
今まで開拓できなかった濃霧の森の謎を解き明かし、湖の番人との闘いを経てようやく辿り着いた霧の湖。そこに眠る財宝は――。
「そう、そのまさかですわ」
「今回盗まれたのは……霧の湖の時の歯車だ」
「そ、そんな!?あそこに時の歯車があることは僕達しか知らないはずだよ!?」
湖の番人であるユクシーは、時の歯車を護るために湖を訪れた者の記憶を消し、存在を隠してきた。しかし、そんな中でユクシーはギルドのことを信用し、湖で見た光景を記憶にとどめてくれた。絶対に口外しないと約束した上で。
予想が的中してしまい、顔をしかめる。これではユクシーに申し訳が立たない。
でも、犯人は一体どうやって時の歯車のことを知ったのだろうか?カズキの言うとおり、霧の湖の時の歯車の事はギルドのポケモンしか知らないはずなのに。
「ま、まさか、ギルドの誰かが……?」
「カズキ!!」
「そんなわけあるか!」
「みんな約束を破るようなポケモンではありませんわ!」
単純に考えれば、時の歯車の存在を知っているギルドの誰かが盗んだ。あるいは、犯人に告げ口して盗ませたと考えるのが普通だろう。しかし、優しさの塊のようなギルドの弟子達が約束を破るとは到底思えない。もちろん、親方のプクリンもだ。断言できるからこそ、即座に反論することができた。
「……ごめん、そうだよね。そんなことありえないのに、ホントにごめん!」
「いや、そう思うのも仕方のないことだ。我々が遠征に行った直後にこうなったわけだからな」
思い直し、迂闊な発言をしてしまったことを謝罪するカズキ。しかし、時期的に考えてもその可能性があることはペラップも理解しているようだ。そんなこと考えたくないが、そうとしか考えられない状況。一体どうして――
「ちょ、ちょっと待ってください!あそこに時の歯車があるだなんて私初めて聞きました!それに、今回の遠征は失敗だったんじゃなかったんですか!?」
集まったポケモンの中で唯一事情を知らないヨノワールは焦ったように声を上げた。ユクシーとの約束を守るため、ヨノワールには遠征は失敗に終わったと報告していた。だから、当たり前のように時の歯車の場所を知っている弟子達について行けなかったのだ。約束だったとはいえ、嘘の情報を流してしまったことをプクリンが詫びる。
「ヨノワールさん、ごめんね?」
「い、いえ、そういう事情ならば仕方がないですよ」
「ともかく、犯人はユクシーを倒し、時の歯車を盗んでいったようだ」
「そ、そうだ!ユクシーはどうなったの!?」
時の歯車が盗まれたということは、それを守護していたユクシーも当然襲われたということだ。それに気づいたカズキが取り乱すが、心配ないと返される。
怪我の治療にあたったというチリーンによれば、ダメージは大きかったものの命に別状はなく、今はジバコイル保安官に保護されているとのこと。ギルドの食事係兼医療班のチリーンが言うのだから問題ないだろう。ほっと胸を撫で下ろす。
「そ、それで、犯人は誰なんですか?」
「あれですよ」
ウィンが指差したのは一枚の依頼書。緑色の体に頭から伸びる植物の蔦のような長い房、黄色い瞳は相手を射抜くように鋭い。これは、ジュプトルというポケモンだ。こいつが、時の歯車を盗んでいる犯人……!
「ユクシーの証言から犯人を特定することができた。このポスターは、つい先ほど一斉に指名手配されたものだ」
「なるほど。大量にペリッパーが飛んでたのはそのせいか」
「ジバコイル保安官も事態を重く見てジュプトルに多額の懸賞金を掛けた。みんなも協力して、ジュプトル逮捕に全力を尽くしてくれ!」
時の歯車を盗み続ける盗賊をこのまま野放しにするわけにはいかない。なんとしてでも捕まえなければ世界そのものの時間が止まってしまうかもしれないのだ。
……ん?待って、世界そのものの時間が止まるってまさか!?
――世界の時間が止まる時、ヒナタという人間が世界を救う――
数日前、ウィンが言っていた話と今の状況は似ている。過去の世界で賢者と呼ばれるポケモンが予言した未来は、これのことを言っていたんだ!
「プクリンさん、大体事情はわかりました。私もジュプトル確保、お手伝いしましょう」
「うん、ありがとうヨノワールさん!プクリンのギルドの名に懸けて、絶対に捕まえるよ!!」
『おおーーーーッ!!!』
もしそうだとしたらなおさらジュプトルを止めなければならない。言いようのない使命感をプクリンの号令に続く弟子達と同じように怒号に表す。
特別な力があるとかないとかそんなことはどうでもいい。困っている者を助けようとするのは、人として当然の行動なのだから。