第五話:時空の叫び
昨日、初めての依頼を無事に達成したのにもかかわらず言いようのない敗北感を味あわされた私達は、若干ふてくされながらも今日の朝礼に参加していた。
朝から気分がよくない。みんなで斉唱する誓いの言葉も半ば投げやりになりながらぼそぼそと呟く程度になっている。
『みっつー!みんな笑顔で明るいギルド!』
そんなに根に持つタイプではないと自負しているつもりだったが、どうやら違ったらしい。
目の前で高らかに掛け声をかけているペラップが憎たらしく見えるわ。
――いや、こんなこと言っても何か変わるわけじゃないんだ。少し落ち着こう。
「ヒナタ?朝礼終わったよ?」
「え?あ、うん」
カズキにそう言われ、頭を振ってネガティブ思考になっていた脳を切り替える。
よし、今日も頑張ろう!
「あー、お前達。ついて来てくれ」
「ペラップ、さん。はーい……」
ポジティブに向かい始めていた思考がペラップの顔を見た途端ネガティブに戻り始めたのは気にしないでおこう。
だめだめ、こんな事じゃこの先やっていけない……。
見えない何かと闘いながら、それでも先を行くペラップを追いかけていくと、昨日掲示板を見たフロアに着いた。
ただ、昨日は右側だったのに対して、今日は左側にペラップが立っている。
「今日も依頼ですか?」
左側の壁にも同様に大きな掲示板が設置されており、依頼書らしき紙が所狭しと貼られている。
しかし、その紙にはポケモンの写真が描かれており、昨日の依頼書とは少し違う感じだ。
「いや、今日は別のことをやってもらう」
「なんですか?」
「お尋ね者の退治だ」
お尋ね者、という言葉を聞いてカズキの顔がさぁーっと青くなっていくのが見て取れた。
いや、臆病なのは知ってるけど聞いただけで震えないでよ。
カズキの様子を見て苦笑いを浮かべるペラップだが、片翼で掲示板を指さし説明を続ける。
「ここに描かれているのはみんなお尋ね者だ。
お尋ね者には懸賞金がかかっていて捕まえればそれがもらえるんだが、最近はそう言った輩が多くてね。みんな手を焼いてるんだよ」
「そ、そそ、そんな悪者と、たた、戦えって言うのぉ!!?」
「カズキ少し落ち着いて」
体が震えてる上に声が裏返ってるし……。こんなんでよく探検隊になろうなんて思ったわね。
「そんなに慌てるな。悪党って言ってもピンからキリまで様々だからな。見習いのお前達にいきなりSランククラスの奴を捕まえてこいだなんて、そんな無茶苦茶言わないさ♪」
「で、でも、悪い奴には変わりないんでしょ?僕、そんなの無理だよぉ……」
まあ、確かに懸賞金がかけられるくらいだからダンジョン内でたまに襲ってくるポケモン達とは比べ物にならない強さを持っているのだろう。
まだノーマルランクの私達に倒せるだろうか?
ちなみにペラップの言ったSランクとは依頼の難易度であり、E、D、C、B、A、Sという風にアルファベットで難易度が決められており、ランクが上がるにつれて難易度が上がってくる。つまりSランクはかなり強いってことだ。
昨日私達がこなした依頼は最も簡単な部類のEランク。Sランクなんてまだまだ先の話だ。
「まあ、確かに準備は必要だな。よし♪
おーい、ビッパ!」
「はーい、でゲス!」
カズキの様子を見かねたペラップが梯子の方に向かって呼びかけると、息を切らせながら一匹のポケモンが上がってきた。
薄茶色の丸々とした体に大きく突き出した前歯が特徴のポケモン。そう、ビッパだ。
「はぁはぁ、何でゲスか?」
「おお、ビッパ。こいつらの事は知ってるな?新入りのチームリリーフだ。
こいつらにトレジャータウンを案内してやってくれ♪」
「了解でゲス!」
前足をあげて敬礼のポーズをとるビッパ。それを見たペラップは満足げな微笑みを浮かべてその場を後にした。
確か、朝礼の時にいたわよね?なんだかちょっと頼りなさそう……。
失礼だと思いつつも心の中で率直な感想が浮かんできてしまう。語尾も変だし。
「ううっ……」
あれ、ビッパが震えてる?――というか泣いてる!?
「ど、どうしたんですか先輩?」
え、もしかして心に思ってたことしゃべってた?そ、そんなことないよね!?
動揺したものの平静を装って話しかけてみる。
「ぐすっ、気にしないでくれでゲス……。ただ、あっしにもやっと後輩ができたと思うと嬉しくて、つい涙が……」
「な、なるほど」
つまり、感動しているわけね。ちょっぴり一安心。
それにしても、やっと後輩ができたってことは私達が入る前はビッパが一番の新入りだったってことか。なんだか親近感湧くなぁ。
ちょっと涙もろいみたいだけど。
「さ、さあ、それじゃあトレジャータウンを案内するでゲスよ。ついてくるでゲス」
嬉し涙を拭うと元気よく声をあげて梯子を登っていくビッパ。
ようやくできた後輩を前に気分が高揚しているらしい。
ともあれ、トレジャータウンを案内してくれるそうなのでついていくことにした。
トレジャータウンというのはギルドの入り口から右手に見える町の事らしい。
この町は探検隊ギルドの城下町というだけあって、それを支援する店がたくさんあるようだ。
カズキはこのトレジャータウンの出身らしく、ビッパと一緒に丁寧に教えてくれた。
探検に役立つ道具を売っているカクレオン商店や預けた道具が絶対になくならないと評判のガルーラの倉庫、技の連結ができるエレキブル連結店など様々な店を一つ一つ見て回り、町の広場で一息つく。
「……とまぁ、大体こんな感じでゲス」
「ありがとうございます先輩。とてもわかりやすかったですよ」
さすがに一度に全部は覚えられなかったけど、大体は頭に入ったわね。
カズキもトレジャータウンには詳しいみたいだし大丈夫かな。
「そんな、照れるでゲス……ぽっ。
じゃあ、あっしはギルドの地下一階にいるでゲス。準備ができたら来るでゲスよ」
顔をほんのり赤らめながら足早に去っていく先輩の姿に私は少し笑ってしまった。
失礼かもしれないけど、ちょっと可愛い。
「ヒナタ、道具を見てみたいからカクレオン商店に行こうよ!」
「ええ。でもその前に倉庫に寄っていい?」
「なんで?」
「昨日いろいろ拾ったからバッグを整理したいのよ」
「なるほど。じゃあ行こうか!」
トレジャータウンは中央に流れる川を挟んで西側と東側に分かれており、東側の広場には町に住むポケモンや探検隊の面々が集まり、とても賑やかな場所になっている。
一方で西側は探検に役立つ施設が多数あり、今私達がいるガルーラの倉庫も西側にある。
「こんにちは!」
「はい、こんにちは。――おや、カズキ。今日はガールフレンドでも連れてきたのかい?」
「なっ!?」
い、いきなり、なななにを!!??
ど、動揺したらダメだ……深呼吸深呼吸。すーはーすーはー。
「ち、違うよ!僕達探検隊になったんだ!」
顔を赤らめてわたわたと両手をばたつかせながらカズキも必死な様子。
この人――いや、ポケモンだけど、さらっととんでもないことを言うわね……。
「ほぉ、とうとう決心がついたんだね。えらいえらい」
「ぼ、僕だって男だもん!やればできるよっ!」
……まあ、カズキも頑張ったかな。ほとんど私がやってた気もするけど。
ガルーラに頭を撫でまわされてわたわたしてるカズキにそんな無粋なことは言わないけれど。
「じゃあ、一流の探検隊目指して頑張るんだよ。何か大切なものがあれば、このガルーラおばちゃんがしっかり預かってあげるから!」
「あ、それじゃあさっそく――」
とりあえず昨日ダンジョンで拾った道具を整理しておきましょうか。
みんな泥で汚れてたり水に濡れてたりしてたはずなんだけどなぜかきれいになっているのはなぜだろう。
そんな不思議現象に首を傾げながらも特に考えることはしないでおくことにする。
この世界では私の常識はあんまり通用しないのは不思議のダンジョンで大体わかった。
「それじゃ、道具を預けたい時はいつでも来てね」
「わかりました。では、よろしくお願いします」
探検に必要なものがまだよくわからないので全部預けてしまったがどうしよう。
これからお尋ね者を退治しに行くわけだし、お店で何か買っていかないとね。――お金少ないけど。
「ヒナタ、行こう?」
「あ、うん」
カズキに手(ツル)を引かれて少し歩くとお目当てのカクレオン商店が姿を現す。
兄弟のカクレオンが仲良く経営しており、兄は木の実などを。そして色違いの弟の方は技マシンなど貴重なものを扱っている。
「いらっしゃーい!」
「カクレオン商店にようこそ!」
営業スマイルを振りまいて威勢よく声を出すカクレオン兄弟。
それに導かれるままに店の中を覘(のぞ)くと、段々になっている棚に様々なアイテムが陳列されていた。
「うーん、何買おうかなぁ」
「探検に行くならオレンの実がお勧めですよ!体力を回復する効果がありますから」
しばらく何を買おうか悩んでいると親切にもカクレオンが商品を一つ手に取って渡してくれた。
手の平ほどの大きさで全体的に明るい青色をしている木の実――オレンの実だ。
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、いいんですよ!さっきガルーラおばさんとの会話をちらっと聞きましたが、カズキさんもようやく探検隊になったんだし、道具の事でわからないことがあったら何でも聞いてくださいね!」
「ぼ、僕頑張ります!」
ガッツポーズを見せて意気込むカズキ。
ガルーラの時もそうだったけど、カズキってこの町のポケモン達に好かれているのね。――危なっかしくて放っておけないだけかもしれないけど。
「それじゃ、そのオレンの実は探検隊になった記念ということでプレゼントしましょう!」
「え、ほんと!?」
「はい!これから探検隊の修行頑張ってくださいね!」
カクレオンの粋な計らいに思わず顔がほころぶ。
見事に依頼をこなして見せたのにもかかわらず報酬が十分の一というぼったくりにもほどがあるどこぞの音符鳥とは雲泥の差だ。
お言葉に甘えてオレンの実をバッグの中へとしまう。たった一個だけだが、やはり嬉しいものだ。
「カクレオンさーん!」
「ん?おお、マリル君にルリリちゃん。いらっしゃい」
と、広場の方から青い体にゴム毬(まり)のような大きな丸い尻尾が特徴的なポケモン――マリルとルリリがやってきた。
声色からしてまだ幼いのだろう。ルリリに至ってはマリルの後をちょこちょこ跳ねながら一生懸命ついて行ってる感じだ。
ちょっと可愛いかも。
「カクレオンさん、リンゴを二つください!」
「はい、毎度あり。いつもえらいねぇ」
ルリリの舌足らずな声を受けてカクレオンはリンゴを紙袋に入れて手渡した。
その小さな体では重いのかよろよろと少し危なっかしい。その様子を見かねてか、マリルが紙袋を持ち上げて重さを軽減してあげる。
お互いに笑顔を浮かべながら二人はお店を後にしていった。
「あの二人のお母さんは病気でしてね。よく兄妹揃って買い物に来るんですよ」
「へぇ。まだ幼いのに親思いのいい子達だね」
あの二人、見た感じだと私達より幼そうなのにそんなことがあったんだ。
ギルドの仕事が落ち着いたらお見舞いに行ってあげようかしら。
二人の去った方を見ながら心の中で思いを巡らせていると、さっき去ったはずの二人が慌てた様子で戻ってくるのが見えた。
「カクレオンさーん!」
「おや、どうした二人とも」
驚きながらも二人を心配するカクレオンにルリリはリンゴを差し出した。
「リンゴが一つ多いです!」
「ぼく達こんなに買ってません!」
見ると、確かに紙袋の中にはリンゴが二つ入っている。ルリリが差し出した分を含めると合計三つで一つ多い。
わざわざそれを言いに戻ってくるなんて、ほんとにいい子達ね。
「ああ、それはおまけだよ。仲良く二人で食べるといいよ」
「本当ですか!」
「わ〜い!ありがとう、カクレオンさん!」
「いやいや!気を付けて帰るんだよ?」
リンゴをもらえて嬉しかったのかぴょんぴょんと跳ねるルリリ。そんな微笑ましい姿を見て思わず頬がほころんだ。
二人はカクレオンにお礼を言うと大事そうにリンゴを抱えて上機嫌な様子で帰っていった。
「あの二人可愛いね」
「ええ、ほんとに。――私達も早く準備しましょうか」
「あ、すっかり忘れてたよ」
とりあえず何のためにここに来たのか忘れてたカズキには後で焼きを入れるとして。
カクレオンから探検に必要そうなものをいくつか買い、私達はお店を後にした。
結構時間が経ったし、早くしないとビッパが待ちくたびれていることだろう。
そう思って足早にギルドを目指していると、その途中で見覚えのある二人の姿が見えた。
「あ、ヒナタ。マリル達がいるよ」
中央広場の片隅に先程見かけたマリル兄妹を見つけたのだ。
それともう一人、寸胴の体系で上下で黄色と茶色に分かれたカラーリングをしており、鼻はどこか象のような形状のポケモンがいる。
会話は聞き取れないが、マリル達の反応を見ると喜んでいるようだ。
「お〜い!マリル君、ルリリちゃん!」
カズキの呼びかけによりこちらに気付いたのか、三人はこちらを振り向く。
「あ、さっきの」
「僕はカズキ。そしてこっちはヒナタ。よろしくね!」
「いったい何を話していたの?」
自己紹介を取られて少しムッとしながらも問いかけてみる。すると二人は嬉しそうに顔をほころばせながら話してくれた。
「実はぼく達、前に落とし物をしてしまってずっと探してたんです。そしたら、このスリープさんがそれなら見たことがあるかもしれないって言ってくれたんです!」
「それで一緒に探してくれるんだよ!」
「そっかぁ、よかったね!」
それで喜んでたわけか。このスリープさん?も目つきは悪いけど結構いい人なのね。人じゃなくてポケモンだけど。
でもいいのかな。面識はないみたいだけど。
「それじゃあ、さっそく探しに行きましょうか」
『はい!』
まあ、考えすぎか。ここは言わば探検隊の町だし、白昼堂々人さらいならぬポケさらいなんてしないよね。
と、そんなことを考えているとドンッ、と体に衝撃が走った。
「おっと、これは失礼」
「い、いえ」
どうやらスリープにぶつかってしまったらしい。考え事してたのがまずかったかな。
グワンッ
その時、視界がぐらりと揺れた。
「(な、なに……?)」
グワンッ……
これは、めまい?それに耳鳴りまでしてきた……。
まるで空間が捻(ね)じれているのではないかという錯覚に陥る。目をぎゅっとつむり、その感覚に耐えようと歯を食いしばる。
すると、頭の中に甲高い音が響き、閉じているはずの視界に映像が映りこんできた。
キーーーン!!
これは、山だろうか?色が抜け落ちていてはっきりとはわからないが、ごつごつとした山の山頂のような場所だ。
そこには二匹のポケモンがいる。先程まで目の前にいたスリープとルリリの二匹だ。
《言うことを聞かないと痛い目に遭わせるぞ!》
《た、助けて……!!》
シュピン!
そこで映像が途絶える。それと同時にめまいや耳鳴りも何事もなかったかのように収まった。
い、今のは、一体……?
不可思議な現象に混乱するものの何とか平静を保ち状況を整理してみる。
「(今のはスリープとルリリ、だよね。山のような場所で、スリープがルリリを襲っていた?どういうことなの?)」
これは夢だろうか?しかし、それにしてはあの映像は鮮明に頭に焼き付いている。
もしもこれが正夢だとしたら、スリープは悪者でルリリを誘拐したってことになるけど……。
「スリープっていいポケモンだよね。最近は悪いポケモンも増えているのに、なかなかできないことだよ」
「……………」
「……ヒナタ?」
「ねぇ、カズキ。さっき、何か見えなかった?」
「え?ずっとマリル達を見送ってたけど、何か変なものでもあった?」
どうやら先程の映像はカズキには見えていないらしい。私だけに見えたもの……。
どうしよう、話すべきなのかな?
「……うん、実は――」
しばらく考えた末、やはり話すことにした。
あんな映像が見えるなんて普通の事じゃない。もしかしたら、テレパシーみたいな何かが働いてるのかもしれない。
そう思いながらさっき見た映像のことをできるだけ細かくカズキに伝えた。
「なんだって!?それは大変だよ!」
その細い目の隙間から小さな瞳が見えるくらいオーバーなリアクションを取るカズキ。思わずあげた大声に周りのポケモンの視線が集まってきた。
「た、大変だけど……でも、スリープが悪い奴には見えなかったよ?ヒナタ、昨日の探検で疲れてるんじゃないかな?」
幻覚が見えるほど疲れ切っているなんてことはないと思うけど、そうなのかな?
夜に寝た時に夢で見たのならともかく、こんな真昼間から見るなんて絶対おかしいとは思うけど……。
「それに僕達修行中の身だし、勝手な真似はできないよ。
――ビッパも待たせちゃってるし、とりあえずギルドに戻ろうよ!」
「う、うん」
確かにカズキの言うことにも一理ある。心配だけど、仕事をサボるわけにも行かないしね。
若干納得がいかない自分を無理やり納得させて、私達はギルドへ戻ることにした。
ギルドへ戻り、朝ペラップに連れてこられた掲示板の前に行くとそこにはビッパが待ってくれていた。
「あ、準備できたでゲスか?」
「うん、ばっちりだよ!」
とりあえず、カクレオンにもらったオレンの実の他に食料としてリンゴをいくつか買っておいた。
昨日はそれほどでもなかったけど、探検中にお腹が空いて倒れたりしないように――と、カズキが言うので買ったのだが、そんなにお腹が空くことってあるのだろうか?
復活の種って言う力尽きた時に復活してくれるというアイテムが欲しかったけど、高すぎて買えなかったというのはここだけの話。
「コホン!それじゃあ、今回は先輩のあっしが選んであげるでゲスよ〜!」
「あはは、よろしくお願いします」
よっぽど後輩ができたのが嬉しかったらしい。いいところを見せようとしているのかやたら張り切っている。
まあ、まだよくわかってないしありがたいことだが。
「あんまり怖そうなの選ばないでね?」
「わかってるでゲスよ。さて、どれにしようでゲスかねぇ」
掲示板を見ながら考え込むビッパ。この量の中から探すのは大変そうだ。
ざっと見てみるだけでもかなりの量の依頼書が貼られているし。
「ねぇ、ヒナタ……」
と、ビッパと一緒に掲示板を見ていたカズキに声をかけられた。
なんだろう、やけに深刻な顔してるけど……?
「あれ。あの左上の……」
カズキが指差している先には掲示板に貼られた依頼書がずらりと並んでいる。
首を傾げつつもよく目を凝らしてその部分を見てみる。
「なにがあるって……え」
数ある依頼書の中の一つ。見覚えのある黄色と茶色のカラーリングのポケモンの写真が貼られた依頼書。
間違いなくあのスリープだ!
「あいつ、お尋ね者だったんだ!ということは、ルリリが危ない!」
「急ぐわよ、カズキ!」
「うんっ!」
あの時見た夢、やっぱり未来の出来事だったんだ!
「え、え?急にどうしたんでゲスか〜?」
急いで梯子を上って行った私達の後には、事情を知らないビッパが呆然と立ち尽くしていた。
ギルドを飛び出し、長い階段を一気に駆け降りる。
確かスリープはマリル達の落とし物を探すと言っていたはず。でも、どこに行ったかまではわからない。どうする。
「あ、マリル!」
「えっ」
階段を降りた先の交差点にあたふたしているマリルの姿が確認できた。
なんという奇跡だろう。マリルならスリープの行先も知ってるはず!
「あ、ヒナタさんにカズキさん!」
「マリル、ルリリは!?」
「そ、それが、スリープさんがルリリを連れて行っちゃって……」
これはもう確定でいいだろう。同種族の人違いならぬポケ違いでもない。
「二人はどっちへ!?」
「こっちです!」
夢で見た映像では二人は山のような場所にいたはず。無事ならいいけれど。
とにもかくにも、マリルの案内の下、私達は駆け出した。