とある夏の日
「あっつ……」
パソコンからくる熱に耐えきれず、机から離れてソファの上に倒れこむ。
ポニータ型の温度計を見るとなんと35℃を指している。どうりで汗が止まらないわけだ。
「グレーイ……」
下では、グレイシアがお腹をフローリングの床につけてぐったりしている。
私ですらこんな有様なのだから、氷タイプのグレイシアにとっては地獄のような暑さなのだろう。
「扇風機の方が涼しいわよ。風が来るし」
言いかけたのを遮って、グレイシアは顔だけで扇風機の方を指す。その先を目で追いかけると、扇風機の前でオオタチが陣取っていた。
「あー、なるほど」
後ろ足だけの二足で立ち、常に風を浴びようと扇風機が首を振るのに合わせて、細長い身体を左右に揺らしている。
風が来ないと思ったらそういうわけか。器用な奴め。
「グ……レイ……」
ついにグレイシアが顔まで床に突っ伏した。なんとかしてあげたいけど、あいにくエアコンは故障中。修理の人は来週にならないと来れないらしい。そして扇風機はあの状態だ。
「仕方ないわね――」
冷凍庫からとっておきのヒウンアイスを取り出して二つに割り、半分をグレイシアの前に置く。
本当は夜中にひとりで食べようと思ったけど。
「融けないうちに早く食べちゃいなさい。じゃないと――ほら来た」
さっきまで思う存分涼んでいたはずのオオタチが「私も私も!」と膝をぽんぽん叩いてきた。
こっそり食べようとしたのに、見つかっちゃったか。
「……はいどうぞ。私はいいから」
口に持って行っきかけた残りの半分を、オオタチにあげる。これで私の分はなくなってしまった。買い直すのにまただいぶ並ばないといけないんだけど。もうそんな文句を言う元気もない。
「〜〜!」
目の前ではオオタチが気持ちよさそうに目を瞑りアイスの味を堪能している。
――この子たちの嬉しそうな顔見れたからよしとしようかな。一昨日はグレイシアに氷作ってもらった恩もあるし。オオタチには何もしてもらってないけど。
「さてと、もうひと頑張りしますか」
さっさと仕事片づけて、コンビニへアイスを補充しに行こう。
そんなことをふと考えながら、とある夏の日は過ぎていく。