とある雨の日
ねえマスター、起きてる?
寝てます、って寝てる人はそんなこと言わないからね。
じゃあこれから寝る?
何言ってるの!? 夕方になったらボクと散歩するって約束したでしょ。忘れたとは言わせないよ。
雨が降ってるから外に出たくないって?
そりゃ梅雨なんだから、雨が降るのは当たり前だよ。
それに水タイプのボクにとっては、雨の中散歩する方が楽しいんだよ。雨に当たるのって気持ちいいし、水たまりでばしゃーんってやるの大好きだし。あと、傘忘れて慌てて帰る人を見るのも雨の日の楽しみだよね。
だから! 早く! 散歩行こうよ!
それと、帰りにおやつ買ってくれるとも言ってたよ。その約束もどうなるの。朝からそれ食べるのも散歩も楽しみで仕方ないのに。
え、なになに……。実はマスターは炎タイプの生まれ変わりで、雨に打たれたら元気を失っちゃうから、外に出れない理由がある?
寝言は寝てから言いいなよ――だから寝たフリをするなーっ!
……もういいもん。
ひとりで雨の風景楽しむことにするから。
あーあ、マスターと散歩したかったなー。絶対楽しいと思うんだけどなあ。
ほら、傘差しながら散歩してる女の子とブイゼル、すごく機嫌良さそう!
あれ、あの子達って……。
近所のミドリさんと、パートナーのムギちゃんだ!
これからお散歩かな?
ムギちゃんもだけど、やっぱりミドリさんって綺麗な人だなあ。マスターもそう言ってたし――
え、ちょ、マスター痛いよ。押さないでってば。そんな窓に張り付いて怖いよ。寝てたんじゃなかったの?
ん、ミドリさんがいるなら話は別だって?
あれ、傘持ってどこに……。
これから散歩に行くからお前も来いって、え、マスター待ってよ!
なんでもう玄関出てるの。瞬間移動なの!?
って、ねえドア閉めないで! まだボク家の中にいるんだけどっ!
マス――
……行っちゃった。
なんでボクが置いてかれることになるんだろう。
もう、
マスターのバカあぁぁ!