会ったことのない友達へ
『おはよう。
あ、ちゃんと「おはよう」の時間に起きれたかな?
七日しかないんだから、寝坊なんてしたらだめだからね。もちろん二度寝も禁止。起きたらちゃんと近くの川で顔を洗うんだよ。
そろそろ目が覚めてきたかな? じゃあまず辺りを見回して、景色はどう? 天気は晴れてる?
もし憂鬱な雨だったら、キュウコンに頼んで晴れにしてもらってね。七夕の天の川を見るのをみんな楽しみにしてるから、水タイプのポケモンだってこの一週間は許してくれるよ。そうそう、そのキュウコン、ソルレの洞窟からミレニの洞窟に引っ越したんだ。場所は分かるかな。手紙の最後に地図を書いておいたから参考にしてもらえるといいな。
さてさてそれじゃあ本題。ボクの七日間にどんなことがあったのかを教えてあげるね。
一番面白かったのはどれだろう。やっぱりあれかな。「雪が見てみたい」って言ったフライゴンの話でね。ボクはテレポートが使えるけど、そんな遠いところまで一瞬で行けるわけじゃないし、彼女も幼い子供がいるから何日も留守に出来ない。フライゴンにお願いを頼まれたときは、ふたりで頭を悩ませたよね。
一日中ずっと考えて、次の日になってようやくいい案が浮かんだんだ。何だと思う?
それはね――っとと、いきなり答えを書いたらつまらないよね。だから順番に説明していくね。
まずフライゴンにとっておきのおいしいお菓子を用意してもらう。それを洞窟の行き止まりに置いて、魔法の呪文を使うんだ。
「おでまし!!」
ってね。そうすると、不思議なことにどこからか聞きつけてきたフーパが輪っかを使って現れてきた。
「オイラをこんなところに呼び出してなんなんだよ。」
「実はね――」
ボクはフーパにフライゴンの願い事のことを説明した。それを聞いて彼は「それならフーパにお任せ!」と言って穴の中へ消えていった。そしてすぐにユキノオーを連れて戻ってきたんだ。
ユキノオーの特性「ゆきふらし」のおかげで、洞窟の中に雪がちらついてきた。技の「ふぶき」も合わさって、たちまちたくさんの雪が積もったのだった。
「どう? フーパにかかればすぐに解決! 満足した?」
代わりに胸を張って言うフーパに、フライゴンは少し体を凍えさせながら彼の手を取ってお礼を言った。
「ありがとう! 生まれて初めて本物の雪を見られて嬉しいよ」
それからふたりで、フーパとユキノオーを見送って、ボクとフライゴンも別れたんだ。涼しい洞窟の中だから、雪もしばらく消えずに残りそうで、フライゴンの喜ぶ顔が嬉しかったよ。
他にはね、荒野の途中で車がパンクしていて困っている人間がいたんだ。願い事の力でぱっと直してあげると、その人すごく喜んでくれて、お礼に星形の木と紐でできた星形の道具をくれたの。「うぃっしゅめーかー?」っていうらしいんだけど、七夕の日までの一週間、毎日願い事を込めながら星の端を折っていくと願い事が叶うんだって。ボクがもらったのはもう期間が半分過ぎてからだったから、それはキミが使っていいよ。
もしそのおかげで何かが起こったら、ボクに聞かせてくれると嬉しいな。
それからね――、
あっ、もうこんな時間だ。たったの七日分だからすぐに書けるかなと思ったけど、意外といっぱいあったみたい。全部を話せなかったのは残念だけど、時間だからしょうがないっか。
今度また、キミの七日間を聞かせてね。
それじゃあ、おやすみなさい』
「なるほど、君の年はそんなことがあったんだ」
ジラーチは手紙を読み終えると、眠っていた洞窟からふわふわと外へ出ていった。天気は晴れ。夜には空いっぱいの天の川をちゃんと見られそうだ。雨じゃないけれど、せっかくだからキュウコンのところへ行ってみようか。
手紙の最後をもう一度見てみる。そこにはおおざっぱな目印が書いてあるだけの地図があった。これが彼の言っていたキュウコンの洞窟への道だろう。
「これだけじゃわかりにくいって」
苦笑いを浮かべて呟いてみる。どうも彼はときどき雑なところがある気がする。
けれど他に頼りに出来るものもないので、仕方なくそれを見ながら空を飛ぶ。
手紙をくれた主は自分とは違う周期で目を覚ますジラーチだった。いつから始めたかは忘れてしまったけれど、近くの場所で仲間が眠っていることを知った彼は、手紙を相手の側に置いて、自分が目覚めている間に何が起こったのかを報告してくれたのだった。
それに答える形でこちらからも手紙を書き、同じように眠っている横にそっと手紙を置くのだった。
文字を通して話が出来る相手がいることは嬉しかったのだけれど、ただ一つ残念なものがあった。それは手紙の相手と一度も会ったことが無いことだった。
目が覚めて第一に手紙を読むことをいつもの楽しみにしているけれど、その相手がどんなポケモンなのか、想像をするしかなかった。どんな姿をしていて、どんな声なんだろうか。もしかしたら思っていたよりも大人びて見えるのかもしれないし、本当はしっかりとした性格なのかもしれない。
「あっ、そういえば……」
ジラーチはふと思い出して、手紙と一緒に置いてあった木の道具を取り出した。手紙にあったように、星に似た形をした七角形の不思議な道具だった。
「確かこれを一日一つ折って――」
端の一つを折り畳み、ジラーチは胸に当てて願いをかけた。
「よし、じゃあまずはキュウコンのところに行って、それから――」
会ったことのない友達へ、話せることがたくさんあるように。ジラーチは口元を緩め空を往くのだった。