第三話 入団試験
朝。
昨日に引き続き、気持ちの良い快晴だった。
レイはギルドに入門するため、ブイ、トニと商店街に来ていた。
商店街では、子どもたちが駆け回って遊んでいたり、露店の店主と客が談笑していたり、多くの人で賑わっていた。
もちろん皆ポケモンである。
そんな様子の街を見渡しながら街を歩いて行くと、正面に、明らかに他とは違う大きな建物が現れた。
「レイ!あれがギルドの本部だよ!」
木造の三階建てで庭も広く、この街におけるギルドの存在の大きさがうかがえる。
「こんにちは〜!!」
門前に立つとブイが大声で挨拶をする。
レイは小さな声でお邪魔しますと言い、3匹は建物の中に入る。
大きいポケモンでも入れるようにか、門は大きい。
特にピカチュウになって間もないレイにとって天井は相当高く感じられた。
「フルールさんこんにちは!」
「あら、こんにちは。ブイくんとトニくんと...その子は?」
ブイの挨拶を返したそのドレディアがレイの方を見て言う。
「俺はレイって言います、今日はこのギルドに入るために来ました。」
レイがそう答えると、彼女は笑顔になった。
「そう、じゃあ会長に知らせて来るから、あそこで待ってて。」
そう言って彼女の指差した先には広めのスペースがあり、長机とソファが置かれていた。
レイ達3匹はそのソファに腰掛け、ドレディアは手を振ると正面の部屋の扉をノックすると、中に入っていった。
「あの人は?」
彼女が場を離れてから少しして、レイがブイが尋ねる。
「あの人はフルールさん。僕達の先輩の一人だよ。」
「噂だけどかなり強いらしいな。」
ブイが答えたあと、さっきまで一言も発していなかったトニが噂を口にする。
やはり探検隊なのだから強くなければ務まらないのだろうか、そうレイは考えた。
その後ブイ達「ホープ」の思い出や馬鹿話などを聞いて、3匹がしばらく談笑していると、フルールがドアを開けて戻って来た。
「今から入団手続きするから、入っていいわよ。」
レイ達は促されるままその部屋に入っていく。
「失礼します...」
レイが少し控えめな声で言った。
入った部屋はそこまで広くはなかったが、ベランダがあり開放感が感じられた。
テーブルと椅子が人数分置いてあって、向こう側にはギルドのポケモンと思われる、ルンパッパが座っていた。
彼はレイ達を見ると、
「うむ、かけて良いぞ。」
と言った。少しジジ臭い喋り方だった。
その言葉に従い、レイが真ん中の椅子、右にトニ、左にブイが座った。
椅子の高さは調整済みのようで、ちょうど良かった。
3匹が椅子に座るのを見ると、ルンパッパが口を開く。
「わしがこのギルドの会長じゃ。よろしく。えっと...探検隊『ホープ』にメンバー登録、ということで良いのかね?」
レイがはい、と頷く。
「うむ。じゃあ名前を教えてくれるかな?」
「レイです。」
その台詞を聞くと、会長は手元にあった小さな紙に、何かを書いた。
そしてその紙に、スタンプのように手形を押した。
「できたぞ、これがギルドメンバーの証明書じゃ。」
会長が証明書をレイに見せつける。
しかしそれだけで、まだ渡そうとはしない。
レイが受け取る瞬間を待っていると、それより先に、外よりヤヤコマが飛んできて、ルンパッパ の右に止まる。
そしてなんと、会長の手の中の証明書をくちばしで奪い取り、そのまま飛び去ってしまった。
レイは焦ったが、他の3匹は全く動じない様子だ。
レイが訳がわからないという顔をしていると、会長が言った。
「わしからすれば入団歓迎じゃが、探検隊にはそれなりの腕っ節も必要じゃ。」
その言葉を聞き、レイは彼の言いたいことを理解した。
「制限時間は10分!それまでに奴から証明書を取り戻すのじゃ!」
**************
4匹は部屋の中から出て来た。
試験場所は、柵に囲まれたギルドの庭。小さい公園ぐらいの大きさだ。
ヤヤコマは高度5メートルほどのところを旋回しながら飛行している。
「では...始め!」
会長の言葉と同時に、レイの後ろ足が地面を強く蹴った。
そのまま走っていくと、ヤヤコマ目掛けて前方斜め上にジャンプした。
しかし、ヤヤコマは少し高度を上げ、楽々とかわす。
着地後レイはすぐに向きを切り替え、もう一度飛びつく。
しかし、身軽なヤヤコマに触れることは出来ない。
ヤヤコマは嘲笑うように円を描きながらレイの真上を飛ぶ。
「くっそ...!」
その様子を見たルンパッパ会長は頭に疑問符を浮かべていた。
そして共に見ていたブイとトニに尋ねた。
「なぜ彼は技を使わんのだ?」
「「...!」」
この言葉で2匹は気づいた。
おそらくレイは使わないのではなく、「使えない」のだ、と。
(くそ...!なんとか電気が使えないか...)
2匹の推測は正しかった。
ピカチュウになったばかりのレイには放電の感覚は備わっていない。
電気袋に電気を蓄えることはなんとか直感で出来たのだが、放電する感覚がまだわからない。
**************
空しく時間のみが過ぎて行く。
残された時間はどれくらいだろうか。そんなことを考えている間にも、またレイはヤヤコマに飛びかかる。
しかし、何にも触れることのないまま着地し、勢いのまま転がると、庭の柵にぶつかってしまう。
「...!」
衝撃で転んだレイは起き上がると、あることに気がつく。
(さっきぶつかったところ...帯電してるのか...?)
レイは閃いた。
再び電気袋で発電を始める。
そして、左右にステップを刻み始める。
レイは徐々に加速し、残像がうまれるほどになる。
頬はバチバチと火花を散らし、その残像が線状に繋がった。
ヤヤコマと、3匹はただ黙ってそれを見ていた。
明らかに今までとは違う。
何か起こりかねない。
緊張と期待が入り混じる。
レイの動きが止まった。
沈黙が走る。
そしてその一瞬後、レイが大地を、蹴った。